こころの辞典2301-2400

2301
互いに愛し合いなさいとの言葉は、互いに大切にし合いなさいという積極的な要請である。
それができないなら、せめて赦し合いなさいというのは消極的な要請である。赦すことならば、積極的に行動しなくてもよい。ただ消極的に、自分の怨みの気持ちを抑えればよいことだ。

2302
DSMについて
番号と名称があるが、名称を省いて考えれば、もっとみんなが納得できるのではないか。
これは何病だろうかと考えるからややこしい。そうではなくて、この状態はコード番号×××であるとすればすっきりしている。
そしてさらには、コンピューターでフローチャートをたどっていくと、自動的に番号が出てくる、そんなものになっていればもっとよい。重複診断についても間違いなく出てくる。
そのようなものを目指しているのだから、そのようなものにしてしまえばよい。
そして一方では、クリエイティブな診断カテゴリーを提案したり議論したりすればよい。

2303
(笠原)「新・精神科医のノート」
対人恐怖症に対して薬物療法を行ったあと、仕上げとして集団精神療法が望ましい。
また、外来分裂病と彼が名付ける軽症型分裂病の場合に、こうした若年者を対象としたデイケアがあるのが望ましい。
●どちらもわたしがデイナイトケアで意図したものである。しかし困難であった。困難のひとつは、重症・長期の患者が混入し、その場の主役となったしまう傾向にあった。診療所では、重い病気の人がどうしても主役になり、その場の雰囲気を決めてしまうところがある。病気の軽い人は、重い人に気を使い気兼ねしてクリニックにいるから、結局はリラックスできない。結果的には「はやくアルバイトを始めよう」などと考えるようになる。そのように背中をプッシュするという点で機能していた。しかしそれは本来の意図ではなかった。
●また同業者の理解も不足していた。主治医が別にいる場合、その医師がそうした「軽症者対象のデイナイトケア」についてどう理解しているかが大切である。患者に操作されてしまう医師がいた。また、「軽症者対象」ということは患者の選別ではないかとの批判を招く。それは背景に悪意をもっての批判もあっただろうし、純真な無理解によって発生した批判でもあっただろう。いずれにしても、同業者によく理解されないのでは仕事としてうまくいかない。

2304
患者の属する社会階層も考慮する必要があるだろう。どんな常識をもっているのかも考慮する必要がある。人はさまざまである。
もっとも、考慮するとはいっても、どうしようもないことも多いけれど。

2305
認知療法で、外傷体験の有無ではなく、外傷体験についての本人の認知の仕方が問題であるというとき、それはフロイトの「心的現実」と似ているだろうか?

2306
境界型人格障害や自己愛型人格障害
現代型未熟性格という。どのように未熟なのか。ひとつには衝動コントロールの点で未熟である。また、苦悩に対して内省ではなく、行動化を用いている。また、現実把握の点で歪みがある。
人格の成熟度をグラフにするとして、ヒステリー者は全般的な未熟である。境界型は部分的に成熟を示し、部分的に未熟を示す。そのような差異が認められるのではないか?
WISC-Rにおいて学習障害児は折れ線型であり、MRは全般的に発達障害を呈するのと似ている。

2307
(笠原)
スチューデント・アパシーという概念に不快感を示す人もあった。神経症として見るのは病理中心主義であるとして反発を隠さない精神科医もいた。過度の医学化(メディカリザシオン)に警戒的な動きもあった。
●病気であるとレッテルを貼って安心するという精神科医のとりそうな戦略であるというわけだ。悪質な場合が確かにある。
●しかしながら、病気の人の批判がじつは当たっていたという場合もある。病気だという診断は正しい。だからといって病気のせいで批判が正しくないとはいえない。批判は正しい場合がある。

2308
(笠原)サラリーマン・アパシーの復職について。
復職の時点で、彼らは完全に心理的問題を解決できたわけではない。「いかに生きるか」という難問への解答をひとまず先送りできるようになっただけである。「一応、会社をやめたいという、あの差し迫った気持ちからは距離ができた。会社員をつづけながら自分の本当にしたいことをもう一度ゆっくりさぐってみる」という。未解決のままで生きることができる、というのはもちろん一つの進歩ではある。

2309
成田善弘の説、「強迫症の臨床研究」p.270)
強迫型パーソナリティでは、悪い自己をよい自己とするべく、強迫的努力が行われる。
自己愛型パーソナリティでは悪い自己がいとも簡単に否認される。
境界型パーソナリティではよい自己と悪い自己が人格解離し、容易に統合されない。

2310
タイトル「なぜあの子はいじめらるのか」で計画したらどうか?

2311
ポジティブ・メンタルヘルス
これは大切なことである。病気に対する防波堤。しかしこれを「より健康」な心と考えるには、難しい。何がより健康な心なのかと言われれば難しい。

学生に対して、どんなときに精神の変調を疑い、専門家に相談すべきか、どのような治療ができるのか、そうした知識を学校教育の中で浸透させれば有意義であろう。

2312
心の豊かさ
豊かであるとは、自分のことを後回しにできることである。物質もたくさんあれば自分のことは後回しにして他人を先にできる。心も同じ。

2313
神谷美恵子の伝記をテレビで見る。
自分を押しつけない
愛される優しさ
受容
安らぎ
自然な態度で人に愛される

「自分が病んでみてはじめて、病んでいる人の仲間になれたような気がする」と記す。
●要は、どんな経験でも、それをどのように主体的に自分の成長に用いるかということである。

2314
市橋の「エッセンス」の新版をつくる。→これを「こころの辞典」新聞の目的とする。

2315
地域精神医療と職場精神医療はセットにして考えるべきだ。

2316
演繹(理性主義、先験主義)と帰納(経験主義)
系統発生的に蓄えられた脳構造と個体発生的に蓄えられた脳構造
長時間の環境適応と短時間の環境適応

2317
脳梁
女性で太い。そのことを左右脳が未分化だと言うべきか。左右脳の連絡がよいと言うべきか。

2318
無限背進?
自分の意識状態を観察する自分の意識がある……この全体の状況をさらに意識して観察することができて、このことは無限背進を構成する。
他人の意識状態を推定する自分の意識がある……これでおしまい。しかしまた、「他人の意識を推定している自分の意識がある」という状態を意識して観察することができるのだから、やはり無限背進が可能である。

実際の話、「意識している自分を意識する」というからくりを「いれこ」のように無限になどと考えるのは無理がある。鏡を鏡に映したときの様子に似ている。そこに奇跡が映っているわけではない。

2319
適応低下 → うつ状態 → 血液精巣関門の開放 → 適応遺伝子の組み込み → 進化の促進

2320
(笠原)「リスト・カット」
離人には、ヨーロッパ式の本来の離人と、米国式の人格の解離の場合とがある。米国式の解離型離人症は、縦割れのスプリッティング。昔でいえばヒステリー。
●なるほど。こういう点を考慮する必要があるかもしれない。
○ヨーロッパ式離人……知性では存在を承知しているが、実感が希薄である状態。違和感が持続し主観的につらい。長く続く。
○米国式離人……主観的な苦しみに乏しい。尋ねられてはじめてこの症状の存在を口にする。長く続かない。人間はある心理的困難に出会ったとき、そしてそれに耐えがたくなったとき、一個の自分としてのまとまりを犠牲にして、二つの、ときには複数の自分に分割するという心理的戦略を用いる。パーソナリティの解離である。垂直型スプリット(コフート)といってよい。
○解離型の離人症と古典的離人症の違いに言及したのはDeutsch H.(1942)。アズ・イフ・パーソナリティの人たちは、離人症とよく似ているが違う。自分では外界への情緒的な結びつきのみならず、自身についてのそれさえ薄くなっていることに気づかず、周囲の人ないし精神療法家に指摘されてはじめて、そういえばそうだと気づく。生活全体への彼らの関係の仕方をみていると、そこに真実性というものが欠けている、という印象を免れない、したがってアズ・イフと呼ぶ。
●はたしてヨーロッパ式と米国式の離人を区別できるのだろうか?米国人は区別していないから、離人の語をあてているはずだ。
●知覚と実感が分離するのが古典的離人。知覚と実感がセットになって、解離が生じるのが米国式離人。……なるほど違う。
●「こころの辞典」で、DSM4では離人解離性障害としていると紹介している。

2321
(笠原)
クローニンガーの性格研究。
好奇心に基づく探索行動……行動の開始を可能にする……ドーパミン
危機の回避……行動の抑制……セロトニン
報酬への依存……行動の維持を可能にする……ノルエピネフリン
●その後クローニンガーは七因子モデル(2205:大野論文)。
新奇性追求、損害回避、報酬依存、固執、自己志向、協調性、自己超越性。

その後、心理学者たちの同意。五つのスーパー要素。
外向性、神経質性、几帳面性、同調性、解放性。

2322
先験的理性は人類が種として長い時間をかけて変異と選択を繰り返してきた結果である。
産まれてきた子供の脳には世界の物理法則があらかじめ書き込まれている。しかし一部の脳には別の法則が書き込まれている。どの脳も、大幅に異なったものではないが、微妙に異なっているのである。

脳の各部分
?先験的法則プール
?経験を学習し蓄積することを指令する部分 →ここが壊れていると、経験が有用な情報として蓄積されない
?経験の蓄積プール → これは一生に一度限りの学習から、何度でも学習し直せるものまで、いろいろである。

以前から考えているモデュール
?空想産生
?照合
?現実法則プール

上の「脳の各部分」と関連付けると、
現実法則プールには先験的なものと個体経験によるものとの二種がある。
照合とはつまり、上の?である。

2323
東京で風俗産業などに従事した女性たちのその後。その人たちはどんな人生を歩むか?普通の人生もあるだろうが、創価学会などで活動する人たちも大勢いそうである。性格障害因子は年齢とともにどのような変化をするか。年代によってどのような発現の仕方をするか?

2324
刑事取り調べと精神科医療の類似。

2325
認知療法の基礎理論と他分野との関連

刺激→処理→反応
受診→処理→発信
認知療法では処理の部分が認知である。これはSSTの話につながる。
状況→認知→感情

認知療法的に診断して、SST的に治療することもできる?
SSTはもともと認知行動療法を基礎としているのだから、ことさらにいうほどのことでもない?

ジェームズ・ランゲの説
悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだとする説。しかしこれは原因Xに対して悲しい(主観的感情)と泣く(自律神経反応または行動)の二つの結果が生じていると考えた方がいいと「こころの辞典」に書いた。
これを認知でいえば、
刺激→認知→二つの反応(悲しいと泣く)
という図式になる。

原因帰属療法も「こころの辞典」にある。これはもっと詳しく内容を書けるはず。→要改訂。

2326
自己主張訓練からSSTは始まった。
たしかにリバーマンの方法はそのようである。
しかしそれはSST全体からいえば部分である。こだわらない方がいい。
発信機能の不全を訓練して補うときに自己主張訓練が有効であると見きわめることである。診断作業が大事。
処理機能不全や受信機能不全の場合には対処が異なる。

2327
認知療法ハンドブックより)
不安障害形成について(今による修正後のもの)
・ストレスから自律神経失調症状(脳の疲労
・自律神経失調を破局ととらえる認知の歪み→不安反応の条件付け →発作自体が強化刺激となり悪循環を形成する
・症状に対する対処行動(これが不適切で悪循環を形成することが多い)
・不安発生刺激は般化し、一方、回避行動により生活が制限される。
(般化するとは、全般性不安障害の色彩を帯びること)
(回避行動は、アゴラフォビアのこと)

症状に対する認知はどうか、対処行動はどうかを調べる。

発作→とらわれ・予期不安→発作を感知しやすくなる・発作が起こりやすくなる→発作 の悪循環
不安障害はこの悪循環が本質的である。

不安発作は台風または夕立である。かならず過ぎ去る。

あわてて対処行動に走ると、「発作はじっとしていれば自然に通り過ぎるものだ」ということが分からなくなる。
そして「対処行動をとらないとどんどんひどくなってしまうのではないか」と考える。また、ひどくなってはいけないからと、事前に対処するようにもなる。絶対に発作が起きないように対処したいと思うようになる。そしてどんどん自分を縛ってゆく。(→過剰な事前対処。過剰な予防措置。)

対処行動の例:薬、注射、家族にいてもらう、トイレに行く。

電車に乗るとトイレに行けないから、電車に乗れないという人がいた。この場合は、不安に対する対処行動としてトイレに行くということがあり、この対処行動を確保しておくために電車に乗れなくなっている。そして最終的には「電車に乗れない」と悩む。「トイレに行けない」も「電車に乗れない」も対処行動である。「対処行動を確保するために」次の対処行動が発生する。
医院があれば横断歩道を渡れるという人がいた。ここにも何重かの対処行動の重なりをみることができる。

発作→注射→医院→横断歩道(信号)

うつ状態でない場合には、休養はかえって回避を促進してしまう場合がある。

不安を鎮める行動をやめれば、症状はかえって早く治まる。

治療のキーワードは、休む、待つ、やめる、慣らす。
待つとは、時間がたてば発作は必ず終わるから、待つことを学ぶ。
やめるとは、不要の対処行動をやめる。
薬物も対処行動の一つである。

2328
うつ病者に多い認知の歪み(井上1992)
全か無か思考
過度の一般化
選択的抽出
独断的推論
自己関係付け
誇大視と微小視
破局
肯定的側面の否認
感情的論法
すべし表現
レッテル貼り

●「こころの辞典」では、うつの場合の「うつ場面選択想起」を指摘しておいた。記憶の障害または想起の障害といえばよいか。

2329
アイデンティティを同一性と翻訳するのはまったくよくない。同一であることが問題なのではなく、「同定すること」のほうで、「自分とは何か」ということだから。「自己定義」くらいでもよい。同一性と翻訳するから、同一性の拡散という言葉に引きずられて、いくつもの自分という話に横滑りするのではないか?

2330
認知療法ハンドブックより)
●中核スキーマという言葉で、中心葛藤テーマ(?)CCRT : Core Conflict Relational Thema (?)を思い出す。似たようなものだろう。

2331
認知療法ハンドブックより)
患者が怒りを激しく表現する場合、その場での直面化が必要になる。背後に中核スキーマが活性化されている場合が多い。
●社会性の「蓋」を破って突出する感情である。ホットなスキーマである。

2332
認知療法に関しては、「そういう言い方をすれば分かりやすいだろう。しかし昔からあったような気もする」ことも多い。しかし患者にすれば、具体的にあれこれしてもらえるのでうれしいだろうと思う。つまり、昔からあった名人の技を技法として紹介している面がある。そしてその背景には米国の医療経済事情がある。医療保険に対して「この治療法の有用性」を客観的に証明する必要がある。金の問題から派生した状況といえるが、悪いことではない。
よいことであるから証明は要らないというのは甘えている。

2333
心的外傷に際して、その後の人生に影響を与えるのはその心的外傷をどのように受け取ったかである。これは大切な指摘である。人生は運命にも他人にも翻弄されるものではないと言える根拠になる。
主体性。心的外傷に対して自分は主体的にかかわることができる。どう解釈するかは、自分の側に責任もあるし、自由もある。それが主体的であるということだ。
しかしそうだろうか?
そのように主体的に人生にかかわるか、非主体的に翻弄されてしまうか、そうした基礎を人は選びとることができないのではないか?
確かにそうかもしれない。しかしたとえばぼくは文章でその人に伝えることができる。主体的な人生にかかわる態度を伝えることができる。そのことはその人の人生を変えるだろう。
環境が貧しくてその人は今日まで苦労したかもしれない。その結果として人生に対して負け犬のように振る舞っていたかもしれない。しかしそうではない人生が可能であると伝えることができる。これはすばらしい仕事ではないか。
その人の認知を変えることはその人の人生を変えることだ。そのようにして人が人とかかわることができる。
環境や心的外傷に対する自由を伝えることができる。自由を知れば自由になれるのだ。これを伝えることはよい仕事である。わたしが為すに値する仕事である。

2334
精神病と神経症、金持ちと貧乏人、医者の好悪の情
一般に医者として相手を尊重したい場合には神経症と診断して、原因は心因性、しかも外部の事情に求める。(相手を尊重するつもりのない場合には、心因性といってもその原因を内部に求めて性格障害とする場合もある。)
相手を尊重するつもりのない場合には精神病と診断して、原因を脳に求める。
つまり原因を外部に求めるか、内部に求めるかは、医者の患者に対する好悪の感情を反映していると言えるかもしれない。
現在も、境界例または性格障害という診断はしばしば人格に対する非難であり、社会的断罪を含んでいると感じられる。つまり、「嫌いだ」「排除しろ」という積極的な意志表示と見える。
1997年9月29日(月)

2335
一部の人にとっては、病気の成り立ちや理論の進展などどうでもよいことのようである。ただ自分が優しかったか、それに対して患者が感謝したか、それだけが大切な人がいる。ある種の視野狭窄であるが、どうしようもない。
また、その他にも、自分の抱える心の問題を臨床の場で患者を相手に展開してしまう人がいる。

2336
言葉がなければ自意識は成立しないだろうか?

2337
ハンフリーが自意識は社会生活上で有利であるとした。つまり、自分の意識について参照すれば、他人の意識状態を推定できる。それは社会生活を送る上で有利であろう。「だから」自意識を有する個体が選択された?
しかし自意識とは、突然発生するのだろうか。それとも次第に発生するのだろうか?あまり正確でない自意識でも生存を有利にするのだろうか?
こうした有利さは、最終産物ではなくて、そのプロセスにおいて有利かどうかが実は大切ではないだろうか?

2338
感情は脳の自動判断装置である。
小脳が運動の自動化、感情は判断の自動化である。
脳は状況をシミュレーションして予測し、自分の行動を選択する。つまり行動選択マシンである。
感情はこのシミュレーションを省略していきなり結論を提示する。経験に感情を付与して貯蔵してある。似た体験が起こったときに、感情がついているので素早く判断できる。近づくべきか遠ざかるべきかが明確になる。悩まなくていいので被害が少ない。つまりどちらかといえば近づいてはいけないもののしるしとして有効である。
直感といってもいい。

長期記憶と感情が脳の近い場所に保存されていることには上のような理由がある。(辺縁系だっけ?→分析セミナーできいた。)

2339
面白く書く技術。今欲しいものはそれだ。書くことは自分の思考を鍛える。また、書くことは自分を耕す。土地を豊かにする。思いがけない土器のかけらが見つかる。ときに宝石が混じっている。
宝石を見逃さないようにすることだ。

2340
動機付けの大切さ
動機のないところにはなんらの達成もない。達成がなければ喜びもない。
高校時代に物理学の実験があった。徹底的にばかばかしいものであった。法則はすでに知られている。我々高校生が何か操作をして数字を得る。その数字が法則からずれていればへたくそだということを示している。ただそれだけのことだ。それだけのことのために実験をするのだった。
高校教師は動機付けに失敗していたのだ。
この実験は何のためにやるのか。わたしは何の動機も感じなかった。たぶんどんな風に説明されても動機は感じなかったと思う。無駄な苦労である。頭で理解していれば試験は済む。どうしても理解できない人の場合には実験は有効かもしれない。文字を読んでいても何のことか分からない人には実物を見せることが有効だろう。しかし分かってしまっている人にとっては、現実の実験は不純でばかばかしいものである。

2341
「心と脳は同一か」
心は機能で脳は形態である。形態を機能と関連付けながら研究するのが解剖学であると米国の解剖学の教科書の第一ページに書いてあった。分かっていることを書いてある教科書は特に面白味はない。先人がどのように愚かであったかにつきあうだけである。たとえば名前の付け方の変遷。
解剖学の一つの仕事は名前を決めることである。
形態と機能の関係を考えて、より形態に関心が強ければ解剖学であり、機能に関心が強ければ生理学である。その正常状態からの逸脱が病理学である。それを臨床的に正そうとする技術が医術である。病気や正常を理解しようとすれば結局は解剖学と生理学、そしてその変形である病理学に行き着く。

心と脳は同一ではないとするエックルズやペンフィールドは、結局、魂のことをいいたいのだ。脳が物質として消滅したあとにも残る魂がある。心という現象は脳だけでは成立せず、脳と魂が必要であるということをいいたいのだろう。そうでなければ一体何をいっているのか見当もつかない。霊魂がないならば、心は脳の産物であるとする現代科学の一般前提で充分である。
前提はそれでいいが、脳があることと心(特に自意識)が生じることとの間にはかなりの隔絶がある。現代科学の最高クラスの難問である。しかも現象としては宇宙の彼方で起こっていることではないのだ。人間の各人の内部で起こっていて、自意識がある人は全員その存在を確認することができる。そうしたあまりに日常的な事象を説明できそうな手がかりさえ見つかっていないのだから、これは巨大な謎である。そらにはこれは霊魂や神の問題とつながっている点でさらに重大な問題である。

脳は物で、心は機能または働きであるとする。
心のことはすべて脳の物質の言葉で記述できるはずである。機能性疾患や心因性疾患という場合も同様である。脳内の物質の変化を引き起こした原因が何であれ、記述としては物質で正確にできるはずである。
心因性障害は、視覚や聴覚からの情報が、脳の病的な状態を引き起こしたものだ。実験神経症が分かりやすい。
(未完)

2342
新しい芸術分析の原理
ジャクソニズムの高次機能と低次機能、陽性症状と陰性症状
芸術作品は、脳のどのあたりから生まれた作品であるかを考えると興味深い。その作品はどのような陽性症状と陰性症状の混合であるかを考えるのもよい。

酒に酔ってできた作品などはやや低次の部分からのメッセージである。低次の部分は誰でももっているから共感を呼びやすい。
最高次機能を働かせた作品は、そのような最高次機能を持っている人にしか分からないことがあるので、時代がたたないと受け入れられないかもしれない。時代がたっても受け入れられないかもしれない。一般大衆とは無縁のものとなる。
しかし昨今のように種々の薬物汚染や環境汚染が進行した状態では、脳の高次機能は失われていることも多いと考えられる。また、満員電車で通勤する人々のように身体的疲労の限界に近い毎日が続いている場合にも、高次機能はあまり活動しない。
世の中に受け入れられる芸術作品をつくろうと思ったら、脳の低次機能を活用することを考えれば近道であろう。高次機能を麻痺させた者同士で大いに評価されるだろう。

2343
解剖の養老先生が、脳は社会化をめざし、社会化は支配を目指すことであり、脳は支配とコントロールを好む、それは反自然である、などと書いている。予測と統御が可能なものとしての社会という。
学者先生にとって脳の特質は「強迫性の原理」であると映っているようである。学者の脳とはそうしたものだ。
彼は多くの脳を見たが、多くの心を見ていない。子細に観察したのはせいぜい自分の心だけである。彼の心に強迫性要素が色濃いことが分かる。

2344
芸術か否か
芸術だとか論文だとか称して、脳の低次機能の分泌物を吐き出している人がいる。それを「はなくそ」と呼ぶ。(きたないけれど)
そうした低次機能の分泌物は原則として芸術とか論文とか称するべきではない。評価する者にはそのあたりの眼力が必要である。

2345
幻覚の発生機構、分裂病性幻覚の特質
たとえば幻聴が、聴覚路の一部分で生じた自発性刺激であるとする考え。それは錯覚の原理(幻肢の原理)によって、外部に対応する実在を要請することになる。それを幻聴という。
または自発性刺激でなくてもよい、他の回路からの刺激でもよい。他の回路からの「混線」が起こり、聴覚回路に信号が入りこむかもしれない。そのような混入回路が慢性化すれば、慢性の幻聴になるかもしれない。
極端にいえば、一つのメカニズムとしてニューロ・バスキュラー・コンプレッション(神経血管圧迫)に類したことが起こっていると考えてもよい。痛みが起こるなら、聴覚も起こるだろう。
てんかんの一種、精神運動発作(側頭葉てんかん)ではこのタイプの幻聴が起こる。
アルコール症の場合の幻覚も、外部の原因を突き止めようと探し回ることがあるといわれる。

しかし分裂病性の幻聴はそうしたもので説明できそうにない、より人間的な事象であるとするのが伝統的な見解である。被害的であったり、普段から気にかけていることが言葉の内容であったりする。
一言でいえば、より妄想に近い。
ということは、より高次の段階で、こうした信号の混乱があるのだろうか?
(未完)

2346
情報の繰り返しと構造の繰り返し
現代もなお書かれているたくさんのこと。結局は既存の情報のまとめ直しの面が強いと思う。たくさんの素材の中からどれを選択するかに「現代」が表現されているとも言える。

また、内容としては新しいことを含んでいるともいえるが、構造としては新しくない、つまり構造は昔のままということも多い。たとえばロミオとジュリエットの話を現代風にアレンジするような類のことを何回も繰り返している。
それは人間の脳が、そのような構造をしていることの反映だろう。脳は、もちろん、自分の構造を超えることはできないのだ。

2347
直面化
現実を見ろと治療者は簡単に言う。しかしそれがつらいからこそ患者は別の道を選択しているのである。そこを分かってあげないといけないだろう。

2348
組織の変革
ガラスの一部分を急激に暖めると割れる。一部分だけが急激に膨張すると他の部分とずれが生じて割れる。だから全体を徐々に暖めていけば割らずに熱くすることができる。
組織も同じである。一部分だけが活発になり理解を深めてしまうと、他の部分との摩擦が大きくなり、組織としては「割れて」しまう。
このことを理解しないと組織の運営はできない。

2349
自信欠乏と完璧癖
自信がないから完璧主義になる。完璧主義だから100%達成できないと無力になる。こうした悪循環がある。

2350
「実践的認知療法(事例定式化アプローチ)(J.パーソンズ)」より
・基底にある心理メカニズムの層→顕在化した問題の層
基底にある心理メカニズム  →気分
行動
認知
・気分、行動、認知には同時性と相互依存性が見られる。
・基底にある心理メカニズムは「もし……れば」の形であらわされることが多い。さらにその奥にある確信的スキーマは「早期に形成された非適応的スキーマ」(EMS:early maladaptive schema)と呼ぶ。
・基底にある不合理な確信
・状況因や環境因が加わって顕在化する。
・行動、気分、認知の各領域でどのような顕在的問題があり、その背景にどのような基底心理メカニズムがあるかを考えるのが「診断」。つまり、問題リストを作り上げ、それらの基底にある心理メカニズムについての仮説を提示する。

○不合理な確信→行動、気分、認知の問題
●不合理な確信=認知→気分、行動 と考えられないか?
これは詳しく書けば、
基底にある不合理な確信(基底の、つまり深層の認知)→気分、行動、(表在の)認知
認知に深層と表層を区別してみる。

・治療者は「基底レベルに働きかけるよりも、顕在化した問題に働きかける方がよい」と信じている。
・行動と認知に対する介入が述べられている。気分に対する介入は方法がない。
2351
「実践的認知療法(事例定式化アプローチ)(J.パーソンズ)」より(p.31)
Youngの発達早期に形成された非適応的スキーマ(EMS)
○自律(自分でやる、自分のためにやる)
1 依存:いつも人に助けられていなければなにもできない
2 制圧、個体化欠如:他人の欲求を満たすために自分を犠牲にする
3 危害もしくは病気に対する脆弱性
4 自己のコントロールを失う恐怖:

○他人とのつながり
5 情緒剥奪:他人から充分に世話されたり、愛されたり、共感されたりすることは決してないだろうという確信
6 見捨てられること、喪失:
7 不信:
8 対人関係からの隔離、人との不和:

○自分の価値
9 欠陥がある、愛される要素がない:
10 社会的に望ましくない感じ:他人の目によくないと映る確信
11 能力がない、失敗者:
12 罪悪感、罰:罰せられて当然だとの確信
13 恥、困惑:

○自分がしていいことの限界と自分を判断する基準
14 非常に厳しい基準:
15 特権意識、不充分な限界:自分に厳しくできない

●翻訳が悪いので補った
2352
「実践的認知療法(事例定式化アプローチ)(J.パーソンズ)」より
○問題リストの作成
・まず患者の語るあいまいで抽象的な言葉を、気分、行動、認知の各側面から明細化し、認知行動療法で扱える形式に変える。
・患者から報告されることのない問題についても、情報を収集し推定する。
・問題を量的に測定することは有意義である。ベックのうつ評価尺度。活動記録。自殺の危険性。バーンズの不安評価表(感情、思考、身体症状にわけて評価したもの)、恐怖調査スケジュール、恐怖階層、回避行動テスト(BAT)。
・これまで経験した最高の不安を100として、その不安はどの程度かなどと数量化する。
●ひょっとしたら、分裂病者の妄想についても、その主観的な確信の度合いを数量化してみたらいいのかもしれない。

2353
「実践的認知療法(事例定式化アプローチ)(J.パーソンズ)」より
○問題リストに基づいて、基底心理スキーマについての仮説を考える。
1 問題相互の関係を理解する
2 治療形態を選択する:たとえば不安症状が前景にある場合、筋弛緩法が役立つ。しかしそれでは根本の問題は解決されないままである。不安が起きた状況やその時の思考を記録することが根本的解決に役立つ。

●こうしたことは通常の診察の中で考えていることだ。「あなたの考え方のここに問題がある」という指摘は通常しない。症状に焦点を当て、それ以外のところはなるべく隠蔽することが多いように思う。患者の意向に添っているわけだ。患者が困っていることが症状であり、言わないでいることは治療者も触れない。
不安階層表ならば、患者が申告した階層だから、問題ない。患者の深層について治療者が「決定」してしまうことは大いに問題があるだろう。

○事例定式化のシート
・患者
・主訴
・問題リスト
・仮定されたメカニズム
・メカニズムと問題の関係
・現在の問題の結実因子(状況因、環境因)
・中心的な問題の起源(生育史、特に親との関係)
・予想される治療への障害(完全癖や回避癖は治療の障害にもなるだろう。その点についての予測)
・「こんな行動をする人はどんな信念を持っているのだろう」と考えながら観察する。「橋を避ける人は、わたしは傷つきやすくてもろい人間だ、不安やストレスに立ち向かえないと考えている人」などと推定する。
うつで自己批判、敗北感、自己憎悪、罪悪感を訴える人は、「わたしは完全でなければならない、そうでなければ価値がないと考えていると推定できる。
「年老いて魅力がなくなることを気にかけている人は、依存的で人から拒絶されるのを恐れている」と推定できる。

2354
「実践的認知療法(事例定式化アプローチ)(J.パーソンズ)」より
行動に対する介入
・基底にある問題の指摘
・古い計画と新しい計画……スキーマの転換と同じ
・スケジュールの活用
モデリングとロールプレイ
・リラクゼーション
・賞と罰
・課題の細分化
・曝露
・刺激コントロール
・運動

2355
形態と機能
形態と機能について養老さんが書いている。機能には時間成分が入っているというのだが、そんなことですむ話ではない。
瞬間は形態であり、それを時間軸に沿って動かせば機能が見えるなどというものではないだろう。

機能性精神病という言い方が英米語にあり、これも大変問題である。
まず説明のレベルを設定すべきである。
・低レベル……つまり顕微鏡などを使って原因を探しても異常がない、それを機能性精神病と呼ぶというわけだ。それは言葉の厳密な論議ではなく習慣であるから、これ以上何を言っても始まらない。
・高レベル……機能に変調があれば、それを可能にしている構造が必ずあるはずである。したがって、厳密な意味での機能性疾患はない。
ただ、こういう場合がある。構造に問題がなく、したがって機能に問題がない。しかしながら環境との適合の点で問題がある。この場合はどうか。適応障害と言えばいいのだが、はたして、変な環境に適応できないものが機能的に病気だといえるのだろうかなどの問題はある。これは神経症と言うべきものだろう。それを機能性疾患と言ってもいいのかもしれない。
それ自体に異常はないが、環境の異常な変化に適応できない点で異常であるというわけだ。
しかしながら、それは環境の側の異常ではないかと素直に考えて思う。

機能のない形態はある。形態のない機能はない。
形態の中で特殊なものが機能を持つ。「機能しないという機能」も機能に含めればどんな形態でも機能を持つ。
しかしながら、存在である限りは形態を持つ。

脳と意識の関係は、形態(物質)と機能の関係と同じだろうか?
たぶん、同じでいい。
意識のない脳はある。脳のない意識はない。
では心とは何か?意識を含めた、脳の働き全体、さらには脳と神経系だけではなく人間の体全体でつくり出す何か。

2356
「実践的認知療法(事例定式化アプローチ)(J.パーソンズ)」より
非機能的思考を変える方法
・質問をする。ソクラテスの方法。
・特定の状況を取り上げ、感情を伴った場面設定で話をする。抽象的な話は効果が薄い。
・ベックの非機能的思考の日常記録(日付、状況、情緒、行動、思考、反応)

2357
「実践的認知療法(事例定式化アプローチ)(J.パーソンズ)」
ぎっしり書いてある割には内容はまとまりがない。推敲が必要。理論をもっと練る必要がある。思いつきを並べたお喋りに近いのではないか。実際の診療はこの程度の幅を持って臨機応変に対策がとられるのだろうが、本としてまとめるにはもっと凝縮する必要があるだろう。

2358
認知療法ハンドブック(下巻)」
こちらは有意義な本。賛成するにしても反対するにしても。どういう意図で何を書いたかが明瞭に分かる。
1997年10月6日(月)

2359
人間が都市に密集して住むようになったことと分裂病の発生は関連しているとする説。また、文化の流動性分裂病の発生に関連しているとする説(たとえば荻野、トランスカルチャー、能登半島の研究)。
これらは2×8レセプター説に都合のよい知見である。
母の胎内でセットされたレセプターレベルが、出生後の生活でちょうどよいものでなかったら、大変困る。
レセプター量がセットされるのは出生前のことなのか、幼児期なのか、いつなのか。クリティカルな時期(臨界期)があるのか。徐々に変化しつつあるものなのか。
子供の頃にいったんセットされて、思春期に再度セットされるというのは言えることのように思うがどうか?

2360
宮大工の棟梁の話から人間の心理につなぐ話。
環境の中で、地面に対して曲がっていることと、木として、材木として曲がっていることとの違い。これをはっきり言いたい。
地面に対して曲がっていても、材質としてはまっすぐだという場合。ぐれてはいても、環境に即して曲がっただけの人。
地面に対してはまっすぐ立っているが、材質としてはねじれている木。世間では人並みかそれ以上にきちんとやっている。しかしその人自身はねじれに悩んでいる。
そのあたりを見分ける目が専門家である。

2361
老化と多様性の喪失
年老いてゆくということを肯定的に考えることも当然できるのだろうが、この病院で目にすることから言うとすれば、年老いることは悲しいことである。どうしようもない喪失である。否応なしに、じわじわと、しかし確実に、すべてを奪い去る力が、老化である。

老化は、人生の可能性をひとつひとつ、カードのようにめくり、結局、他の可能性がほとんどなくなってゆく、そのような可能性の喪失のプロセスである。
現在の状態から推定される将来について考えれば、若いうちはたくさんの可能性があり選択肢がある。年老いるということは、そのような多様性が失われるということだろう。
「多様性」の喪失というキーワードで考えることができるかも知れない。
ということは、多様な可能性を失った時点ですでに、老化といえるだろう。

人生の豊かさとは、時間でもない、金でも物でもない、可能性と将来についての多様性だとの論がある。
その人なりの「豊かさ」がある。

2362
拳銃の絵を見せて、何ですかと聞く。拳銃と答える。このとき脳の感覚野が興奮している。拳銃の絵を見せて、何をするものですかと聞く。「うつもの、うつ」と答える。英語ならshoot。このとき脳の運動野が興奮している。
つまり、脳は名詞を感覚野で処理し、動詞を運動野で処理しているという。最近の研究結果だと種田先生がいっていた。そんなものだろうか。

2363
サラリーマン業は慢性の逃れられないストレスにさらされて、体に悪いと書いた。
しかし一方で、そのような状況にいると、今度は他人に対してストレスの原因として振る舞うようになってしまう。そうすることでなおさらよくない人生になってしまうことがある。
被害者として苦しんでいる間に、加害者になることによってストレスを解消しようとするのだ。あるいはストレス解消と意識してはいないままで、他人に対して加害するのだ。

2364
わたしは自己主張訓練法に一貫して否定的な態度をとっている。
わたし自身は「他人が自己主張することに嫌悪を感じ」、「自分が自己主張することについては当然だと思っている」面があるのだろうか?
他人は自己主張などしなくてもいいと考えている面があるのではないかと疑う。

2365
アゴラフォビアを広場恐怖と翻訳するのは、ソファを座布団と翻訳するくらいに無理がある。

2366
摂食障害の治療
・食事や体重よりも、症状の背後にある悩みや苦しみを理解する。
・治療関係を作る。
・患者が自ら受診することは少ない。
・症状は自我親和的である。
・飢餓状態では心身に影響が生じる。飢餓状態では学習能力に障害が生じる。
・飢え(低体重)の影響
○食物に対する態度と行動
食物のことで頭が一杯になる
レシピー、料理本、メニューなどを集める
普通ではない食習慣
気晴らし食い
○情緒的および社会的な変化
うつ状態
不安
イライラ、怒り
情緒不安定
社会からの引きこもり
○認知的変化
集中力低下
判断力低下
無気力
○身体的変化
不眠
脱力
消化管障害
音や光に対する過敏性
浮腫
低体温
無月経
・自分の感情や身体感覚を把握することができなくなっている。
・自己評価が低く、他者に評価をゆだねる傾向がある。
・二段階の治療
?食行動と身体状態‥‥行動的技法
?認知の障害‥‥認知療法
・暖かさ、共感、誠実さ、患者中心、治療契約の重視
・行動分析‥‥先行刺激、問題行動、周囲の反応、を分析。仮説を立て、行動変容のための治療法の選択。
・治療としては、セルフモニタリング、オペラント技法、認知再構成法、問題解決技法、自己主張訓練法、リラクゼーション、家族への介入、など。
・問題の同定と、問題を持続させている先行条件や結末(疾病利得のようなもの)の同定、動機付けの分析
・心理教育的アプローチ‥‥動機を高める
・問題を要約すると、「心身が不安定で、したいことやしなければならないことができない」とまとめられる。
・したいことをするためには、健康な体重、自然な食生活。
・身体面では、飢えの影響の他に、動悸・胸痛の胸部症状、齲歯や歯肉障害、髪が抜けやすい、産毛が増えるなど。
・オペラント技法‥‥入院が主。体重増加ごとに、報酬として行動制限を緩和する。
・セルフモニタリング‥‥自分の行動、感情、思考を観察と記録する。具体的で客観的な気づき。‥‥三つのコラムを使用(状況、感情、思考)
・認知再構成法‥‥非機能的な自動思考に取り組む。多様な視点に気付くことが大切である。‥‥「三つの質問」技法。自分に問いかける。「証拠は?」「別の視点は?」「仮にその考えが正しいとしたらどうなるだろうか(帰結を考える)」
・問題解決技法‥‥?問題を具体的に詳しく同定?代わりの対処法?それぞれの解決法の長所と短所?比較的よい解決を選択する?実行のための具体的な手順?行動?結果を評価してフィードバック
・治療の手順は、まず行動、つぎに認知。

○過食
・心理教育的アプローチに本や文献が役立つ。
・気晴らし食い日記。→時間、食べたもの、食べる前の思考と感情、代わりの対処手段
・食行動は、ストレスに対する対処行動のひとつである。日記により、どのような感情・思考の時に自分がストレス状況にあるのかが分かる。つぎに具体的な対処手段を発達させる。例えば、氷を口に含む、風呂にはいる、友達に電話する、など。
過食症に特徴的な非論理的思考とそれに代わる考え方→リストアップして手渡す。
・うつ、不安があるときには「思考停止法」や「三つのコラム」
・時間の構造化……活動スケジュール。背景に強迫性が存在することがある。その場合はなるべく大まかに計画を立てるように伝えておく。
・自己主張ができなくて不安が高まり過食につながっている場合、主張訓練が有効である。ロールプレイもできる。一人でやるならミラー・テクニック。
・問題解決技法。
・実際の治療はまず?混沌とした食生活、感情、思考に秩序をもたらすこと、つぎに?症状の背後にある人格、行動の未発達や障害を是正すること、といった手順になる。詳しくいえば、
・まず心理教育的アプローチ……過食症は誤った習慣(悪い癖)と定義づける……回復への希望を与える。
・治療の青写真を与える。そのことが秩序形成につながる。
・活動スケジュール、気晴らし食い日記のセルフモニタリング法。……まず活動スケジュール法で大まかな毎日の生活の様子をつかむ。課題を与えて生活の枠付けをして、達成をほめて強化することが目標。つぎに気晴らし食い日記。これは食行動自体ではなく、そのときの感情や思考を問題にする。代わりの手段を発達させることを強調する。この段階でうつや不安が強ければ、思考停止法、三つのコラム法を用いる。
・次に?で、主張訓練、ミラーテクニック、問題解決技法。価値観やスキーマの検討。

2367
痴呆病棟では最初の何日かが大切
・何かあったら家族は不信感を深める
・環境が変わり不安である
・入院に納得している人は少ない、帰宅要求が強い、何も説明されていないと被害的になる
・薬を使うにしても、はじめての患者であるから慎重にならざるを得ない
対策としては、
・最初の二日くらいは家族に付き添ってもらう
・事前に在宅のうちから投薬を開始する(最適量が把握できる、入院初期の不安を低下させられる)

2368
遠くから見て富士山はどれか、明瞭である。しかし次第に富士山に近づいて、どこからが富士山か、決められるものではない。平地から次第に盛り上がって、富士山になっているのだ。
分裂病の診断について、このような連続体を考えるのか、あるいは不連続な事態を考えるのか。

2369
殺人幇助の疑い
腎不全があり、人工透析が必要な状態の痴呆老人を依頼されて、いったんは断ったものの、引き受けた。当病院では透析はできないと説明したものの家族が積極的な治療はしなくていいと希望して入院になった。
医療機関として正しいことか気になる。
この場合、人工呼吸器をつける必要があると知りながら、家族の要請によりつけなかった場合に近い。
家族の背景にたとえば「エホバの証人」などの特殊な信念の体系があるのならこれは分かりやすいだろう。しかし一般人の場合、最終的にインフォームド・コンセントが不充分であったと認定される危険はないだろうか?
人工呼吸器が必要で、それがなければ一日で死んでしまう人を、設備がないにもかかわらず家族の希望だからと引き受けた場合には、それは殺人の手助けに近い。「殺してくれ」という家族の要請に応えたと考えられる。
腎不全で、積極的な治療をしなければ死んでゆくのが必然と思われるが、その時期については、数カ月から数年と漠然としている。この場合には殺人幇助とまでは言い切れないのではないか。安楽死の手助けとも言い切れないだろう。
また、すべての人は次第に死に近づいているわけだから、腎不全の場合にも要するに程度の差、死に接近する速度の差ということもできるかもしれない。
といったことを考慮するとしても、なお疑問は残る。たとえば職員のモラルの問題。私たちは何をしているのかと反省したときに、つらい思いをする。

2370
神経症が反応性であるという意味
たとえば、重すぎる荷物を運んだあとで、腰や膝に障害が出る。これは反応性の障害である。脳に過重な負担がかかったときに、脳に障害が出る。これを反応性の脳障害としての神経症といいたい。

2371
ジョン・レノンハワード・ヒューズ(ハリウッドと飛行機会社を支配した男)、泉鏡花。みんな強迫性障害。躁うつの波があった。dysphory。
ジョン・レノンはガラスの無菌室に裸で寝ていた不潔恐怖の時期があった。
泉鏡花は部屋の隅々を目張りしてその中で暮らしていた。

強迫性障害と、短気・瞬間湯沸かし器、怒りっぽい、などの特質は無関係ではない。
「きちんとすること」を他人にも要求するのである。適当に遊ぶことが苦手。奥さんをこっぴどくしかる。お金にうるさい。ケチである。
こうしたことのやや延長上に、嫉妬妄想がある。怒りっぽい旦那の精神の背景に嫉妬の感情がないか、探る必要がある。

2372
痴呆病棟入院第一日目の大切さ。
・まず患者は当然心細くて神経質になる、あるいは不穏になり、あるいはうつ状態になる。
・入院第一日目は看護も患者も、第一印象を抱く日である。お互いにいい印象を抱きたいものだ。それなのに、いきなりおたがいが暴力を見せあうようなことはよくない。治療関係が形成できない。
・「見捨てられた」という気分をどのように和らげられるか。
・入院初日では薬の調整についても情報が足りない。そこで少しずつ使うことになる。
・薬をどの程度使うか、抑制はどうするか、保護室または安静室を使うのか、看護力でどこまで対応するのか、他患との兼ね合いはどうするか、それらについて看護と充分に合意を形成する必要がある。どの方針にも理由はあるのだから、合意が大切である。
・その患者の「急所」を抑えるような看護は、すぐにはできない。しばらくつきあって情報をためる必要がある。第一日目が難しい理由である。
・第一日目は手術日のようなものである。オペに向けて予備投薬をしたりする。第一日目の困難を乗り切るために、入院前から予備的投薬を始める。そうすれば、薬剤反応性の情報も得られる。落ち着いた滑り出しになり、治療関係もうまく結べる。
・第一日目は家族に付き添ってもらうのもよいと思う。見捨てていないことを示すことができる。また、家族は病院の大変さを理解することができるから、その後の家族と病院の関係維持に役立つ。

・家族教育を積極的に進めることに意味がある。無理解が誤解につながる。

2373
痴呆病棟の診断
・何型の痴呆かということは看護としてはあまり問題にならない
・看護するに当たっての問題を診断として表面化させて、それに対する技術を考えていく。そうした方向での診断。だとすれば、行動障害や身体病の診断が大切になる。また、性格傾向も大切である。性格について、また、扱い方のこつについての情報を、看護として適切な言葉でプールしていくことが大切である。
・極端なことをいえば、看護タイプa-2などという記号でもよいくらいだ。
・知識を共有することは、つまり共有の言葉を持つということだろう。それがクリエイティブな医療につながる。

2374
分裂病
内的拘禁状態により幻覚妄想などの陽性症状が起こる。→信号が届かないから、拘禁状態になる。
内的廃用性機能障害により、陰性症状が起こる。→信号が届かないから、廃用になる。
1997年10月20日(月)

2375
DSMは前景症状についての分類学であると考えてよいだろう。そん点で意味がある。その奥にある背景病理については、今後の研究課題である。背景病理の分類と研究のために、まず前景症状について明確にしようと考えるのもよい。

2376
認知療法ハンドブック(下巻)より
NANDA(北米看護診断協会)による看護診断。九項目の「人間反応パターン」。
交換 相互のやりとり (関係)
伝達 メッセージの送り出し(発信)
関係 絆の構築 (関係)
価値 相対的価値の帰属(処理)
選択 別法の選択 (処理)
運動 活動 (発信)
知覚 情報の受け入れ(受信)
理解 情報に伴う意味(処理)
感情 情報に対する主観的な認識(処理)

●これらについては、対人関係機能と、受信、処理、発信にまとめられるのではないか。
対人関係……交換、関係
受信……知覚
処理……理解、感情、価値、選択
発信……伝達、運動

看護過程は問題解決過程である。
「アセスメント、診断、計画、実施、評価」のサイクルの繰り返し。

2377
認知療法ハンドブック(下巻)より
治療者はよきモデルを提示する。一時的ではあっても、自動思考や感情のずれを補正する際のものさしに治療者がなるように。→モデリング

2378
認知療法ハンドブック(下巻)より
介護する人のケアが大切。
疾患・現状・予後について正しく理解しているか。
適切な介助の方法を知っているか。
社会資源・福祉サービスの利用は適切か。
家族間のコミュニケーションはとれているか。

ここでも問題の列挙、問題間の構造の把握(仮説)、対策、の順序でことが運ぶ。

2379
認知療法ハンドブック(下巻)より
看護職員の問題
完璧癖のスーパーナース症候群
患者に対して、こちらが一所懸命やっていればすべて理解してもらえるはずだと不合理な過度の期待を抱く者も多い。
看護サポートシステムを考える必要がある。
・信頼関係
・日常の業務の関係を過度に持ち込まない……秘密保持、人事評価の対象としない、叱らないなど。

2380
認知療法ハンドブック(下巻)より
うつ病に対する配慮(野村)
?休養
?自殺を禁じる
?励まさない
?うつになった原因を考えないようにする、当面の問題を棚上げにする、受身でいるようにアドバイスする。
?家族、配偶者に対して説明、うつ全般への理解をさせる(心理教育)。
?良好な治療関係
?改善しても一年は抗うつ剤を維持すること。
?抗うつ薬は思い切って増量し、必ず十分量を投与する。少量だと病相を遷延させるなど害がある。
?十分量を三ヶ月用いても効果がなければ難治例である。
?仕事への復帰はできるだけゆっくり。

2381
認知療法ハンドブック(下巻)より
うつの再発予防の技法が確立されていない。

2382
認知療法ハンドブック(下巻)より
うつ病者に多い認知の歪み
全か無か思考、過度の一般化、選択的抽出、独断的推論、自己関係付け、誇大視と微小視、破局視、肯定的側面の否認、感情的論法、すべし表現、レッテル貼り。
野村の紹介は訳語が正しい。

こうした認知の歪みを同定し、修正を図る。その際には全否定ではなく、緩和した形で再獲得させる。または妥協的な形でどうかと提案する。「すべき」ではなく「できたらそれに越したことはない」程度に。「失敗した」というとき「失敗ではない」とするのではなく「失敗したとして、その影響はどんなものでしょうか」と評価してゆく。
●それは極端ではないですかと提案するわけだ。

2383
認知療法ハンドブック(下巻)より
素質+生育歴→スキーマ→自動思考
スキーマの発見と修正が認知療法である。
「考えの歪みによって感情の障害が生じる」

第一……急性期の症状改善。そのために認知の歪みの修正。
第二……再発予防。そのためにスキーマ修正。

スキーマ、ベリーフ、自動思考これらの区別?
スキーマの例:「自分は有能で成功する運命にある」

2384
認知療法ハンドブック(下巻)より
考え方の歪みを正すための技法……同定と修正に分けられる
・良好な治療関係……陽性感情が認知の変化の前提になる。
・協同的経験主義……患者自らの発見を助ける(ソクラテス法)、得られた認知の歪みはあくまで仮説である、日常生活で仮説を検証する。
・理解していても気分がすぐに変わるわけではない。繰り返して訓練する。行動療法的な色彩。

2385
認知療法ハンドブック(下巻)より
うつ病の70%程度は定型的な治療で治る。遷延した難治性うつ病認知療法を用いる。
思考制止が強い、うつの極期には無理。

2386
認知療法ハンドブック(下巻)より
導入にあたっては動機付けを高める意味からも、認知療法について説明する。
認知療法をおこなうこと
・基本理論
・方法、ルール
・効奏機序
・効果がないこともあるが試みる価値はあること

セッションの構造
・現在の症状(気分)の評価 →ベックのうつ評価尺度
・宿題のチェック
・テーマ、大体の方向(agenda)の決定
・認知の歪み、スキーマの同定
・認知の歪み、スキーマの修正
・宿題を出す

2387
認知療法ハンドブック(下巻)より
認知の歪み、スキーマの同定のための技法
・繰り返し現れる言葉や行動パターン
・「気分の変化がどのような状況で生じたか、そのとき心に浮かんだことは何か」を話題にする。
・考えの根拠をきく。
・「もしそれが起こったらどうなるのか」と繰り返し、最終的に帰着するところをみる。→誘導されながらの発見

認知の歪み、スキーマの修正のための技法
・歪みの用語を積極的に教える
・訓練する姿勢が大事
・思考記録表……気分、状況、浮かんだ考え、合理的な考え
・原因の再帰属の試み……自分で気付くように、他の原因の可能性は考えられないか、誘導する
・気分に点数をつけてグラフ化する
・日常生活スケール(時間と過ごし方)と行動・気分予測表(行動予定、予想満足度、実際の行動、実際の満足度)
・ロールプレイ

2388
認知療法ハンドブック(下巻)より
(夏目より)
症状形成の四段階(疲労、不安反応の条件付け、不適切な対処行動、回避行動)
1 ストレス→疲労→不安・自律神経症
2 「不安の条件付け」が起こる。予期不安で発作が起こりやすくなる→パニック→さらに予期不安。いろいろなきっかけでパニックが起こりそうに思う。パニックはコントロールできないものと考える。
3 対処行動は不適切。薬も同様。「じっとしていればおさまる」ことを知るチャンスを失い、「もし対処行動をしていなかったら、もっとひどくなったかもしれない」と考えて悪循環が始まる。
4 回避行動が生活を制限する。

四つの治療手順(休む、待つ、やめる、慣れる。)
1 疲労とうつがある場合、休養。ただしうつでない場合には回避を促進するので休養は勧めない。
2 発作が起こっても待てば自然に通り過ぎることを学ぶ。
3 対処行動をやめる。→悪循環を解消する。
4 少しずつ慣れる。

・自律訓練。集団でやれば患者同士の交流が有効である。
・家族の調整。理解を求める。

・患者は症状を過大視している。自律神経失調症であるとはっきり伝えることは効果がある。「なにかとんでもないこと」が起こっているのではないと認識させる。
・起こっても実際には大したことのない発作なのに、それを防止するために多大な努力を払う。このあたりは性格の問題もありそうである。
・守るためにはもっと領土を広げるという、戦争と似たような状態ではないか?

・何を回避するかによって、恐怖症の内容が決まる。アゴラフォビア、乗物恐怖、対人恐怖。また心臓神経症など。
・「もし対処行動をしていなかったら、もっとひどくなったかもしれない」と考えることは、不安を高めるだけである。対処行動は不安を高める。薬も同じ。不安を鎮める手段として薬を使わない。ただベッドで休ませる。
・「待つこと」は衝動性のコントロールにも使えると書いてある。待てないから衝動性というのである。矛盾していないか?

2389
恐怖症
・条件付けが成立した状態
それとも
・回避行動が成立した状態?
結局同じことか?
・妄想に近い面もある。思いこみ。ヒステリー機制にも似ている。

電車が恐いという場合。
電車に乗っていると突然発作。それは確かに一度は起こったかもしれないが、そのあとは回避しているわけだから、電車はむしろ回避の対象というべきだ。乗っていてまた発作が起こったとしても、たいしたことはないのだから。
自分が、「パニックの引き金は電車だ」と決めた面がないか?
自然に休んでいれば治るというものをそれほど恐怖するのはなぜか?→ヒステリー。疾病利得。
1997年10月20日(月)

2390
認知療法ハンドブック(下巻)より
(井上)
スキーマは、症状形成に直結する自動思考に比べると、治療における比重は低く見られがちである。
認知療法は過去を話題とせず、人格には直接言及せず、問題を細分化し、具体的かつ明確に規定できる「いまここ」の問題に還元し、解決を企図する。
認知療法は症状改善以上のもの、つまりスキーマの不活化という、より恒常的な構造変化を目指す。
・さまざまな精神療法によって持続的な変化が生じるのは、中核的信念・スキーマが修正されるからであるとベックは考える。
・妄想が精神分裂病の原因でないように、認知はうつ病の原因ではない。認知あるいはスキーマうつ病において活性化され、非機能的スキーマが適応的スキーマを駆逐してしまう。その結果、肯定的情報は駆逐され、否定的情報だけが取り込まれる。認知の変換(シフト)が起こっている。スキーマの活性化とはうつ病の進展を意味している。
●こうした文脈では、スキーマを「適応戦略」ととらえてもよいわけだろう。
・精神療法は認知(スキーマ)の変化を伴うとき意味を持つ。
・(ベック)人格障害は進化の過程で生じた一種の不適合として理解される。個体の生存を維持し、生殖を可能にするプログラムされた行動(方略)は、かつては環境に適合するものであった。しかし、我々をとりまく社会環境は急激に変化し、方略の修正はこれに遅れをとった。いくつかの方略は現在の文化的環境に適合しなくなり、個人や集団を脅かすものとして問題化した。こうして人格障害と診断される、硬直化して制御の困難な行動様式が生じたと推定される。
人格障害の行動様式が、どのような環境で適応的であったか、疑わしいところがある。強迫性障害などは、状況によっては適応的な行動様式とみなすことができる。人格障害よりもむしろ神経症の範囲のことを理解するのに役立つのではないか?
神経症よりも人格障害の方が、細胞レベルの障害から遠い印象がある。だとすれば、こうした、進化論的に過去に有意義であったが現在はむしろ有害であるといった行動様式があるはずと考えてもおかしくはない。人格障害がそれにあたるかどうかは別として、そのようなものがあるはずである。
●そしてそうした過去の遺物は、退行状況で発現しやすいだろう。ストレスがかかり疲労状態となり、退行的となり、過去の行動様式が発現する。ジャクソニズムである。
・個々の人格障害には際だって特徴的な信念と方略が存在する。境界性人格障害の信念は広範で特異的なものはない。分裂病人格障害は信念内容の特異性よりも思考様式の奇異さを特徴とするので考察から除外されている。
・中核的信念→条件付き信念→道具的信念(命令形)→方略
スキーマを検討し、より適応的なスキーマを形成あるいは強化することが、人格障害認知療法スキーマの再構築、スキーマの修正、スキーマの再解釈。再構築は難しいので、修正と再解釈が現実的である。(→再解釈の意味が不明確?)
・矢印法(downward arrow technique)→?
・強烈な感情体験が中核的信念に至る糸口になる。(→たとえば、激しい夫婦喧嘩の中に、お互いのスキーマの違いがあらわれる。)
・状況依存性の自動思考とその基底にあって比較的恒常的なスキーマという二つの認知の間に、ある種の力動的関係が存在した。(→詳細不明。力動的関係とは、つまりお互いに影響しあう、程度の意味か)
・患者のスキーマを再構築、修正、再解釈するとき、児童期の体験が認知・行動的介入のための素材として話題に上り、強烈な感情体験を伴って追体験される「熱いスキーマ」が治療の標的となる。
●ここまで来ると、従来の論と重なる。分析でいう、固着点と同じようなもの。

2391
境界例
特別な愛情の証拠をいつも求める。それは見捨てられるのではないかという不安と裏腹である。こんなにひどいわたしでも愛しているかと問いを発している。次第に強い酒を求めるようなもの。
根本にある不安は何か。その不安に対処するために何ができるのか。劇的な対人関係で不安を紛らすパターンを使うのが境界例。対人関係嗜癖
しかしまわりの人間はたまらない。振り回される人間がたまらない。

愛情のやりとりとして、肯定的感情に対して肯定的感情で応えるのが一般的である。北風ではなくて太陽。
しかし親子の場面などで、「お前が優しくないから、わたしはこんなになった、もっと愛情を注げ」と訴えるために否定的感情を向けることがある。親はそれでも見捨てずに愛を注ぐ。これは否定に対して肯定で応答する例。
境界例の人たちは、肯定の感情を引き出すために否定の感情をぶつける。結局は他人に自分の方を向かせることができると知っているのである。
不安→他人にかまって欲しい→否定的感情を向けて惹きつけようとする(まだ足りない!とメッセージを投げる)

2392
認知療法ハンドブック(下巻)
物質依存の認知療法
動機付け→物質中止→中止維持の三段階になる。
○動機付けの段階
・行動化にどう対処するかが問題
・依存症者が治療者を告発者と受け止めることを避ける工夫が必要である。薬物が自分にとって有害であることを否認する。否認をゆるめることが必要であるが、周囲の人に告発・白眼視されているとの状況認知がある限りは否認が強化される。
・やめたい気持ちにどれだけ共感できるか。
集団療法的アプローチが有効。‥‥自分の否認は見えないが、他患の否認はよく見える。同じ問題を抱えるものに勧められた方が動機は生じやすい。
・個人的理由を列挙してもらい記録に残す。初心を思い出す手がかりとして使用することができる。
・「底つきを待つ」‥‥依存してきた物質に「裏切られる」経験をするまで、積極的な治療介入を控えること。いくら飲んでも酔えなくなったり、職業や家族をなくしたりなどの経験が「裏切られる体験」となりうる。
・「底上げ」‥‥家族はあくまで傍観者としての態度、つまり物質使用には反対であるが、使用するかやめるかは本人自身が決める問題であるという態度をとる。この結果「底つき」が早められる可能性が生じる。
共依存の可能性について考慮する。
○中止の段階で
腹式呼吸のリラクゼーションで乗り切る
・肯定的変化のリストを作る
○維持
・集団アプローチが有効

認知療法的な説明はあまりなかった!

2393
認知療法ハンドブック(下巻)
ストレス免疫訓練
・ストレスをすべて取り除くのではなく、それに対する「免疫」(心理的抗体や抵抗力のこと)をつけたり、対処技能を身につけることが大切だと考える。(マイケンバウム)
・人が状況や出来事をどのように受けとめ(一次的評価)、自分の対処能力をどう見積もるか(二次的評価)によって、対処の仕方が変わり、その結果も異なったものとなりうる。(ラザルス)
・人はただ置かれた環境に左右されるのではなく、自分のストレスをコントロールするために積極的に働きかけることができる。
・個人でも集団でもできる。
・(1)ストレス概念の把握(2)技能獲得(3)適用
・技法には以下のものがある
○認知的技法
・説得的教え
ソクラテス的対話
・認知的再体制化(再構成)restructure
・自己教示
・問題解決訓練……社会適応と問題解決技能が関連している。
・イメージリハーサル
○情動的(生理的)技法
・リラクゼーション
○行動的技法
・行動リハーサル
・自己監視
・自己強化
・環境を変える努力

2394
認知療法ハンドブック(下巻)
エリスの論理情動療法
ABCDE理論
A Activating events できごと・状況
B Belief 信念
C Consequences 結果
D Dispute 論駁
E effective philosophy 効果的な人生観

簡単にはABC。

2395
認知療法ハンドブック(下巻)
問題解決訓練……社会適応と問題解決技能が関連している。
1 問題を解決可能な問題として、合理的、肯定的、建設的にとらえる。
2 問題を正確に評価する。
3 かわりの解決法を見いだす。
4 意志決定。
5 実行。

2396
認知療法ハンドブック(下巻)
認知行動療法家の中心となる仕事は、患者が、現実をどう構成(コンストラクト)し、とらえるかを理解できるように、手助けすることである。(マイケンバウム)
構成主義の視点。

2397
認知療法ハンドブック(下巻)
自殺について:高橋祥友
自殺の危険因子
1 自殺企図歴
2 精神疾患
3 援助組織の欠如 未婚、離婚など
4 性別 既遂では男>女 未遂では女>男
5 年齢 高くなると自殺率も上昇する
6 喪失体験
7 自殺の家族歴 または知人の自殺
8 事故傾性

・自殺企図に際して表面的にはそれほど危険でない方法を患者が用いたり、他人を操作するための自殺企図のような場合でも、死の意図を簡単に否定してはならない。
狂言自殺と見えても、長期間の追跡をすると、一般人口よりも自殺率は高い。
・患者の言動に突然の変化が現れた場合、たとえそれが表面的には改善の兆しと思われるような状態であっても、自殺の直前の予告兆候である場合がある。抑うつ症状が自殺決行の直前に突然改善することはしばしばある。
・入院治療と外来治療の一貫性を保つことが必要。
・チーム医療が有効。
・家族の病理も注目。分離不安と非常に強い共生関係。→家族の中のあらゆる問題の責任をすべてある特定の人に帰する。それによって、より合理的な問題解決を回避する。家族はスケープゴートとされた人物の自殺行為に荷担することになる。

○治療
・自殺は何らかの有利なことをもたらすとの患者の主張に対して疑いを示す。
・自殺以外の望ましい選択を提示する。
・理由を探る。自殺によって何を求めようとしていたか。誰かに何かを告げようとしていたのか?状況がどのように変われば患者は自殺しないですむと考えているのか。
・自殺したい気持ちになったとき、どうすればよいかを相談して一覧表にしておく。患者は常に持ち歩く。
・どのような状況を苦痛に思っているのか。どのような状況に弱いのか?それは自動思考と関係していないか?
・年に一度程度は元気に暮らしていることを連絡してもらう。

2398
認知療法ハンドブック(下巻)
教育相談
・未分化で混沌とした内的世界を分化成長させ、言語による情緒表出を可能にしてからでないと、外界とはつなげない。この、混沌とした内界を整理したり、そこに起こっている気持ちの動きに名前を付けたりという作業がまさに「認知療法的アプローチ」といえる。
・治療者の側でさまざまな選択肢を提示する。
・情緒的発達と言語的発達の両面。発達促進的なアプローチ。
・言葉自体の意味内容に目を向けすぎず、その人の気持ちがことばの中にどれくらい含まれているかをよく見ながら言語化するように留意する。矛盾を明確にしたり、ことばを使って気持ちを変えようとしたりしても、気持ちがつながらないままに終わる。ことばに気持ちがうまく乗るかどうか。
・情緒的つながりを特に大切にするのが日本人の対人関係の特徴である。
・自分のパターンを知ること。

2399
老人の症状の構造
disabilityの原因とそれに応じた治療
神経細胞消失……代償促進
・disuse……リハビリ
・症候性症状……現疾患治療

脳      末梢(筋肉など)
  細胞消失 骨折・切断など
廃用性能力障害 廃用性萎縮

2400
病棟の臭いを何とかする
たとえば柑橘系の香り
面会の家族にも不快な思いをさせない
職員の職場環境も考える