こころの辞典2401-2500

2401
脳が壊れるときや薬剤で脳機能が抑制されるとき、層構造の上位から機能麻痺が起こる。その場合、必ずしも陰性症状だけが起こるのではなく、陽性症状も起こる。
最上位の機能は微妙な抑制であるから、それが失われると脱抑制となり、活発になったりする。しかしそれは統制のとれた活発さではない。

一直線に「抑制」だけが進行すると考えるのは間違いで、一次的には脱抑制の時期が来る。その時間には長短がある。

2402
認知療法ハンドブック(下巻)
・面接時間を短くすれば、「悪性の退行」を防ぐことができる。
・患者の心理的な健康感を高める。
人格障害の中核スキーマ(hard core schema)……「I am unlovable.」「I am helpless」
・治療者の態度をモデルとして取り入れる。
境界性人格障害患者が対人関係から距離を置く形で落ち着いていくという、パリスの指摘。
・現在の問題に焦点を当て、問題指向的、現実指向的な姿勢を維持する。過去を扱うときにも、現在と関連させる。
・患者が怒りを激しく表明する場合、その場で直面化。背後に中核スキーマが活性化している場合が多い。

2403
家族が面会に来なくなるのは、病院に来ていい思いをしないから。何も報われることがないから。
改善案
・臭い
・おむつ交換の場所
・音楽(民謡、軍歌からクラシック、イージーリスニングまで)
・感謝のことば
・細かい報告
・プライベートな面会室
・面会記録簿のようなものを作り、どの患者の家族のどの人がどれだけ来ているかわかるようにする。
・面会に来た時に治療団に対して要望があったら書いておくようなノートを個別に用意する。面会記録として大切なものになるのではないか。

2404
痴呆の行動障害のチェックポイント
徘徊
外出企図
好褥的
幻覚
妄想
同じ質問の繰り返し
人物誤認
独語
叫声、奇声、放歌
暴言、口論
破損行為
暴力
収集癖
荷造り動作
気候(?)
拒否
異常性欲
失禁
弄便
トイレ以外での排泄
食事忘れ・催促
異食・盗食
不眠
早期覚醒
夜間せん妄

2405
痴呆に対する心理社会的アプローチ
リアリティ・オリエンテーション(RO)
回想法
音楽療法
コラージュ療法
絵画
折り紙

2406
痴呆 観察評価スケール
1 言語コミュニケーション
2 非言語コミュニケーション
3 注意・関心
4 感情

2407
遠隔記憶のチェック
いくつになられましたか?
戦争
関東大震災
終戦
東京オリンピック
ベトナム戦争
湾岸戦争
神戸大震災
オーム事件

その頃は何をしてどこにいたか?
結婚は
子供は

2408
痴呆
時計描画法 11:10 を描いてもらう。

2409
向精神薬は十分量を使わないと意味がない。ときには逆効果である。
脳の構成を大きく二つに分ける。本能的で衝動的な下位部分と、抑制的で制御的な上位部分である。下位部分は進化的に古いものであり、上位部分は進化の過程で後になって発生した。つまり、古くからある食欲や性欲といった本能部分を、後に発生した上位部分が抑制して、どんなときにどんなところで、そうした欲求を満たせばよいかを判断ししている。こうしたことで「社会性」を維持している。
老人性痴呆の場合、脳が壊れる。壊れるときには進化の歴史の新しいものから順に壊れることが多い。上記の脳の構造からいえば、衝動をコントロールする部分から壊れてゆく。痴呆の際の行動障害として下位の衝動が突出するのは上位の抑制部分が壊れるからである。これを脱抑制と呼ぶ。
普通の状態で衝動10に対してコントロール10だとバランスがとれている。
コントロール部分が壊れると10:5となり、衝動が突出する。
これを薬でコントロールする場合を考える。少量のみだと、コントロール部分をさらに抑制するので、10:5(差は5)10:4(差は6)となり、さらに衝動の突出を招く。適量を使用すると、衝動も抑えるので、5:2(差は3)くらいになる。これで衝動は抑えられることになる。しかし大量すぎると意識障害が起こったり、パーキンソン症状が強くなったりする。つまり少なければ少ないほどよいということは、向精神薬に関しては正しくないことになる。
つまり少量すぎると、抑制部分だけを機能停止させてしまうことになり、症状は悪化する。

(付加的考察)
抑制・コントロール部分が強すぎる人は強迫症。15:10くらい。

本能・衝動部分→コントロール・抑制部分→状況判断部分 の三つくらいに分けて考えたらどうだろうか。

上の三つの部分で考えれば、状況意味失認仮説の場合は最上位の障害ということになる。

セロトニン仮説はセロトニン過少だと衝動的になり、過剰だと過度の抑制で強迫スペクトラムに傾くという。

2410
「痴呆とケアのマニュアル」長谷川和夫監修
アセチルコリン代謝
レシチン→コリン→(+アセチルCoA+コリンアセチルトランスフェラーゼ:ChAT)→アセチルコリン→(+アセチルコリンエステラーゼ)→分解
レシチンとコリンを増やしても効果がない。
・CoAT活性を上昇させるのは有効。
・AchEを阻害。フィゾスティグミンの効果は短すぎる。テトラハイドロアミノアクリジン(THA)をレシチンとともに投与すると効果があるが、肝障害が報告されている。タクリンは認可を受けている。
アセチルコリンアゴニストとしてアレコリンがある。

2411
「痴呆とケアのマニュアル」長谷川和夫監修
・急激な降圧は避ける。降圧目標を150-160mmHgと高めにおく。カルシウム拮抗薬を第一選択とする。
・再発予防にアスピリンとチクロピジン(パナルジン)が有効。
・せん妄に塩酸チアプリド(グラマリール)、ハロペリドールプロペリシアジン(アパミン、ニューレプチル)、チオリダジンメレリル)を少量眠前に投与する。
・せん妄が続くとき、シチコリン(ニコリンなど)、メクロフェノキサート(ルシドリール)、TRH(ヒルトミン)などを経静脈的に投与。昼間の意識水準の上昇を図る。
・物とられ妄想に対しては、薬物はあまり効果がない。不安を取り除き、情緒を安定させると次第に消失する。
抑うつ。ドスレピン(プロチアデン)、ミアンセリンテトラミド)、セチプチリン(テシプール)など。塩酸ビフェメラン(アルナート、セレポート)、インデロキサジン(エレン、ノイン)も有効。
・不眠にはエチゾラムデパス)、ブロチゾラムレンドルミン)、ゾピクロン(アモバン)、ロルメタゼパムエバミールロラメット)などを短期間使用する。
・いずれの場合も、感染症、脱水、発熱などの慎重なチェックが必要である。

2412
脳血管性痴呆のリスクファクター
・高血圧、心疾患、ヘマトクリット高値、高脂血症、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙。

2413
・痴呆の患者の不安……物忘れがあるので、常に「途中から映画を見ている感じ」になる。
・家に帰りたいと訴えるとき、「ここはあなたの家ですよ」と言うのではなく、「一緒に帰りましょう」と言って散歩のつもりで一回りして、「さあ、帰りました」と言って自宅にはいる。
・視力が良くないと夜になると物がますます見えにくい。明るいスタンドをつける。

2414
・痴呆では動作性知能より言語性知能が保持されている。言葉を交わしたうえでは一見障害がないように見える。しかし実際の生活行動では間違いや危険なことが多くなる。

2415
・徘徊する人には、その場限りであっても理由がある。
・自尊心がある。子供扱いは好ましくない。
・役割を与える。
・正しい行動のきっかけを与える(モデリングなど)。頭ごなしの否定はしない。
・寝たきりにさせない。関節拘縮、床ずれ、肺炎などが起こる。日中は布団を片付ける。
・生活歴、習慣、癖、性格を把握する。文化的背景を知る。
・介護にあたる人は計画的に介護に当たらない日を作る。
・意志疎通が難しくなる。……目・耳の障害、記憶障害、見当識障害、判断力と推理力の低下、意志表示の困難、理解力低下。
・感情は保持されていることが多い。プライドを傷つけられると怒る。

2416
だましに近いことば掛け
・遠足の後、ホームに帰ってもバスを降りない場合。「ホームに着きましたよ」とか「お昼ご飯ですよ」では降りないとき、「終点です」と言う。
・妻がいないと騒ぐ場合。「隣の部屋で勉強しています」「薬をとりに行きました」などはだめだったが、「女の寄り合いに行きました」で納得した。その人の日常生活を知ることが大切。
・自分の年は忘れても、相手の年は分かる。あまりに年下の職員に言われても納得しないことがある。少し間をおいて、年配の職員がかかわる。
・自分が年寄りであると自覚していない場合、「おじいちゃん」「おばあちゃん」はまずい。自分の名前を忘れている人もいる。何と呼ばれれば認識するのか、確かめる。折にふれて姓名で呼びかけて自覚を促す。
・簡潔に、一つずつ。
・「おもらししたでしょう」はプライドを傷つける。「わたしお便所に行くの、一緒に行きましょう」と連れションする。
・話しかける位置を工夫する。近くの正面から。後ろから呼びかけると振り向いてバランスを崩し、転倒する危険がある。
・非言語的コミニュケーションが大切。不安・孤独に対して、手を握る、肩を抱く、背中をさするなど。
・ひらかなより漢字が分かる。長い文はダメ。名前や「便所」を書いて貼ったら繰り返して読み上げる機会を作る。
・24時間見当識訓練。折にふれて時刻を知らせる。
・早く食事をと催促する人に……「いま支度中です」と答える。何度でも繰り返す。(●このあたりはあまり現実的ではない。そんな対応は普通はできない。)食べた時間を一緒に記録する。食器を小さくしておかわりをさせる。
・失禁の始まりには時間を決めてトイレ誘導する。

2417
怒る老人
・思い通りにならない時に怒るという形でしか表現できないことがある。
・「お前は事務員のくせに、早くしなさい」と怒っているとき、事務員になりきり「はい、すぐにお持ちします」と応じる。(●こんなことまでするのだろうか?大変なことだ。続かない。)
・その人の生活歴を知り、興味や関心を利用して、気分を変える。怒りっぽいときに卓球のラケットを見せて「卓球をしましょう」と誘う。

2418
外出する人の理由
・何かを探すため
・毎日の習慣のため
・不安や落ち着かない気持ちのため
・被害的気分から

2419
妄想
物とられ妄想、嫉妬妄想、見捨てられ妄想など。

2420
麻痺があるとき
麻痺のない方を下にする。

2421
口の衛生
・歯磨きやうがいができないとき、番茶。
・2%の重塩水(重曹と塩)を浸したガーゼを指に巻いて口の中や歯を丁寧に拭く。歯があるときは割り箸に巻き付けて拭く。

2422
膀胱炎の予防
尿が残っていると膀胱炎になりやすい。寝たきりだと残尿が多くなる。下腹部を押して出し切る。ポータブルに座った方が出やすい。
食事以外の水分を1000-1200ml程度に保つ。

2423
医者は何をあずかっているか。
医者は人間の一番大切なものである命をあずかっている。しかも精神科医は人間の魂をあずかっているともいえないだろうか。
脳をあずかっているというのでは不足であるように思う。診察室で、脳の話をしているのではない。

2424
人の脳の壊れやすさを考える。
子供の壊れた脳と老人の壊れた脳とは似ている。常同行為があったり。「チンタイ君」と「中途半端おばあちゃん」。
一般人でも、脳はさまざまに壊れている。痴呆の脳や障害児の脳と連続している。そのあたりを歩いている人も、脳がある程度壊れている。しかし大切な部分の損傷がそれほどでもないから、平気で生きていられる。それでも専門家の目から見ればやはり壊れている。
痴呆老人の脳機能の研究は、一般人の脳の壊れ方の極端な例として考えることができる点で、意義がある。

脳が壊れやすい時期は、胎児期と老年期である。障害児と痴呆になる。児童、青年期、壮年期は壊れにくい。しかしいろいろな要因で微細に損傷を受けている。
微細な損傷を判定する鋭敏な検査法があるか?できれば神経心理的に、脳の場所の特定につながるような検査法。
例えば、脳の機能停止を微細に見る方法。PETの高精度版。

精神病、たとえば分裂病うつ病は、一般人の脳の壊れ方と同一平面にはない。別の次元の出来事であると考えられる。

2425
心と脳は同一か?
「脳は心である」とクセジュ文庫の一冊にある。そんなはずはない。構造は機能であるというならカテゴリーの混同をしている。
たとえば、「消化という機能を可能にしている構造が胃である」とはいえる。「胃は消化である」とはいえない。
「意識や思考、感情などの機能を可能にしているのが脳という構造物である」とはいえる。

心脳問題の核心は、霊魂の問題なのに、それを誰も明確にしない。そこを明確にすれば問題は簡単である。
さらに、「心」という言葉が何を意味しているのか、明確でない。心とは精神機能のことであると定義してしまえば簡単になる。しかしそうではない考えの人もいるのではないか?それも霊魂の考えと関係している。死後も存在を続ける霊魂の問題である。

1)霊魂はない。心とは精神作用全般を意味する言葉である。脳を含む身体全体、さらには伝承された文化や習慣の全体が、心の発生を可能にしている。その中心は脳である。脳があるだけで精神機能が発生するわけではない。感覚器や運動器が当然必要であり、栄養なども必要である。さらには脳の内容物とすべき文化全般が必要である。しかしながら、これらのものがあっても、脳がなければ精神機能は成立しない。その意味で、脳が心にもっとも強く関係している。
1ー2)脳から心が発生するとは到底信じられないとする考え。これは素朴だが強力で説得力がある。確かにそうだが、それは原理的な不可能を証明した上でのことなのか、それとも、我々がまだ知的に未熟で解明できないというだけなのか、その点を明確にしておきたい。現状では原理的な不可能が証明されたわけではない。

2)霊魂はある。心とは、霊魂の機能を含んだ、精神機能であり、脳の機能だけで全部ではない。

脳……心……意識、感情、思考
胃……?……消化
構造……?……機能
首相官邸、国会議事堂……?……政府機能、国会機能

そもそも物理学の全体、さらには科学の営みの全体が、神や霊魂を抜きにして世界を説明できるかという壮大な試みである。説明不可能であれば、やはり世界の構成要素として神や霊魂が不可欠であるということになる。
しかし説明不可能という場合、我々が知的に未熟であるからできない場合と、原理的に不可能である場合とがある。原理的不可能は証明されず、つねに我々が知的に未熟であった。それが科学の発展の歴史である。

神も霊魂もなしに世界は説明可能であると証明できたなら、神も霊魂も世界の説明には必要がないということを主張できる。主張できるのはそこまでで、「だから神も霊魂も存在しない」とは主張できない。
逆に、神や霊魂の存在を仮定せずには世界を説明できないと「証明」されることはあるだろうか。ないだろうと思う。せいぜい我々の知的な未熟さを確認するだけであろう。
つまり、科学の営みは、実用上の利益を別にして、世界論に関しての寄与で考えるなら、もっとも成功した場合にも、「神や霊魂なしで世界は説明可能である」ことを証明できるだけである。しかしそのことは偉大な一歩である。神や霊魂が実在しない可能性があるということだ。
逆に、説明が成功しない場合には、やはり神や霊魂が実在するだろうとの感触を強めることになる。しかしながら、いつでも、「それは我々がまだ知的に未熟だから」と考えて、結論を先送りすることができる。

2426
時と場合で変わる性格と変わらない性格
人間の性格を記述する際に大切なことは、性格は場面によって変わることではないかと思う。時と場合によって変わらない性格であれば、それは記述しやすい。それを因子分析して、独立な軸は何本などと論じることも良い。
しかし時と場合によって変わる性格については、どんなときどんな場合にどんな性格要素を発揮するか、そこにその人のパーソナリティがあると考えられる。

2427
認知精神医学序説(種田)
・密室恐怖に悩んでいるのは自分一人だと思っていたのが、自分だけではないと分かり、人に話せるようになった。
・「密室恐怖は恥ずべきこと」とするベリーフが原因である。

2428
認知精神医学序説(種田)
・視覚的イメージは写真のようなコピーではない。経験がないのに、自宅を空中から見た図を思い浮かべることができる。小学校以来会っていない友人が、眼鏡をかけ白髪になっていても発見できる。
・知覚は単なる外界のコピーではなく、知覚者が走査し抽出した諸特徴を組み合わせた構成物である。
●ここに知覚の能動性がある。知覚は五感が抽出した特徴を脳内で再構成した何かである。人間が現実に存在するものと考えているものは、そうした構成物である。では実在そのものは何かということになれば人間には不可知である。長い進化の歴史の中で、抽出すれば有用であるような特徴が抽出されるようにプログラムされている。
●知覚も再構成物であり、記憶も再構成物であるといえる。

2429
認知精神医学序説(種田)
ALLportは英語で性格特徴を示す語を調べた。17565語あり、4500は環境への適応性を示す一貫した行動様式を意味していた。そのうち30%は他人に及ぼす影響を意味にしていた。たとえば魅力的、高慢など。

2430
認知精神医学序説(種田)
面接者について、「求職者面接だ」とセラピストに告げておくと、「現実的、熱心、快活」などと評価する。「精神科患者の面接だ」と告げておくと、「防衛的、依存的、攻撃的、敵意の抑圧」などと評価した。内的力動を問題にする性格理論のセラピストほどこうした方よりの傾向は著明であり、行動療法のセラピストはこのような偏りを示さなかった。

2431
認知精神医学序説(種田)
権威主義の人は刺激のあいまいさに耐える力が乏しい。

2432
認知精神医学序説(種田)
R.B.Cattelは「性格は、人がある状況におかれたときどうするかを予測するものである」と定義した。

2433
認知精神医学序説(種田)
・空間認知力がイメージに、言語は強迫性に関連する。
・疑惑心、抑圧、否認、敵意、不信感、うつは強迫性を構成する重要成分である。同時に身体疾患にかかったり死亡しやすい性格タイプである。

2434
言語による認識は、時間系列に沿った一次元的なものである。たとえば音楽を時間をかけて聞いて初めて納得するようなもの。たとえば列車が次々に通り過ぎるのを見守るようなもの。
一方、イメージによる認識は、そうした時間の制約を超えて一挙に認識される。たとえばモーツァルトが楽譜を見ると、三十分の音楽が一挙に理解されるような事態。次々に通る列車も、もっと上空から見れば、一挙にその配列が理解される。
たとえば自閉症児。ばらまかれた豆が64個であると一瞬のうちに分かる。また、ある数が素数であるかどうか、常人を越えたすばやさで理解する。こうしたことは、イメージによる認識と関連しているのではないか。

2435
認知精神医学序説(種田)
ブロイラーは言語連想の詳しい実験から、分裂病の症状や病理を理論化した。精神現象は感覚と感覚表象(イメージや観念を含む)の結合の結果として理解され、観念の連合が思考であり、言語がかかわる論理的(理性的)連合と感情がかかわる内閉的連合が区別された。分裂病の連想障害は前者が後者に圧倒されたものだと考えられた。

2436
認知精神医学序説(種田)
・執着性格は英語に訳すと強迫性格になる。森田神経質やヒポコンドリー基調も同じ。メランコリー性格も同じ。
うつ病では判断が滞るといわれるが、自分に関する限り極めて迅速で断定的である。自責など。また、相手に対する自分の影響力の強さを過大に評価している。そこで他人に申し訳ないとする断定が生じる。自分はダメだ、絶望的だとの推測は自信に満ちており、このパラドックスを理解しない。

2437
認知精神医学序説(種田)
「欲求不満の抑圧は不安をおこす」と一般には考えられているが、不満は抑えないで出した方がよいとするカタルシス説とともに、神話である。「ストレスがたまるとよくない」といわれるが、「ストレス下に長くいると抑制がうまくできるようになる」場合もある。ストレスが続いてたまるのは、不満や不快とラベルされ、手がかりとなった記憶であり、そんな条件下にいつまでも留め置かれた哀れさや怨みであろう。
カタルシスの技法が成功するのは神経症でも軽い人であり、自分の欠点や恥ずかしいことに直面しても余裕のある人である。このような人にはカタルシスを試みるまでもなく、説明するだけでよい。

2438
認知精神医学序説(種田)
・MASは不安そのものを測っているのではなく、不安に対する対処の仕方をある程度測っていると評価されている。

2439
認知精神医学序説(種田)
・強迫性は独断性である。
・アレキシチミアとタイプAは同類である。さらに強迫性格と同類である。強迫者が増加し、時代によって強迫者のテーマが変化したと見られる。
・平均的医師は強迫傾向を持つ。
・強迫の三徴は、疑惑、罪悪感、過度の責任感。核になるのはわがままとマイペースの区別ができないこと。つまり独善性。独善性は他人の独善性と出会ったときトラブルになる。
・タイプAは1)行動の性急さ、2)仕事への没頭や過剰適応、3)強迫的自己知覚
心身症の人は催眠にかかりにくい。
・恐怖症の人は酒や薬の依存や乱用に陥りやすい。→依存者と強迫症者の関連。
精神病者の発ガン率。分裂病者は一般成員の半分、パラノイアでは四倍。
・強迫の不安。不安だから強迫に至るのではなく、繰り返しているうちに不安になる。「自分で自分をコントロールした方がよい」とするベリーフを実行できないことが不安である。
・強迫者は高い理想を自分にも相手にも求める。
強迫神経症の別名。理由付け狂、疑惑狂、決断不能症、永久熟考症。孤高ぶりから貴族の病。「思考、感情、行動のすべてにおける両極性。それは認知スタイルの偏りに起因し、言語処理への依存が本態であろう」(種田)
強迫症の臨床では言語が目立つ。大脳左半球の過活性説につながる。否定文と批判文、「ねばならない」「するべきだ」が多い。
・言葉による思考と推論が強迫者のもっとも際だったスタイルである。
・些細なことを強く評価したり、意味づける傾向がある。それは妄想を育てやすい。
・決定困難は「あいまいさに耐えられない」傾向を反映している。白黒つけたがる傾向。
・LOI:Leyton Obsessional Inventory
・言語の働きを中心にすえた現代の教育や情報社会が強迫性を助長している。イメージの操作性を高める訓練や教育法が望ましい。
●コンピューターで、MS-DOS環境はまさに強迫症者の世界であった。WindowsMacの世界はイメージ操作の世界に近づいている。
強迫神経症の症状が、現代ではより妄想的に、あるいはより重くなったとの主張がある。環境の影響と考えられる。
●コンピューター操作と強迫性は明らかに親和性がある。テクノストレスという場合、まず強迫性との関連が検討されるべきだ。次にはコンピューターリテラシーに欠ける人たちの不適応が検討されるべきだ。
アメリカではここ十年で恐怖症治療の施設が急増した。患者数は1300万人と推定される。
強迫症者は同じようなタイプを配偶者とすることが多い。

2440
小此木啓吾「困った人たちの精神分析
・性格の心理は他人との組み合わせの中での話として聞く必要がある。組み合わせによってそれぞれの性格のどの面があらわれるかという場合に「性格傾向」という。
・パーソナリティはこれらの性格傾向を一つの心の働きとして司るような、個としての人格全体の構造と機能をいう。
・結婚するときに好ましいと思った性格傾向が、一緒に暮らしているうちに、嫌悪の原因となる。
・その人が環境の支えを失って、一人きりになったり、逆境におかれて、一番ひどい精神状態になったときにはどんな考えを抱き、どんな行動を起こすのか、という予測をたてて、その人を見る。(●ひどい悪文。お喋りをそのまま文章におこしただけ。)
・ミクロな狂いを見たら、距離をとる。
・依存型。あまりにも見捨てられる不安が強いために、すべて自分と一体でなければ気がすまない。自分と相手の気持ちがちょっとでも同じでないとわかったときには、とても傷つき、見捨てられたと絶望的になって、飛び出して死んでしまいたくなる。
・人間関係や社会生活におけるその人らしい適応の仕方や、その人らしい欲望や感情のコントロールの仕方が性格である。
・境界パーソナリティ障害の人たち。良いときと悪いときの連続性がない。多重人格の場合には意識の変容が介在している。境界パーソナリティの場合には、意識変容の過程はない。認知としてはきちんと記憶しているのだが、感情状態の連続性がない。

2441
躁的防衛
悲しいこと、苦痛なことについて悩んだり、傷ついたりしている精神状態から、一挙に、このような心的リアリティを否認し、自分が頼っていたのに失った対象を過小評価し、自分は誰にも頼らず、元気で強いんだという自己像を描き出すことで、心の苦痛や悲しみを克服する心のメカニズムをいう。メラニー・クラインが定義した。(小此木)
●これでいいのだろうか?

2442
自己愛パーソナリティ
・誇大感を持っている。
・すばらしい理想的な自己像を実現しようと努力している。
・すぐに傷つく。
・理想自己の実現にしか関心がないので、自分本位の思いこみがある。
・人との共感性がない。
・特別扱いを当然だと思う。
・平気で人を利用する。
・人に対する評価がころころ変わる。自己愛を充たす人はよい人、そうでない人は無価値な人。
●誇大感と共感性欠如で全体のストーリーは組み立てられそうである。

・誰かに自分の誇大感を投影して、崇拝して、自分の自己愛を満足させる人もいる。スターに対するファン、独裁者に対する大衆。
アイデンティティ型人間は安定している。そこから自我理想が失われ、個々人の裸の自己愛が残る。生身のパーソナルな自己愛の満足を生活の動機として暮らす人々を自己愛人間と呼ぶ。
●たとえば医者でも、使用人根性が染みついた人がいる。ヘドが出る。
●生身のパーソナルな自己愛の満足を人生の目標とすることなどできるものであろうか?なんという退落した人生であろうか。わたしなら一種の不全状態であると診断する。

・自己愛パーソナリティの中の妄想タイプ。自己愛が過剰に肥大して、まわりから自分はきっとすごく尊敬されて大事にされているだろうと期待し、ときには思い込む。ところが相手はただの人として対応すると、自分の期待と現実のギャップがおこる。この細かいズレがすべて自己愛の傷付きになる。

2443
アメリカで
第一次大戦……肉弾戦……古典的ヒステリー
第二次大戦……遠隔戦・レーダー戦……自律神経症状(不安緊張、不眠、腹痛など)

日本は第二次大戦で古典的ヒステリーが多かった。

2444
強迫について
たとえば老人や自閉症児に見られる常同行為は、行為の外見は似ていても、強迫症ではない。むしろ反対の事態であるといえる。
強迫症はコントロールの過剰である。自分をコントロールし、ひいては魔術的に外界をコントロールしようとする。
(だとすれば、強迫症の目印である、「ばかばかしいとわかっていてもやめられない」はどう解釈されるのだろうか?本当はわかっていないのか?)
常同行為は、コントロールの過少である。抑制中枢が壊れているから常同行為になる。

常同行為の治療は、
1)抑制中枢の再建
2)無害な常同行為への変換
3)常同行為実行部分を壊すことで行為を停止させる
などが考えられる。

2445
自動車の運転
セルフ・コントロールの回復に役立つ
掃除や整理整頓と同様である。

2446
ピッチャーは完全主義者が多い
小さい頃からの成功体験が彼らを支えている。エースで四番という種族である。努力家である。自分と試合を完全にコントロールしようとする。
ところが予期せぬエラーが発生した場合、全か無か思考により、試合を続ける緊張が切れてしまう。
過剰なコントロール願望は達成されずに失敗に終わることも多いだろう。

2447
迫害(妄想)的なポジション
いじめられたり心を傷つけられたりしたとき、ひがみやすい人、怒りっぽい人は、普通の人の十倍も二十倍も怒る。その怒りを相手に投影するので、相手は実際の何十倍も意地悪でひどい人で、自分をいじめていると感じてしまう。このような状況を、その人の心が迫害(妄想)的なポジションに落ち込んだという。
人間の心はときどきこの迫害(妄想)的ポジションに落ち込むことがある。しかも、そのたき自分の怒りを投影し、そこで経験される相手のいじめや迫害が本当に起こっているように思い込んでしまう。そうなると、実際に相手が悪いのだからという気持ちになって、いくらでも自分の怒りを向けることができるようになる。

2448
超自我
罪悪感が引き起こされる信号系

2449
ミッチャーリッヒ「喪われた悲哀」
ナチスに同化してサディズムを発揮していた軍人が、敗戦後、戦時中のサディズム心理をどのようにして人格の中に再統合したか。

2450
罪の意識から罪を行う者
・自分が罰を受けるために悪い子になり、罰せられた後でかえって心が静まり穏やかになる。事故頻発など。
・拡大すると「死の本能」になる。

2451
境界例の意味
1)精神機能水準として
2)パーソナリティのタイプとしてDSMでいうような意味。不安定型パーソナリティと同義。
3)一つの症候群として。
4)特有な発達障害の固着を持つものとして。
5)精神病とのスペクトラム・ケースとして。神経症と精神病の境界。

それぞれのパーソナリティ障害のレベルが、より病的なものになり、障害の程度が重くなると、共通の病像が見られる。それを境界型パーソナリティ障害と呼ぶ場合もある。

2452
境界例
・本人の中で感情の動きがあまりにも大きいために、自分一人では処理することができない。それが苦悩の源泉である。相手を巻き込んで、相手とのトラブルの中で自分の感情を処理するという奇妙な対人関係のパターンを持っている。
・感情や衝動の自己調整能力が著しく脆弱である。相手を巻き込んで、相手との関係の中でしか自分の感情や衝動を処理することができない。
・自分の機嫌が悪い。一人でその機嫌がおさまるのを待つことができないときに、彼女は相手の機嫌が悪く、自分に冷たいと感じる。これを投影性同一化という。そして、何とか相手の機嫌が悪いのを鎮めようと思って、あれこれとコントロールを始める。自分で自分の感情をコントロールするよりは、相手の機嫌が悪いのを慰めると思うと自分の感情の処理もうまくできる。
・ある女性はゆううつで苛立った気持ちを自分で処理できない。看護婦になり、亡くなっていく方の看護と死を看取る仕事をするようになって、長年にわたる抑うつといらだちははるかに軽減された。
・人間には、自分の感情を自分一人で処理する以前に、相手に投影して、相手の気持ちをうまく扱うことで自分の感情を整理する、そういう心の段階がある。
・もともと演技型であったり、依存型や自己愛型であった人々が、そのパーソナリティ機能がうまく働かなくなって破綻したとき、あるいは、それがより病的な状態のときに、境界パーソナリティ障害の状態を呈するのだと考える。演技型はますます演技型に、依存型はますます依存型になる。

2453
自己愛
理想自我があまりに肥大した場合が誇大自己。誇大自己にふさわしい自分でいなければならないという思いこみの過剰な人が自己愛パーソナリティ。

2454
道徳観やタブーが強固な世界では、超自我ー自我の仕組みがあった。このような内的規範を持つことなしに暮らすようになった現代では、心の仕組みが変容を遂げる。裸の自己愛を満たすために行動するようになった。欲動と自己愛の満足、この二つを追求するのが現代人の心のあり方である。境界パーソナリティ障害はこうした心のあり方の反映である。(小此木)

2455
心の満足を得ようとする。「どうなれば満足か」については、社会的に決定されていることが多い。それが流行である。宗教やイデオロギーといったいわば「大きな規範」は衰退したが、それに代わって、「小さな規範」が現代人のまわりを取り囲んでいる。
裸の自己愛と小此木は言うが、イデオロギーもない時代に、自分で自分の自己愛の方式を工夫できるわけではないだろう。マスコミに乗って流れてくる「小さな規範」をキャッチして生きているだろうと思う。
アイデンティティの問題にしても、大きなアイデンティティは衰退して、「複数の小さなアイデンティティ」が現代人を取り囲んでいる。

人間の脳はいつも内容物を必要とする。ちょうど、コンピューターのハードとソフトのようなものだ。

2456
医者不信
疑い深い妄想的な人格傾向の人にしばしば見られる。

2457
排便、食事、通学、性生活など、基本的な生活機能が別な心の葛藤を処理する手段に用いられる。その結果、生活機能が障害される。こうした基本的な生活機能が自律的に営まれていることが、パーソナリティの健康度の指標になる。

2458
パーソナリティの評価
1)一貫性、まとまり
2)現実検討
3)自己愛がどの程度満たされているか、超自我とどう関係しているか。
4)周囲への影響を評価できるか。
5)支配・達成の能力。職業的な能力。
●こうした記述は全く散文的で、「昔からの知恵」で、「孫引き的」で、原理原則に欠ける。

2459
「わたしならきっと助けてあげることができる」「わたしなしではいられないのだから、あの人のために人生を捧げよう」と思うとき、相手の人がいつも波乱万丈のトラブルを繰り返している人ではないかどうか確かめる必要がある。

2460
○○さんと呼ぶか、おじいちゃんと呼ぶか
「わたしはあんたのおばあさんではない」との考えもわかる。また、あまりに年寄りの看護に「おばあちゃん」と呼ばれたくないのもわかる。自分は35歳のつもりなのだから。
しかし一方、病棟での役割があり、人間関係がある。孫くらいの年の職員に自然な感じで「おばあちゃん」と呼ばれるのはいいものではないだろうか?疑似家族のようになった場合、「○○さん」とは呼ばないだろう。やはり役割の呼称である「おじいちゃん」「おばあちゃん」が一番落ち着くと思う。
その場にどのような人間関係が発生しているかが背景の問題としてある。入居者または入院患者であり、職員である、そのような関係の場合には○○さんと呼ぶべきだ。しかしそこに徐々に疑似肉親のような関係が発生して自然に「おばあちゃん」と呼ぶ関係ができたなら、それはとてもすばらしいことだ。
「お前なんかにおばあちゃんと呼ばれたくない」となるか、「わたしをおばあちゃんと呼んでくれてうれしいよ」となるか、どのような人間関係ができているかにかかっている。

入院している人たちはいままで○○さんと呼ばれてはこなかっただろう。特に家ではそんな呼ばれ方はしてこなかったはずだ。
病院をホテルに近い場所として考えるなら、呼び方は○○さんだ。しかし家庭に近いものとして考えるなら、「おばあちゃん」だ。そして、生活の場は家庭である。ホテルではない。それが普通ではないだろうか。

2461
できるところから ステップ・バイ・ステップで。
公文式の宣伝文句。

2462
分裂病
病院が変われば病像も変わる。そんな病像に普遍性はない。普遍性がないのになぜ分裂病と名付けるか。
環境因子を排除した「真水の病像」「真の病像」「環境と反応する以前の病像」そんなものがとらえられればよい。

2463
分裂病の妄想と痴呆の妄想
原則的には分裂病では超越者の登場がある。痴呆では記憶の障害や認知の障害が前提となり、反応性にあらわれた妄想である。前提をおけば、あとはある程度了解可能な性質のものとも言える。

違うようでもあり同じようでもある。分裂病と同じ妄想を呈する人は分裂病と呼びたい気もする。しかし経過が違いすぎる。しかしまた、痴呆と呼ぶにはやや特殊な像を呈している。
痴呆は次第にレベルダウンして、いわば「陰性症状」の集合体になる。
痴呆で神経細胞が脱失するにしたがって陽性症状や陰性症状が現れることはまさにジャクソニズムの典型例である。

前提をおいて、その先は了解可能であるというのなら、分裂病でもそのような面はあると言えるのではないか?状況意味失認などはそのあたりの議論に役立つ。

2464
人間と人間がいれば、対人関係による癒しが成立する。
まず好かれること。なじみになること。そのために専門性や権威が役立つ。

2465
アルツハイマー型痴呆はゆっくり進行する。血管性痴呆に比較して機能代償がおこる余地がある。
→逆に、アルツハイマーは急速に進行するから、血管性のような「まだら」な様子が覆い隠されてしまうのかもしれない。
→血管性は空爆で町全部が機能を停止するようなものだ。アルツハイマーは町の住人がひとりひとりあちこちで死んでゆくようなものだ。一人死んでも周囲の家族で機能を補完したりする。

要するに、痴呆とはcomaに至るさまざまな道のことである。それまでのプロセスがさまざまにあるということである。ときどきは陽性症状が出たりもする。

2466
ジャクソニズムを膝蓋腱反射で説明するとわかりやすい。
痴呆の人が環境刺激に過剰に反応するのは、膝蓋腱反射と同じことが起きている。抑制が壊れている。

2467
痴呆の症状と経過
・症状の分析
痴呆症状(陰性症状+陽性症状)‥‥神経細胞消失の結果
ストレス反応症状(症状ストレス+入院ストレス)
廃用性能力障害
病前性格またはその先鋭化
薬の副作用
身体障害による活動制限がもたらす病像
意識障害
正常な老化

・治療メニュー(あまりない)
薬物
支持的精神療法(なじみになる、好きになる、秘密を共有する、家族に似た関係)
リハビリ(OT、SST、ADL訓練)
集団レク
個人レク

2468
入院中でも家族に協力していただきたいことを考える
一緒にご飯を食べる
散歩の相手
古い写真を見て懐かしむ
回想法に家族を入れる
など
1997年11月17日(月)

2469
痴呆の中で
軽度(日常生活にほとんど支障がない)‥‥40%
中等度以上(日常生活に支援が必要)‥‥60%

2470
随伴症状
ケアを難しくしているのは随伴症状である。
アルツハイマーより脳血管性痴呆に多い。

2471
アジア、アフリカで生まれたユダヤ人は欧米で生まれたユダヤ人よりもアルツハイマー型痴呆の発生率が低かったとの報告がある。
人種よりも生育環境に問題があるとの議論もあるが、まだデータが少ない。

2472
正常老人が多い性格
同調型(明るい、社交的、開放的)
執着型(責任感、頑張り屋、義理堅い)

痴呆老人が多い性格(アルツハイマーにも血管性にも共通)
感情型(気性が激しい、短気、わがまま)
内閉型(閉鎖的、非社交的、人にとけ込めない)
精神的にも身体的にも活動性に乏しい消極的で不活発な人→若い頃からのライフスタイルが問題

2473
痴呆症状を規定するのは、基礎疾患ではなく、脳病変の部位や大きさである。
→これは分裂病と同様。疾患は「経過」を規定する。

皮質痴呆(アルツハイマーや進行麻痺)=言語、行為、認知、記憶、高次精神機能の障害
皮質下痴呆(パーキンソンなど)=幼稚化、自己中心的、抑制欠如、人格の障害、精神機能の緩慢化、意欲障害
辺縁痴呆(ウェルニッケ・コルサコフなど)=際だった健忘、特異な人格変化
白質痴呆(ビンスワンガーなど)=高次精神機能障害に加え、人格障害や意欲障害

●しかしながら、場所によって著しく異なる印象でもないと思う。観察者の感度が鈍いだけなのか。

2474
痴呆の鑑別として切実なもの
正常老化
仮性痴呆‥‥非器質性・可逆性の痴呆。たとえば廃用性、心因性、症候性(たとえば代謝疾患)がある。
抑うつ状態
軽い意識障害

●仮性痴呆は普通は「うつ」のときに用いる。
●正常老化、うつ、意識障害、廃用性、心因性神経症性、ヒステリー性)などが痴呆と鑑別すべき状態ということになる。

廃用性要因に対しては、多少時間がかかっても自分でするように仕向けることが大事である。

2475
天秤法
   老年痴呆
高度の痴呆
もっともらしさ、人格の形骸化
進行性経過
多動、落ち着きのなさ
無関心
記憶障害、失見当

高血圧の既往
人格の保たれ
感情失禁
言語障害
急激な発症、段階状悪化
神経症
   脳血管性痴呆

血管型はより身体的である。
アルツハイマーはより精神的である。高次機能がおかされている。微細な変調を補完しながら症状は進行するのだろう。「もっともらしさ、高次機能の形骸化」が本質的であるかも知れない。補完しようがない部分が記憶である。取り繕うにも限度がある。

2476
全身疾患に伴う二次性痴呆の経過
内分泌疾患→ 血行性→ 脳細胞の代謝障害  → 脳器質病変
代謝疾患 意識混濁・自発性低下 痴呆
中毒 可逆性 非可逆性

2477
痴呆の精神症状
中核症状‥‥器質性病変、非可逆性?
周辺症状‥‥機能的病変、可逆性
   意識障害あり‥‥せん妄?
   意識障害なし‥‥通過症候群?

実際の症例では、???が混在して病状を複雑にしている。

意識障害‥‥急性の脳神経細胞エネルギー障害
通過症候群‥‥中枢神経系のシナプスにおける神経伝達物質の放出低下または放出過剰、あるいはシナプス後受容体の感受性の低下または亢進が起こり、神経回路網での相互調節作用が崩れたために起こるのではないかと推定されている。例えば、幻覚・妄想の発現機序として、中脳ー辺縁系ドパミンシナプス後受容体の感受性の亢進が推定されている。
通過症候群をこのように解説しているのは初耳。
通過症候群が治るのだから、分裂病も治りそうである。

2478
老年期痴呆ではいきなり器質病変が出現するのではなく、なんらかの機能的病変が進行し、次第に器質病変が完成して痴呆が発現すると考えられる。
ニューロンシナプスに起こる機能障害→器質病変のプロセスの一部が、薬物治療によってある程度まで代償的・補充的に回復するからであろう。
●つまり、機能的病変の代償をしておけば、器質病変は進行しないだろうということだ。イメージとしてはつかみやすい。
しかし現在の痴呆の薬はそのような働きをしているのだろうか?

2479
痴呆の薬物療法の説明
患者を穏やかに保つ
介護の負担を減らす
パンフレットを作っておく

周辺症状を緩和する
進行を遅らせる
対人関係を良好にする
かえって痴呆が進行するように見えることはあるが、その事情を理解していただく→意識障害に関連して
痴呆患者を中心とした家族システムの全体を支援するといった視点が大切

2480
行動異常の分類
・精神運動興奮を基盤とするもの‥‥周辺症状に相当する‥‥過剰活動、攻撃性‥‥薬物
・知性の低下により見当違いの行為に及ぶ‥‥迷惑行為‥‥介護
・脱抑制‥‥摂食異常、性的逸脱‥‥介護

2481
室伏の介護五項目
・受容して安定感・安心感を与える
・禁止せず先延ばしする
・関連した別のことで要求の一部をかなえてあげる(帰宅要求に対して散歩など)
・「なじみ」による心理的結合を利用して患者に納得してもらう
・薬物も大切

●要するに嫌われないように気をつけなさいということのように思われる。「今は嫌われても本人のためだったと後で分かってもらえる」といった教育的観点は有効ではないと思われる。今があるだけ。「いま好かれること」それが一番大切なことだ。
怒鳴ったりするのは最低である。

2482
薬物は急速に増量しない。不十分な面は看護によって補いながら様子を見る。
高齢者では長期間にわたって血中濃度の上昇が続くこともある。急ぐと過鎮静や筋弛緩、錐体外路症状が出る。
慎重と我慢。
介護に重きをおく態度。介護を補助するのが薬物。

老人は血中濃度プラトーになるまで時間がかかる。これは大切。

2483
VB12はアルツハイマーや血管型痴呆で脳と脳脊髄液で減少していると報告されている。メコバラミンが有効と議論されている。

ヘキストール、アバンに神経細胞保護作用。脳虚血後の delayed neuronal death から保護する。

セレポート、エレンは抗うつ作用。

脳循環代謝改善剤は意欲、感情、自覚症状に効く。‥‥サアミオン、ヒデルギン
代謝賦活剤は意欲、感情に効く。‥‥全般を指す。

8週で有用性が判明する。
よくならないのに3ヶ月以上続けても無駄。

調整的‥‥ヒデルギン、アバン、サアミオン
賦活的‥‥シンメトレル、セレポート
抑制的‥‥ガミベタール、サアミオン
エレンの位置づけは人によって違う。

併用は単独よりも有効。
サアミオン+(アバン、エレン、セレポート)

問題行動や活動過剰型のせん妄に対して、アバン、ヒデルギン、ブレンディール、コメリアン、サアミオン、ドラガノン
活動減少型のせん妄に対して、ニコリン、ルシドリール

痴呆のうつにエレン、セレポート、オイナール

セレポートで不眠が解消する

早期診断の技術があれば早期治療ができて、治療の有効性が高まる。

高血圧を伴う脳血管障害慢性期には降圧作用のある脳循環改善薬がよい。脳血流を低下させることなくむしろ増加させて全身血圧を低下させる。→ヒデルギン、ペルジピン、カリクレインなど
心電図に虚血性変化がある場合には、ロコルナール、コメリアンなど
血圧は少し高めに維持しないと脳血流を維持できない。緩徐に降圧する。
強い抗血小板薬よりも、抗血小板作用を有する脳循環改善薬がよい。

2484
最大酸素運搬能‥‥ヘマトクリット33%

脳循環改善薬の第一の標的症状は、脳循環障害に基づく自覚症状、たとえば頭痛、頭重、めまい、頭鳴り、耳鳴り、手足のしびれなど。次いで精神症状。

2485
脳循環障害
軽いがびまん性の循環障害(正常の80%程度)……自覚症状
中等度のびまん性循環障害……精神障害意識障害
著しい局所的循環障害……神経症状……短時間で不可逆的変化をもたらしやすいので器質的病変になりやすい
したがって、脳循環を改善すると、自覚症状、精神症状、神経症状の順に改善しやすいことになる。

脳の血流低下が長期間続くと、明らかな再発作を起こさなくても、症状が徐々に進む。アスピリン(消化器潰瘍があるときはだめ)やパナルジンが再発予防に有効。

脳血管性痴呆は一度の発作で痴呆化する場合もあるが、多くの場合は再発を繰り返すことによって次第に痴呆化する。あるいはビンスワンガー型梗塞による痴呆のように明らかな再発作を起こさなくても長期にわたって脳血流があるレベル以下に低下した状態が続くことによって、痴呆化する。
痴呆化する前にはある期間脳血流(CBF)の低下が持続することが必要である。そのうちに脳酸素代謝率(CMRO2)が低下し、これが両側前頭葉におよぶと痴呆化する。したがって、痴呆化する前に、CBFとCMRO2を維持するようにすることが大切。

●リハは廃用性障害にも有効だし、脳血流量や脳酸素代謝の点でも改善をもたらす。

2486
老年者の薬の副作用
細胞内水分比率が減少し、脂肪比率が増加する。したがって、水溶性薬剤では血中濃度が上昇しやすい。脂溶性薬剤では作用が遷延しやすくなる。
代謝と排泄は低下する。老化に伴う腎・肝機能は検査では検出されにくい。検査が正常でも、クリアランスは低下している。内因性クレアチニンリアランスが一つの指標となる。

フルナリジン(フルナール)でパーキンソニズムが起こる。

2487
痴呆患者の治療
環境改善、やさしく暖かい語りかけ・接触薬物療法の順に大切。
薬物療法の目的としては、知的機能改善、周辺症状(意欲低下、情緒障害)の改善、問題行動の抑制があげられる。
●意欲低下は周辺症状か?

2488
代謝改善薬の第一義的な場は(星状)グリア細胞である。

2489
処方の実際
麦角アルカロイド(脳循環改善作用が強くしかも神経伝達調整作用が強い。ヒデルギン、オイナール、サアミオン)を基礎に、効果発現の早いセレポートあるいはシンメトレルを併用する。
アルカロイド系は頭痛、頭重、めまいなどの自覚症状に効く。
シンメトレル、セレポートは自発性、意欲を改善する。
エレンはドーパミン系を抑制するので、夜間せん妄など問題行動が合併している場合によい。

薬の大量投与によってかえってイライラしたりボーッとなったりする。注意が必要。一、二種類に限るべきである。

2490
吸収速度は液剤、錠剤、粉剤、時効性剤の順である。
成人に比して有効量と中毒量が近い。

2491
痴呆患者では認知や判断の障害があるため、妄想、曲解、誤解、怒り、不安が起こりやすい。それらは言語化されず、おちつかなさ(不穏多動)、失禁、弄便、せん妄などの行動で表現される。

2492
痴呆の妄想
被害妄想の対象はもっとも身近で本来は依存の対象となるべき人である。たとえば嫁。「弱者の攻撃」と言える。弱者の立場に立たされたという情けなさも前提としてある。

2493
強迫症状を呈する患者。家族も強迫傾向がある場合が多い。配偶者は特にその傾向がある。

●強迫傾向に関しては、
1)上位の抑制低下による下位の強迫(これは常同行為と名付けた方がよい性質のもの)と、
2)下位の不全を補うために上位の強迫を発動する場合(過度のコントロール)と
二種があると考えられないか?

痴呆患者の場合、内省が欠如していれば、強迫症状の標識を確認することはできないはずである。

2494
痴呆の暴行にもたいていは理由がある。
言葉による暴力、無視、善意の過干渉など。

2495
抗うつ薬
せん妄の予防の点からは、抗コリン作用の少ない、認知機能に影響の少ない薬剤がよい。まず脳循環改善薬の系統から選択する。シンメトレル、セレポート、エレンなど。またスルピリド300mg程度まで。
アンセリンはうつと不眠の両方に効く。
ハロペリドールはせん妄に有効であるが、副作用として抑うつがあるのでできれば使わない。(●!)

2496
アルツハイマーの健忘に伴い、ものとられ妄想や作話性妄想が生じる。これらは適切なケアをおこなえば薬はいらないと室伏はいう。その原則は
1)急激な変化を避ける。やむを得ないときは早くなじませる。
2)安定の位置を占めさす(●?)
3)受容する。理解する。
4)尊重する。
5)ペースにあわせる。
6)老人同士の集まりを作る。
7)適切な刺激を少しずつでも絶えず与える。何かやらせる。
8)?
9)日常生活の基本動作を訓練する。
10)個々の反応様式や行動パターンをよく把握する。

●決まったことをさせる、むやみに変化を与えないという方向と、適切な刺激を与えるという方向は逆の向きである。時と場合に応じ適切なミックスでということになる。このあたりは分裂病のリハと同じで、適切な負荷量がある。それを見る技術を開発すること。

2497
セレネースは3mg/1日程度まで。
アーテンは抗コリン作用を強め、せん妄を生じる危険がある。むしろヒベルナ25-50mg/dayを用いれば適度の鎮静にもなる。
抑うつを伴う幻覚・妄想にはスルピリド
急性に生じる幻覚・妄想ではせん妄を疑う。

2498
痴呆死の特徴
1)肺炎などの感染症、2)骨折外傷、3)脱水、栄養障害、4)皮膚潰瘍

痴呆に関する医療は進行のある時点からは、合併する身体疾患の治療と予防に診療の重点が移る。
合併症の問題点
1)病識欠如
2)苦痛や症状を正確に表現できない。他覚所見に頼らざるを得ない。→これは神経症の場合でも似ている。
3)検査ができない場合が多い。

2499
痴呆と肺炎
寝たきりの場合、分泌液貯留傾向。肺血流はうっ血に傾く。球麻痺の場合は誤嚥。免疫能低下。
肺炎の始まりが不明瞭な場合も多い。
小さな誤嚥で小さな無気肺が生じる。
胃液が混入した吐物が気道にはいると予後が悪い。
肺炎の起炎菌の同定は必要。

2500
脱水
・原因
体内総水分量の低下
水分摂取の低下
低張尿の持続排出・下痢(利尿剤・下剤に注意)
内分泌不全
発熱を伴う種々の感染症
長時間の徘徊の後
不食後、嚥下困難

・影響
血液粘性の変化を背景に心筋梗塞脳梗塞を併発することもある。寝たきりに移行することもある。