こころの辞典901-1000

901
アナクリティック・デプレッション
anaclitic depression
アナクリティックは母親への依存の意味。母親を奪われたときの子供の抑うつをアナクリティック・デプレッションと呼ぶ。anacliticはスピッツによる造語で「よりかかる・依存する」の意味。母性的養育の大切な理由である。

902
ウィルソン病
Wilson’s disease
先天性銅代謝異常である。肝レンズ核変性症 hepato-lenticular degeneration とも呼ばれる。銅と結合するセルロプラスミンの合成不全が原因で、肝臓、角膜、脳などに銅が沈着する。錐体外路症状として振戦(羽ばたき振戦)や筋固縮が起こり、ほかにはカイザー・フライシャー角膜輪、肝硬変などが見られる。精神面では初期には抑制欠如、情緒不安定など、末期には知能低下などを呈する。レンズ核淡蒼球被殻のこと。

903
正常圧水頭症
normal pressure hydrocephalus
老人に多く、痴呆、歩行障害、尿失禁が三大症状である。髄液圧が正常であることから名付けられているが、現代では画像により診断できる。脳質は拡大しているが皮質の萎縮がない。外科手術により治療可能なことがある痴呆なので、見落とさないことが大切である。
水頭症は髄液が過剰になり、脳室が拡大し髄液圧も高くなるのが一般である。乳幼児の場合には頭そのものが大きくなる。正常圧水頭症では髄液圧が上昇しないので不思議であるが、睡眠中には髄液圧の上昇が見られるとの報告がある。髄液再吸収機構に問題があると考えられている。

904
性的小児症
sexual infantilism
性的発達不全を示すもので、精神的にも人格未熟、情緒不安定、被暗示性亢進、自己中心的、依存的、信頼関係欠如などの問題点が指摘されている。疾患としては下垂体性として類宦官症、小人症、性腺原発性としてターナー症候群、クラインフェルター症候群、視床下部性として、フレーリッヒ症候群、ローレンス・ムーン・ビードル症候群などがある。
以上のことは、?生育のプロセスで精神発達と性的発達の関係の深さを示唆する。?脳の形成のプロセスでの性ホルモンの重要性を示唆する。?逆に、性的機能形成において脳からの刺激物質の重要性を示唆する。
また、脳の形成の観点から見ると、胎児期と第二次性徴期の二度にわたって、性ホルモンの重要な時期があると考えられる。胎児期、特に視床下部分化期に性ホルモンの影響を受けて脳の特性が決定され、思春期以降の性行動が決定されるとの主張がある。当然、脳への影響は性行動に関連する部分だけではないであろうと推定される。
第二次性徴期は精神分裂病の好発年齢の開始期であり、かつ真の意味での創造性の始まる時期でもある。いずれも体系的な空想活動に関係している。

905
月経前緊張症候群
premenstrual tension syndrome
月経開始前二週間くらいから始まり、月経が始まると症状が消えるもので、情緒不安定、頭痛、不眠、イライラなどが訴えられる。ときに離人感も生じると文献にはある。乳房痛など、性ホルモンの影響が明白と考えられる症状も見られる。
感情や思考に性ホルモンがどのようなメカニズムで関係しているか、実に興味深い。

906
レンズ核淡蒼球被殻
被殻尾状核線条体
内包はレンズ核を内方から包む白質部。
視床の外側に淡蒼球、その外側に被殻がある。

907
発症機構・構造と内容
・下痢のたとえ。
腐ったものを食べたから、下痢をした。→神経症タイプ。
ストレスが強くて下痢をして、夕べ食べたものが出てきた。→症状の形式と内容は別。精神病タイプ。

908
治療と役割
・「役割」は社会参加のモードである。大切。社会に素裸で参加するのではなく、役割という「洋服」を着て参加するのである。役割は社会での自己認知である。
役割の認知を通して、社会機能を再建する。

909
分裂病の予防
・アリエティが指摘しているように、イスラムキブツでは分裂病の発生が少なく、それは集団母親体制が有効に機能しているからではないかとの考え方がある。近代社会は、核家族化の方向に向き、それは結局、母親の機能不全を補完するものを奪ったのではないか。大家族や村社会で生きていた当時は、子育てに向かない母親は子育てをしないで住んでいたかも知れない。分裂病の素因を持った子供は素因をそれ以上発展させることなく終わったかも知れない。
・もしそんな事情が実際にあるのなら、分裂病の予防に有効な方法である。
現代社会では、ベビーシッターや保育所、託児所の活用が考えられる。

910
錐体外路症状
extrapyramidal symptom
錐体路は随意運動系であり、錐体外路錐体路を修飾する不随意(自動調節)運動系である。錐体外路系に司令を送るのは大脳基底核であり、その詳細は尾状核レンズ核淡蒼球被殻)、視床下核(Luys体)、視床黒質赤核などである。尾状核被殻とを線条体と呼び、線条体大脳基底核の中心的な働きをしている。錐体外路疾患はこれらの場所での異常が原因になる。黒質線条体系のドーパミン欠乏ではパーキンソン症候群が起こり筋強剛・寡動タイプである。ハンチントン舞踏病では筋緊張低下・多動となる。薬剤性パーキンソン症候群では抗パーキンソン薬でおおむねコントロールが可能である。

911
ウェルニッケ脳症
Wernicke’s encephalopathy
アルコール多飲に伴うビタミンB1(サイアミン)欠乏によるもので、眼筋麻痺、意識障害、運動失調が古典的三徴候である。路上に倒れていた原因不明の意識障害の患者がかつぎ込まれたときには、点滴にサイアミンを混ぜるようにすすめる指導医もいる。コルサコフ症候群に移行することも多いとされる。

912
現実モデルの重層性
意識・個人的無意識・集合的無意識
赤ん坊のときは集合的無意識から個人的無意識と意識が作られてゆく。次第に集合的無意識と個人的無意識から個人的無意識と意識が作られてゆく。つまり、上位のものを作るとき、下位の構造が役立てられる。

意識・個人的無意識・集合的無意識の複合体=現実モデル
無意識とは、主に「構造」だけを供給する。内容は意識に蓄えられる。?
集合的無意識は「構造」を主に提供し、意識は内容を主に提供する。個人的無意識は中間である。?

913
絵画解釈の指針
→そのイメージは心のどの層から出たものか?
意識と二つの無意識。
無意識の構造‥‥集合的無意識と個人的無意識
?集合的無意識とは、系統発生的に蓄えられた現実モデル。遺伝子情報である。系統発生的現実モデル。
?個人的無意識とは、個体発生(生育歴)から蓄えられた現実モデル。個体発生的現実モデル。
?言語システムに蓄えられた構造がある。(たとえば、概念同士の関係。)これは長い歴史の間に現実を転写したものもあるし、偶然が重なってそのままになっているものもある。
言語システムは意識層と個人的無意識層にプールされる。
(名詞に男女中性がある言語では、たとえば「太陽」のイメージに性がつきまとうかも知れない。)

?現実モデル(意識・個人的無意識・集団的無意識)と?空想、?照合・棄却。これらのどのレベルから出たものであるか。

言語システムの問題は小さくない。自意識の発生と言語の使用は密接な印象がある。

914
理系の真実と文系の真実
真実の参照先が違う。理系は経験・その洗練されたものとしての実験の真実、文系は集団の真実。

915
妄想かどうかは誰がどのように決めるのか?医師が正しいという保証はあるのか?医師は何を根拠にして自分が正しいと判断しているのか?
→端的に言えば、医師の頭の中にある現実モデルを参照して決めている。

916
術後精神病
postoperative psychosis
【関連語】ICU(集中治療室:intensive care unit)精神病
外科手術の後に精神症状を呈することがある。器質因、心因、内因という精神医学の伝統的な分類に従えば以下のように三分できる。
?器質性症状
疲労、麻酔、電解質バランス異常などの、手術にともなう肉体的ストレスは意識障害をはじめとする急性器質性症状を引き起こす。また基礎疾患による精神症状(肝不全など)として意識障害を中心とする器質性症状が現れる。
?心因性症状
手術や環境による心理的ストレスが心因として作用する場合は不安、心気、抑うつなどを引き起こす。特にICU精神病では、極度の不安や隔離された人工的な環境などにより精神病状態が見られる。子宮摘出後や乳房切除後には女性アイデンティティの喪失問題などとも関係するのでやや長期の精神療法も必要である。
?内因性精神病の顕在化
手術に伴うストレスが、潜在していた内因性精神病を顕在化する場合がある。

917
脳平衡不全症候群
cerebral disequilibrium syndrome
【関連】人工透析、腎不全、透析脳症、透析痴呆、進行性透析脳症
慢性腎不全患者に対する人工透析開始時に、体液成分が急速に正常化されるために頭痛、嘔吐、軽度意識障害が起こることを指す。ほかに人工透析では社会生活が大きく制限されるので患者は喪失体験に苦しみ、うつ状態を経過することがある。心因性の病態に対しての精神療法が必要である。
長期にわたる透析療法は非可逆的慢性器質性脳障害を引き起こすことがあり、透析脳症(dialysis encephalopathy)や透析痴呆(dialysis dementia)といわれる。感情不安定・知能変化・性格変化などが急速に進行するものが進行性透析脳症(progressive dialysis encephalopathy)であり、原因はアルミニウムなどが推定されているが明白ではない。現在日本での人工透析患者数は十万人以上、平均年齢は五十歳以上であり、精神面でのケアも大きな問題である。

918
治療薬による精神病
薬物依存を形成するタイプのものと、有害副作用によるものとに大別される。症状としてはうつ、意識障害、幻覚妄想に大別されるが、使用量・期間・原疾患によって異なるし、大部分では複合した症状が出る。あえて分類すると以下のようになる。
うつタイプは、ドーパ(抗パーキンソン剤)、レセルピン(抗圧剤)、メチルドーパ(抗圧剤)、プロプラノロール(βブロッカー)、ヒドララジン(抗圧剤)、グアネチディン(抗圧剤)、ステロイド(副腎皮質ホルモン)、経口避妊薬、サイクロセリン(抗結核剤)、INH(抗結核剤)。
意識障害タイプは、ジギタリス(強心剤)、アンタブース(抗酒剤)。
幻覚妄想タイプは、ペンタゾシン(鎮痛剤)、トリヘキシフェニディール(抗コリン剤)、アトロピン(抗コリン剤)、スコポラミン(抗コリン剤)、アマンタジン(抗パーキンソン剤)、エフェドリン気管支喘息治療剤)。
たとえば抗圧剤がうつ状態を引き起こすことに関しては、?薬自体の有害副作用(レゼルピンはカテコールアミンによる神経伝達を阻害する)の場合がある。?血圧が低下したことによるうつ状態または攻撃性低下の可能性がある。攻撃的だった人が急に落ち着くとコントラスト効果で元気がないように見える。?さらには血圧の下げすぎで脳梗塞が発生し、その結果としてうつ状態が起きていることもある。?逆に、服薬していても高血圧が存続し高血圧脳症の症状として意識障害があり、それがうつ状態と見えることもある。
またSLE(自己免疫疾患のひとつ)の場合の感情障害は原疾患によるものかステロイド剤によるものか複合したものか、区別は難しい。
意識障害や幻覚妄想については、服用開始時期や用量から比較的原因は明瞭であるが、脳器質障害が併発しているときには原因が不明確になる。また、潜在していた内因性精神疾患や脳の脆弱性がこれら薬物や病気のストレスによって顕在化する場合もある。
患者さんは自分の感覚から薬が原因ではないかと医者に尋ねる。半ば責めるような口調になり、また投薬した別の医師をともに非難することを求めるようでもある。精神症状について薬が原因ではないかと疑うことは必要であるし、実際に薬が原因のことは多いのであるが、しかし上記のような事情もあるので、慎重に考え、決めつけない方がよい。

919
てんかん
epilepsy
発作性脳律動異常を原因し、運動発作や各種精神症状を呈する疾患。かつては精神分裂病躁うつ病とともに三大内因性精神病のひとつとされ精神科医が診察していた。脳波検査によって発作性脳律動異常を検出できるようになって、てんかん発作の裏付けとなる各種脳波が見いだされてからは内因性精神病からは除外されている。てんかん発作の初発は幼小児期から思春期にかけてのことが多いので小児神経医が診察し、成人してからは神経内科医または精神科医が診察を引き継ぐことが多い。脳内の手術可能な病変が原因の場合や脳手術後にてんかん発作が始まった場合には脳外科医が診察する。
てんかんは脳に原因があってひきつけを起こす病気なのにどうして精神科医が診察するのか」と聞かれることがあるが、てんかんは種々の精神症状を伴うからである。意識障害から幻覚妄想状態まで、性格変化から痴呆までいろいろある。脳外科で診察しているてんかんの場合も、精神症状で問題がある場合には精神科に相談に来ることも多い。
発作時の症状によって名付けて分類するのが伝統的であり、大発作型、欠神発作型、精神発作型、精神運動発作型、自律神経発作型などがある。誤解の余地なく伝えるためには国際分類に従うのがよい。発作時脳波がなくても、臨床所見と非発作時脳波があれば性格に分類できるすぐれたものである。?意識障害を伴う=「複雑」、伴わない=「単純」、?脳波異常が限局=「部分」、脳波異常がすみやかに全体に波及=「全般」、部分から始まり全体に波及する様子が分かる「二次性全般化」という分類を軸に行われる。
治療は薬剤によるコントロールが主体である。ドストエフスキーの作品の中にてんかん発作の描写が書かれていて、有名である。

920
大発作
grand mal
=強直・間代性発作(tonic-clonic seizure)
もっとも代表的なてんかん発作のタイプ。意識消失に続いて四肢が伸展(tonic)、次に四肢が収縮と弛緩を繰り返す。一分以内程度で後睡眠に移る。逆行性健忘を残すことがある。発作の直前に前兆(アウラ aera )が起こることがある。眼前に光を感じるなどが典型的である。大発作がいったんおさまってまたすぐに大発作が起こるものをけいれん重積状態 status epilepticus という。ジアゼパムを注射する。発作を繰り返すたびに脳神経細胞はダメージを受け不可逆変化を残す。

921
単純欠神発作
simple absence seizure
子供に好発する。意識が数秒間消失し、回復する。突然始まり突然終わり、話は中断し、手にもっていた物は落とす。倒れることは少ない。純粋小発作 petit mal ともいう。大人になればなくなる例が多い。

922
複雑欠神発作
complex absence seizure
単純欠神発作で見られる意識消失発作に加えて運動系の症状が出るもの。自動症欠神は意識消失の間に舌なめずり、唇運動、揉み手などの単純運動が見られるものである。ミオクロニー欠神は意識消失の間に眼瞼や手にミオクロニーが起こるものである(筋肉の一部がぴくぴく動くこと)。

923
精神運動発作
psychomotor seizure
側頭葉てんかんとも呼ばれる。意識障害と舌なめずり、口唇運動、表情筋運動などの運動系の症状が見られる。意識がないのにまとまった運動をするので自動症 automatism という。数時間の徘徊の例もある。

924
精神発作
psychic seizure
知覚、思考、感情などの面で発作症状が起こる。患者は発作を自覚していて、幻覚、未視感、既視感、強制思考などを体験する。体験との距離は保たれていて批判力が保持されている点が分裂病性の幻覚妄想とは違う。

925
自律神経発作
autonomic seizure
吐き気、嘔吐、腹痛、便意、消化管違和感などの腹部症状、頭痛、頭重などの自律神経症状がてんかん発作として起こる。脳波所見として6&14Hz陽性棘波が見られる。

926
てんかん性精神病
側頭葉てんかんに関連して起こる慢性精神病のこと。幻覚、妄想、抑うつ、興奮などの症状を呈するが、人格は保持される。症状からだけでは分裂病との鑑別は困難で、結局先行するてんかん発作があったかどうかが問題となる。てんかん精神病が分裂病と同じなのか違うのか、分裂病モデルとなりうるのか、議論が多い。

927
単純部分発作
simple partial seizures
てんかんの国際分類で、意識障害がなく脳波異常が局限しているもの。運動発作、感覚発作、自律神経発作、精神発作に分類される。

928
複雑部分発作
complex partial seizeres
てんかんの国際分類で、意識障害があり、脳波異常が限局しているもの。側頭葉てんかんにほぼ等しい。自動症を伴う場合と伴わない場合で細分する。

929
全般発作
てんかんの国際分類で、脳波異常が全体に波及し意識障害が伴うもの。欠神発作、ミオクロニー発作、強直・間代性発作、間代発作、強直発作、脱力発作などに細分される。

930
熱性けいれん
三歳未満で熱発時に見られる全身けいれん。小さい頃引きつけはありましたかと尋ねて、熱を出したときに一度あったそうですなどと答えがあった場合は熱性けいれんである。てんかんへの移行は少ない。

931
個体は遺伝子の適応実験である。

932
てんかんの薬
副作用の少ないパルプロ酸を中心に考える。バルプロ酸だけでは発作をコントロールしきれないことがあるので、フェノバルビタールテグレトールなどを併用する。
血中濃度をモニターしながら長期にわたり服用することが必要である。

933
偏頭痛
migrane
発作性・拍動性・一側性の強い頭痛。動脈の収縮と拡張が原因としていわれているが、セロトニン代謝の問題が指摘され、薬剤としてもエルゴタミン製剤と抗不安薬のほかに予防薬として抗セロトニン薬が検討されている。遺伝性・前兆(aura)あり(閃輝暗点、耳鳴り、悪心など)・頭痛の他に吐き気・嘔吐あり、などの特徴を示す典型的偏頭痛(classic migrane)と、睡眠中・早朝起床時にみられるあまり強くない頭痛を呈する普通型偏頭痛(common migrane)などのタイプがある。

934
豊かな自閉と貧しい自閉
貧しい自閉は空想力の枯渇=エンジンが停止。現実モデルは壊れていることもあり(→破瓜型?)、壊れていないこともある(→単純型?性格障害型?)。
豊かな自閉は空想力は保たれているが、現実モデルが壊れている(妄想型)。

現実モデルと空想産生……道路・ガイドとエンジン……川と水圧

豊かな自閉は「照合・棄却装置」の障害。棄却されずに空想が意識化される。
貧しい自閉は「照合・棄却装置」と「空想産生力」の障害。

935
夢=ばらばらの空想+無意識の構造
構造には意味がある。空想内容にはさしたる意味はない。睡眠中の感覚情報が取り込まれていることも多い。

936
非定型精神病
atypical psychosis,atypische Psychose
クレペリンは状態像と経過から、分裂病躁うつ病を定型的精神病とした。非定型とはこれら二つの定型的精神病以外の精神病をいうのであるが、定義は人によって狭いものと広いものとがある。分裂病は状態像としてはシュナイダーの一級症状、経過はシュープを繰り返して次第にレベルダウンするもの。躁うつ病は状態像としては感情、意欲、認知の面で偏りをきたし身体症状を伴い、経過は相性で最後には発病前の状態に戻るものである。非定型精神病を広く指す場合には、分裂病とも躁うつ病ともいえないが精神病であるものをいう。狭く指す場合には分裂病性の状態像と、躁うつ病性の経過を呈するものをいう。つまり、急性幻覚妄想状態・急性錯乱の状態像と相性で完全に元に戻る経過を呈するものである。さらに付随的な特徴としては脳波異常が確認される場合があること、遺伝負因がある場合が多いこと、発病契機を明白に認める場合があることなどがあげられる。
この狭い意味での非定型精神病は、脳波所見、遺伝性、状況依存性、病像としても意識障害の色彩があることなどの諸特徴から、内因性精神病と脳器質性精神病の中間に位置し、てんかんと同質の病理を持つとの推定がある。
ICD-10では分裂感情障害と急性一過性精神病障害、DSM4では分裂感情障害と分裂病様障害があげられている。急性一過性精神病障害と分裂病様障害は狭義の非定型精神病に近く、分裂感情障害は現在症として分裂病症状とうつ病症状が併存するもので、広義の非定型精神病の範囲に入る。

937
不眠症
insomnia
眠れないことや熟眠感がないことが一大事だということが普段眠れている人には分からない。「眠れない夜くらい経験はありますよ」とは言っても、続くものでなければ辛くはない。「眠れなくて死んだ人はいない」と説得する人もいるが、だからといって苦しさはやわらぐものではない。
熟眠感は数多くの条件がそろってはじめて実現するものである。従って不眠の原因はたくさんある。
?他に病気がある場合……脳の病気とその他の病気がある。
?薬や食べ物が原因の場合……寝る前にカフェインを含む飲食物をとる。
?老人の場合……配偶者を亡くして寂しさがつのり、不眠を訴えることがある。老年になるに従って睡眠時間は短くて済む傾向がある。
?心因性……気にかかることがあって眠れない。今夜も眠れなかったらどうしようと心配になってしまって眠れない。
?環境因性……睡眠環境が悪い場合で、上の階の住人が夜中まで騒ぐ場合、隣の部屋の人がテレビやステレオをうるさくしている場合、自動車の音、駐車場の音・光などである。
対策は以上の各原因に従う。
?原疾患の治療。
?原因物質の摂取を控える。
?自分に本当に必要な睡眠はどのようなものか、若い頃とは違うことを知っていただく。
?精神療法。
?環境調整。耳栓なども含む。
?共通の対策は睡眠剤の使用である。根本療法ではないが、改善のきっかけにはなる。ただ、睡眠時無呼吸症候群だけはベンゾジアゼピン系薬剤は症状を悪化させるので注意が必要である。
?積極的環境調整としては、夜になったら頭を休める、軽い体操、ぬるいお湯にゆっくりと入浴、香りを調節する、音楽を調整する、電話が鳴らないようにするなどの工夫がある。

938
睡眠ポリグラフ
睡眠時の様子を脳波、体温、体動、いびき、眼球運動、呼吸状態、発汗など他種類にわたって記録すること。睡眠障害の原因の探究に役立つ。付き合っている医者は大変である。

939
ストーミー・パーソナリティ
stormy personality
アリエティ(S.Arieti)が記載した性格類型で、精神分裂病に親和性が高いものとされている。自己同一性が確立されず不安定で極端、「As-if人格」に類似の点もあり、境界型人格障害に似た要素もある。嵐のように激しい。

940
睡眠時無呼吸症候群
sleep apnea syndrome
睡眠中に十秒以上にわたる呼吸停止を反復するもの。呼吸再開するといびきを伴う。不眠や昼間の眠気を主訴とする。太っている人が多いが、そうでない人もいる。問診では、そばで寝ている人に、呼吸の一時的停止といびきを尋ねる。「いびきでうるさいと思っていると息が止まるので不思議な人だなと思っていました」とか「死んだのかと思ってびっくりしたことがある」とか話すことがある。確定診断は睡眠ポリグラフで呼吸と脳波をチェックする。脳波は覚醒状態を示してよく寝ていないので、不眠、昼の眠気、仕事の能率の低下などを引き起こす。
原因は?上部気道閉塞……肥満や鼻閉で起こる?呼吸中枢の異常?以上の二つの混合したものに区別できる。不眠であるからといってベンゾジアゼピン系の眠剤を使用すると上部気道の閉塞を促進してしまうので注意が必要である。アセタゾラミドが保険適用となっており、呼吸性アシドーシスを改善する。成人男子に多いが乳幼児にも見られ、乳児突然死症候群の一部であると考えられる。
肥満、昼の傾眠、赤血球増多を示すものはピックウィック症候群という。

941
睡眠時ミオクローヌス症候群
nocturnal myoclonus syndrome
睡眠中に下肢の不随意運動が出現し睡眠が中断されるため不眠となる。クロナゼパムを試してみる。

942
レストレスレッグズ症候群
Restless legs syndrome
むずむず脚症候群
夕方安静時や夜間就床時に下肢にムズムズが生じ不眠となるもの。ふくらはぎの深部に虫が這う感じだという。いったん起きて歩き回るとおさまることがある。原因は不明。クロナゼパムを試してみる。

943
ナルコレプシー
narcolepsy
多彩な症状を示す、過眠症。同一家族内に発生することが多くDNA研究が進められている。運転中や麻雀などをしているさなかに急に睡眠発作を起こす、大笑いしたりすると脱力発作を起こす(情動性筋緊張消失:カタプレキシー)、入眠時幻覚、睡眠麻痺(入眠直前や覚醒直後に体が動かせない)、脳波では入眠時REM、逆説的α波抑制(開眼するとα波が増える所見)などが見られる。患者は人口の0.02〜0.09%、米国では50万人もいるという。患者に昼に「眠ってください」と命じると五分以内に眠ると文献にはある。メチルフェニデートなどを試みる。患者会に「なるこ会」がある。

944
金縛り
REM期に何かの拍子に目が覚めると体は眠っていて力が入らないので金縛りにあったように感じる。超常現象ではなく普通の現象である。

945
幽体離脱
=体外離脱
幽体とは「霊魂」で、それが身体を離脱すること。臨死体験で霊魂が離脱して状況を斜め上方から見ていたりする。また非常に強いショックを受けたときに離人体験が生じ、そのようすを映画でも見ているように客観的に眺めているときは幽体離脱に近い状態になっていると考えられる。DSM4の離人症の記述は幽体離脱体験に近い。(離人症を人から霊魂が離れると解してみる人もいる。取り残された人体は自動機械のようになる。これはひとつの比喩として面白い。)

946
周期性傾眠症
periodic somnolence
=クライネ・レービン症候群 Kleine-Levin syndrome
思春期男性が一週間内外のあいだ傾眠発作を繰り返す病気。傾眠発作に食欲異常亢進が見られるものをクライネ・レービン症候群という。発生は比較的まれで、原因は不明、成人に達すると自然治癒することが多い。

947
睡眠覚醒スケジュール障害
Sleep-wake Schedule Disorder
一過性のものには時差症候群(jet lag syndrome)やシフト勤務によるものがある。持続性のものには睡眠相前進症候群、睡眠相後退症候群、非24時間睡眠覚醒症候群などがある。これらは社会生活の時間と体内時計の時間が一致しないためにずれが次第に大きくなったり固定したりするものである。ビタミンB12を試してみる。メラトニンは有望かも知れないが経験はない。

948
喪の仕事
grief work
いくつかの段階に分ける。それらは大きく分けると、自己危急反応、現実歪曲、心内歪曲、受け入れと進行する。
この進行は防衛機制の発達と重なっている。現実歪曲は精神病レベルの防衛機制であり、心内歪曲は神経症レベルの防衛機制である。ここでも低次反応から高次反応へ段階を踏んでいる。

949-1
グループ全体の無意識を考える
グループ全体の無意識が治療者に向かって反応を起こす場合、逆の場合など、転移逆転移を個人の無意識と集団の無意識との間に考える。
グループは二人から成立するから、患者グループもいろいろ考えられる。また、治療者グループもいろいろ考えられる。そして全体の集団がひとつある。
ということになれば、実にさまざまな集団的無意識があるわけだ(→図949-2)。それらがすべて同等の重みを持つわけではなくて、「心理的に支配的な集団」があるはずである。それはアイデンティティにも関わってくる。

950
フロイトによる精神構造論
フロイトは生のエネルギーをリビドーと名付けた。性のエネルギーはリビドーの主要な部分である。フロイトは心の構造をイド( id 、またはエス es )、エゴ(自我 ego )、スーパーエゴ(超自我 super-ego)に分けて考えた。イドにはリビドーがあり、イドの本能的欲求を対象により満足させるのがエゴである。良心、理想自我、自己観察の機能はスーパーエゴにあり、本能的欲求に対して禁止や脅しを行い、エゴに罪悪感を感じさせる。
イドの欲求に問題がなければエゴは現実の満足を実現する。イドの欲求がスーパーエゴの道徳感覚に照らして許されないものであれば、エゴは抑圧などの防衛機制により欲求を引っ込めさせる。欲求が強力で抑圧しきれない場合には夢の中に検閲をくぐるような形に変形されて登場したり、転換または解離ヒステリーなどの形で症状として表現されたりする。
これに対する治療は二つの方向があり、抑圧が不完全であるから完全な抑圧を作るという方向と、抑圧しても出てくるのだから、抑圧はやめて発散させればよいという方向とがある。
後者が簡便で大衆には歓迎される。たとえば、上司に対して言いたいことも言えないで悶々としている患者に対して、自己主張訓練を始めるような流派である。たまっているならぶつけて吐き出しなさいというのは日本での治療としては適切かどうか疑わしい。

951
フロイトの精神性的発達論
フロイトは人間の精神発達は性的発達と密接であると考え次のように関係づけたた。?口愛期(oral phase,0〜1歳3ヶ月。)。口唇を通じて母親の乳房と交流する時期で、基本的信頼感が形成される。?肛門愛期(anal phase,1〜3歳。)。排泄物の保持・放出を通じて基本的欲求を調節することを学ぶ。肛門愛性格とは、倹約、頑固、几帳面。?男根期(phallic phase,3〜5歳。)。エディプス・コンプレックスの時期。?潜在期(latency period,6〜11歳。)。性的発達としては潜伏する。?思春期(adolescence,genital phase,11〜18歳。)第二次性徴が起こる。自我同一性の確立に向けて試みが始まる。?成人期。
口→肛門→性器と続く発達は、生物が進化の歴史で辿った歴史でもあり、フロイトは系統発生を参考にして、個体発生においてもこうした順序で発達が起こるであろうと推定したものと思われる。フロイトの時代は「個体発生は系統発生を反復する」というヘッケルの説が流布した時代である。

952
薬物依存
drug dependence
精神的依存または身体的依存が成立しているときをいう。古くは中毒、その後は嗜癖と習慣性という言葉を用いていた。嗜癖 addiction とは精神的・身体的依存があり用量増加の傾向に加えて個人と社会に害を及ぼし、薬剤入手の欲求は衝動的で自制できないものをいう。一方、習慣性 habituation は精神的・身体的依存は目立たず禁断症状もなく害は個人に限定され、薬剤入手の欲求も衝動的というほどではない。つまり嗜癖は重症で習慣性は軽症なのであるが中間の事態を判定するのが難しいので、現在では両者を含む言葉として依存 dependency を用いている。
身体的依存は急激な中断をすると禁断症状が現れるものである。薬をやめようと思っても禁断症状が辛いのでやめられない。モルヒネやアルコールで見られる。
精神的依存は薬物を求める精神的な衝動である。薬物依存ではどのタイプにも見られる。
耐性とは、同じ効果を得るための薬剤量が増えてゆくことで、アルコールでいえば「強くなる」ことである。
交差耐性とは、たとえばアルコールで耐性ができている人ははじめて使用するバルビツール酸でも耐性が見られることで、ほかにモルヒネと他の麻薬でも見られる。酒飲みには手術用の麻酔も効きにくいことがある。
依存はひとつをやめても別の依存を始めていることがある。薬物であればアルコールから睡眠薬に、また買い物依存症過食症などに形を変えるなどして存続することが多い。「忘れたいこと」や「不安なこと」が解消しないまま患者を苦しめ続けるからであろう。不安の処理の仕方を改善することが大切であると言われるものの、具体的にどうすればよいのか難問である。
CTやMRIで強い萎縮などの脳の形態的な異常を見ることがある。薬物使用前の写真がないので薬物が原因かどうかは分からないが、後遺症の質を検討する際に役立つ所見であろう。

953
モルヒネ
morphine
法律用語である「麻薬」は阿片およびコカの葉とこれらから作られたもの、これらと同等の毒害を及ぼすものを指す。けしの実からとれる18種類のアルカロイドを総称して阿片という。その主成分がモルヒネである。ヘロインも阿片の誘導体でモルヒネよりも強力である。つまり、モルヒネ、ヘロイン、コカの葉からとれるコカイン、合成物である meperiden や methadone などを麻薬と法律で言い、麻薬取締法が適用される。
鎮痛作用が強く、苦悩を忘れる。精神依存・身体依存ともに強く形成され、禁断症状は激烈で自律神経の嵐と呼ばれる。意志薄弱と高等感情鈍麻を残すうえに、モルヒネ依存は再発を繰り返しやすいので社会復帰は容易ではない場合がある。モルヒネはやめてもアルコール依存などに移行する場合も多い。
エンドルフィン(endorphins)は脳内で自然にできるモルヒネに似た物質で、作用も似ている。むしろ、エンドルフィンが存在して、そのレセプターもあるからモルヒネが作用すると言える。エンドルフィンは痛みや快感の調整をしており、モルヒネが体外から入ると急速に産生が中止される。この状態で体外からのモルヒネを少しでも減らすと激しい痛みや自律神経症状が出現する。

954
コカイン
cocaine
コカの葉から抽出されたもの。局所麻酔薬として使われる。フロイトが局所麻酔薬としてはじめて使ったことは有名である。多幸状態になるので精神依存を形成する。身体依存や耐性は形成されない。乱用すると幻覚、意識障害てんかん発作などの症状が出る。コカイン精神病では幻触と被害妄想を呈する。再発率が高い。麻薬取締法が適用される。

955
大麻
大麻草からとられて喫煙される。カンナビス(cannabis)、マリファナ(marijuana)、ハッシシュ(hashish)とも呼ばれる。多幸感、変容体験が好まれる。精神依存は形成されるが身体依存と耐性は形成されない。長期使用するとやる気がなくなり労働意欲低下に陥るなど精神の荒廃を招く。大麻取締法が適用される。

956
精神異常発現薬
LSD-25(いわゆるacid。、ライ麦に寄生する麦角菌のアルカロイド。)、サイロシビン(psilocybin:magic mashrooms 中米の毒キノコから抽出された。)、メスカリン(メキシコのサボテンの一種であるペヨーテから抽出された物質。)、PCP(phencyclidine)などがあり、幻覚、心地よい good trip や不快な bad trip が起こる。長期使用すると人格に好ましくない変化が起こり、さらには精神分裂病に似た幻覚妄想状態を呈することがある。麻薬取締法が適用される。

957
有機溶剤
ペンキを薄める液や接着剤に含まれている。主成分はベンゼントルエンで、酩酊、多幸と幻覚作用が好まれる。精神依存と耐性は形成され、身体依存は形成されない。誤って大量使用したときには呼吸抑制により死亡する。長期使用によりやる気がなくなり、不安、被害感なども生じる。非行グループに属しているうちに有機溶剤を覚え、経済的に余裕ができると他の薬剤依存に進展することもよく見られるらしい。

958
覚醒剤
メタンフェタミン(日本でヒロポン)とアンフェタミン(米国でベンゼドリン:スピード, MDMA )とがある。ヒロポンは「疲労がポンととれる」とのことで戦時中に用いられ、敗戦と共に一挙に放出されたという。現在は覚せい剤取締法が適用される。
疲労除去、気分爽快が好まれる。女性のやせ薬として使われることもあるという。身体依存はないが精神依存は強く耐性も大きい。長期使用していると分裂病に似た幻覚妄想状態になる。覚せい剤をやめた後も分裂病症状が残ることがある。潜在的分裂病を顕在化させたのか、全く新しく分裂病を生じさせたのか、不明のことも多い。

959
カップル燃えつき症候群
本来「燃えつき症候群」は看護職員や教員が理想を実現しようと努力した末に報われずうつ状態に陥る現象である。カップルの間でも、お互いの性格傾向がある種の組み合わせになるときには、最初に理想を実現しようと努力する時期があり、しばらくして報われず燃え尽きの時期が訪れることがある。これはたとえば理想を求めて妥協しない人格傾向と関係している場合があると考えられ、カップルセラピーの適応である。

960
精神疾患の分類
まず何が精神疾患であるか、これは自明ではない。たとえば同性愛はかつては精神疾患のひとつとして分類され、DSMで分類番号が与えられていた。しかし現在では精神疾患ではないと見なされている。したがって精神疾患かどうかはいつでも議論の余地を含むものであると考えておいてよいだろう。
さて、身体疾患の場合には組織病理診断と生活障害診断(症状)と二つのレベルで考えることができる。組織病理診断で病変がある場合が病気である。普通は組織病理病変があればそれに対応する生活障害がある。組織病理診断で病変があっても、生活障害がない場合もある。それは症状はないけれども病気である。組織病理病変がないけれども生活障害(症状)がある場合がある。そんなとき身体科の医師は神経症とか心因性とか考えて神経科・精神科に紹介する。

組織病理診断  生活障害診断(症状)
○ ○ 通常の病気
○ × 病気はあるが症状はない
× ○ 症状はあるが病気はない(神経症心因性

生きているうちに画像診断したり、死後に解剖したりして、脳に病変が発見されるとき、脳器質性疾患という。脳腫瘍、脳外傷、アルツハイマー病をはじめとする変性疾患、アルコール症などである。
脳器質性疾患は組織病理診断でも生活障害診断でも病気であると判断されるので、身体疾患と同じ考え方で対処できる。
また、他器官の疾患があり、それによって二次的に脳に障害が現れる場合があり、症状精神病という。この場合は原疾患と脳の異常のあいだの関係を厳密に考える。
以上の二つを除外した場合、つまり脳や他器官に脳の異常の原因となるような組織病理診断が何も見つからない場合を非器質性疾患または機能性疾患と呼んでいる。
機能性疾患を内因性精神病と神経症に分けている。内因性精神病には精神分裂病と内因性うつ病躁うつ病非定型精神病がある。神経症にはパニック障害全般性不安障害強迫症、恐怖症、神経症うつ状態、心気症、ヒステリーなどがある。内因性精神病と神経症の区別はいくつかある。症状としては「現実を歪めて認知しているかどうか」(現実検討という)が最も重要である。そのほか経過の特性、予後、病前性格、遺伝負因、発病状況などの点で区別される。
内因性精神病と神経症については組織病理診断の裏付けがないのに症状はあるものという定義にとどまっており、これは医学的な観点からは消極的な定義と言わざるを得ない。
従って、内因性精神病と神経症についてはいくつかの考え方が許されることになる。
内因性精神病は「まだ発見されていない脳器質性原因」によるものであるとし、神経症は「心因性」の原因によるものとするのが現在主流であると言えるだろう。薬剤への反応、症状の特性、経過の特性、予後、病前性格、遺伝負因、発病状況などが推定の根拠となる。
しかし両者ともいまだ発見されていない脳器質性の原因があるのだとする考え方もある。神経症の中でも特にパニック障害強迫性障害は薬剤への反応やその他の証拠から器質性疾患と考えるべきだとの考えが強まってきている。また、心因性とは言うものの、同じ心因にさらされても発症する場合としない場合があり、発症する場合も精神病症状を呈する場合から神経症症状を呈する場合まである。だとすれば、心因は症状発現のきっかけであると言うべきで、発病を準備しているのは精神病と神経症共に器質性要因であると言うべきである。
この議論は微妙なところがある。脳の機能は全て脳内の活動として記述されるとすれば、そしてそれは現在では当然の過程だと思うのだが、すべての症状はそれに対応する器質性のプロセスの記述を持つ。そのプロセスが異常であるか否かという議論は「異常」という言葉の定義にかかわることになる。
また一方では内因性精神病も神経症も、器質因が見つかっていないから暫定的に非器質性だというのではなく、積極的に非器質性であるとする立場がある。これは従来から根強い考え方で、心のストレスが症状を引き起こしたと見る常識的な因果関係の感じ方の延長にある。

ビニル袋から中身の液体が漏れている。ビニル袋に穴があいているのは器質因であり、中身の液体が何であるかは心因である。液体の漏れ方は、穴のあき方と液体の性質の両方に関係している。
神経症心因説は、中身の液体の性質が特別だから袋に穴があいたとするものである。

さて、器質性と非器質性の区分が意味のあるものかどうかについて一石を投じるのが、ストレス脆弱性モデルである。これは脆弱性は器質性部分であり、素因と呼んでもよい。ストレスは心因部分である。症状は、脆弱性+ストレスの加算によって成立する。つまり器質性要因と非器質性要因の加算によるわけである。
考えてみれば、器質性疾患の場合でも、

一次症状+二次症状(一次症状に対する反応)=総合症状 という考え方もできる。
身体疾患でも、
高血圧+二次的不安=総合症状 という成り立ちになっている。精神症状の場合には複雑である。
精神症状+二次反応=総合症状 であるが、二次反応が正常反応でない場合が多い。
原発異常+異常反応=総合症状 である。原発異常が何か、それに対する反応は何か、と分けて考えられないか。原発異常が何かと考えて、ひとつのヒントは、精神異常の一番始まりの時点で、二次的異常反応が起こる前の時期に症状をつかまえられれば、それが原発異常ではないかというものである。

961
カフェイン
caffein
精神刺激剤のひとつで、アメリカではコーヒー、イギリスでは紅茶、ブラジルではガラナ(guarana)、日本では緑茶で飲用している。チョコレートやコーラ飲料にも含まれている。心臓を刺激する。脳の抑制物質であるアデノシン(adenosine)を抑制することによって、刺激効果を生む。大量使用ではセロトニンに影響を与える。
・カフェイン当量
コーヒー一杯
紅茶一杯
コーラ一杯
カフェイン剤一粒

962
高血圧
hypertension
・血圧計は何を測っているのか。
・自動血圧計は正確か。
・脈拍はどうか。
・高血圧はなぜ体に悪いのか。
・どうすれば血圧が下がるのか。

963
ニコチン
nicitine
たばこに含まれている物質で、呼吸と心拍数を増大させ、食欲を抑制する。脳のアセチルコリンの代わりにニコチン感受性レセプターを刺激することによって作用する。依存性は高く、その弊害はもはや常識である。喫煙習慣はたばこの煙の吸入を望まない周囲の人にも害を及ぼすことが問題で、嫌煙権として主張され、公共の場所での禁煙または分煙が広まりつつある。自分が好きなのだから他人はある程度我慢をしても構わないと考えるのは生まれつきなのだろうか、たばこのせいなのだろうか。先進諸国のたばこ産業は自国での販売は先細りで、開発途上諸国に売り込んでいる。自国で害ありとされているものを、啓蒙が不十分な国で売ろうとするのはどういうものだろうかと議論されている。治療用にニコチンガムがあるので、利用するのもよい。

964
話をすること
話をすれば気持ちが整理されてすっきりする場合(整理タイプ)と、話をすれば一層混乱を増す場合(散らかりタイプ)とがある。各々の患者さんについてどちらのタイプであるかを判断しながら治療する必要がある。

965
幻覚剤
hallucinogens
中南米インディオのペヨーテ(メスカリン)、中近東のハッシシュ(大麻マリファナ)などのように古くから宗教儀式や悦楽のために用いられていた。異常な精神状態を引き起こす薬剤としては、メスカリン、大麻LSD-25、サイロシビンなどがある。

966
抗酒薬
ディサルフィラム disulfiram (アンタブース)とシアナマイド cyanamide がある。アルコールは体内でアセトアルデヒドを経て酢酸に、さらに酸素と二酸化炭素代謝される。
節酒療法に使われるシアナマイドはアルコールからアセトアルデヒドへの変換を阻害してアルコール濃度を上げる。少量のアルコール飲酒でも酩酊状態になるので、大量飲酒を避けられるようになり、結果として節酒になる。
嫌酒療法に使われるディサルフィラムはアセトアルデヒドから酢酸への変換を阻害しアセトアルデヒドの濃度を上げる。。過量のアセトアルデヒドは不快を引き起こすので、飲酒を嫌うようになる。
なお、ディサルフィラムは dopamine-β-hydroxylase の阻害によって脳内ノルアドレナリンの減少とドーパミンの過剰を引き起こし、ディサルフィラム中毒としてのアンタブース精神病の原因となる。意識障害うつ状態が見られる。

アルコール→アセトアルデヒド→酢酸
シアナマイド ディサルフィラム

967
うつ状態抗うつ薬
うつ状態のときにはいろいろな身体症状が現れる。だるさ、眠気、頭痛、頭重、口渇、便秘などが代表的である。抗うつ薬を服用したときの副作用の代表はだるさ、眠気、ふらつき、口渇、便秘などであり、本来の症状と重なっているものがある。抗うつ薬の使いはじめには薬のせいでこれらの症状が重くなったと感じられることもあり、やや不愉快である。抗うつ薬はぐんぐんと元気を出し、眠気もとれて体がすっきりすると思うのは間違いで、もっとゆっくりと効力を発揮するものである。うつ状態が改善するのには本質的に時間が必要で、時間を待っている間に本来の自己治癒力が働き出す。それまでの時間を我慢しやすくするのが抗うつ薬の主な働きであると考えてよいだろう。抗うつ薬で気分をぱっと調整するなどという魔法のようなことができるわけではない。そんな気分があったらそれは、もうかなり治りかけのタイミングで抗うつ薬の服用を始めたということだろう。法律で禁止されている覚醒剤のたぐいは即効性に一時的に苦痛を取り去るが、結果的には精神と肉体がさらに深く蝕まれることになる。

968
性格障害
?おおむね神経症レベルの現実把握で推移し、ときに精神病レベルの病態水準に落ち込むこともある。
?心因や環境因というよりは、性格因と言うべきような、持続的な困難を抱えている。
?治療は長期間にわたるものとなり、困難な場合が多い。
?環境が許せば、性格の病理を抱えたままで生きてゆくことができる。病理を抱えながらも生活に中断を来さないことは他の疾患よりも多い。
?古くからその人を知っている人は、昔からそのような人柄であることは承知しているので病気とは見ない。新しく出会う人も「病気」という目では見ないことが多い。従って本人も病気とは感じないことが多い。
?人柄と見なすか、病気と見なすかは、社会の習慣による。この点は典型的な精神病の場合よりも一層著しい。

概ね神経症レベルで、しばしば生涯にわたるが青年期に一層著明な持続的な困難を抱えている。環境が許せば病理は問題とならず人柄として周囲に受け入れられる場合もある。

969
agoraphobia
本質は「パニック発作恐怖」であるとする見解。
本質は「家から離れて一人になり、外敵からの恐怖にさらされる危険を回避する」ことであるとする見解。
「外に出たら熊に襲われる」と考えて外出できなくなるのが原型。次に「熊に襲われるパニック」が一般に「原因不特定のパニック」に置き換わる。この時点で般化が起こる。特定状況から不特定状況に広がり、予期不安になる。
この対処方式は危険の範囲を広く見積もる慎重な対応である。これは生存の確率を高めるだろう。

パニック発作は典型的には外で一人のときに外敵に襲われたときのものであろう。
パニック発作の回避」=「発作状況の回避」=「安全地帯を離れて、一人でいること」「無防備であること」
危険地帯はどこか?その判断はそれぞれである。しかし原則は、「家が安全で、そこにつながっていれば大丈夫」ということらしい。
逃げ場のない閉所は危険。窓がないエレベーターは危険。何かあったときにすぐ下ろしてもらえない乗り物は危険。

970
精神分析の流れ  →図にまとめること
フロイト
ユング
対象関係論(イギリス)
クライン

Ferenzi
カーンバーグ
マスターソン
ガンダーソン
Guntrip
Rank,O.

自己心理学アメリカ・コフート

境界例が議論されているのは主にアメリカ。

971
マーラーの精神発達論
?正常自閉期
  ・出産
  ・正常自閉期
?共生期
?分離個体化期
  ・分化期
  ・練習期
  ・再接近期
・再接近危機
?危機の解決と最適距離の発見

972
幼児期・児童期の精神障害の特徴
一般に精神的に悩むのではなく行動や身体に現れる傾向がある。低年齢であるほど、未分化で全身的な表現をとる。原因が何であれ、嘔吐したりする。次第に部分的で複雑な症状を現すようになる。

973
1〜5歳の発達診断表 →表

974
CT(computed tomography)
コンピュータ断層撮影
1972年にイギリスで実用化された。X線ビームを多方向から照射し、その結果をコンピュータで計算して画像を再構成するものである。簡単に言えば、脳の輪切りができあがる。脳血管障害、脳萎縮、脳腫瘍などの診断の決めてとなる。MRIに比較すると画像は不明瞭なことがあるが、特別な場合以外は充分診断価値があるし、撮影時間が短くて済む点は有利である。

975
ポジトロンCT
positron emission tomography(PET)
ポジトロンは陽子のこと。放射性物質を体内に入れ、放射されるポジトロンを検出してコンピュータで計算し画像を再構成する。放射性物質を含むアンモニア炭酸ガス、酸素、ブドウ糖などを用いて、脳の局所血流量、酸素消費の分布、ブドウ糖消費の分布などを画像で見ることができる。
ポジトロンの代わりに単光子(γ線)を放射する各種を用いるものがSPECT(single-photon emission CT)であり、脳局所血流量測定に用いられる。

976
MRI magnetic resonance imaging
核磁気共鳴画像法
=NMRI(nuclear magnetic resonance imaging)
磁場の中で特定周波数の電磁波を加えると人体内の水素原子から電磁波が放射される。それを測定し計算して画像として再構成するもので、X線を使わない検査である。X線CTに比較すると鮮明で診断価値は高いが時間がかかる。電子レンジに似た状態になるので、金属は発熱する。体の中に金属を埋め込んでいる場合は注意が必要である。たとえば義眼は熱くなる。30分くらい閉じこめられることになるので、閉所恐怖症のある人には向かない。また、30分の間頭を動かしてはいけないので、検査の意味を良く理解してくれる人でなければ難しい。

977
脳波
EEG electroencephalogram
神経細胞の活動の総和を頭皮の電極により記録したもの。
分かること:てんかん(3Hz spike and wave complex,hypsarhythmia,6&14陽性棘波など)。意識状態。睡眠深度。脳機能発達。脳死の判定の補助。肝性脳症の三相波。クロイツフェルト・ヤコブ病の周期性同期性放電。亜急性硬化性全脳脳炎の周期性全般性両側同期性棘徐波放電。
分からないこと:知能、感情、意志、精神病、神経症、性格など。脳波検査に当たって被害的になる人に話を聞くと、秘密が全部ばれてしまうと思っている人もいるようである。そんなことはないので安心して下さい。
てんかんをはじめとする疾患の診断に用いられる他に、現在ではバイオフィードバックのひとつとして、α波などの出現頻度をモニターしながらリラクゼーションや集中のトレーニングをすることが行われる。血圧や脈拍に比較してよい指標であるとの印象がある。

978
レム睡眠
急速眼球運動が見られ、同時に抗重力筋の筋緊張は低下する(金縛り)。一方、自律神経器官の活動は亢進し、心拍や呼吸は活発になり、勃起も起こる。この時期に夢を見る。約90分に一度、一晩で四、五回出現する。

979
睡眠ポリグラフィー
polygraphy
睡眠中の状態を、脳波、心電図、呼吸、脈波、眼球運動、筋電図、自発性皮膚電気反射、microvibrationなどにより多面的に記録すること。睡眠時無呼吸症候群の診断などに有用である。

980
離人症
てんかんの鉤回発作 uncinate fit (Jackson,J.H.)やLSD中毒でも現れる。

981
心気状態
hypochondriacal state
肋軟骨下 hypochondros を気にすること(ガレノス Galenos )が語源。

982
意識障害の評価
意識の覚性 vigilance とは清明度のことで、刺激しても覚醒しなければ昏睡、刺激すれば覚醒する程度なら傾眠、刺激しなくても覚醒しているなら意識清明とする。意識障害を表現する言葉は微妙なので、3-3-9度方式での表現が役立つ。   →英語表現不安定→再検討
I.刺激しなくても覚醒している
1:大体意識清明だが、今ひとつはっきりしない
2:時・人・場所がわからない(見当識障害):confusion
3:自分の名前、生年月日が言えない:delirium
II.刺激すると覚醒する状態……刺激をやめると眠り込む:drowsiness:傾眠
10:普通の呼びかけで容易に開眼する:somnolence
20:大きな声または体をゆさぶることにより開眼する:hypersomnia
30:痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する:stupor
III.刺激しても覚醒しない状態:
100:痛み刺激に対し、はらいのけるような動作をする:semicoma
200:痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる:coma:昏睡
300:痛み刺激に全く反応しない:deep coma
上記の他に、不穏……R(Restlesness)、糞尿失禁……I(Incontinence)、自発性喪失……A(apallic??? state)を付加する。
たとえば、30-I,3-Aのように表現する。
またグラスゴー・コーマ・スケールでは開眼・発語・運動機能の三分野の得点を合計して表現する。最高で15点、最低で3点となる。7点以下は昏睡で予後不良である。
→再検討
開眼
自発的   4
呼びかけ  3
痛み  2
開眼しない 1

最大言語機能
見当識保持   5
混乱した会話  4
不適切な単語  3
言葉がはっきりしない 2
発語なし   1

最大四肢運動機能
命令に従う         6
痛む部分を教えられる 5 ?
四肢屈曲・逃避 4 ?
四肢屈曲・異常(除皮質硬直)3 ?
四肢伸展(除脳硬直) 2 ?
全く動かない 1

一方、清明度の障害とともに意識の変容が見られることがあり、もうろう状態 twilight state , Da”mmerzustand 、せん妄状態 delirium などという。てんかん発作後の意識障害時に見られるもうろう状態では、意識障害があるにもかかわらず一見まとまりのある行動が見られる。せん妄は軽度の意識障害に幻覚妄想、興奮が加わった状態である。アルコール症の振戦せん妄、痴呆の夜間せん妄などがある。

983
緊張病症候群
catatonic syndrome
分裂病の緊張型に見られる緊張病性興奮と緊張病性昏迷が典型である。拒絶症、常同症、わざとらしさ、反響動作、反響言語、カタレプシー(強硬症)、命令自動などが見られることがある。

984
司法と精神医学
        刑法 民法
責任無能力者  心神喪失  行為能力なし 禁治産  後見人
限定責任能力者 心神耗弱  行為能力減弱 準禁治産 保佐人

985
心神喪失心神耗弱
心神喪失は責任無能力であり、心神耗弱は限定責任能力である。法律の文章では心神喪失とは「精神の障害に因り、事物の理非善悪を弁識する能力なく、またはこの弁識にしたがって行動する能力なき状態」(昭和6年大審院判決)である。心神耗弱とは「精神の障害未だ上述の能力を欠如する程度に達せざるも、其の能力著しく減退せる状態」(同上)である。
精神科医精神障害の内容についてまた精神障害と犯行との関係について鑑定で報告し、それを参考にして裁判官が判断する。心神喪失の場合には罰せず、心神耗弱の場合には刑を軽減する。
責任能力 criminal responsibility がなければ犯罪についての刑罰に意味がないと考えるのが一般的である。たとえば脳腫瘍による異常行動が結果として犯罪をひきおこしたとき、脳腫瘍を治療すればよいのであって、刑罰については意味がないと考えるのものである。ただその場合にも、保護監督の責任があり、危険を知りつつ症状を放置していた人がいたならば、患者ではなくその人の責任は問われるかも知れない。
責任能力の有無については、米英では、善悪テスト the right and wrong testや所産テスト product test の考え方が用いられる。善悪テストは、精神障害により行為の善悪を判断する能力がない場合には責任無能力とみなされるというもので、マクノートン法則 McNaughton rules ともいう。所産テストは、違法行為が精神障害の所産であるならば責任能力はないとするもので、ダラム法則 Durham test ともいう。

986
禁治産と準禁治産
売買・契約・遺言などの法律上の行為に際して、責任を持った行為が可能かどうかを行為能力と呼んでいる。
心神喪失の常況にある場合、つまり常に一定して心神喪失の状態にある場合は行為能力なしとみなされる。その場合本人または周囲の人が損害を受けたりしないように禁治産宣告をすることができる。そのとき本人の法律行為は無効となり後見人が代行することになる。このようにしておけば、たとえば不利な条件で土地を売ったりして後で後悔することなどを防止できる。
心神耗弱では行為能力減弱とみなされ、準禁治産の宣告をすることができる。その場合には保佐人の同意がなければ本人は法律行為をすることができない。
精神科医による精神鑑定の結果を参考にして裁判官が心神耗弱または心神喪失について判断する。

987
精神鑑定
民法に従い行為能力の有無を判定して禁治産や準禁治産の宣告をする場合、また刑事訴訟法により刑事被告人の責任能力を判定する場合に、学識経験のある者が精神鑑定を行う。鑑定内容としては犯行時と現在の精神状態、疾患がある場合には治癒・改善の見込み、生活史、家族歴、既往歴、その他関連する事項が記載される。
鑑定結果を参考にして行為能力や責任能力について裁判官が判断する。

988
群集心理
群衆は軽度の退行を呈している。集団になれば退行する。

989
α波の意義
居眠りするくらいリラックスしているときにはα波がたくさん出ている。現実的思考がどんどん進むときはβ波などの速波が優位になっている。しかしそれは同時に緊張状態である。リラクゼーションではα波がたくさん出るくらいの脱緊張状態をめざしている。この状態では豊かな空想がわき出やすい。

990
大発作はいつ出やすいか
睡眠時、過呼吸時、光刺激時。

991
精神科の入院制度
任意入院と医療保護入院措置入院の三種がある。後二者は本人の意思に反する場合もある強制入院に属する。
任意入院は患者本人の意思に基づくものである。
医療保護入院は患者本人の意思によらず、精神保健指定医の診察により入院加療が必要と認められ、法律で定められた保護義務者の同意があった場合の入院形態である。
措置入院精神保健指定医二名が自傷他害のおそれが高いと診断した場合の入院形態である。
後二者では患者の意思に反する場合もあるので、人権が損なわれる可能性のないように、制度として工夫が施されている。

992
第一次、第二次、第三次予防
地域精神医学または予防精神医学で大切な考え方。
第一次予防とは、精神障害の発生を防ぐこと。家庭環境改善や職場環境改善が役に立つ。たとえば、アルコール性胎児症候群の発生を予防するために啓蒙活動をすること。
第二次予防とは、精神障害の早期発見と早期治療である。これができれば患者は外来通院で治療することも可能で、長期にわたり入院して社会生活を中断しないですむ。乳幼児期では発達障害を早期に発見することで最適の教育環境を整えることができる。
第三次予防とは、精神障害の後遺症を最小限にとどめるために社会復帰訓練をすすめることである。たとえば分裂病陰性症状は時間がたつうちにますます固定化され社会復帰から遠ざかる。そのような事態を予防するために、興奮状態が落ち着いた時点で社会復帰療法をすすめる必要がある。

993
十年前に、自由意志はないと考えた。自由意志はない、しかしその錯覚を抱いて人は生きている。それだけのことだと直感した。
そんなことを考えたところで、確かめようもないと思った。しかし精神病があった。意志の自由が失われる病態があった。
それは私の考えでいえば、自由意志の錯覚が失われる病理である。錯覚が失われるだけであるから、本質的にどうということもないはずである。しかしそれは大変な苦しみのようである。中には苦しみの果てに自殺する人までいる。なぜ錯覚が失われるのがそんなにも辛いのか。それを探求してみたかった。

石ころが坂を転げ落ちる。それは自由意志だと言い張ることもできるだろう。しかし重力の仕業であると説明することもできる。磁石が引き合うことも自由意志であると言い張ることができる。しかしそれを磁力であると説明することができる。
人間が何かを求めるとき、非常に単純で低級なものであれば、自由意志だという必要はない。因果関係は見えている。しかし欲求が高級になればなるほど、刺激に対する単純な反応からは離れて行くから、自由意志と考える余地がでてくる。たとえば、自己実現という高級な欲求は刺激に対する反応というにはややためらいがある。過程が複雑だからだ。
しかしそれだけのことである。

994
性格障害
personality disorder
人生の長期にわたって持続する性格傾向が、患者内面、対人関係、社会生活のいずれかの面で苦悩をもたらしているものをいう。軽度の場合には性格傾向 personality trait という。
性格とは何かについて、全く分からない人もいないだろうし、完全に把握している人もいないだろう。
性格はどのような構造をしていてどのように形成されるか、その生理学的な裏付けは何かなどは今後の課題である。

性格障害の考え方として大きく分けて二つある。
ひとつはシュナイダーが明確にしているものである。?平均から著しくずれているものが異常性格である。?そのなかでも自分が困ったり社会が困ったりするものが精神病質人格である。
たとえば自信欠乏の軸で考えてみると、平均的な自信の持ち方の両側に、極端な自信欠乏と極端な自信過剰がある。極端な自信欠乏のなかで自分や社会が困るものが精神病質としての自信欠乏者である。
こうした考え方では価値判断を含んでいない。また分裂病うつ病との連続性も考えていない。
性格障害の考え方のもうひとつは、病気との関連で類型を考えるものである。病前性格論では分裂気質、循環気質、粘着気質がそれぞれ分裂病躁うつ病てんかんと関連づけて理解される。これらは病気ではなく性格傾向である。分裂病と関連する人格障害としては分裂病人格障害分裂病人格障害、妄想型人格障害がある。ヒステリーと演技性人格障害強迫症と強迫性人格障害うつ病と依存性人格障害回避性人格障害がそれぞれ関係づけられて理解されている。

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性格研究
英語で人柄を記述する単語は18000語程度であるとある記事に出ている。その内容を分析すれば、言語システムが人柄をどのようにとらえているかを知ることができる。どの単語とどの単語は近い意味で、どれとどれは遠い意味で、反対語、上位概念語、などと分類してゆくことができる。時代による変遷や地域による違い、また社会階層や職業、性による分類も興味深い。英語という言語システムと日本語という言語システムでどのような違いがあるのか。その原因はどこにあるのか。

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シュナイダーの精神病質人格の類型
?発揚者 Hyperthymische(活動精神病質):軽躁的で楽天家。争いを好み意志は不安定である。
?抑うつ者 Depressive:軽うつ的で繊細、几帳面。自分に厳しい。
?自己不確実(自信欠乏)者 Selbstunsichere:自信欠如で不全感を抱いている。強迫症の母体となる。対人関係の自信が欠如している者は敏感者 Sensitive であり、クレッチマーの敏感関係妄想の母体である。
?狂信者 Fanatische:支配観念を抱く宗教者など。好訴者もこの類型である。
?自己顕示者 Geltungsbedu”rftige:自分を実際以上の者に見せたいと望む者。ヒステリー(シュナイダーは「この言葉を絶対に用いない」と書いているが)の母体である。
?気分易変者 Stimmungslabile:周期的に抑うつ的不機嫌になる者。
?爆発者 Explosible:ささいなことで激怒する者。自己中心的。
?情性欠如者 Gem”utlose:良心欠如。残忍冷酷。
?意思欠如者 Willenlose:人のいいなりになる者。
?無力者 Asthenische:精神的・身体的な不調にいつも悩む者。

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境界例の向こう側
分裂病人格障害の向こう側に分裂病があるように、境界型人格障害の向こう側に疾患Xがあるのではないか?

自己モニターはできているのに行動の規範がずれている。照合はできている。現実モデルがずれている。現実モデルの価値判断部分がずれている。

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強迫行為は強迫観念の結果である。そうか?

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この症状が著しくなったとき、どんな妄想に発展するのだろうと考えてみる。
この性格障害の向こうにどんな疾患があるのだろうと考えてみる。
極端化してみること。

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性格障害(DSM4)

A群:奇妙で風変わりな言動。引きこもり。分裂病に近縁。
?妄想性人格障害:paranoid
疑い深く、他人を信じない。先入観に基づいて周囲を曲解する。軽蔑的、攻撃的、好争的、説得を受け入れない。
?分裂病人格障害:schizoid
社会的関係を望まず、苦手。内省的、温和、萎縮、孤立。他人からの賞賛・批判に無関心、他人の気持ちに鈍感。
?分裂病型:schizotypal
社会的孤立、奇妙な思考や行動。魔術的思考。

B群:おおげさ、過激な感情、不安定。
?反社会性人格障害:antisocial
反社会的行為が著しい。嘘、怠け、盗み、けんか、過度の飲酒、攻撃性、性的逸脱。
?境界性人格障害:borderline
すべての面で不安定。衝動的。
?演技性人格障害:histrionic
芝居がかって大げさ。浅薄で表面的。人の注意を引きたがる。
?自己愛性人格障害:narcissistic
自分にばかり関心が向けられている。無限の成功を夢見る。他人の注目と賞賛を求める。共感に乏しい。誇大感。

C群:不安、恐怖。
?回避性人格障害。:avoidant
他人から拒否されることに極度に敏感。絶対受容の保証があればつきあえる。引っ込み思案。自己評価の低さ。
?依存性人格障害:dependent
自分で責任をとらない。他人に任せる。自信がない。自己評価の低さ。
?強迫性人格障害:compulsive
規則、細部、因習にこだわる。融通がきかない。仕事熱心、忠実、暖かな感情の表現に乏しい。