こころの辞典1001-1100

1001
性格障害とは、何らかの性格傾向(trait)について、統計的平均から常に著しくずれているために、本人、家族、社会が悩むものをいう。性格傾向は思春期かそれ以前から持続するものである。精神疾患による言動の傾向は、一過性である。
性格障害があれば、精神障害になりやすい。しかも治療は困難になる。たとえば、うつ状態、不安、薬物依存、アルコール依存。

青年期以前については性格障害とはいわないことが多い。児童思春期は不安定な時期であるから。

1002
personality 性格 = character + temperment
character 人格 長年の間に形成されたもの。性格の中の道徳や倫理の側面。
temperment 気質 生まれつきの性質

1003
性格について標準は何か
?統計的平均
?理想状態(現実適応の点で、また、倫理の点で)
?病態状態から遠いこと
?社会防衛(医学的診断ではなく)
?各種の発達理論から見て正常であるという意味

1004
連続体
共感的→繊細→過敏→猜疑的
empathic-sesitive-oversensitive-paranoid(suspicious)

マイルドな性格の偏りは、ストレス状況でのみ明らかになることがある。たとえば喪失体験時。

1005
異常な精神状態や行動の原因
精神疾患   性格障害
一時的    持続的
不連続    連続的

たとえば、うつ状態の時には回想もうつ的になり、人生の歩みもうつ的に表現される。それを持続的なうつ傾向ととって性格の問題としてはならない。

うつ病になったとき、強迫性障害が出る。強迫性性格の場合。
性格傾向が精神障害に対する防御となっている場合がある。たとえば空想がうつを防ぐ場合がある。
世間の人が「神経症」というばあいは、性格の問題について言及している場合が多い。(神経症とは、ストレスに対して、精神障害や精神的異常反応で対応する場合をいう。)
日本で一般の人が「神経症」といえば、「病は気から」「非器質性疾患」のことのようだ。

性格神経症精神分析から出た言葉で、正常な性格形成に失敗したもので性格障害を意味する。疾患としての神経症ではない。

性格障害の診断は、18〜35歳、女性、低社会階級に多い。

1006
性格障害の分類
?状態像としてはICD,DSM
?フロイトの発達理論……口愛、肛門愛、男根と性格タイプ。
?量的な把握……EPI,MMPI,16PF,

精神科医の間で、ここの患者についての性格傾向の記述は一致が高い。しかしどのような分類にすればよいかについては一致が難しい。しかし大局的に見て、三つから四つのカテゴリーに分けられる。
DSMでは?引きこもり、奇妙、風変わり?反社会的、演技的、感情的、おおげさ、不安定?依存的・抑制的の三群に分ける。

イギリスでの分類の例
?ひきこもり群
・妄想性
分裂病
分裂病
?依存群
・不安性(回避性)
・依存性
・受動攻撃的
?抑制群
・制縛性(強迫性)
・循環性または類循環性
?反社会群
・演技性
・感情不安定
・衝動的
・境界型
・自己愛型
・反社会性(精神病質)

1007
精神病質性格
psychopathic personality
元来は性格障害一般を指す言葉であったが、とくに反社会性性格障害を指すことがある。最初にアメリカで、つぎにイギリスでこのように限定した意味で用いられる。特徴は以下の通り。
情性欠如
愛することや感じることが不可能
衝動的
自己中心的
結果を考えず刹那的な満足を求める
罪悪感の欠如
反社会的行動と暴力
経験から学ばない。罰からも学ばない。

1008
・妄想性
過敏、恨み、猜疑的、嫉妬、他人の悪意のない友好の行為も敵意や侮辱と誤解する。責任転嫁、誇大的、好訴的、イエスマンをまわりに集めて集団を作る(新興宗教)、男性に多い、一過性の被害妄想や幻聴。
分裂病質 schizoid
交際に無関心。冷酷、空想傾向、内省、性体験を持とうとしない、親密な信頼関係の欠如。パーティに出ない、地球平板説やネス湖の怪獣に奇妙な関心を寄せたりする。人よりも数字に関心、コンピューターには向く、孤立しているのでうつになりやすい。
分裂病型 schizotypal
思考、風貌、話し方、行動が奇妙、対人交流欠如、分裂病者の血縁に多い、分裂病の遺伝スペクトラムの一部と考えられている。
・不安性(回避性)
緊張と不安、自意識過剰、拒否されることに過敏、無条件の受容が保証されているときだけ関係を結べる。
日常場面での危険を過大に考える、行動を回避するようになり、生活が制限される。
引っ込み思案。対人恐怖。ときに恐怖症。
・依存性
自分の人生の大切な決断を他人に任せる。自分の依存している人には何も要求できない。
自分を無力と感じ、見捨てられひとりになることを恐れ、親密な関係が終わるときには打ちのめされる。
不適切な、受け身の、無力性の。
うつ病、気分変調dysthymiaの準備因。
asthenic = Greek for inadequate ?
・受動攻撃的
あたりまえの要求に対する受動的抵抗、ぐずぐず先延ばしにする、子供じみた妨害や不機嫌、気がすすまないときにはぐずぐず仕事をする。自分は有能だと信じている。
・制縛性
優柔不断、完全主義、過度の良心、衒学、定型的、頑固、細部まで事前に計画。仕事熱心、忠実、事務能力高い、広い視野ではなく細部へのこだわり、空想に欠ける。男に多く遺伝性がある。自分の考えが挑戦されたときには怒る。(他人にも有能であることを期待する?)
フロイトの肛門愛性格、大便をためこむ。心気的、抑うつ的。
心気性人格障害抑うつ人格障害(気分変調性 dysthymic 人格障害)に関係する。
・循環性または類循環性
感情の不安定。軽うつと軽躁。躁うつ病の準備因。
・演技性
過剰な感情表出、演劇的、大げさ、被暗示的、浅薄で不安定な感情、注目を集めたがる、操作的。
フロイトの男根期に関連。エディプス期に固着。
性的誘惑。対人関係は激しく不安定。女性に多い。同様のケースは男性ならば反社会性障害となるだろう。薬飲み過ぎ傾向。転換型または身体化疾患になりやすい。
・感情不安定
 ・衝動型……感情不安定、衝動コントロール欠如、暴力、威嚇。爆発型または攻撃型ともいう。攻撃衝動のコントロールが一過性に失われる。ストレスにたいして暴力や怒りで反応する。後悔と自責は本物である。男に多く遺伝性がある。
 ・境界型……自己像があいまいで混乱している。対人関係と気分は激しくかつ不安定、感情危機を招き自殺の脅しや自傷を伴う。慢性の空虚感と退屈、スプリッティングや投影性同一視といった原始的防衛機制が見られる。
過度のストレス下では、一過性の精神病状態。
精神病の周辺部における重症性格障害をひろく指していることもときどきある。女性に多く、dysthymia、うつエピソード、薬物乱用、短期精神病反応を起こすことがある。
・自己愛性
誇大性、空想と行動で、過敏さ、共感欠如。肉体的病気や手術による肉体変形にうまく対処できない。
・反社会性
無責任、対人関係を継続できない、欲求不満に耐えられない、攻撃的、暴力的
罪悪感を感じない、罰や経験から学ばない、反社会的行為について他人を責めるかもっともらしい言い訳をする。
15歳からの行動障害(登校拒否など)をみる。薬物・アルコール乱用に染まりやすい。精神病質、社会病質を含む。

1009
ユングの性格分類
内向的 introversion と外向的 extroversion

1010
性格障害の分析的見方
口愛期……依存性
肛門愛期……制縛性
男根期……演技性
精神病質……スーパーエゴの形成不全
など
境界型とchildhood sexual abuse など。

1011
マリファナ(’grass’)
タバコ型(’joints’)

1012
カフェイン量
カフェイン錠剤 30-100mg
コカコーラ   30-50
紅茶一カップ  30-100
コーヒー一カップ 70-150
一日250mgを超えたら注意する。
依存になると神経過敏や胃腸症状が現れる。
カフェインは身体依存はなく、精神依存がある。

1013
フェンサイクリジンまたはフェンシクリジン
phencyclidine(PCP)
麻酔薬として開発されたが、鎮痛効果が高い。陶酔作用が好まれる。乱用により幻覚、妄想、興奮、分裂病様症状がみられる。1970年代にアメリカで乱用された。’Angel dust’.

1014
agoraphobia
?家を離れることと?ひとりになることが辛い。

1015
妊娠と薬
妊娠しそうなときや妊娠したときやめなければならない薬がある。トリメタジオン(ミノ・アレビアチン)、炭酸リチウム(リーマス)、バルプロ酸デパケン)、カルバマゼピンテグレトール)である。全部てんかん系の薬。妊娠が疑われるときにはアレビアチンやエクセグランに変更する。
その他の薬はすべて、奇形の危険と、症状悪化の危険を見比べることになる。子供を守るために薬をやめて、その結果症状悪化して流産することもあるので難しい。
薬も注意したいが、アルコールにも注意を要する。アルコール性胎児症候群では母親の飲酒が胎児に生涯続く影響を与える。

1016
ナルコレプシー
ナルコレプシー・カタプレクシーともいう。
ナルコ=睡眠
レプシー=発作
sleep seizureのこと。sleep attacks が襲う。
四分の三にカタプレクシーを伴う。脱力発作(情動性)。
cata下へ + plexis打撃。高笑いなどするとがくっと崩れる。

鑑別は、いびき(睡眠時無呼吸)と情動性脱力発作(カタプレクシー)。カタプレクシーがあるなら、睡眠時ポリグラフナルコレプシーを確認する。
緊張型分裂病で見られるカタレプシーはろう屈症で別のもの。

1017
薬は人間の何を変えるのか。何を変えないのか。
中核の価値判断などは不変なのではないか。それを素直に出せるかどうかだけが違うように思う。

1018
子供の頃にセロトニンレベルのセッティングが決まる。
母親剥奪されるとセロトニンが少なくなり、集団機能が障害される。
セロトニンレベルは臆病さを決定する。母親がいない状況では危険から自分を守るために臆病になる。

1019
価値の問題。
治療目標をどこに置くか。

1020
抗うつ剤うつ状態を感じさせなくしているだけではないのか?
たしかにその疑問はある。うつ状態を改善するのは本質的に時間であり、抗うつ剤は単に時間を耐えやすくしているだけであると患者に説明することがある。

1021
薬をのんでいる自分が本当の自分なのか、のんでいない自分が本当の自分なのか。
病気は非自己である、というのが前提であろう。
本当の自分などと言うから分からなくなる。ただ二つの状態があるだけだ。
紅茶と緑茶とどちらが本当か何ていう問に似ているだろう。

1022
集団内で注目されたら危険である。
そこから対人恐怖が生まれる。他人からの視線が集まるとろくなことが起こらない。その記憶がセットされているから、対人状況でパニックが起こる。

1023
集団性機能の障害
→集団性機能の形成プロセスを考える
→母子の安心感と集団内の安心感

1024
性格障害

脳内の利益考量装置が壊れている。世界モデルが壊れている。何が自分にとってうれしいのか、何が恐いのか、その重み付けがずれている。

分裂病系列の性格障害は、やはり病理の根本も、セミ分裂病が起こっているのだろう。→だとすれば、これこそが分裂病モデルではないか!分裂気質と、三つのA群障害は分裂病モデルとなりうるはず。この糸をたぐること!
一人でいることの寂しさよりも、みんなといることの苦しさが大きいから、閉じこもりになる。そのような重み付けの装置が壊れている。その集団として自然で平均的な重み付けから大きくずれている。それが性格障害B群である。
反社会性は価値装置が平均からずれているタイプのもの(冷酷な打算)と、衝動的で普段とは違った価値判断をしてしまう場合があるのではないか?
C群はうつ親和型であり、セルタイプ理論から説明できるのではないか。

intrapsychicとinterpersonalとを分けたらどうか?
各疾患について、上記二者を分離して考察してみる。

1025
アルコール症のチェックの仕方
CAGE questionnaire
Cut:アルコールを減らそうと思ったことはある?
Annoyed:周りの人に飲酒についてあれこれいわれて困らされた?
Guilty:飲酒について罪悪感がある?
Eye-opener:朝目が覚めて、酒を飲みたいと思ったことがある?

1026
性格障害を行動障害と記述したらどうだろうか?
本人の内面の陳述はカットする。ただ外に現れた行動を行動主義者風に記述してみる。そうすれば、問題がすっきりしないだろうか?

性格障害の項は、分類以前の昆虫図鑑のようなものだ。

1027
見捨てられ抑うつ
abandonment depression
マーラーの分離・個体化理論をもとにしてマスターソンが提案した境界型人格障害の基本病理。境界型人格障害では、分離体験が抑うつ感情を引き起こし、このうつ感情を処理するためにさまざまな行動化が起こる。このような抑うつは分離・個体化期の見捨てられ抑うつに起源があるとする。
母親が境界型人格障害であった場合、子供が母親という環境から分離・独立しようとする時期に情緒的支持を撤去してしまう。適切な情緒的応答をもらえなかった子供は見捨てられたと感じ、抑うつ状態になる。これが見捨てられ抑うつである。思春期に至り再度環境からの分離を試みるときに見捨てられ抑うつが再燃する。WORU,RORUに関連する。

1028
分離・個体化段階
individuation-separation phase
マーラーの発達理論の一段階。生後6ヶ月から3歳くらいにかけて子供は母親との共生関係から分離し個体化してゆく。この時期に「よい母親」を内在化できれば、順調に母親から分離できる。このような内的対象関係の形成が不全であれば、境界型人格障害や自己愛型人格障害が発生するという。

1029
再接近期危機
rapprochement crisis
マーラーの発達論の一段階。子供は母親との共生期をへて、6ヶ月から3歳くらいまでのあいだの分離・個体化期に入る。精神的にも発達し、身体的にも運動能力が高まり、母親からの分離独立を試みる。分離・個体化期は?分化期?練習期?再接近期?個体化・情緒的対象恒常性の確立期の四つの時期に分けられる。自分で動き回れるようになって母親からの分離の練習をするが、母親と一体であることによる全能感が失われるのは苦痛であり、再び母親に依存的になりまとわりつく時期が来る。これが再接近期であり、分離したい気持ちと依存したい気持ちの葛藤が生じる。この時期の危機を乗り越えて分離・個体化は完了する。この時期に母親の共感能力や情緒的安定が必要で、それに欠けている場合には境界型人格障害の原因になる場合があるとする。

1030
美女と野獣
醜形恐怖で発病した解体型分裂病者が、寛解期にいたり、感情の疎通性を回復し幸福になる話。
王子の父母が出ないのはなぜだろうか。
娘の父は発明に熱中する妄想型分裂病。娘は空想癖のある「赤毛のアン」タイプ。母親は多分、夫に愛想を尽かして離婚した。
人を愛することと人に愛されることは青年期の課題として最重要なもの。醜形恐怖があっても、娘の性格特性によってはうまく行くことがあるからあきらめるなという教訓。

1031
知能
知能指数の分布は標準分布をとり、標準偏差は16である。100-2SD=68,100-3SD=52,100-4SD=36,100-4SD=20であるから、70-50をmild、50-35をmoderate、35-20をsevere、20未満をprofoundとしている(ICD-10)。→図

1032
うつ
DSM4では、躁状態エピソードがあれば、うつ状態エピソードがなくても、双極性障害となる。躁状態のないうつ状態は双極性とはならない。

1033
うつ DSM4
うつ病性障害
・大うつ病性障害(単一エピソード、反復性)
・気分変調性障害:dysthymic(大うつはないが、抑うつ気分が持続している。)
双極性
・双極I型(躁状態
・双極II型(軽躁状態
・気分循環性障害:cyclothymic(軽躁状態はあるが、大うつ病はない。)

1034
分裂病 DSM4
妄想型
解体型
緊張型
残遺型
分裂病様障害(持続が1ヶ月以上6ヶ月未満のもの)
分裂感情障害(双極型または抑うつ型の感情障害と分裂病が併存している)
妄想性障害(奇異でない妄想があるが、分裂病の基準は満たさない)
短期精神病性障害(1ヶ月未満)
共有精神病性障害(Folie a’ deux)

1035
不安性障害分類
?自発性パニック発作の反復あり
・器質性精神障害
パニック障害 agoraphobiaあり
パニック障害 agoraphobiaなし
?自発性パニック発作の反復なし
強迫性障害
心的外傷後ストレス障害
全般性不安障害
・対人恐怖(社会恐怖
・単一恐怖

1036
精神療法
psychotherapy
個人精神療法と集団精神療法がある。個人精神療法は次のようなものである。
?表現精神療法。心の中にあるものを言葉などで表現してみる。これはカタルシス効果をもたらし、さらに問題や状況を客観化することでもある。普段頭の中だけで考えていたことを言葉にして話してみると問題の別の面が見えてくる。また言葉ではなく絵画で表現すれば、別の表現経路を使うことになるので自分の別の面が見えてくることもある。
?支持的精神療法。問題を解決したり状況を耐え忍んだりするに際して患者の自我を補強し支える。患者の話を傾聴しているだけで患者は自分の力で前に進むものである。
?洞察的精神療法。自己への洞察を深めることにより治療しようとするもの。精神分析療法、ロゴテラピーなどが含まれる。
?訓練療法。行動療法、自律訓練法認知療法森田療法など。それぞれに最適な病状がある。
集団療法としては、家族精神療法、夫婦療法、小集団療法、大集団療法などがある。
精神療法に関して大切なことは、方向として退行的か再構成的かを明確にすることである。退行的に接してよいのは神経症の一部だけである。分裂病の残遺期には再構成的に接する。分裂病残遺期に退行的・受容的に接すると分裂病のプロセスを促進してしまうので注意を要する。分裂病の急性期には精神療法は積極的にはしない。うつ病では病気の説明と生活上の注意が中心になる。

1037
支持的精神療法
神経症うつ状態の時に、弱まっている自我の機能を下から支えて補強することによって援助すること。内面をあばくようなことはしない。どちらかといえば常識的で実際的である。方向転換というよりは支持である。援助の範囲は心理的な励ましや肯定・支援の他に、実際生活での助言や機関の紹介も含む。経済的な面や就業の件ではソーシャルワーカーケースワーカーにも相談できる。

1038
表現精神療法
言語、絵画、遊技、その他の方法で内面を表現することによる精神療法。その一部は芸術療法である。
言語による内面の表現には告白がある。他人に語ることはそれ自体に治療的意義がある。悩んだときにはよく友人に話を聞いてもらう。それだけで充分なことも多い。また、他人に語ることで自己を客観的に点検するきっかけになる。そのようにして告白したときにはカタルシス(通利)または通風(ベンチレーション)が実現する。煙突がつまって部屋の中に煙が充満しているときに煙突掃除をすればすっきりする。そのような意味でカタルシスは煙突掃除ともいう。防衛機制としての抑圧がある場合、無意識界に抑圧された感情を表現することで、抑圧されていた感情を解放すると同時に認知する。そのことによって抑圧により生じていた症状は解消される。抑圧された感情を表現するには通常の自我ではなくやや退行した状態の方がよいこともある。
絵画による表現には自由画の他に風景構成法などがある。言語表現をする時とは別の表現回路を使うので、診断的にも重要な情報が得られる。それと同時に、それは自己の内面のもう一つの表現であり、ここでもカタルシスが期待できる。絵画は一般に自我を退行状態にするので、その点も有利である。
表現するとは、自分の内部にすでに何か確定したものがあって、それを外に出すということだけではない。表現という作業が内面の無形のものに形を与えるのである。たとえば言葉を与えられたとき、無形の何かは輪郭を持ち、制御可能なもの、理解可能なものになる。また、個人的なものから、集団に共通のものになる。
したがって、表現すること自体に大きなエネルギーを必要とする。それはただ描いているのではなく、雑然とした状態の心の中を、言葉という整理棚を作って整理をする作業である。
たとえば、「死のうと思っていた」と本気ではなしに何となくメモに書いたときに、自分の本当の気持ちに気付く場合がある。また、「愛」という言葉に接して、自分の本当の気持ちを見つける場合がある。
人が表現するのは、心にあるものを外に出すためだけではない。表現するときに何かが生まれるのである。表現が内面を生み、内面を耕すのである。

1039
洞察的精神療法
洞察するとは深く気付いて理解することである。患者が現在洞察していないことを新たに洞察するよう援助するのが洞察的精神療法である。気付いていないことは無意識の領域のこともある。その場合は深層心理学的理論を背景とする精神分析療法となる。
患者が自分で気付いていないことをなぜ治療者が気付かせられるのか。それは治療者にはすべてが見えるからというのではない。治療者は洞察のための方法を知っていて、その方法を患者に指導する。それによって患者は自分自身を洞察する。
あるいは、治療者は問題点をいまここに再現する方法を知っている。いまここに再現された問題点を考察することは患者にとっても容易なことだ。
内的対象関係、転移、逆転移、解釈、抵抗解釈などによって洞察を深めるきっかけとする。
これは患者の周囲にいる人生の達人がズバリ問題を言い当てるというのとは全く異なることである。

1040
精神療法
精神療法の構造は図のように表現される。
?治療構造
精神療法はたいてい予約制である。場所と時間が決まっている。場合によってはテーマもおよそ決まっている。終了時間と料金、治療者が誰になるかも決まっている。こうした設定をきちんと世間の人並みに守ることができるかどうかは大切なことである。どのように守れないかでその人の病理についての情報が得られる。また、治療構造を守ることができるように導くことが大切な精神療法となる場合がある。特に境界型性格障害の場合に大切であると言われている。
?専門知識
患者が精神療法を求めてくるときは、専門知識または専門技術を求めている。患者はときに、「ただ話をしていて治るんですか?」と聞いてくることがある。治療者は専門性を高めておく必要がある。病気について、薬について、患者が利用できる社会制度について、個別の病理について、研鑽を怠らないことである。
?人格
人柄はどうしてもお互いに影響を与えあう。仕事の性質から言って、治療者よりも患者のほうがより多くの影響を受ける。ここでは転移と逆転移が大切である。患者の過去の対人関係の経験が診察室で再び展開される。患者の過去の対人関係の一部が再生されて治療者に投影されて生じる感情が転移である。治療者の過去の対人関係の一部が患者に投影されて生じる感情が逆転移である。陽性転移といえば、過去の良好な対人関係を投影して、治療者を好ましいものとして見ることである。陰性転移といえば、その逆で、険悪な感情を投影して治療者を悪く見ることである。陽性逆転移と陰性逆転移についても同様である。
転移と逆転移は無意識の過程である。患者が陰性転移を抱いた場合、それは反治療的かといえばそうではない。悪い経験をよい経験で置き換えるチャンスが生まれる。これを修正感情体験という。たとえば、悪い父親体験しかない人が、治療者と父を無意識のうちに同一視しているとする。その場合に、治療者がよい経験を与えれば、欠けていたよい父親体験を補うことになる。

1041
日常的精神療法のポイント
(外来神経症レベルの場合)
表現を促し、傾聴し、非指示的に受容し共感する。適切な指示を出し薬も使う。深層心理への介入は慎重にするが、転移と逆転移については視野に入れる。積極的で肯定的な関心を持ち続ける。患者が自力で山を登ることを助ける。
分裂病慢性期)
生活療法。再構成的精神療法。生活指導。
分裂病急性期)
不安を取り除くこと。深い話しは無効。
うつ病
病気指導と生活指導。内科と似た雰囲気。
(どこに話しかけるか)
心には病気の部分と健康な部分がある。健康な部分と共同・同盟・共感し、病気の部分を違和化する方向がよい。

1042
自律訓練法
autogenic training
自律(autogenic)とは、「自分で発生させられる」の意味である。簡単でお金がかからずどこでもいつでもできる便利な方法で自己催眠法の一種である。催眠術の共通の本質は手足が暖かくなることと重くなることであることから、四肢が重い、暖かいなどの自己暗示をかける。不安のコントロールに有効である。パニック障害や不安の強いうつ状態でも有効である。
自律神経(autonomic nerve)系器官の機能を整えるのに有効である。本来ならば自律神経系器官は随意的コントロールは難しいのであるが、四肢に血液を分布させる→心臓、脳、内蔵の血流が減少する+副交感神経が優位になる→心臓、内蔵に変化が現れるて落ち着く。そのまま寝てしまう人も多い。

1043
森田療法
森田正馬(まさたけ)が考案した日本的・禅的心理療法。対人緊張が強い人や強迫性障害のある人に勧められる。独自の用語と理論があるがある。
几帳面、内省的、完全癖、羞恥心が強い、よりよく生きようとする欲望が強い、これらの特徴を持った人を森田神経質と呼ぶ。患者はこれらの傾向に悩み、脱却したいと願って相談に訪れる。森田療法ではこれらの特徴をむしろ長所として生かすように訓練する。
ヒポコンドリー性基調とは自分の身体の変調に過敏になっている状態をいう。過敏になっていると普段は何でもないはずの変化が異常なものに思われる。たとえば、動悸に過敏になっていれば、ささいな脈拍の増加を異常とらえる。不安が生じてますます注意は集中し、ますます異常をとらえやすくなる。このようにして症状と注意の悪循環が成立する。これを精神交互作用という。こうして成立するのが「とらわれ」である。
森田療法は入院が原則で、絶対臥褥期、軽作業期、重作業期、実生活準備期と移る。読書や日記を使用する。この治療で患者は「あるがまま」を学び、「かくあるべし」から脱却する。あるがままに症状を携えて生きるようになる。赤面があっても、きちんと内容が伝えられればよいという「行動本位・目的本位」に切り替わる。
精神分裂病などには向かないので、導入前の診断作業が大切である。

1044
境界型精神分裂病
borderline schizophrenia
S.Kety,D.Rosenthal
分裂病の不全型・頓挫型と考えられるもの。

1045
神経症精神分裂病
psedoneurotic schizophrenia
P.H.Hoch,P.polantin
分裂病の不全型・頓挫型と考えられるもの。
アリエティは偽神経症分裂病の一部はストーミーパーソナリティであることを指摘している。

1046
かのようなパーソナリティ
as if personality
H.Deutsch

1047
行動療法
行動理論では神経症を不適切な条件反応に他ならないと考える。古典的条件付けやオペラント条件付けの理論を背景として、過剰で不適切な条件付けを解除するために、系統的脱感作療法や嫌悪療法、フラッディング法(除反応)が用いられる。
系統的脱感作療法(systematic desensitization)では不安階層表を作り、弛緩法で各段階の不安を克服しつつ最上位の不安にも耐えられるように訓練する。クモ恐怖の場合に、クモの絵からはじめて、瓶の中のクモ、小さいクモ、大きなクモと進む。電車の場合なら、地上各駅、地上快速、地下鉄と進む。(電車恐怖の場合には原因がいろいろなのでこのように単純な脱感作ですまないことも多い。)
嫌悪療法(aversion therapy)はアルコール中毒などの悪い習慣に対して不快刺激を与え、古典的条件付けを狙う。
フラッディング法(除反応:flooding)は恐怖症の場合に、恐怖の対象にさらして慣れさせようとするもので、系統的脱感作法とは弛緩法を用いない点で異なる。高所恐怖症の人にいきなり高所を体験させ慣れさせる。(floodは洪水で、恐怖を洪水のように浴びて、平気になろうという意味。個人的には遠慮したい治療法である。)

1048
認知療法
cognition therapy
認知行動療法 cognitive-behavioral therapies のひとつ。認知行動療法は行動を変えるには認知を変えればよいとする考え方。不適切な思考を適応的な思考で置き換えるのが認知再構成法、対処技術を学ぶのが対処技術療法である。
認知療法認知行動療法のひとつで、うつ病の治療から発展した。うつ病者の認知の三徴は、自己、世界、将来に対する否定的な見方である。認知の歪みとして、?恣意的推論?選択的抽出?過度の一般化?拡大視と縮小視?自己関係付け?全か無か思考?ポジティブな側面の否認?感情的決めつけ?「すべし」思考?レッテル貼り、があげられる。共通する特徴は、極端、否定的、絶対的、抽象的であることである。こうした認知の傾向に気付かせ修正することが治療になる。習慣化し固定化した認知パターン(自動思考という)を知るために、状況・感情・自動思考をセットにした記録用紙を埋めていったり、これらにさらに理性的反応・結果をセットにした記録用紙(これがBeckの非機能的自動思考記録用紙)を使ったりする。自動思考を理性的思考で置き換えて行くことが治療目標になる。

1049
コンサルテーション・リエゾン精神医学
consultation-liaison psychyatry
コンサルトは相談すること、リエゾンは連携することである。総合病院で身体科のスタッフから患者の精神医学面についての相談を受け、専門知識を助言する場合をいう。コンサルテーションとリエゾンは同じ意味と考えてよい。やや意味を拡張して用いるときは、専門知識を授ける相手が?患者?他科医師?施設や組織全体の場合も含むことがある。?は並診になる。?については上級医師が研修医師に教えるスーパービジョンもこの形である。?は職員間の関係調整を考えたりする。

1050
コンプライアンス
compliance
薬を処方通りに飲むこと。コンプライアンスがよいと言えば、処方通りに飲んでいること、コンプライアンスが悪いと言えば、処方通りに飲んでいないこと。処方通りに飲んでいない患者は多く、そのことを隠している患者も少なくない。デイケア場面などで主治医でない医師に向かって「本当は飲んでいないんです」と打ち明ける場合がある。

1051
しつけ
躾という漢字が読めなくなってきている。それと同時に実際の躾も少なくなってきているようである。躾とは、一般に自然な欲望を一時的に我慢すること、我慢することによって周囲の人からのまたは良心からのよい評価を得ることである。そうした「自分の欲望の内容を別のものに入れ替えて、直接の欲望の満足よりも集団の中での評価を満足とする」ことが少なくなった。結果として、他人の迷惑を考えない人たちが増えている。「他人の迷惑」を考慮しても、利益がないから考慮しないのだ。
躾が廃れて、超自我が弱まった。アメリカでは精神分析的な抑圧モデルが一般人の中に広まっている。我慢させることが精神的な病気のもとになる、したがって子供には我慢をさせず欲望を充足させるのがよい育て方だと単純に考えられている面がある。日本でもその風潮を忠実に追いかける人たちがいる。
躾がよい社会人や真の人間を作るのか、躾が本来の人間性を損なっているのか、古くから議論がある。前者の例として中国の諸子百家のひとり「荀子」、後者の例としてルソーなど有名である。
精神医学的に見れば、躾は超自我(スーパーエゴ)の形成と、自我(エゴ)機能の形成の両面を要請するものである。親や周囲の超自我が完成している人から、超自我の価値観を教えられる。それが倫理や道徳となる。次に親はそうした価値観の実際の場面での運用の仕方を教える。どんな場面で適用し、どんな場面で適用しないのか、柔軟な判断を担うのが自我である。
(自我はこうしたやや限定された意味の場合と、もっと広く自己に近い意味で使われる場合がある。自我機能といえば限定された意味になるだろう。)
躾ができていない人とは、超自我という、いわば心の中の集団価値システム、愛他的価値システムが形成されていない人である。従って、躾をしないということは、子供に対する親の役割なかでも大切な一部を怠っていると言わざるを得ない。
現実原則に快感原則が優越しているとも言える。

1052
治療同盟
therapeutic alliance
患者の心の中で健康な自我部分と、治療者の治療者的自我との同盟。たとえば患者が妄想状態にあり、「電話が盗聴されている」と訴えているとき、患者の心は100%妄想に支配されているかといえば、そうではない。わずかでも健康な自我の働きが残っていて、「重要人物でもない自分がどうして盗聴などされるのだろう」「これから一体どうなるのだろう、周囲の理解は得られないし、かといって自分は盗聴されているとしか考えられないし」とか思っている。そのときは病的部分に圧倒されていても、時間がたてば、健康部分の割合が拡大したりする。
この様子を極端に提示したのがチャンネル理論である。妄想チャンネルと健康チャンネルが、まるでテレビ画面が切り替わるように交代する。
病的部分に圧倒されているときや妄想チャンネルになっているとき、健常部分への働きかけは無意味なのだろうかと言えば、そんなことはない。有効であるから、健常部分と同盟を結べるよう働きかけ続けるのである。働きかけの言葉は、健常部分が思うであろうはずの言葉をかけてやるのがよい。「とにかくこんなに心配なことが起こったのでは不安で夜も眠れないし食欲もなくなりますよね」「本当に困りましたね、家族に分かってもらえないのが二重に辛い」「でも、家族としては理解できないのもまた当然ですね」など。

1053
短期精神療法
治療開始初期に患者が治療者に対して強い陽性転移を示す場合、「理想的な治療者による素晴らしい治療を受けた」と感じる。ここで治療を中断すれば、劇的な暗示作用により表面的な症状は消失することがある。これが短期精神療法であり、浅いが即効的な作用を期待するものである。
ここでやめないで継続すると、治療者との間に陰性転移を含むより深い転移・逆転移関係が生じ、さらには治療者を現実的な目で見るようにもなる。いったん治ったように見えた症状が再燃したりさらにひどくなったりする。その段階ではじめて、解釈と洞察、また人格の深い部分からの再構成が可能になる。時間もかかるが根治的である。

1054
治療者と患者の性
男性治療者は男性患者の競争心やライバル視を引き起こしやすい。また女性患者の性愛(エロス)的反応を引き起こしやすい。女性治療者はその逆である。
いったん競争相手と見るが、治療者は治療場面では患者よりも優位に立っている。その優位関係に従順に従う患者は、治療者により多くの権威・専門知識・人間性・社会でのステイタスを求める。自分の主治医が一番いい車で通勤して、いいスーツを着ていて、看護婦にも尊敬されていて、と求めるタイプである。
逆に、優位であるはずの治療者に劣位を演じてもらうことで喜ぶ患者がいる。「‥‥先生は俺には一目置いている」「‥‥先生に是非にと頼まれて、仕方ないな」など。演じられた劣位であることを感じられない鈍感さがある。
女性患者からのエロス反応は、個人精神利用法の範囲では維持しやすい。外来通院の初期に通院維持の主要な動機になることもある。集団精神療法場面では二者ではなく三者関係になり、治療者独占の空想が壊される。その意味では、個人面接場面よりも集団精神療法場面が現実度が高い。この観点から、個人場面から集団場面に移行するタイミングを工夫することもある。

1055
転移
患者が診察室で治療者に対して、これまでの人生の重要な対人関係を再生するように感じたり行動したりすること。無意識の過程である。内的対象関係を投影していると言ってもいい。治療者が具体的にどんな人なのかはっきりしないうちは、患者の過去の経験の中から拾い出して推定するはずであり、当然のこととして、治療者に似ている過去の人や過去に大きな影響を残した人が選択されるだろう。
したがって、転移が起こったときは、治療者自身がスクリーンになって患者の内面が映し出されるようなものである。これは患者の内面を知る大切な情報である。
患者が治療者の前で見せる態度は、治療者を現実に把握した上での態度と転移による態度の混合物となる。これを見分けるのが大切で、かつ困難であることもある。観察する治療者側にも逆転移が起こるからである。自分一人で考えるのではなく、複数の目で考える習慣を持っておくと、次第に自分を客観視できるようになるだろう。また、スーパーバイザーがいれば役立つ。

1056
転移神経症
現在の神経症に対して精神療法を始めると、転移が発生し患者の心を占めるのは現在の葛藤ではなくて、過去の葛藤になる。この状態では現在の症状は消えるので転移性治癒という。一方で過去の葛藤が活性化されることにより新しい神経症症状が発生し、これを転移神経症という。
フロイト精神分析療法では神経症を転移神経症に変換し、症状を診察室内に限定した上で治療を進める。

1057
解釈
「一日中、人の悩みを聞いて頭がおかしくなりませんか」
→自分の悩みはきちんと理解されているかというメッセージ。

「結婚していますか」「子供がいますか」
→夫婦のことが分かるのか、親の気持ちが分かるのかというメッセージ。

「年はいくつですか」
→充分な経験があるかどうか心配なんですね、大丈夫ですよ。

「心理学科に進みたい」「医者になりたい」
→陽性転移

解釈はタイミングが大事。

1058
抵抗
治療に対する抵抗のこと。治りたいから面接を続けているのだが、症状はある面では葛藤のなまの噴出を阻止している有益物でもあるので、症状を消すことには無意識のためらいがある。そこで無意識に治療に抵抗することになる。沈黙、無関係なことの多弁、繰り返し、話題の回避、知性化、一般化、時間の変更、キャンセル、時間短縮、治療者変更要求などがある。現実的で妥当なものか、治療抵抗なのかを判断して、治療抵抗と判断された場合には解釈して操作する。

1059
自我異和的と自我親和的
全面的な自我異和化が離人状態である。

1060
超自我
道徳とか倫理とか言われるが、親に、まわりの人に、さらには神に立派だと言われたい欲望だと言ったら不正確だろうか?道徳だけをことさらに取り出したのは、フロイトの時代の病理のポイントが道徳感情にあったからではないか。結局道徳感情も欲望のひとつである。満たされれば満足するし満たされなければ不安に襲われる。
教育によって生ずるとするのも、どうだろうか?動物にも愛他的行為は観察されている。特別の地位を与える必要もないのではないか?
心の装置としては、諸欲望と、それらに重み付けをする部分だけで充分である。

1061
現実原則と快感原則
欲望を満足させようとするのが快感原則。欲望満足にあたって、「今は我慢して将来のより大きな快感とする」のが現実原則である。つまり一時的な抑圧である。
現実原則を快感原則に対比させることには疑問がある。現在の満足と将来の満足のどちらが大切であるかということであれば、結局は大きな快感を選ぶというだけのことである。
(空想原則と現実原則とを対比させるのはどうか?それなら「現実」の言葉に意味がある。)

1062
防衛機制はいくつもあって、原則がない。これで全部なのかどうかも分からない。これは無原則な偶然の採集にまかせられているからである。たとえば昆虫採集がそうである。精神医学分野では、性格障害もそうである。全体を見通す原則がなく、これで全部という枠組みがない。
ある人たちは無理な理論化や分類はただ頭の中にあるだけで無意味であるとして、現実に存在する個別のものだけに価値があるとする。
別の人たちは分類して構造化して理論化することに知的興奮を感じるとする。
山内名誉教授はどちらかといえば前者で、私は後者である。

1063
神経症
子供の頃に適応的であった行動パターンを、大人になって不適切な場面で再生することにより生じる。「なぜ過去の・現在は不適応の行動パターンを用いるのか」、それがそのまま「神経症の原因は何か?」と同じ意味である。
現在の行動パターンが不適応な場合、順次古い行動パターンを試してみる。これを退行という。フロイトの考えでは男根期から肛門愛期、口愛期の順に退行する。
いくつかの不適応行動が続き、あるところで症状形成し神経症として社会に認知されることになる。ここでそれなりに落ち着く。この「あるところ」を固着点という。

1064
防衛機制(G.E.ヴァィラント。西村良二の紹介)
?自己愛的防衛=現実を変えること・正常五歳以前
・妄想性投影
・否認=外的現実についての否認。精神内界のことをは含まない。
・歪曲
?未熟な防衛 3〜16歳くらい。
・投影=自分のものと認めたくない気持ちは他人に属していると考える。
・分裂質性空想=孤独な引きこもり。
・心気症
・受け身的・攻撃的行動=先延ばしなど。
・行動化
・退行
・自己へ向かうこと=他人への怒りが自分に向かうなど。
?神経症的防衛=内的感情を変える。
・知性化=感情に気付かず、形式的。
・抑圧
・置き換え
・反動形成
・解離
?成熟した防衛
・愛他主義
・ユーモア
・抑制
・予期
・昇華

1065
フロイトの局所論
意識、前意識、無意識。普段は意識していないが、意識しようと努力すれば意識できるものが前意識。

1066
フロイトの構造論
イド、エゴ、スーパーエゴ
イドは欲動、本能的欲求
エゴは欲動の調整
スーパーエゴは道徳規範や理想自我、禁止と脅かし罪悪感‥‥検閲、自己非難、良心、理想形成作用

1067
ARISE adaptive regression in the service of ego
自我の統制下における自律的退行
Kris,E.による。自我機能のある部分は退行するが、観察自我のような別の部分は退行せず、自我が一次過程的思考を自由に使用して、創造活動を行い、うっ積したエネルギーを解放したり、自我エネルギーを充填したりする。このゆうな自我の前意識的自律性をARISEと呼んだ。
分析療法では、治療者も患者もARISEの状態で退行し、治療的・共感的交流がなされることが大切である。(いさお氏による)
治療的退行もしくは一時的・部分的退行と重なる概念。直訳は「自我に役立つ適応的退行」である。

1068
のみ込まれる不安
Guntripによる。

1069
disease と illnessと神経症
disease=客観的身体的病理があり、病因が分かっている。
illness=主観的苦しみ。
精神科疾患では病因は複合的であり、明白な病理が提示できないものが多い。したがって、mental diseaseよりはmental illnessと呼ぶのが適切な場合が多い。
実際、始まりの部分はdiseaseであるとしても、それについて悩んだり不安を感じたりして病状を修飾する。その部分はillnessである。
精神療法や薬剤は必ずしもdisease部分に作用しているのではなくて、むしろillness部分を緩和している場合が多いのではないか。
そしてそれも大変に有効である。「自然治癒力を引き出す」と言ってもいいし、「ダムの水位が上がれば自然と問題は隠れてしまう」でもいいし、「中心の問題と、周辺の不安」と説明してもよい。
diseaseに対する反応としてのillnessと考えるとして、精神病の場合には、反応の仕方も壊れている。したがって、illneaaの現れ方も異常な反応になっているのだろう。ここで困難が二重になる。

最初にあるものが、diseaseでもよいし、その他のきっかけでもよいのではないか。→こう考えると、diseaseなしのillness純粋型が考えられる。それを神経症と呼べばいいわけだ。

1070
遺伝的に獲得される無意識は形式だけを保存している。つまりは内容を待っている。そこに現実が入ればとてもよい。しかし別のものが入ることもある。たとえば夢。現実のかけらをもとにして組み立てる。

1071
片頭痛
頭痛のひとつのタイプで、血管性頭痛と考えられている。発作性拍動性激痛が多くは片側性に生じ、吐き気、嘔吐を伴うことが多い。持続は数時間から一、二日程度であり、はじめは拍動性で、次第に持続性の鈍痛へと移行することが多い。閃輝暗点などの前駆症状があるものを典型的片頭痛と呼び、前駆症状の明らかでないものを普通型片頭痛と呼んでいる。発作初期に酒石酸エルゴタミンを使うのがが有効で、予防薬としては抗セロトニン薬などが用いられる。

1072
筋収縮性頭痛
muscule contraction headache
精神的緊張や特定の姿勢が続くと、頭蓋をとりまく筋肉の持続的収縮が起こる。これが血管収縮を引き起こし循環障害につながる。すると発痛物質が発生し、頭痛を感じ、これがさらに緊張を引き起こし、筋肉での循環不全が持続固定する。筋収縮と循環不全が肩に起これば肩こりとして自覚される。頭蓋筋に起これば、頭痛として感じられる。
治療はリラックスを促進すること。

1073
三叉神経痛
trigerminal neuralgia(TN),tic douloureux
顔面領域の激痛発作で、洗顔、歯磨き、食事に支障を来すことがある。カルバマゼピンビタミンB1,B12が試みられる。痛みの機序がneurovascular compression(神経動脈圧迫。前下小脳動脈が三叉神経を圧迫する。)の場合には、神経血管減圧術により外科的に圧迫を取り除く。このほか脳腫瘍や動静脈奇形による三叉神経圧迫が少数ある。

1074
カウンセラーの態度
ロジャーズは、?自己一致?共感?積極的関心?無条件の関心の四つをあげている。

1075
アイデンティティ
本当の自分。
アイデンティティには、自分で選んだものと、選ぶことなく(自然に)決まったものとがある。後者の例としては、長男アイデンティティとか、貧乏とか、性別とか、知能、運動能力など、人生のかなり大きな部分を占める。それは結局受け入れざるを得ないことが圧倒的に多い。拒否していてもそれは無理というものだ。それがその人の人生の条件なのだ。変えられないものは受け入れるしか道はない。いかにして受け入れるか?いやいやながら従うか、条件として受けとめて、そこから積極的に人生をつくって行くか。つまりは人生に対して積極的になれるかどうか。人生の主役は運命ではなく自分である。

満足       不満
自己選択 自信    後悔・やり直し・自責
非選択 自然・当然   他責・無力感

1076
受容
受け入れ、肯定すること。カウンセラーの患者に対する態度として用いるときには、患者の何を受け入れ肯定するかによって、違いが生まれる。いわゆる受容派は患者を人格として無条件に受け入れ尊重し、あるがままのその人全部を受け入れる。ここに価値判断はない。アンチ受容派は患者の心の健康部分を受け入れる。
ロジャーズは受容とは「積極的・肯定的関心」と同義であるとしている。またカウンセラーと患者の両方が、「私は理解され受け入れられている」と感じている状態が真の受容であるとする記述もある。
考え方の違いは人間観の違いにもよるが、おもに患者の病理の種類によると考えられる。全面的に受容すれば育って行く人は病理としては深くないと言える。病理の深い人には受容と非受容の両方を使う必要がある。
たとえば、母親は子供の全部を深いところでは全的に受容している。しかし浅い部分では、教育の方法として、部分的受容を用いるのである。治療者の態度としてもこの二つの受容があるので、区別が必要である。
治療者が受容という言葉に縛られて、きちんと指導できない場合があると聞いているが、受容が必要な場面と指導が必要な場面とを区別する必要があるだろう。

1077
アタッチメント
ボウルビイの愛着理論の「愛情による結びつき」を指す。

1078
マスローの欲求階層説
米国の心理学者アブラハム・マズローは、1950年代にアメリカの都市生活者にアンケートをとり、その結果、欲求には低次なものから高次なものに向かう階層的構造があり、低次の欲求が満たされると次の段階の欲求が生まれると考えた。
?生理的欲求……呼吸、飢え、渇き、排泄、睡眠、性など
?安全欲求……恐怖・危険・苦痛から逃れられること、保護者
?所属欲求……帰属感、愛(家族、新興宗教、企業など)
?自己評価(self-esteem)欲求……他人からの尊敬、承認
?自己実現(self-actualization)欲求……自己実現(?の他人からの評価と異なり、自分が自分の人生を実現して行く。)
?がもっとも低次で、?がもっとも高次である。たとえば、お腹が空いている赤ん坊はオッパイを欲しがるだけである。お腹が一杯になった赤ん坊は保護者からの庇護を求める。生理的欲求が満たされ、安全も保障されると、何かに帰属することを求める。これはアイデンティティを求めることの始まりである。社会への参加である。次にはその社会の中で承認を求めるようになる。最後には社会に規定された自分の意味にとどまらず、自分が自分の人生に意味を与えてゆく段階に達する。マズローは後に?自己超越欲求を加えて、全体で六つの階層を考えた。自己超越の欲求は、各段階で次の段階に進もうとする欲求なので、各段階で常に機能していると考えてもよい。そして、自己実現を超える高次の状態があることも示唆している。トランスパーソナル心理学ではそうした高次の状態を探求する。

1079
寄る辺なさ
helplessness
乳児の無力感をあらわすためにフロイトが用いた言葉。人間の乳児は生まれた時に全く無力であるため、食事などの生理的欲求や安全欲求を満たすために全面的に他者(とくに母親)に依存しなければならない。この全面的依存状態を寄る辺なさ(helplessness)と表現した。

1080
季節性感情障害
seasonal affective disorder
=季節うつ病
秋冬にうつ状態になり、春夏には回復する経過を反復するうつ病のタイプ。二十歳台の女性に多く、家族内発生があり、高緯度になるほど多く、過眠、過食、体重増加などうつ状態としては典型的でない症状を伴うことがある。寒くなるとたくさん食べて太り、その後眠り続け、春になると回復するのは冬眠に似ていると言われる。日照が少ないせいで起こると考えられ、高照度光照射療法がすすめられる。蛍光灯が何本か並んだ光照射器の前に朝夕座る。日照時間が長くなったような錯覚を起こせばうつは消える。必ず効果があるというわけではないが、よく効く症例がある。
当然メラトニンとの関係が問題になるが、確定的な知見は未だないようである。
季節うつ病うつ状態の中でも心理因子が関与しないタイプのもので、興味深い。

1081
イメージ療法
image therapy
たとえば、T細胞がガン細胞を攻撃している様子を具体的に強くイメージすることによって、実際にガン細胞に対する生体の攻撃力を高める療法。また自分が再び元気になって生き生きと人生を生きている姿を具体的にイメージすることが自己治癒力を引き出す。
神経系と免疫系の関連は神経免疫学でも盛んに研究されている。

1082
睡眠遮断法
たとえば当直をしていて睡眠不足になった次の日には軽躁状態になることがあると言われる。睡眠遮断は即効性の抗うつ効果があると言われているので、睡眠遮断法が用いられることがあると文献にはある。しかし実際にはうつ状態の患者さんは睡眠不足で悩んでいることが多いので、どのうつ状態でもすすめられるというものでもないようである。反応性の軽度のもので、薬を使うほどでもないうつ状態ならばちょうどいい適応かも知れない。
睡眠リズムのずれと、睡眠中の脳内神経伝達物質の処理中断との両面が考えられる。

1083
エゴグラム →心理テスト

1084
エレクトラ・コンプレックス
Electra complex
女の子が父を愛し、母を憎む気持ちを持つこと。ユングが記載した。ギリシャ悲劇「エレクトラ」または「供養する女たち」による。ミケナイの王アガメムノンは妻とその愛人に暗殺された。そのことを知ったアガメムノンの娘エレクトラは弟と協力し実の母を殺害する。
エディプスコンプレックスの女性版と言える。ただし、エディプスコンプレックスは男女で区別することなく用いることも多い。
「大きくなったらパパのお嫁さんになるの」と語る女の子は少なくない。

1085
エンカウンター・グループ
encounter group
Tグループ(感受性訓練)やロジャーズのエンカウンター・グループが起源とされている。10人程度のグループで、一人か二人のファシリテーター(促進役)が加わり数日の合宿を行う。課題なしに自由に、または何かの課題について、話し合いつつグループ体験を深める。集団の中で防衛を解除してゆく。よい自己変容の感覚が生まれたときには有意義であるが、逆に急性精神障害の発病や心理的損傷が見られたりするので、導入の可否の判断には細心の注意が必要である。

1086
音楽療法
music therapy
音楽が精神的に作用を持つことは誰でも体験していることで、治療法としても有効であろうと推定することは容易である。しかしさらに一歩踏み込んで、どんなときにどんな音楽がよいのか、なぜよいのかという点になると、あいまいなままである。「気分に合わせて好きな音楽を聴きなさい」と言える程度である。
特有の音の並び方が特定の脳内神経回路を刺激するとか、音の記憶が昔の心地よい記憶を再生するとか、メロディーかリズムかとか。また演奏することと鑑賞することとの違いなど。いろいろな話題は考えられるが、確かなことはあまりない。

1087
絵画療法
art therapy
言語チャンネルを通さない表現のひとつである絵画を利用した精神療法。レクリエーションの意味あいが強いものから、診断的意義が強いもの、治療関係を作る方法としてのもの、カタルシスを狙うもの、さらにはイメージの世界の再構成を狙うものまで、幅広い。
具体的に紹介すると、
?空間分割法。画用紙に線を引いて画面を分割し色を塗る。
?なぐり描き法。スクリブル(scribble)法では、自由になぐり描きした線に色を付ける。スクイグル(squiggle)では治療者と患者が交互になぐり描きと色付けを行う。
?バウム・テスト。木を描いてもらう。
?人物画。グッドイナフ。人間の全身像を描く。
?風景画法。TPH(木、人物、家)をセットで描くものや川、山、田、……と順次描く風景構成法がある。
?家族画法。家族が何かしているところを描く。
このなかでも風景構成法が特に有用である。

1088
風景構成法
中井久夫の創案になる。はじめは箱庭療法への導入の適否を判定する資料としての意味あいもあったという。
B5のケント紙にサインペンでまず枠を描く。(枠なしの技法もある。)川、山、田、道、家、木、人、草花、動物、岩・石・砂、その他つけ加えたいものの順に描く。次にクレヨンで色を付ける。最後に味わいつつ、絵についてすこし話す。診断の意味もあり精神内界の再構成の意味もある。患者は解釈を聞きたがるが、一枚の絵で何が分かるというものでもない。中井はP型(paranoid)とH型(hebephrenie)に分けている。解釈はこの程度が妥当であると思う。

1089
カウンセラー
counsel(l)or
人の話を聞いて慰めてあげればそれでカウンセラーだという素朴な常識が一方にあり、他方ではカウンセラーは高度の専門職であるという考え方がある。もちろん後者が正しいのだが、高度の専門知識は何かということが難問である。特に患者さんには分かりにくいところがある。医者は薬を出したり、時には注射をするから、心理職よりは専門性が分かりやすい。
患者さんの中には、「ただ話を聞いているだけじゃないか」「ただ話し相手になってくれるだけなら隣のおばちゃんと同じだ」「ただ絵を描いただけだ」「もっと根本的に治してくれないのか」などといった感想が出ることがある。
そしてカウンセラーと自称している人の中には、まったく「隣のおばさん」と変わらない人もいるので、上の批判は当たっている場合があるのである。
しかし「本物のカウンセラー」は目に見えて違うかと言えば、そうでもない。むしろ、自分の意見や経験を押しつけてくるタイプの人や(いわゆる悪い意味での)宗教家じみたタイプの人が「本物のカウンセラー」らしく映ったりする。

1090
診断面接
・うつだと見当がついたら→SDSを施行。「うつの患者さんへ」と「うつの患者さんのご家族へ」を手渡し説明する。薬が心配な人には「薬について心配している方々へ」を手渡し説明する。その後に風景構成法などの心理テストを計画する。心理面接は掘り下げるのではなく生活指導でよい。よく休める環境を作ることができるように援助する。
分裂病だと見当がついたら→症状について詳しく聞くのは一、二回だけ。あとは生活指導。精神療法的には風景構成法程度。深い話や精神内界を問題にするのではなく、表層的に。現実的な話をして現実把握を根付かせることが大切。またどうでもいいことについては話を合わせてはいはいと付き合う。おおむね向こうのペースでよい。
神経症→こちらから問いかけをしなくてもどんどん話してくれるのが神経症。心気症や心臓神経症が典型的。共感しながら聞く。意見はたいてい無効。「そうですか。大変ですね。」と太鼓持ちをして、「この人は何ヶ月かかるかな、何年かかるかな」という気持ちで付き合う。心理テストも喜ぶので適当に入れる。
・生活指導の中心は「睡眠・食欲・便通、薬の飲み心地」。これは医師が尋ねるのが適切。
・上記以外はもっぱら心理が対応する。
・アル中、薬中は範囲外。

1091
薬は前景症状に対して出すのか、背景病理に対して出すのか
原則として、前景症状対して出すと考えてよい。なぜなら、背景症状の診断は間違うことがあり、かつ患者は端的に現在の症状を早く消して欲しいと願っているからである。

1092
前景症状と背景病理で考えれば、患者の把握が立体的になる。投薬も精神療法も二段構えになり、立体的になる。大変よろしい。

1093
共感とは
間違いは、患者の状況を聞いて、治療者の経験を呼び起こし、そこから類推する態度。正しくは、患者の話のままに患者の状況を想像の中で生きてみて、感情を体験すること。しかしこのような理想的な共感はできるはずもないので、ある程度は治療者の個人的な体験が影響する。たとえば、母について、故郷について、海の思い出などには自分なりの色が付いている。しかしそれらをいったんできるだけ無色透明なものにして、患者の語るとおりの色づけをして体験する努力が大切である。それが共感である。「私の父も早く死にました。だからお気持ちはよく分かります。」といった類は共感とは言えない。自分の気持ちが分かっているだけである。体験の外形の一部の類似を手がかりとして体験全体の一致を主張することに近い。むしろ、「私の父も早く死にました。あなたの場合と自分の場合とどんな風に違うか考えてみたいのですが。」と言って詳細化を促すのがよい。

1094
ジェームズ・ランゲの説
ジェームズとランゲが別々に唱えた説で、人間は悲しいから涙が出るのではなく、涙が出るから悲しいのだとする説。つまり、情動が身体的変化を引き起こすのではなく、身体的変化が情動を引き起こすという説である。現在でも論争になっているらしい。
?泣かない人は悲しさを感じないだろうか?悲しくないのに泣く人はいるだろうか?この考察からは悲しみが先で、泣くのは後。悲しみに泣くことが続く場合もあり、続かない場合もある。しかし泣くことの前には悲しみや悔しさの情動が必ずある。
?身体を持たない脳は情報に接したとき悲しまないのだろうか?多分、悲しむだろう。
?悲しみと泣くこととは同時ではないのだろうか?情報に接したとき、両者が同時に起こるのではないだろうか。それだけのことではないか。悲しいから泣くのではない。ある情報が悲しみと泣くことの両方を引き起こすのだろう。

1095
ガンに対する精神療法
?自分や配偶者がガンであると知ったときの絶望に対するケア。
キュブラー・ロスによる悲嘆のプロセスは、?拒絶?怒り?取り引き(神との取り引き)?抑うつ?受容。
アルフォンス・デーケンの悲嘆の12段階は、?マヒ状態?否認?パニック?怒りと不当感?敵意と恨み?罪意識?空想と幻想?孤独感と抑うつ?精神的混乱と無関心?あきらめ・受容?新しい希望・ユーモアと笑いの再発見?立ち直り・新しいアイデンティティ

?神経系と免疫系の密接な関係を背景として精神面から免疫系を動かす試み。未来に希望を持つこと、人生の目的を持つこと、動物と触れ合うこと(アニマル・セラピー)などがガンの治療に際して有効であるとされる。また、イメージ療法として、自分の免疫細胞がガン細胞を攻撃して打ち勝つ様子を思い浮かべることが有効で、実際に免疫系が活発になるとの実験がある。
免疫系と神経系の類似については、伝達物質とレセプター、記憶作用など不思議なくらいの類似があり、発生過程を考えれば、同根のものではないかとの推定もある。この分野を神経免疫学という。

1096
前景症状と薬剤
不眠 ロラメット(1)1T
不安状態 ベンゾジアゼピンデパスソラナックス、長時間はメイラックス
パニック ソラナックストフラニール
離人 フルメジンスルピリド
強迫・恐怖 アナフラニールレキソタン
対人恐怖
心気 PZCスルピリド
そう セレネース
うつ 抗うつ剤テシプール)・デパスソラナックス
幻覚妄想 メジャー(セレネースコントミン
摂食障害 
人格障害 

1097
くすり
はじめの処方は デパス(0.5)1T 1×v.d.S 7TD
次の処方はN,S,Dと三つに分けて考える。
N→デパスを1〜3mgの範囲で調整。
S→
デパス(0.5)1T+セレネース(0.75)1T+アキネトン(1)1T 1×v.d.S 7TD
D→
デパス(0.5)1T+テシプール(1)1T 1×v.d.S 7TD

このあとも急には増やさない。一粒ずつ。
何より大切なのは、副作用を感じさせないこと。
薬について、パンフレットを手渡して、作用と副作用について説明する。

1098
危機介入
crisis intervention
自殺や犯罪の危機に際して、緊急対応して危機を回避させること。現代では電話が特に有効である。

1099
喪失体験、直面化、惚れ込み、外国文化受容など、みな類似の経過をたどる。
まず都合のいいように現実を歪曲してみる。これが精神病的防衛機制。つぎに自分の気持ちを歪曲する。これが神経症防衛機制。そのあとでやっと正確な状況把握が生まれる。
前二者は否定から受け入れへ向かう。後二者は過大評価から幻滅を経て受け入れへ向かう。

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カウンセリング
カウンセリングは素人にできるようなものではないから決してしてはならないなどと言いつつ、ではその専門性はどこにあるのかといえば、怪しいし、カウンセラーの方々の質は現実にはあまり高くないようである。はっきり言えば、カウンセラーだと言って理論を振り回したり、絶対の受容を実践したりする人よりも、健全な常識人が知人として相談に乗った方が被害は少ないものである。
ただひとつお願いしたいことは、まず分裂病うつ病の診断を正確に行って欲しいということだ。こじらせてから「やっぱり医者に行け」というのでは困る。患者は余計に傷つくし、治療も難しくなる。