601
身体化はなぜ低次の適応様式か
?
602
超自我
政治家と役人の拝金主義。超自我の弱体化に関係している。これは日本全体の傾向である。患者も超自我は弱くなっている。強すぎる超自我の病理はいまはあまりない。
理由は何か?
内在化すべき親の権威がない。
603
離人
分類の際に対象の違いで三分野に分けるのはあまり意味がないであろう。離人と呼ばれてひとまとめにされているものの中にどのような構造のものが含まれているかを明らかにしなければならない。
604
自由意志とさせられ体験
能動感と自由意志は重なり合っている。
させられ体験で殺人をしたという場合、法はやはり罰するのが正しい。自由意志やさせられ体験を観察した部分を罰するのではなく、実行した部分を罰するのである。
体験自我と観察自我で言えば、体験自我の部分を罰する。
行動療法的な意味で言えば、反省が届かなくても、罰は有効であろう。
605
強迫行為と強迫「内的体験」
(強迫内的体験という言葉で、強迫症の非行為部分を指すことにする。)
これは同じ構造のものと考えてよいかどうか、怪しい。
森田は区別していたそうだ。行動は治療が難しいという。
強迫行為の背景に強迫内的体験があるのなら、問題はない。強迫思考や強迫表象のゆえに強迫行為が成立しているならば、問題はない。治療も同じはず。
内的体験が欠落して、直接に行動が結実している場合にはどうなのだろう。そんなことがあるのだろうか。
そういうことがあるとしたら、行為に対する自由意志も能動感も意志の支配も欠落している。そのようなものなのだろうか?
勝手に考えが浮かぶように、勝手に手が動いてしまうのだろうか?→想像を絶する。
ばかばかしいと思いながらどうしても確かめてしまう。→確かめる前に「疑い、不確かさ」の感覚が襲うのならば、結局は強迫内的体験が先行している。
606
デイケアの目的
デイケアの目的には二軸ある。生活拡大の縦軸と、生活深化の横軸である。
縦軸は病院から中間施設、さらには社会へと連なる軸であり、生活の場が移るに従って自由度が増大し責任も増す。生活臨床で言う、病院よりも家庭、結婚して仕事を持つ、という目標である。(世俗の価値観そのままの軸である。)
しかし生活はそれだけではない。病院にいても、中間施設にいても、職場や学校にいても、それぞれの場所で人生を深めることはできる。それぞれの場所で生活を深化させることが横軸である。縦軸に比べればあいまいな目標ではあるが、大切なことである。人生を深めるとか、生活の意味とか、こうしたことは結局人生観や価値観の問題となるので、何か簡単な具体的な言葉に集約することは難しいだろうと思う。そこで抽象的に生活の深化と言っておく。それぞれの人なりの深まりである。
敢えて言えば、その人なりの人生の意味の深まりと言ってもいい。
(たとえ苦しい人生であっても、意味に満たされていればいい。世間で言うような意味がなくても、生きていればそれで充分素晴らしい。)
社会(職場、学校、家庭) →生活深化
↑
中間施設(デイケア、作業所)→生活深化
↑
病院 →生活深化
縦軸の方向に役立つのは、服薬、生活指導、家族関係調整、SSTをはじめとする生活訓練などである。
横軸の方向で有効なのは、メンバーやスタッフと共に生きる意識である。
607
薬依存の心配
「薬をやめられなくなったら困ります。いつまでも続けていていいんでしょうか。」
「薬がやめられないのはなぜなんですか。試しに一日だけ薬をやめてみたら、とても調子が悪かった。もう薬なしでは生きていけない体になったのではないかと心配だ。」
「依存になりやすい薬だと聞いた。」
「はやくやめないと一生離れられない、薬のせいではやく死ぬなどと言われて心配している。」
「ただ薬をのんでいるだけで、いつまでたっても治らないじゃないですか。」
?それは依存や中毒ではなくて、まだ病気が治っていないからでしょう。それを薬のせいにするとは、他責的・責任回避的な考え方です。自分の問題として見つめるのは不安を呼び起こすので、他人のせいにして安心しようとしている。神経症的な防衛機制です。とても簡単なからくりですね。他人にはすぐに分かります。
あなたが薬のせいだと思いこもうとしても、現実が変わるわけではない。現実は、あなたが依然として薬が必要な病気にかかっているということです。あなたの人生の根本に、責任回避的・他責的な考えがある限り、あなたは根本的な解決に向かって踏み出すことはできない。
自分が家を出るのが遅かったくせに、交通渋滞のせいにしたり、電車のせいにしたりするのではいけません。問題解決のためにはまず、目を開けて、問題を把握することです。どんなに辛くても。
608
病気の原因
あなただって子供の頃は薬なんかいらなかったでしょう。子供の頃と現在とどこが違ってしまったのか、考えてみましょう。
609
夢
夢を考える手がかりとして、夢を見ているときの現実の音や温度などの感覚情報を加工して夢に見ている場合がある。その場合の音や温度に特有の意味はないのだが、心の内部の意味システムとその時心を占めている問題とが、意味を付与する。外部からの感覚情報の他に、内部から発生する「雑音」も意味付けのきっかけになるのだろう。
ロールシャッハに似ている。インクのシミは夢を見ているときの内部と外部の感覚情報に相当する。
従って、夢とロールシャッハは同型である。しかしながら、ロールの場合には目覚めているわけだから、「検閲」は一層厳しいと考えられる。夢の方が検閲は緩い。
610
言葉の意味
一般の平均的な意味から、専門家の意味まで、重層的である。そして専門家といっても、流派によって微妙に意味のずれがあるまたは強調点に違いがあることがある。
専門的になるほど、独自の仕方で限定され、深まりが出てくる。背景を背負った言葉であるということが理解されてくる。そして周辺の言葉との差異が明瞭になってくる。しかしそのことを示そうとしても容易ではない。それは全てを理解した場合に感得される種類のものだからだ。
出発点でそれが分かっていれば、つまり言葉の地図が明らかになっていれば、その先の勉強がはかどるだろうと思うのだが、そういった地図を手に入れることこそが勉強の最終地点なのだ。地図が手には入ったときに、自分としてはどう考えるとかの意見についてもきちんと言えるようになる。
本来ならば事象に帰ればよいだけであるが、そんなわけにもいかない。この事象を指すのだと的確に言うこともできない。ただ単に解釈が違うだけではないのだ。
専門家になればなるほど、微妙に限定された意味で用いていることが多い。
翻訳語の問題もある。一見日本語のようで、実は原語のつもりで用いている人もあり、その場合には日本語のつもりで読んでいると意味が通らない。きちんと翻訳したらいいのにといわれても、意味を通そうとすれば本来の言葉が消えてしまう。論述の趣旨の深層に横たわるものとしてひとつの言葉の多義性がある場合、()内に言語を表示しながら、その都度意味を翻訳していくことになるのだろうが、それでは全く面白くない話である。
さて、問題は、書かれたものを読むときに、筆者がどのような意味を込めて使っているのか、推定しなければならないことである。一般の新聞に使われるよう語のレベルなのか、一般精神科医のレベルか、フロイト派の分析家か、クライン派の分析家か、精神薬理学の専門家か。困ったことに、通常は一人の筆者が上記のひとつのレベルの意味だけではなく、文脈に応じて柔軟にレベルを移動しながら使うことがある。それが意識しないものであることもあり、レトリックとして用いていることもある。
こんなややこしいことにつきあっても、たいていはたいして面白いことでもない場合が多いので、頑張る必要はないと考えるが、今回は辞書を作るというのだから、どんなレベルではどんな意味になるのか、示す必要がある。辞書を作るというのは、本来はそういうことだ。
611
たとえばドイツ語の単語の意味の二面性を利用した心理分析などというものがある。これは翻訳しても一向に面白くない。→例?
ライクロフトの紹介しているAngstとanxious。
critical 批判的な・厳密な
positive 肯定的な・積極的な
こうした意味の二面性を故意に利用している場合があり、日本語でその二面性に対応しきれない場合に無理が生じる。
たとえば、criticalという言葉はカントでおなじみである。批判的とも厳密とも訳される。危機的ななどの意味もある。限界を明確にしつつということだ。「クリティカルに読む」といえば、厳密に読む、しかもその態度は決して心酔してではなく、冷めた頭で時に批判的にもなるほどに厳密に、意味の範囲を明確にしつつ、といったところであろうか。厳密に読むといっても、ある種の宗教書を読むときのように、霊感に満たされて心酔しながら厳密・精密に読むという場合もあるであろう。クリティカルと言えばそういった態度ではない。その辺の事情が、「クリティカルに読む」と言うだけで充分に通じるのである。そのような事情を一語で伝え切る日本語があればそれでよい。ない場合には仕方がない。英語の場合にはcriticalは盲目的に肯定的ではないが少なくとも中立的であり、一方、日本語で批判的といえば、「反論」を強く含むので、訳語としてはあまり適切ではないかも知れない。
たとえば、positiveという言葉はロジャーズでおなじみである。積極的な関心と肯定的な関心と、両方の意味があるからこそ、この言葉が生きてくるのである。敢えて訳せば、積極的で肯定的な関心ということになる。
612
分裂病サブタイプ
「私がバラバラになりそうなとき、
あなたの腕が私を束ねてくれる。」
銀座のデパートで見かけた言葉。
まるで分裂病の描写である。ゲシュタルト崩壊の様子である。
自然なゲシュタルトが崩壊して、代替物が生成されていない場合、破瓜型(解体型)の分裂病となる。
自然なゲシュタルトが崩壊して、独自の、他者には了解不可能なゲシュタルトが生成された場合には妄想型となる。それは自然に形成されるのではなく、欠落に悩み抜いた末にようやくのことで生成されるものであろう。
「ばらばらになりそう」という言葉を具体化したのが、風景構成法である。山と川と田圃と家はバラバラに全体の構成を失って存在している。「山」という概念の輪郭は保たれている。しかしそれが他のものとどのように関連しているか、その「関連」つまり「関係」が失われている。失関連と名付けてもよい。それが破瓜型である。
自然な関連が失われた後に、独自な関連を当てはめたなら、妄想型である。
経過としては、どちらのタイプもいったんは破瓜型の経過をとる。「関連」は失われる。その先に了解不能で訂正不能の「関連」を作るのが妄想型である。
解釈は二つある。
?新しい関係を生成するだけのエネルギーがあった。‥‥破瓜型では新しい関係を生成する能力さえ欠如している。妄想型では、新しい関係を生成する能力は保たれており、それを訂正・棄却する能力が失われている。
?妄想的「関連」を訂正・棄却するだけの現実検討力が欠如している。破瓜型よりも機能が低下している。‥‥これは通常の観察に反すると感じられる。
一般に脳内の「試行錯誤」は次のステップで起こる。
?仮説生成能力。(多くは現実に適合しないが、それで構わない。)‥‥破瓜型で失われている。破瓜型では、支離滅裂になるばかりで、新しい体系的な意味連関は提出されない。
?現実への適合性を検証し、訂正・棄却する能力。(これがあの有名な現実検討である。)‥‥破瓜型、妄想型ともに失われている。
破瓜型 妄想型
仮説生成能力 × ○
現実検討 × ×
思考 支離滅裂 妄想
言葉のサラダ
ここでは緊張型が説明されていない。緊張型は身体面に強く症状が出ている。
613
強迫と不合理な信心
11月20日は酉の市だそうだ。「とり」は「とりこむ」に通じるということで、商売人が信心するようになったという。宗教に見られる強迫症的心性の一例である。
614
自由意志
幻影である。錯覚である。ここから論が始まる。しかし、我々が自然に実感している自由意志の感覚を説明しなければならない。自由意志という錯覚が生じるメカニズムを説明。その他とで、そのメカニズムが壊れることによる症状を説明。
主観的に自由意志(能動感や自己所属感)が失われていても、外部から見れば、特に問題はなく、通常と変わらない。
615
小さな論文形式がよいのではないか。
疾病、症状などごとにフォームを決めてみる。
たとえば疾病については、
概念、頻度、症状、治療、
症状については
例示、構造、疾病との関連、治療、どんなときに正常範囲、どんなときに相談すべきなど
616
ドーパミンと薬とストレスの話。‥‥これはあくまで患者さんへの説明方法。
グラフの傾き‥‥
適応範囲‥‥
617
トランスパーソナル心理学
?
618
神・超越者への言及?
自由意志が幻影ならば、我々の倫理の理由は何か?
神経機械としての脳の外側に何かを想定するのか?エックルスの二元論。
619
書き方
一般に、抽象的な言葉だけではなく、具体的な例、図、表で説得力を増す。文章だけでは不足。具体例が最も大切ではないか?
620
フロイトの決定論
意識による現在の意志決定が前提にあることはもちろんであるが、しかし部分的には、過去が現在を決定し、無意識が意識を決定する。決定論への傾きが見られる。
621
さなぎのままでいる人
人間は子供から大人への移行期に、脳の構成としては幼虫がさなぎを経て成虫になるのと同等な大きな変化を遂げる。性的成熟は身体はもちろん、精神も作り変える。子供の身体や精神を土台として、二階建て部分を付加するように、作り変えるのである。
その場合、精神的にさなぎのままでとどまる人が必ずいる。幼虫のままでとどまる人もいる。そして精神は多面的なものであるから、ある部分はさなぎ、ある部分は幼虫、ある部分は成虫とバラバラな発達を呈する場合もある。
622
確実なデータ
確実なデータをもとにして論を組み立てるべきである。しかし精神医学の場合の確実なデータとは何か、それが実は難しい。客観的な物差しは何なのか、そんなこともいまだに分かっていない。
623
風景構成法の解釈
構造(形式)と内容→ロールとの比較
集団的無意識→
個人的無意識→
意識→
昔の夢分析ハンドブックのようになってはいけない→根拠は何かと問うべきだ。
624
風景構成法
風景構成法→正常児童の発達をまず精密に記録する。そのデータと成人異常所見とを比較検討する。それはやや科学的である。所見は内容ではなく形式についてである方が有望であると考えられる。ジャクソニズムの応用である。
風景構成法にも、陽性所見と陰性所見が含まれている。その点を深く考えてみること。
625
分裂病症状の二系列
・自我障害型→自我障害型幻聴→陽性症状中心型→一部は解体型に移行する。
・関連の解体→解体型(破瓜型)→陰性症状中心型(このタイプの幻覚妄想は自我障害型とメカニズムが異なる。失われた「世界連関」を妄想で埋める。幻聴は、それ自体妄想と区別できない、感覚要素の希薄なものである?)
これらが別々の疾患系列であると考えることはできないか?(Crowの提案に関係する。)
病理は同一で、場所が異なると考えられないか?(移行型があることから。)
626
風景構成法の陽性所見と陰性所見
風景構成法にも、陽性所見と陰性所見が含まれている。
たとえば、他の構成度は高いのに、人が線画になっている。また、家だけが色を塗られず放っておかれている。この場合にはいったん高度に構成されたものが部分的に解体したものと見なすことができるだろう。
(マイナスのエネルギーが集中している。「最大の関心事であるから、描けない」としたらどうだろうか。)
またたとえば、全体の構成は失われていて、個別の絵になっている場合、人がきちんと書かれていたとする。その場合には「対人的緊張」が問題ではない。「関連」が空白になっているのである。(別の見方をすれば、人に対する特別の関心が失われている異常所見であるとも言えるのではないか?)
627
ジャクソニズム
脳の解体の原則で、解体部分の上位機能が失われ、下位機能の脱抑制が観察されること。症状はこれら二者の混合物となる。概念としてはこれでよいが、実際の解釈は理屈通りにはいかない。
628
風景構成の再獲得
構成が再獲得されれば、世界連関は再獲得されるだろうか?逆の命題、世界連関の再獲得は風景構成の再獲得につながるであろうことは理解できるのだが。実験してみる価値がある。
風景構成の再獲得のトレーニングとしてはどのようなものがよいだろうか?
629
生活で観察される精神機能から推定される風景構成と、実際に描いた風景構成が著しく食い違うことがある。予想外に高く出る場合と、予想外に低く出る場合とがある。このあたりも面白い。
630
風景構成法の難点
風景構成法の難点は、絵が上手と下手では所見の意味が違ってくることである。人が線画になったとして、書き慣れていない、または下手であるということなのか、人間に対する態度の何かが反映されているのか、線画という所見だけからははっきりしたことは言えないだろう。この難点を解消する技術が求められる。
631
風景構成法における観察自我
自分で描いた絵を下手だとか、不自然だとか評価することはできる場合も多い。この場合には、描く機能としての風景構成(世界連関)は失われているが、それを観察して評価する部分の風景構成は失われてはいないことになる。
これはまた考えてみれば、体験自我と観察自我の分離を前提とした場合、観察自我は解体されずに保持されている場合も多く、従って、治療も観察自我と共同すること(治療同盟)が有効であると結論できるかも知れない。
632
風景構成法
川が最初だという見解。川を初めにかくのは構成を困難にする意味があり、テストとしての判別度を高める。敏感度が高まる。
しかし一方、再構成を促す目的で考えるならば、山から描いて、構成しやすく誘導した方が効果的ではないかと考えられる。
633
治療的退行
therapeutic regression
=操作的退行
治療操作としての退行。退行を基礎として転移や抵抗が起こり、それを分析して治療は進行する。外科手術で、メスを入れて病変部を露出させる操作に対応する。退行状態を作り、治療的操作をして、通常人格レベルに戻す。
治療的退行においては観察自我は保持され、一時的で部分的であり、通常生活レベルへの復帰が可能である。
634
アレキシサイミア
alexithymia
a=lack,lexis=word,thymos=emotion
=失感情言語症、失感情言語化症、感情言語化障害、感情表出障害、失感情症、感情表出困難症、感情失読症、自己感情認知障害
感情は起こっているのに、それを認知する作用が失われている。従って、それを表出する作用も失われている状態。これを、認知はされているが表現が妨げられていると考える人もいる。また、認知されているが抑圧されて意識化されず、結局表現できないと考える人もいる。どれがもっとも正確か決める方法はないように思われる。
訳語としても、感情表出の障害として訳すものと、自己感情認知作用の障害として訳すものとがある。前者はその理由には言及していない。後者は観察される症状としては結局、感情表出の障害となる。
感情と知性の解離が起こり、何かを述べるときにも適切な感情が乗っていない。言語表出を阻止された感情は身体化されて症状となると考えられる。これが心身症の根本と考えられた時期もあったようだが、現在ではそのようには考えられていない。
635
アレキシサイミア?
感情→認知→表出
障害は認知部分にあるか、表出部分にあるか。見解の差がある。認知はしているが表出はできないという状態ではないように思われる。
636
英語のfreedomの意味の特殊性
ジェフリー・ゴアラーの記述をライクロフトが紹介。
第二次大戦後半に言われた四つの自由freedom(言論の自由、宗教の自由、困窮からの自由、恐怖からの自由)は、英語以外の言語では事実上意味をなさない。「〜を妨げられない」「〜から守られている」という二つの意味を併せもつことができる英語のfreedomに相当する言葉は、他のいかなる言語にも見あたらないからである。
637
Angstとanxietyの差
不安のドイツ語Angst を英訳するときにはanxietyをあてる。しかし両者の意味範囲は一致しない。Angst には苦悩anguish、懸念fear、苦・病いpainの意味が内包されているが、未来期待の含意を伴うことはないようである。anxietyには期待感情の含意がある。楽しい期待を表現するときに用いられる。
primary anxiety といえば、驚愕frightや恐怖terrorを指すのにも用いられる。(ライクロフトの精神分析学辞典より)
「anxiety=Angst+未来期待」であるから、英訳したときに余計な意味が入りこむ余地があるというわけだ。
この点は日本語では混乱はない。「不安」の語には未来期待の意味はない。
638
動名詞と名詞
英語では動名詞で書くところを、ドイツ語では名詞化して扱い、ときに冠詞までついてしまう。抽象名詞を具象化して扱うことは抽象概念の実在性を信じさせる。ドイツ語の特性が、ドイツ人の思考の特性を引き出している。
639
翻訳による変質
精神分析はドイツ語から英語へ翻訳されるときに変質している。?言葉の意味の範囲が違う。?言葉が喚起するものが違う。例:cathexis,Besetzung,備給
640
フロイトはエロスと理性の信奉者。
アードラーは権力powerと自己主張の信奉者。
ユングは神秘論者。
641
自我心理学
自我の成長と自己認識の芽生えに視点をすえた。リビドー発達の段階を自己認識の発現に関係づける。
642
対象関係論
子供は常に対象を求め、対象との不断の関係の中で成長する。
643
フロイトは文章に動詞を与えた。主語と目的語を補足したのが自我心理学と対象関係論である。本能と性的快感から、自我と対象関係へ。
(ライクロフト)
644
精神分析学派はひとつではない。従って、意味の分化も生じる。
645
一次過程と二次過程
primary process and secondary process
一次過程は無意識の心的活動の特徴をなし、夢において具体的な姿をとる。二次過程は意識的な思考の特徴をなし、思考において具体的な姿をとる。
一次過程は現実への適応が低いので、抑圧される。イドは一次過程に従い、自我は二次過程に従う。
646
一次利得と二次利得
primary gain and secondary gain
症状の一次利得は疾病内利得(paranosic gain)であり、不安と葛藤からの解放を症状がもたらすことである。二次利得は疾病外利得(epinosic gain)であり、他人に優しくされたり、他人に何かさせることよる実際的利益を症状がもたらすことである。
647
アナクリティックな
anaclitic
=依託的な
対象選択には自己愛的対象選択と依託的対象選択の二型がある。自己愛的対象選択は人が自分自身との何らかの現実的ないし想像上の類似に基づいて対象を選択することであり、依託的対象選択とは自分とは似ていない人に対する幼児期の依存類型に基づいて対象を選択すること。
異性愛は依託的、同性愛は自己愛的である。
648
依託的抑うつ
anaclitic depression
幼児が母親から引き離されたときに生じる抑うつ。幼児がまだ客観的に母親に依存している年齢に起こるとき、依託的という。
649
リビドー発達の図式
口唇期、肛門期、男根期、エディプス期
前エディプス期、 エディプス期
ナルシシズム的、 対象愛
口唇期を口唇吸愛期と口唇咬愛期に分ける場合もある。
肛門期を肛門排出期と肛門貯留期に分ける場合もある。
650
固着
リビドー発達の各段階で十分に発達しなかった場合に、その地点(固着点)にエネルギーを注ぎ続けることになることを指す。退行すると固着点にまで退行する。
651
デイケア方針
社会
↓? ↑ ?rest
中間施設
↑? ?act
病院
矢印が今どちらを向いているかによって異なる対応になる。
662
カウンセリング
?治療構造 →社会の内在化。人格の外的成熟。社会化。
?専門知識 →悩みの解決。(薬、対処法など)
?人格(自己一致)→人格の内的成熟。深化。
663
ストレス・ドーパミン・薬仮説→グラフ参照
Sの人は対応範囲が狭い。→狭いのは治らない。(根本病理?)→?狭いながらどこにセットするか。?薬でどの傾きにするか。
対人距離が柔軟でないのに似ている。(遠すぎるか、近すぎる)
664
知覚の能動性と離人症
知覚や感覚に能動性があるものなのかどうか。
たとえばコウモリが超音波を発信して、その反射を受け取り、世界を認識する。人間の知覚の中にもそのような働きがないか。
図と地を区別する働きは脳の中にある。写真にとっても、図と地は区別されるわけではない。ゲシュタルトとしての認識は脳の中にある。
フィルター仮説と同じ。どの情報を拾い上げるか。カクテルパーティ効果。
ものを見るときに、眼球は動き続けている。
眼球でなくても、脳は動き続けている。(たとえば自分の位置を計算し続けていて、ボールの動きを引き算で割り出している。)
それだけではない。大切なのは世界についての図式を脳が供給していることである。目に見える像に脳はそれらを付与している。
そのようにして意味を読みとっている。
たいていは差を読みとっている。
とすれば、知覚の能動性が失われるという事態も考えられる。それを離人症と呼ぶ。
世界についての図式が失われるのが、破瓜型分裂病である。
患者:「机も封筒の同じ質感に見えるんです。」「経験があるから、机はこんな感じ、封筒の質感はこんな感じと頭で考えている。」
→このような言い方からは、共通感覚の病理という考え方も分からないではない。
→頭で考えて付与しているものがここでは意識されている。意識されればこのようになるだけで、普段は意識せずに頭で考えて付与しているのだ。
妙な話だが、「頭で考えて付与する」ところに能動性が見えている。
それにしてもなぜ、実感が生じるのか。なぜ失われるのか。それが問いかけられていない。それこそが重要である。
665
神経症の二段階説
?器質因が準備される。
?内容となる葛藤が準備される。→精神分析などで明らかになる。夢で露呈する。
?がなければ、症状は形成されない。
容れ物と内容である。
カタルシスは?を吐き出すことだ。空になれば症状は消える。しかし本当の意味で病気であるのは?である。
?の特性の一部は性格として表現されている。
神経症を不安障害と言い換えてよいだろうか?
666
夢の意味
検閲は緩くなり、無意識と意識の双方の事情を把握しやすくなる。
ときに夢はカタルシス効果を発揮する。
667
患者に欠けているもの
「外枠」が欠けている場合がある。→治療構造を意識した治療が有効である。
668
摂食障害と口唇期
口唇期と肛門期の両方の要素が出ている。一方、男根期とエディプス期の要素には乏しい。
669
固着
心的エネルギー(リビドーのこと)があることに固着してしまい、その結果、そのエネルギーは発達に用いることができなくなる状態を指す。
670
心因性精神病
psychogenic psychosis
心因反応psychogene Reaktion、反応精神病reactive psychosisと同じ。原因は心因性、症状は精神病レベルのもの。
671
原始反応
激しい心理的ショックに遭遇して腰が抜ける(脱力)、失禁などが起こったり、全く動けなくなったりする。死んだふりに近い。
672
拘禁反応
拘禁中の受刑者に見られる精神病状態。的外れ応答や偽痴呆がみられるのはガンザー症候群(Ganser’s syndrome)と呼ぶ。
673
感応精神病
=二人組精神病(folie a’ deux)
二人のうち、一方が精神病で、他方は精神病ではないのに同じ妄想を持つ場合をいう。母子や姉妹の場合などで見られる。両者を引き離すと、精神病はそのままであるのに対して、影響された側は精神病状態から脱する。
暗示は現実検討能力をも麻痺させてしまう。これが人と人との間に働く不思議な力である。
674
祈祷性精神病
加持祈祷の際や宗教儀式において、憑依状態やさせられ体験が起こること。儀式が終われば時間とともに治癒する。強い暗示の場で起こる。暗示が自我機能や現実検討能力を麻痺させる。
675
難聴者の迫害妄想
現実に反しているが、状況に照らしてみれば、了解可能である例である。幻聴と強い不安を伴うことがある。中年以降に多くなる。
676
海外渡航者の急性妄想反応
現実に反しているが、状況に照らしてみれば、了解可能である例である。移民、捕虜、留学生などで生じる。環境を変えて治るのが原則である。治らない場合には、潜在していた分裂病が顕在化したと解釈する。
677
敏感関係妄想
クレッチマー(Kretschmer)の提唱したもので、心因性の妄想であるとされる。発生的に了解可能であることが意義深い。
クレッチマーの三徴候を特徴とする。?敏感性格。?逃れられない困難な状況。?たいていは屈辱的な「鍵体験」。
敏感性格は次の二極で特徴づけられる。?弱力性(無力性)……内気、控え目、繊細、傷つきやすい。?精力性(強力性)……名誉を重んじる、負けず嫌い、疑り深い、頑張り屋。
678
反応性うつ病
心因性(環境因性。深層心理まで考えなくても、状況を時間を追って聞いていけば充分納得できる。幼児体験に原因しているなどの深層心理的な問題ではない。)の、精神病レベルのうつ状態。しかし心因性の神経症レベルのうつ状態を指すこともある。その場合には病態レベルを特に考慮せず、原因が心因性(環境因性)であることだけを強調することになる。配偶者と死別するなどの喪失体験に引き続く場合が典型的である。
679
病態水準
「現実と非現実の区別」および「自己と非自己の区別」が保たれているとき、神経症レベル。崩れているとき精神病レベル。現実検討と自我境界。(これは同一のものなのだろうか?同一でないなら、なぜ二つを並べるのだろう?)
自己は空想の領域である。非自己は現実の領域である。
自己の内部で生成する空想を現実と照合して現実に適合しない場合には棄却する。訂正は実際にはなく、別の空想を照合するだけである。
結局照合作用が失われると現実と非現実の区別ができなくなる。
自己と非自己の区別。典型的には幻聴。声が他者に属すると感じる点が病気である。これに関しては時間遅延で説明できる。本質的にはさせられ体験と同等である。自分の思考の能動性が失われ、他動的になる。そのことを他者所属と錯覚する。
自己の一部が他者に属するのは、こうしたことで説明できる。
逆に他者が自己に属するのはどのようにして説明できるか?
自我漏洩はどうか?
影響体験はさせられであるから、時間遅延でよい。
680
心身症
psychosomatic disease(PSD)
広くは原因と治療に心理的因子が重要である病気。限定すれば、心因性で自律神経支配器官に症状が現れる病気。
原因 症状 治療
狭い 心因 自律神経支配器官に器質性変化 心理的配慮が不可欠
広い 心理因子が重要 身体症状全般 心理に配慮
681
心身症の原因
?ヒステリーの転換機制は体性神経を中心とするものであるが、自律神経に転換機制が及んだ場合である。
?衝動欲求が阻止されると、持続的緊張状態となり、自律神経系の症状となる。
682
Crow1980のサブタイプ論。
?妄想型……照合棄却機能の障害。内部空想、一次過程の突出。
破瓜型……?と?の混合。
?単純型……空想産出機能の障害。一次過程の消失。
?を繰り返していると?が混在し、最終的に?になっていくことがある。
?から?にはならない。
しかしそれではドーパミンは何をしているのか?
683
分裂病は人格全体を侵す何かであると書かれている。このような印象を与えるものが、脳の一部の障害であるだろうか?→無論可能であろう。そのような印象を引き起こす「部分」があるのだ。
684
しつけ
力関係
超自我は「社会というピラミッド構造の内在化の一部」として考えられるかも知れない。
チンパンジーの社会性機能
自閉症児の社会性機能……ボスは誰か。状況を読む力。
なぜその人をボスだと思うのか。生物学的な刻印があるはずだ。たとえばフェロモンのような。
685
人間関係のフェロモン
それを読みとることのできない人たちがいる。
それを分泌することができない人たちがいる。
人間の場合には、フェロモンという物質ではなく、表情や態度やその他、物質ではなく「情報」化されたものではないだろうか。それを読みとることができない、または発信できない、そのようなタイプの障害が考えられる。
そこをとらえて、プレコックス感と名付けているのではないか。
実体は何かと言われるとそれ以上の考えはないのだけれど。
単なる情報処理機構の全般的欠損ではなく、「人間関係フェロモンにあたる情報」の受信と発信の障害。
686
精神分裂症と精神分裂病
複数の疾患を症状の共通性でまとめて呼ぶときには精神分裂症と呼ぶ。そうではなくて、分裂病はひとつだという考えのときには精神分裂病と呼ぶ。
精神分裂病についてはその成因について種々の議論がある。病像や経過を検討してみて、一種類の病気ではなく複数の病気をまとめて分裂病と呼んでいる可能性が高いと考えられている。そもそも分裂病の呼び名を与えたブロイラーは、それまで破瓜病、妄想病、緊張病とそれぞれ呼ばれていたものを共通の病気としてまとめて分裂病と呼んだのである。現在は再び別々の疾患として考えるべきだとの考えも提出されている。
症状としては似ているが、疾患単位としては複数のものが含まれているということを明示するためには精神分裂症と呼ぶのがよい。
687
否定妄想
de’lire de negation
自分の身体(の一部)の死滅、非存在を主張する。
688
微少妄想
Kleinheitswahn
誇大妄想の逆で、うつ病で見られる。罪責妄想、貧困妄想、心気妄想の三者を指す。これらの妄想は人に迷惑をかける、金がない、病気になるといった世俗的な関心の延長にあり、うつ病者の性格特性をよく反映している。分裂病者の場合には世俗的というよりは超越的といわれる。
689
日内変動
diurnal (mood) swing
内因性うつ病の精神症状が、典型的には朝方に重く夕方から夜にかけて軽快すること。非典型例では逆のこともある。会社でのストレスが原因というような反応性うつ状態の場合には、夕方にかけて症状が悪化するパターンを示すことが多い。
日内変動の知見や、睡眠リズム障害、また日照時間短縮と関連して起こるうつ状態などから見て、生体リズムとうつ状態の関連を重視する考え方もある。
690
生体リズム →参考文献どこかにあり
biological rhythm
人間は二種の内部時計を持ち(X、Y)、自然環境リズムと社会環境リズムとで調整しながら生きている。Xは深部体温周期などを支配する強振動体、Yは視交叉上核にありセロトニンなどのリズムを支配する弱振動体である。自然環境リズムは、一年の季節の周期、月の周期、一日の夜昼の周期などがある。社会環境リズムとしては、夜勤、交代制勤務、時差ボケなどがある。これらの関わり合いから人間のさまざまなリズムが決定されている。うつ病で生体リズムの障害が研究されている。抗うつ剤はサーカディアンリズム(概日周期)を延長させるのに役立つ。
なかでも睡眠リズムはもっとも大切な生体リズムである。快適な睡眠はさまざまな要素が総合されてはじめて実現するものであり、睡眠障害は脳内のリズムの障害を敏感に反映する指標である。日常臨床ではこのような意味でも睡眠状態の把握が大切になる。
時間薬物療法は血圧変動やホルモン変動のパターンをつかみ、その上で合理的な薬物投与のタイミングを考えるものであり有用である。
691
仮面うつ病
masked depression
内科などに受診して、身体症状だけが前面に見えて、精神症状は目立たないタイプのうつ病。身体症状が精神症状をマスクしているという意味である。抑うつなきうつ病ともいう。病前性格、経過の特徴(相性出現)、日内変動、抗うつ剤への反応などを総合して診断される。身体症状を訴えるものでも、心身症はストレス性障害であり、仮面うつ病は内因性うつ病のひとつのタイプと考えられる。
692
概して、
循環気質……若年両極性うつ病
執着性格……中年単極性うつ病
693
状況因
Situagenie
厳密には心因とは言えないが、うつ病の発病に先立ち特徴的な心理的出来事・配置が見られるとき、状況因として記述する。
たとえば笠原によれば、
1転勤(昇進もふくむ)
2子女の結婚、婚約、遊学
3家族成員の移動(死亡、別居、誕生など)
4生命にかかわらない程度の身体疾患
5負担の急増、急減
6出産
7転居、改築、留学、帰朝など居住地の移動や改変
8愛着する物事や地位、財産の喪失
悲しいことで心理的に了解可能であれば心因の可能性があるが、昇進や転居は希望がかなって喜ばしいこともあるので、通常の意味での心因性とは言えない。しかし昇進や転居に際して新しい「秩序」の確立が求められ、そのことが大きな負担となる場合があると考えられる。執着気質の場合には古い秩序を捨て、新しい秩序を確立することは一大事業である。
694
うつ病の原因となる可能性のある身体病
診察に際しては以下の身体疾病の可能性を除外して後に、内因性または心因性のうつ病の可能性を考える。
全身感染症(感冒から脳炎まで)
甲状腺機能亢進症・低下症
副腎皮質機能亢進症・低下症
膵臓機能障害
代謝性疾患(ペラグラなど)
中脳・間脳の異常
脳腫瘍・脳血管障害・脳変性疾患
産褥精神病
術後精神病(外科手術のあと)
薬剤性(ステロイドなど)
695
うつ病等価体
depressive equivalents
うつ病者の既往症の中で、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、不眠、易疲労感などが見られたとき、それらをうつ病の症状と推定してよい場合があり、うつ病等価症状という。詳細な聞き取りが必要であるし、それでも病院で検査でもしていなければ確実なことは言えないのはもちろんであり、過去のことであるから不確実な推定にとどまる。しかし病相を繰り返すうつ病の診断に役立つことがある。
696
慢性疲労症候群
全身のだるさが六ヶ月以上も続く原因不明の病気。アメリカでは五百万人以上との数字もある。診断された約七、八割は女性である。仕事などに頑張るタイプに多いとされる。
?安静にしているだけでは良くならない疲労が六ヶ月以上続いている。
?糖尿病、腎臓病、肝臓病、貧血、低血圧、甲状腺機能低下症、更年期障害、自律神経失調症、うつ病、癌、膠原病などの病気によるものではない。
この二点を確認したうえで、次のチェックをする。
?37.5〜38.6度の発熱
?ノドの痛み
?リンパ節の腫れと痛み
?全身の筋力低下
?筋肉痛ないし不快感
?運動後の疲労感がいつまでも残る
?慢性の頭痛
?腫れや発赤のない関節痛
?健忘、興奮、思考力低下、集中力低下などの精神症状
?不眠もしくは過眠などの睡眠障害
このなかで八つ以上に該当していたら、可能性が高い。
治療は消炎鎮痛剤と心理療法。怠け病と見なされて社会的信用を失うことがないよう配慮する。
697
遷延性うつ病
prolonged depression
内因性うつ病が遷延した経過を辿るもので、原因として性格障害、家族の配置(たとえば優しすぎる配偶者)、薬物などもあげられるが、主として内因性うつ病から心因性うつ状態への交替が考えられている。
内因性うつ状態から治癒に向かうに際して、元来の執着気質または循環気質が失われている場合があり、神経症状態になる。治療は性格を執着気質または循環気質へ再建することが大切である。
698
うつ病の小精神療法
笠原のすすめるもので、以下の内容である。
?うつ病という「病気」であることを本人・家族と確認しあう。気持ちがたるんでいるせいではない。
?休息をとらせること。一、二ヶ月の間仕事を休むのが望ましい。病初期に頑張らせてはいけない。
?薬を必ず飲んでいただく。そのために薬がよく効くこと、作用・副作用について十分説明する。薬を早くやめる人がしばしばいるので注意する。
?完治には3〜6ヶ月程度かかることを告げる。
?治療中の一進一退はほとんどの人にある。途中で逆戻りしても悲観しないように伝える。三寒四温である。
?自殺しないことを約束していただく。
?治療が終わるまでは人生の大決断はしないでいただく。たとえば退職・退学や離婚。
699
うつ状態の患者さんへ
?うつ状態は、がんばりすぎた後に、「ちょっと休息をください」と心と体が要求している状態です。専門的には、脳の神経伝達物質に軽度の異常が起こるのだろうと推定されています。
寒いところにいれば風邪をひくように、ストレスを受けながらがんばりすぎた後に、うつ状態になります。風邪もうつ状態もどちらも病気で、休息が必要です。
?病気ですから、気合いを入れても良くなるものではなりません。逆にがんばればそれだけ心のエネルギーを使い果たすことになります。気持ちがたるんでいるからうつ状態になったのではなく、うつ状態になったから元気が出ないのです。必要なのは休息です。
?休息をとっていてもうつ状態はつらいものです。薬でそのつらさをやわらげましょう。薬が本格的に効き始めるまで、約二週間待って下さい。その後はとても楽になります。いろいろな薬があり、作用も副作用も違いますから、そのつど説明します。のみ合わせの心配などにもお答えします。疑問点は遠慮なくおたずね下さい。約六ヶ月のあいだ薬を使います。その後は薬は使いません。
?完全に治り、もとの生活に戻るまでには三ヶ月から六ヶ月と考えて下さい。仕事はできれば一、二ヶ月程度は休むのがよいようです。診断書を提出して休みましょう。職場復帰にあたっては、仕事内容、職場、時間などの調整をします。たとえば半日勤務で開始することなどを会社に要請することもあります。
?数カ月の間には軽い波があるのが普通です。途中で少し悪くなっても悲観しないことです。全体としてよい方向に向かっているのだから大丈夫だと考えましょう。
?命には別状はありません。後遺症もありません。遺伝もしません。ただ、自殺が心配です。自殺しないと約束しましょう。
?治療が終わるまで、仕事、学校、家庭での大きな決断はしないようにしましょう。退職、退学、離婚などの必要はありません。休職や休学でよいのです。体調が万全になってから、その先のことを考えましょう。いまは悲観的な考えしかわいてきません。
?ご家族の方にも病気の説明をします。休養中に気分よく過ごせるように、ご家族に協力していただきましょう。
?治療が終わるまで、アルコールはがまんしましょう。
?休養中に居場所がないのが悩みとなります。自宅、図書館、喫茶店、公園などで時間を過ごすことになりますが、デイケアの利用が有効です。病気について理解を深めながら、この機会に人生を深めましょう。