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デザインに大切なこと
1982年7月、初代ミニ四駆は発売されました。
爆発的に売れることはないでしょうが、地道に浸透してくれればいいなと思いました。
しかし結果的にはまったく振るわず、営業的には評価の対象にもなりませんでした。
(とにかく、どこか改良しないといけないな……)
私はアニメ作家の大塚康生さんに相談してみました。子ども向けの模型を四駆にしようと思ったのには、じつは大塚さんの影響もあったのです。世間で四駆の人気が高まるずっと前から、「田宮さん、これからは四駆だよ」といってました。四駆が流行るというのではなく、単にジープが好きで、なにかにつけ「四駆だ、四駆だ」といっていただけなのですが。
すでに発売されている5種類のミニ四駆を、大塚さんに見てもらいました。私は四駆という路線は決して悪くないと思っていました。
「価格も高くないし、組み立ても簡単です。車種も人気のあるタイプなんです」
と、あれこれ説明しました。
大塚さんはミニ四駆を手にとり、上から下から、いろんな角度からながめ、
「ほお、この部分のディテールも再現してるのか。よくできてるねえ」
と、うなずいてくれました。
「ただね、田宮さん」
「はい」
「これは真面目すぎるよ。小学校2、3年の子にシボレーだなんだって言っても、チンプンカンプンでしょ。実車を忠実に再現していることに反応してくれるのは、車好きの大人だけですよ。子どもが対象なら、見た目のおもしろさが必要だと思うけどねぇ」
大塚さんの言葉に、私も同行していた長倉企画部長もハッとしました。
ミニ四駆はいままでのようなスケールモデルではありません。子どもに遊んでもらうためのキットなのです。そのことを、わかっているつもりでいました。ですが、わかっていなかったのです。無意識のうちに、スケールモデルにたいする“プライド”が出てしまっていたのです。こだわりというのは、えてして悪いかたちで出てしまうものだなと、反省しました。
「長倉さん、こういうのは思いきったデフォルメが必要です。私がラフスケッチを描きますから、それを参考にしてください」
長倉君も私も大塚さんの言葉にうなずき、監修をお願いすることにしました。
しばらくして、大塚さんのラフデザインができあがりました。最初のものよりタイヤを倍近く大きくし、グッと車輪がはみ出たものでした。四駆らしさが強調されて、なるほど見るからにパワーがありそうでした。
名前もコミカルミニ四駆と改名しました。子どもたちの反応も出てきて、コミカルミニ四駆は初代ミニ四駆のころより売れるようになりました。この件で、つくづくデザインの大切さ、難しさを感じました。
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田宮俊作『田宮模型の仕事』文春文庫