こころの辞典201-300

201
楽観主義
くじけない心。努力は報われると信じて努力を続ける態度。成功の可能性が1%でもあれば、その可能性を追求してみる態度。何もしないでもどうにかなるだろうと信じる態度とは異なる。

202
悲観主義
努力はどうせ報われないと思いながら生きること。失敗の可能性が1%でもあれば、その可能性に縛られる。

203
受容
acceptance
カウンセラーのクライエントに対する態度として、受容が言われる。ロジャーズによれば、「無条件の肯定的・積極的関心」と同義であり、ひとりの人格として重んじる態度である。しかしこのことはクライエントの現状を無批判に肯定することではない。カウンセリングとは、批判することではないが、無条件に肯定したり受容したりすることではない。無条件に関心を持つことと無条件に受容することとは全く違う。
受容すべきなのは、患者の今現在外にあらわれている言葉や行動ではない。よく生きたいと願うクライエントの心を受容するのである。その人の健康な自我と同盟するという「自我同盟」と似たところがある。
現状ではなく、可能性を受容すると言ってもよい。
このように見てくれば、よく生きるとは何か、現状よりも他の可能性がよいのか、これらの点について価値観が入り込む。ここのところを自己コントロールするのがプロである。
無条件の受容は治療的退行を引き起こす。それは治療効果を狙ったうえでの意図的な退行操作でなければならない。そのためには、どのようなクライエントに治療的退行が有効であるのかを、見極める必要がある。治療者によってまた施設によって方針が違うだろうが、我々としては、生育の歴史の中に葛藤の根源があるタイプの神経症に限って、治療的退行を適応と考えている。その他の場合には、退行操作は自我の脆弱性を亢進させてしまうので、禁忌である。このような事情から、受容的態度の前に、正確な診断が不可欠である。

204
意識と無意識
【参】自由意志、自意識、他意識
自意識と他意識という分類を考えてみる。自意識とは、自分の心の内容についてモニターする働きのこと。自己内部についての意識である。他意識とは外部感覚を処理して反応する部分である。他意識は感覚器官を通じてのものであり、自意識は感覚器官を通してのものではない。自己の内部状態についての直接知覚である。
膝蓋腱反射を考えてみる。腱が伸びたとの感覚→脊髄で処理→筋収縮といった経路で反射が起こる。ここではいわゆる意識は働いていない。「無意識的な反射」と言ってよい。自意識はただ結果を意識するのみである。
感覚→他意識で処理→運動。
他意識には内省は生まれない。ただ自動処理するのみである。
では、人間の意志や思考は何の役に立つのか?思考は他意識の処理過程である。意志と感じられるものは、自意識の作用である。
膝蓋腱反射では刺激→反応の経路が明白だから自意識も自分で決めたと感じることはない。
自分の自由意志で足をあげたと思い込むだけである。錯覚に過ぎない。
なぜそのような錯覚が必要であったか?生存の役に立っているのか?
他意識は自動反応部分である。
自意識は自動反応を能動的反応と錯覚する装置である。
自意識の役目は、自己の内部状態についてモニターして記憶しておいて、他者の内部状態について推定することである。
この推定ができない個体は「共感性に乏しい」ことになる。これが集団機能の中核と考えてよいだろう。?
また、他者からの推定を許さない独自の内部状態を持っている人もあるだろう。こうした人たちも、集団機能は欠如することになる。?
?は自意識の機能の障害であり、分裂病型。自意識機能の障害としては、時間遅延効果の障害としての能動性の障害が見られ、自動症、離人症、させられ体験が並ぶ。自分の考えなのに他者の声として聞かされるのが幻聴であり、させられ体験の一部として考えることができる。そのほかの幻覚体験についてはまた別の成り立ちではないか。?の系列には幻声と他者からのまなざしの体験が属する。被注察感をどう考えられるか、不明。妄想は訂正不可能な確信とまとめることに疑問がある。(自発性減退の例)。被害妄想については、させられ体験との連続で考えることができるのではないか。
?は他意識(自動反応装置)の障害であり、性格障害であると考えられる。
自由意志とは、錯覚であり、自意識はたとえば膝蓋腱反射をも自由意志の結果であると思い込むような装置である。

205
カテゴリーの問題
自発性減退とカテゴライズすることで、分裂病の無為も、うつ病の億劫さも、アパシーや退却症候群の自発性減退も、あたかも同列のものであるかのようにまとめて考えがちであるが、それは不正確である。
たとえば、離人症状につても、いろいろな病態で起こる離人状態が同じと考えていいかどうか、疑わしい。
もし、ひとまとめにして意味がないものをひとまとめにして扱おうとしているのならば、カテゴリー設定について考え直す必要がある。
たとえば、架空のキリスト教精神病理学で、神の症状・悪魔の症状・天使の症状などと分類して考察したとしても、それは病態そのものの問題ではなくて、考察する人間の脳の中身の問題になってしまう。そのような本来の目的とは乖離した考察をしてはいないか、再考を要する。

206
外界の認知
感覚器官を通じて、世界が認知されている。これは途方もない奇跡である。
脳の中に世界のモデルを持っていて、それが外界とうまく対応している。うまく対応しているとは、生活に支障のない程度に対応が成り立っているということだ。

207
物質と人間
人間の脳は、物質の延長である。したがって自由意志は錯覚である。知覚は実体の部分の特性を認知しているだけだ。それらをもとに脳の中で世界を構成しているに過ぎない。構成された世界は外界の世界とほどほどの一致を確保している。それは進化の過程で長い時間をかけて獲得されたものだ。
構成された世界は個体ごとに変異が生じるように仕組まれている。変異がよりよい適応を生むからである。
どのようにしていま私が意識しているような意識内容と作用が形成されてきたものか、考えるとやはり大きな断絶があるようにも感じる。石ころが極度に複雑化され統合化されたものがこの意識だと言うのだろうか?しかしとりあえずは物質的一元論でどこまで説明できるか試みるべきだろう。物質の側から説明を積み重ねて、どこまで可能なのか見極める、それが間接的に神に至る道である。そして人間の理性はそのように厳密に道を通してしか、神に近づくことができない。人間のその他の能力はもっと直接に神を感じている部分もあるけれど、そこには錯誤も多いと感じられる。

208
自由意志
石には自由意志はない。下に落ちようとする意志を見るというなら、それは比喩というものだ。魚が餌を食べる。意志と言ってもよいが自動反応と言ってもよい。言葉の定義によるのだが、私の定義では、自動反応である。物質の法則による決定論的なプロセスによるならば、それは自動反応である。物質の法則による決定論的なプロセスによらないならば、それは自由意志の可能性がある。魚、ワニ、犬と考えて、自由意志があるとは思えない。
人間の場合、膝蓋腱反射は自由意志ではない。自動反応である。人間の体の各所に自動反応がある。神経系の各所に自動反応がある。そして私は人間の神経系のどこにも自由意志を見いだすことができない。自由意志の感覚は錯誤であると思う。
結局ニュートン的な決定論の世界観を支持しているのだ。神はさいころを振らない。人間はもちろん、さいころを振らない。
フロイトは精神の決定論を主張すべきだった。
量子力学の不確定性は自由意志論とは関係がない。

209
物理学と精神科学
物理学の目的は世界の成り立ちを理解することである。宇宙の成立と発展。宇宙の法則。時間はビッグバンとともに発生したという時、人間の認識作用の壁を感じる。物理学の行き着く先に、認識論がある。認識論の基礎は脳科学である。物理学の法則は、物質の法則でもあり、それを認知する精神の法則でもある。
ニュートンとカントの出会う場所がすなわち人間の精神である。

210
認知とスケール
人間の認知は日常生活で便利なように発達してきた。人間の脳は人間の背丈に応じた範囲での世界の法則を転写して蓄えていった。だから、センチメートルからキロメートル程度の物理学は人間の感覚にぴったり合う。しかし微細な世界の量子力学になると、理解が難しくなる。また、全宇宙規模の話になると感覚がついていかない。

211
交感神経とノルアドレナリン
パニック状態が交感神経系亢進状態だというなら、ノルアドレナリンをブロックすればいいだけのことではないか。

212
分裂とは何か
昔、連合心理学というものがあった。人間の精神は、観念の連合によって成り立っているとする。たとえば、家、戦車、平和などの観念が、それぞれのまとまりを持ち、かつ、他の観念との関係を持ちつつ、心の中に蓄えられていて、その結果精神が成立しているとする。これらの観念の連合、つまり関係の仕方が崩れたものを「分裂」状態と呼んだ。観念の輪郭そのものが失われてしまうなら、むしろ痴呆に近いだろう。家は家、戦車は戦車、そこまではいいのだが、それらの関係になると崩れているという状態が分裂である。はなはだしい分裂を支離滅裂という。やや分裂している状態を連合弛緩(loosening of association)という。
現在は連合弛緩や支離滅裂は思考の障害として分類され、分裂病性残遺状態(欠陥状態)または陰性症状のひとつと見なされる。
観念の連合と言うからぱっとしないが、現在では神経細胞の連合と言ってもほぼ通じるだろう。構造としては同じことだ。神経細胞の連合が崩れているから、精神分裂病がおきる。これは素朴で明確な考え方であろう。もっとも、現在は「家概念細胞」があるというわけではないからもう少し変更が必要ではあるが。

213
自由意志と軸選択理論  →没
量子力学の解釈のひとつ。量子力学の方程式が、未来について確率的にしか提示しないのは、実際に未来が複数個あり、存在確率はその個数に応じているのだと考える。そうすると、現在の意識はどの未来に属するかが問題となるだろう。複数の(つまりは無限個の)意識に分散するのか、あるいは、意識はひとつで、投影された影が無限個となるのか、‥‥。
あるいは、ひとつの意識がひとつの宇宙を選択するのか。その場合、その選択が人間の意志である。意志は個人のひとつだけのものではなくて、人類のすべての意志の総和である。人間の意志の総和が宇宙のあり方を決める。軸を選択するのである。

214
「私には分かる」
とも狂いの危機。分からないはずのことが分かるとは、実は分からないことが分からなくなっているのだ。

215
錯覚と幻覚の発生
まず錯覚。たとえば視覚ならば、光刺激は眼球から、視交差、外側膝状体後頭葉視覚領へと伝えられる。その間に刺激は徐々に変形されて行く。光刺激自体は単なる光の粒の集まりだったものが、次第に意味のあるまとまりとして認知されて行く。脳内の伝達の過程でエラーが発生すると錯覚となる。

幻覚の場合。最初の光刺激はない。眼球から後頭葉視覚領に至る間のどこかで、自発信号の形のエラーが起こる。そこから後の信号処理としては通常と同等である。視覚領では、あたかも外界に対応する刺激があるかのように解釈する。眼球に近いほど要素的で、視覚領に近いほど、意味のまとまりを持ったものになるだろう。

こうしたタイプの錯覚・幻覚論は分かりやすいが、幻覚現象の一部分のみしか説明していないだろう。典型的には幻覚妄想を伴う場合の側頭葉てんかんの場合である。
?パレイドリアタイプ。意味作用が過剰である。これは錯覚の延長のように思われるが、意味作用の過剰という点では、妄想にも通じる。
?妄想タイプ。先に意味がある。これは妄想というべきであるが、幻覚の定義にもあてはまる。

錯覚と幻覚を分けるわけ方にはあまり意味がないのではないか。さらに幻覚と妄想を分けることにもあまり意味がないだろうと考えられる。

シュナイダーの二節性
?は二節性。意味付加作用のみが異常である。
?は一節性で、はじめから妄想である。

216
離人症

離人症とは全般に
存在の現実性がピンと感じられない、実在感の希薄化、喪失、違和感、疎隔感が起こる。
?内界意識離人症=自己の体験や行動の能動感消失=人格感消失(狭義の離人症
?外界意識離人症=外界対象の実在感の希薄=現実感消失または非現実感
?身体意識離人症=身体の自己所属感の喪失・自己感覚の疎隔=自己身体喪失感
そのほかに有情感喪失感(生き生きとした感じ)という表現もある。これらを含んだものが離人症状である。
頭では分かるが実感としてピンと来ない。実感がわかない。
本人は病識を有していて辛い。しかもその行動を見ているだけでは他人からは異常が分からない。

?内界意識離人症=自己の体験や行動の能動感消失=人格感消失(狭義の離人症
自分がない
空っぽだ
喜怒哀楽が感じられない。つまらないとも思わない。何も感じない。
頭が麻痺している
ゼンマイが切れた
自分がやっているのは分かるのに、自分がしているという実感がない
自分はもとの自分ではなくなってしまった

?外界意識離人症=外界対象の実在感の希薄=現実感消失または非現実感
ものが何だか変
ものが遠くにある
まるでこの世のものではないみたい
立体感がない
現実ではない
夢のよう
通じ合うものがない
意味がよく分からない
自分とものとを隔てる膜がある
ベールが一枚かかったかのようだ
世界が生き生きと感じられない
町を歩いている人が生きている感じがしない
ものごとに現実感がない
実感がない
ものが実際にある感じがしない
生き生きとした感じがない
ものごとが死んでいるよう
空虚な感じ
見慣れた街なのによそよそしい
景色を見ても映画を見ているようによそよそしい
目に入るがぼやけてピンと来ない
音楽を聴いても音だけ聞こえる感じ
言葉にすることは難しい。「めまい」のようなものだ。

?身体意識離人症=身体の自己所属感の喪失・自己感覚の疎隔=自己身体喪失感
自分の体ではない
暑さ寒さの感じがない
痛みも分からない
味も分からない
肌に膜が張っている
自分の体が生きている感じがしない

恐怖性不安・離人症候群=強いストレスの後に生じる離人症を伴う広場恐怖。こんな記載もある。
また、強度の疲労や不安のときに感じるある種の感覚が、離人と似ているのかどうか。

『「自分は自動人形になってしまった」という感じが発展すると、自己が二重になり、行動する自己と、それを外部から眺める自己とが二つに分かれてしまうこともある。』
夢との対比。脳の構造の手がかり。意識の構造の手がかり。

意味を投与する作用が失われている。パレイドリアの逆。相貌化喪失。意味が剥奪される。

「意味」と「能動感」と「実感」の関係

外界や自己に関する変容感、非現実感。こうした変容を苦痛に感じる自我が存在し、体験が二重になる(mental diplopia)。体験が二重になる点で、強迫症と似たところがある。
なるほど。もどかしい感じについては「もどかしい、何となく変だと」痛切に感じているらしい。ということは、やはり自分のことについて感じている部分が残っているのだ。
すべてがぼやけて遠ざかって行くのなら、自己の状態についての陳述もなくなるはずだろう。

非現実化と能動性が薄れて自動化
外界物が非現実化し生き生きとした感じが薄れるということと、自己の能動性が薄れて自分の動きが自動化していると感じられることとを離人症状というひとつの言葉であらわしていることの意味。→同一の患者に起こるからである。同一の病理が推定される。

そもそも外界物質には「生き生きとした感じ」などあるはずがない。「現実化」も「非現実化」もあるはずがない。
そもそも自己の能動性などはあるはずがない。(あると素朴な直感では信じられているけれど。)
どちらもあるはずのないものをあると思っていて、それが失われたことを嘆いているのである。
人が共通に持っている錯覚をなくした。それを症状だといっているのである。
まあ、とにかく、普通ではないことが起こっているのは確かだ。

217
脳の層構造・ジャクソニズム
脳の機能分類、構造区分にはさまざまな考え方がある。
エゴグラムのPAC、脳の進化の構造としての爬虫類、哺乳類、人間の脳(古皮質、旧皮質、新皮質)、個体の生存のため、種の保存のため、自己実現のため(マスローの欲求の段階図)。
進化の原則は、過去のものを捨ててしまうのではなく、再利用する形で新しい体制に組み込むことだ。ヒレだったものを再利用して、手足にしている。エラだったものは肺になっている。虫垂は今のところ再利用できていないので、一見むだにくっついている(本当にむだかどうかは分からないけれど)。脳のレベルでも、古い脳を新しい体制に組み込むことで再利用がなされていると考えられる。
古い機能単位を利用するのだから、新しく作るのは、それら古い部分をどのように利用するかの指令を出す部分だけでよい。さらに新しい機能はもっと上位の指令を出すことによって可能になるだろう。このようにして脳の機能の層構造ができる。それはそのまま脳の解剖学的構造でもある。
では、脳が壊れるときは、どんなことが起こるだろうか。構造は古いものほど頑丈にできている。新しいものほど壊れやすい。長い時間を生き延びてきた構造が壊れにくい構造になっているのは分かりやすい。そこで、人間の脳でも、壊れやすいのは一番新しい部分である。一番新しい部分は、機能として考えれば、一番高級な部分、古い部分を総合的に使う部分である。人間の脳の機能でいえば、総合的な判断やいろいろな素材を組み合わせて新しいものを創造する部分である。そこが壊れると、判断は部分的になり、創造は反復になる。
上位部分が下位部分を支配するときに、抑制的に支配する場合と、促進的に支配する場合とがある。脳の傾向としては、抑制的に支配する場合が多い。このことから、上位機能が壊れたときに、下位機能の突出が起こり、それを「脱抑制」と呼んでいる、。下位機能の突出傾向をうまく抑えることでコントロールして、役に立つ機能を引き出していたものが、上位からの抑制を失うわけだから、下位機能の突出が起こるわけだ。脱抑制の症状としては、過度にわがままになってみたり、過度の性欲を呈したりすることがある。
アルコール中毒症などで、脳の高級機能が失われることがある。その場合に、倫理観欠如を呈したり、粗暴になったりする。それは脱抑制の印象を与える。ある種の性格障害でも、このような症状が観察されるのは、アルコール症と同様の、高級機能の欠損が関与しているかも知れない。もっとも、アルコール症は、もともとが不安耐性の低い人に起こりやすいとの見解もあるので、アルコールのせいで高級機能が失われるのか、高級機能が失われているからアルコールに依存するのか、はっきりとは分からない。
胎児の時期に脳に微細な損傷を受ける機会は、近代都市文明にさらされれば多くなると考えられる。流行性感冒、タバコの煙、排気ガス、機密性の高い部屋での酸素欠乏、アルコール、売薬、医者から出される薬、覚醒剤など各種物質、食品添加物、食品のかび、電磁波、X線、それからストレス。母親には何でもないことでも、胎児の脳にどんな影響があるか、心配すればきりがない。
脳の機能が壊れたときに、その部分の機能が失われれば、それを陰性症状と呼ぶ。同時に、これまで抑制されてきた下位の機能が突出することがあり、それを陽性症状と呼ぶ。
以上のような考え方がジャクソニズムである。
このように書けばまことに明白な理論のようであるが、実際には明白でもない。ある症状が陰性症状であるか、陽性症状であるか、決め手に欠けることもある。また、ある機能が欠損し、かつある機能が過剰となることによって生じる症状があるとすれば、これを度のように分類するか、問題もある。たとえば、幻覚妄想は陽性症状であり、意欲減退・感情鈍麻は陰性症状である。
上位の機能が壊れたときに、脳は下位の機能で代理させる。このときに特有の症状が出ると考えられる。

218
離人
目で見ただけでは信じられなくて、手で触って確かめてみたいと思うような感じ。でも、遠くにあるビルだとそんなこともできない。
街並みがどんよりとしていて、なんともいえない感じ。
自分の手が、本当に自分の手なのか、納得がいかない。動かせば動くから自分の手だなとは思うけれど、本当かなという感じ。
ガラスを通してみているようで。きれいなガラスでも、窓ガラスを開けてみると、やっぱり違うでしょう、そんな感じ。

219

子供の躾は大抵は、几帳面さ、礼儀、完璧癖を育成する方向のものである。その点からは躾とは抑制系を発達させることである。脳は促進系を発達させるよりは、抑制系を発達させるほうがたやすいことが理由である。

220
精神遅滞
mental retadration(MR)
=精神発達遅滞
原因を問わず、知能指数が70以下の状態。ICD分類と文部省分類がある。
     文部省    ICD 全人口の2〜3%
IQ70〜50 軽度    軽度      75%
IQ50〜20 中等度    中度(50〜35) 20%
重度(35〜20) 5%
IQ20以下 高度    最重度  
軽度の場合には小学生程度の知能は確保できるので自立して生活することができる。中等度の場合には成人しても部分的助力が必要であり、高度の場合には日常生活の全面的な助力が必要である。特殊学級養護学校で教育するかどうかは、その時のIQだけではなく、性格傾向、運動能力、感情発達なども加味して、最適の教育環境を提供できるよう配慮する。ノーマライゼーションの考え方を重視すれば、統合教育の中で工夫するのが望ましく、そのために教育力を高めてゆく必要がある。
全般に環境の影響を受けやすく、恵まれた環境では手に職をつけることも可能であるが、環境に恵まれない場合には困難な状況に押し潰されることも少なくない。この点で環境整備が大切である。またこのことから、知能とは困難な環境にもかかわらず未来を切り開く力であるとも考えられる。
原因として、胎児期のさまざまなダメージが考えられるが、その中で近年の話題としては、インフルエンザとアルコールがある。妊娠中期にインフルエンザに感染した場合、流産率が高くなったり、出生体重が減少したりする。脳にもダメージがあると考えられ、その理由として、インフルエンザに母が感染して免疫ができると、抗体が胎児の脳を攻撃するのではないかとする説が話題になっている。また、アルコールが胎児に影響を与えることはほぼ確実で、妊娠の可能性のある女性は飲酒を中止した方がよいと勧告されている。

221
幻覚
「対象なき知覚」、「知覚すべき対象なき知覚」または「対象なき知覚への確信(conviction sur la perception sans objet)」。「確信」を重く見れば、妄想に近付く。知覚は感覚から意味までを含むので、その幅に応じて幻覚も考えられる。
空間の特定の場所にはっきりと存在すると固く信じられるものは真性幻覚であり、ひょっとしたら自分のイメージなのかも知れないと思えるものは偽幻覚である。実在の水音、風音に混じって聞こえてくるのは機能幻覚と呼ぶ。しかしシャワーの水音の中に電話の音が聞こえてくるのは異常ではない。
単純な要素的な音が聞こえてくる場合(要素幻覚)から、メッセージを明確に持った言葉が聞こえてくる場合(幻声)まで、様々である。メッセージまたは意味がより明確に付与されているほど、妄想に近くなる。
入眠時幻覚、出眠時幻覚は寝入りばなとおきぬけに現れる幻覚である。意識レベルが低下しているときに現れるもので、必ずしも異常とは考えられない。
幻聴のなかでも幻声が精神分裂病に多い。患者は幻声と会話をしたり(二人称幻声)、幻声同士がひそひそと自分のことを言っていると悩んだり(三人称幻声)、自分の考えが声になって困ると言ったり(思考化声)する。行為批評幻声は、幻声が患者の行為について「便所に行った」「薬を飲んだ」などとコメントを加えるものを言う。
幻触は「性器をいじくられる」などという訴えとなる。させられ体験と言ってもいいし、体感異常と表現してもいい。それはどの程度要素的な感覚に近いか、どの程度メッセージや意味を含んだ経験に近いかによる。
人間は他の哺乳類に比較すれば圧倒的に視覚の動物であると思われるのに、幻視は幻声ほど問題にならない。それは人間の意味の伝達が音声による言葉を介してのことが多いからであろうと思われる。人間が言葉を頭の中に思い浮かべるとき、文字で、たとえば明朝体の青い字でなどは思い浮かべないだろう。(考えが文字になって見えるのは、考想可視と呼ばれ、まれであると記載されている。)時間の流れを伴った音声言語で、ちょうど喉を少し震わせて発音するくらいの調子で、思い浮かべるのではないだろうか。(これは私が文章を書くときの様子をとりあえず標準として引いているのだが。)
幻視は分裂病よりは器質性疾患で目立ち、たとえばアルコール性の幻視では小動物(ネズミやゴキブリ)が見えたり、腕をアリやクモがはいまわっていたりする。またアルコール症では圧迫幻視=リープマン現象が有名で、閉眼させて上眼瞼を圧迫すると、幻視が誘発される。
(上記はあまり意味を含まない幻視であるが、意味を豊かに含む幻視については、見えることよりもその意味付けがやはり問題になるので、妄想と名付けることが多い。→削除)
頭のうしろにものが見えるというときは、視界の外に視覚が成立しているわけで、域外幻覚と呼ばれる。
幻嗅、幻味、については診察室ではあまり見かけない。
以上は感覚器官の種類に応じての分類であるが、幻聴特に幻声の占める割合が圧倒的に大きいことからしても、「聞こえてくる」という属性を手がかりにすることはあまり有効ではないように思う。そしてこのことが、幻覚現象を神経学的に考えることの限界を説明するだろう。てんかん発作のような自発的信号発生を機序として仮定した場合、聴覚に偏ることは説明が難しいだろう。人間にとって意味の伝達はどのようにしておこなわれるのかについての考察が大切だろう。

222
病識と病感
Krankheitseinsicht,insight into disease and Krankheitsgefu”hl,feeling of disease
分裂病では病感はあっても、真の病識は得られにくい」と言われるとき、病感は不調の感じ、病識は病気に関する真の理解、という程度の意味である。感覚と理解の差である。たとえば、「いまとても不安である。その原因は、アイツラが自分を迫害しているからだ」と言えば、病感はあるが、病識には欠けているわけである。「いまとても不安である。自分は迫害妄想に悩まされているからだ。」と言うなら病感だけではなく病識も得られていることになる。両者の差は、「自分は迫害妄想に悩まされている」と認知する部分が病気におかされているか否かである。分裂病は自分が病気になっていることを理解する部分さえもおかされる病気であり、そうであれば治療を望むはずはないだろう、ということになる。このような状態のときに責任能力もないのは当然であろう。これは痴呆でも見られることであるが、痴呆の場合の病識のなさはそれを観察する者としては自然に納得できる。分裂病の場合には了解不可能の印象を与える。

223
生きがい
worth living,worthwhile life,raison de vivre,sinnvolles Leben,wertvolles Leben
人生の意味。人生の価値。生きる理由。生きがいを確実に感じている人は、精神的に強い。生きる理由があるから強いのだろう。

224
絵画療法
各人に特有のイメージシステムを前提として、絵画表現を通じて治癒を導く技法。各人の内部でのイメージシステムが分からなければ、たとえば風景構成法で描かれた「うさぎ」についてもその意味を考えることは難しい。逆に、絵画などで表現することによって、イメージシステムは次第に明らかになるし、変化もする。その変化が治癒と関係しているのではないかと考える。

225
カウンセリング
深層と浅層の二種の作用からなる。
浅層作用:心からの関心を向け、傾聴、受容、支持、表現、説得、洞察の技法を用いつつ、患者の人格発展を援助すること。
深層作用:カウンセラーの人格の力が無言のうちに、無意識のうちに、クライエントの人格に影響を及ぼすこと。

226
カウンセリングの害
カウンセリングについての国民全体の理解が深まっていない現状では、さまざまな誤解がある。説教や人生訓を垂れることがカウンセリングだと信じている人もいるし、無条件の受容がカウンセリングの愛なのだと信じている人もいる。こうした誤解はすぐに誤解だと分かるから、罪は深くはないだろう。
カウンセリングを外科の開腹手術にたとえてみよう。
術前:消毒→カウンセラーの精神的な衛生を保ち、クライエントの精神を「汚染」しないようにする。逆にクライエントの精神病理に「汚染」されないように技術を身につける。
手術中:どこを切れば血が出るか、解剖と病理を知る。→どんな言葉・態度が患者の心を傷つけているのか知る。心が血を流しているのが見えるまで感受性を訓練する。
手術後:しっかり閉じる。→診察室から出るときには、心の傷をしっかり閉じて、新しい「汚染」にさらされないようにする。
手術なら、治療者の操作がどのような結果をもたらしたか、目で見ることができる。しかしカウンセリングの場合には、クライエントの心が血を流して悲しんでいても、カウンセラーに見えていないことがある。切れば血が出るということを分かっていない人、またはそのことを頭で理解していても実際には見えていない人がカウンセリングをしたら、クライエントの心は血まみれになるのである。
ところが、自分にはものが見えていないことを知ることは難しいことだ。人は誰でも自分の目に見えているものですべてだと思わざるを得ないのだから、自分の目には見えていないものがあると知ることは原理的に非常に難しいことである。
従って、カウンセラーになるためのトレーニングが必要である。トレーニングの必要のない、天性のカウンセラーという人は確かにいて、その人は心の現象に関して非常に明瞭な視力を持っている。そうでない人は、一度心の視力測定をしてもらいなさいということになる。視力が足りなかったら、メガネをかければいい。よほどの乱視でなければどうにかなるものだと思う。視力が足りないままで運転をしていたら自分も相手も傷つけることになる。

227
内因
endogenous cause
精神障害の原因を、心因、内因、器質因と三大別し、さらに性格障害、精神発達遅滞を加えて五つに大別したときの、ひとつ。目覚まし時計がひとりでに鳴り出すように、特に誘因なく内側から自然に起こってくる病気について、その原因を指す言葉。ドイツ精神医学で用いられてきた独特の概念であり、「内部的な未知の原因」を意味し、現在は不明であるが、おそらく脳の器質的障害として発見されるであろうと期待されるものである。遺伝子レベルで規定されていると考えられるものの、双子観察からの知見によれば一致率は約50%であり、決定論的なものではなく、多因子的に形成される素質と思われる。現在内因性精神病といえば、精神分裂病躁うつ病(内因性うつ病を含む)、非定型精神病を指す。今日では内因性うつ病心因性うつ病を区別するときに重要である。内因性うつ病は、素質・体質がより大きく関与しており、心因性うつ病は素質の関与がより小さい。

228
心因
psychogenic cause
精神障害の原因を、心因、内因、器質因と三大別し、さらに性格障害、精神発達遅滞を加えて五つに大別したときの、ひとつ。心が体験するストレスが原因となる場合を心因性疾患と呼び、神経症心身症、心因反応が含まれる。心因性で症状が主に自律神経系に発現するものを心身症、主に精神病レベルの精神症状を呈するものを心因反応、その他の心因性疾患を広く神経症と呼ぶ。

229
器質因
organic cause
【類】 身体因 somatogenic cause、外因 exogenous cause
精神障害の原因を、心因、内因、器質因と三大別し、さらに性格障害、精神発達遅滞を加えて五つに大別したときの、ひとつ。器質因は脳性と脳外性に分けられる。脳外傷、脳萎縮、脳循環障害などは脳性のもので脳器質性疾患と呼ばれる。感染症、内分泌疾患、膠原病などによるものは脳外性であり、症状精神病と呼ぶ。有害物質による中毒性精神病も器質因に含める。

230
外因
exogenous cause
個体の外部に存在する病因のこと。器質因と心因を含む。

231
身体因
somatogenic cause
器質因と同じ。

232
精神分裂病
schizophrenia
おそらく器質性であるが現状では原因不明の精神病。経過の特性としては、主として青年期に発症し、段階的に進行しつつ、適切な治療を加えない場合には特有の適応障害を残す場合がある。症状は陽性症状と陰性症状に分類して考えられる。陰性症状の代表としては、しばしば現実把握が失われ自己の内面世界にのみ住むこともある自閉、ほかには感情鈍磨がある。陽性症状としては特有の自我障害が見られる。

233
躁うつ病
manic-depressive psychosis
おそらく器質性であるが現状では原因不明の精神病。経過の特性としては、躁うつの二相性またはうつだけの一相性の周期を反復する。周期が終われば後遺症状を残さず治癒する。特有の病前性格が指摘されており、循環気質、執着気質、メランコリー親和型などがある。症状は、うつの精神症状としておっくうさ、ゆううつ、不安・イライラがあり、うつの身体症状として睡眠障害、食欲低下、さまざまな自律神経症状、躁の精神症状として誇大妄想、抑制がきかなくなる、睡眠もとらず働き続ける、種々の程度の興奮がみられる。

234
両極性うつ病
双極性うつ病
躁うつ病で、躁とうつを繰り返すものをいう。うつのみを繰り返す場合は単極性うつ病という。言葉の上では、うつ病は単極性で、躁うつ病は両極性とするのが整合的であるが、実際は両極性障害に比較して単極性障害が圧倒的に多いため、代表としてうつ病と呼び、躁うつ病、感情障害、気分障害を意味する場合がある。その場合は、両極性うつ病という、矛盾した用語が成立するが、両極性感情障害のことである。最近はさらに細分し、躁状態があるものは bipolar I、軽躁状態にとどまるものは bipolar II として区別することがある。

235
単極性うつ病
躁うつ病で、うつのみを繰り返すものをいう。躁とうつを繰り返す場合は両極性うつ病という。

236
感情病
躁うつ病を中心とした感情の変調を症状とする病気のこと。

237
気分障害
躁うつ病を中心とした気分の変調を症状とする病気のこと。

238
精神分析
精神分析
psychoanalysis
フロイトによって創始された学問。人の思考や行動の背後にある無意識的動機、幼児体験がおよぼす影響、不安と各種防衛機制、治療における転移と抵抗など、現在でも重要な視点を含んでいた。その後は多数の後継者たちにより、自我心理学、対象関係論などさまざまな進展がみられている。

239
せん妄
delirium
軽い意識障害の中でも、精神運動興奮(興奮や多動)を伴う意識混濁で、不安、恐怖、錯覚、幻覚、妄想を伴うことがある。老年者では夜間せん妄が起こりやすい。昼夜逆転し、夜眠らずに興奮したり幻視を体験したりする。またアルコール禁断症状として振戦せん妄がみられる。手がふるえ、発熱発汗を伴い、注意散漫、失見当識、小動物幻視などが起こる。

240
振戦
tremor
勝手に体の一部がふるえる、ふるえのこと。身体の一部がある固定点のまわりで、規則的に繰り返し運動を示す不随意運動の一種。手、指、舌などに好発する。病的振戦には静止時振戦、姿勢振戦、動作時振戦(企図振戦)などがある。静止時振戦はパーキンソニズムでみられ、企図振戦は脳血管障害でみられることがある。振戦だけが症状である本態性振戦は老人に好発し、老人性振戦と呼ぶ。

241
続発性パーキンソニズム
secondary parkinsonism
【参照】薬剤性パーキンソニズム drug induced parkinsonism
振戦、固縮、無動、姿勢反応障害を呈するものをパーキンソニズムというが、特発性のものはパーキンソン病といい、続発性のものは続発性パーキンソニズムとまとめて呼んでいる。脳炎一酸化炭素中毒、マンガン中毒、脳梗塞後の血管性障害などに続いて起こるものを指している。抗精神病薬メジャートランキライザー)を使用した場合の副作用としてみられるものは薬剤性パーキンソニズムと呼ぶ。

242
姿勢反応障害

243
退行期うつ病
involutional depression
=初老期うつ病

244
滞続言語【辞典には載せない】
Stehende Redesart
同じ言葉や文章を繰り返すこと。連続的な言葉の繰り返しは保続であるが、他の言葉を挟んで同一の言葉が繰り返されるのが滞続言語である。側頭葉型ピック病に多いとされる。

245
脱水
dehydration
体液の不足した状態。老年者では、口渇に対する感受性の低下や腎機能低下などに起因して、脱水状態に陥りやすい。脱水時には意識障害脳梗塞が起こりやすくなるので注意が必要である。経口的にまたは静脈内点滴で水分を補う。

246
多発梗塞性痴呆
multi-infarct dementia
痴呆症のひとつで、脳血管性痴呆に属する。記憶障害などの痴呆症状は段階状に悪化し、局所神経症状(巣症状)、構音障害、感情失禁、人格保持などが特徴である。

247
知能検査
intelligence test
知能を客観的に定量する方法として、WAIS、Bender gestaltテスト、三宅式記名力検査法、田中・ビネー式などがある。子供用としてはWISC-Rなどがある。

248
遅発性ジスキネジア
tardive dyskinesia
長期間の抗精神病薬治療の後に出現すると言われている、舌、口、顎を中心とする反復的・常同的な不随意運動。しかしながら、同様の不随意運動が、抗精神病薬の出現する以前の記録にもあることが指摘されていることなどから、薬のせいではなく、病気の長期経過の中で起こる症状のひとつではないかとの少数意見もある。起こったら薬を変更調整することが多い。

249
痴呆
dementia
知能の全般的低下状態。

250
痴呆の評価尺度
evaluation scale of dementia
痴呆の程度を客観的に定量するテストとしては、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、N式精神機能検査、コース立方体テスト、国立精研式痴呆スクリーニングテスト、ミニ・メンタル・ステート・テスト、ベントンの視覚記銘テストなどが用いられる。それぞれ特徴があり役に立つ。

251
デイケア
day care
デイホスピタル
精神障害者が社会復帰をめざして対人関係トレーニングなどを行う。入院と異なり、夜は各自の家に帰り、日中のケアを行うことから、デイケアまたはデイホスピタルと呼ぶ。施設の性格により、患者クラブのようにレクリエーション中心のところから、職業に向けた訓練が中心のところまで、多彩である。精神分裂病の陽性症状は薬剤で抑えて、陰性症状デイケアで対処する。

252
動作性知能
performance IQ
WAISの動作性テストによって評価される知能。テストは絵画完成、絵画配列、積木問題、組み合わせ問題、符号問題の五つからなる。脳器質性障害では言語性知能よりも動作性知能の低下が著しい。

253
ドーパミン
dopamine
ノルアドレナリンの前駆物質で、血管内に投与すると強心作用、腎血管拡張作用などがある物質。脳内では、黒質線条体系、中脳辺縁系、中脳皮質系などに分布している。黒質線条体系のドーパミン欠乏はパーキンソン病をひきおこす。メジャートランキライザードーパミンレセプターをブロックすることにより、抗幻覚妄想作用を示すと考えられている。ドーパミンレセプターはD1からD4まで、さらにはそれ以上に細分化されているが、精神分裂病に対しての効果は主にD2が関与していると推定されている。

254
日常生活動作
activities of daily life(ADL)
自立した生活に必要な基本動作の評価。起居移動、食事、排泄、更衣、入浴などが中心項目となる。起居移動は特に重要で、ベッド上ADL、ベッドサイドADL、室内ADL、室外ADLなどと分類する。

255
尿失禁
urinary incontinence
尿を漏らしてしまうこと。老年期痴呆で問題になることが多い。排尿中枢の神経細胞が侵された場合には回復は困難であるが、意識障害に伴って起こる尿失禁などは回復可能であるので、鑑別診断が大切である。

256
脳萎縮
brain atrophy
神経細胞の脱落や萎縮により、脳が全体として小さくなること。脳回にすきまができたり、脳室の拡大として認められる。アルツハイマー病で著明である。

257
脳血管障害
cerebrovascular disorder
脳の血管障害であり、脳梗塞血栓性‥‥その部位の動脈が粥状硬化を呈し、その結果詰まるもの。塞栓性‥‥他の部位、たとえば心臓などから飛んできて詰まるもの。)、一過性脳虚血発作、頭蓋内出血(脳出血くも膜下出血)、高血圧性脳症、脳静脈血栓症、脳動脈炎症性疾患、血管奇形、血管発育異常などが含まれる。多くは脳卒中として急激に発症し、脳局所症状を呈することも多い。

258
脳血管性痴呆
vascular dementia
脳血管の病変に起因する痴呆症。多発梗塞性痴呆が頻度として多いが、その他にビンスワンガー病なども含む。記憶障害などの痴呆症状は段階状に悪化し、局所神経症状(運動麻痺や病的反射)、構音障害、感情失禁、小刻み歩行、人格保持などが特徴である。時間経過と症状の分布の両方の特徴としてまだらであるという意味で、まだら痴呆と呼ぶ。

259
長谷川式簡易知能評価スケール
改訂長谷川式簡易知能評価スケール
HDS-R(Hasegawa’s dementia rating scale -revised)
痴呆症の程度を評価するテスト。言語に関係した知能をテストする項目からなっており、短時間で実施可能で、信頼性も高いので、日本で広く用いられている。言語以外の能力を測定するためには、他のテストを併用する。

260
まだら痴呆
lacunar dementia
多発梗塞性痴呆の特徴をとらえた表現。精神機能の損なわれ方、身体症状の現れ方、時間経過の特性のどれについても、まだらであることから言われる。精神機能としては、たとえば記憶能力と判断力、感情表現力などの間に差がある。身体症状としても、症状の分布があちらこちらにみられる。時間経過の面では、段階的に不定期に進行するなどが特徴である。

261
心因性うつ病
psychogenic depression
=反応性うつ病 reactive depression
ストレスをきっかけとしてうつ状態を呈するに至るもの。反応性うつ病とほぼ同義。身体因性うつ病および内因性うつ病との鑑別が大切である。心因性うつ病では、日内変動が不明確で、他責的、依存性が高く、抗うつ薬への反応が悪いことがある、などの特徴を有する。心因性うつ病とは言っても、心因が100%とは考えられず、心因性うつ病を成立させる基盤としての脳の構造があると想定される。

262
被害妄想
persecutory delusion
妄想により被害感を感じ悩むもの。精神分裂病に多く、老年期痴呆でもしばしばみられる。

263
ヒステリー
hysteria
神経症のひとつのタイプ。心理的問題が身体にあらわれる転換ヒステリーでは、ヒステリー性失声、ヒステリー性運動麻痺などがみられる。解離ヒステリーでは人格の解離がみられ、二重人格や多重人格、生活史健忘などが起こる。ヒステリー性格は、演技性性格とも呼ばれ、芝居じみた様子が特徴である。症状形成には、抑圧をはじめとする心理的防衛機制が重要な役割を果たしていると考えられている。

264
ピック病
Pick’s disease
初老期に発症する痴呆症のひとつで、アルツハイマー病との鑑別を要する。人格変化(無関心、抑制欠如など)、反社会的行為(暴力、盗みなど)を特徴とする。同じ言葉を繰り返す滞続言語がみられる。

265
非定型うつ病
atypical depression
=退行期うつ病、初老期うつ病

266
不安神経症
anxiety neurosis
【類】パニックディスオーダー
不安発作が主症状となる神経症。不安発作時には、動悸、呼吸困難、発汗、ふるえ、めまいなどが生じ、死ぬのではないかと思うほどの不安に襲われる。心臓に関して特に訴えが集中する場合には心臓神経症と呼ぶ。最近ではパニックディスオーダーと呼ぶことも多い。抗不安薬が比較的よく効く。支持的精神療法を併用する。電車恐怖は都会に多い。我々のクリニックでは「電車克服の会」を継続している。しばらく精神療法を続けていると、電車が本当の問題ではないこと、本当の問題に取り組めないでいるのはどうしてなのか、などについて洞察が深まる。

267
不眠症
insomnia
睡眠障害と同義。入眠障害中途覚醒早朝覚醒などのタイプに分けて考えられている。背景にどのような疾患があるのか、環境調整の余地はあるのか、心因に対して精神療法が適切か、などを慎重に鑑別診断する。中途覚醒早朝覚醒の場合、背景にうつ状態がある場合があり、抗うつ薬が役に立つ。その他の場合はベンゾジアゼピン系薬剤を適切に用いればよい。しかし睡眠時無呼吸症候群は、ベンゾジアゼピンの適応ではないので注意を要する。

268
ベンダー・ゲシュタルト・テスト
Bender gestalt test
幾何学図形を提示して、白紙の上に模写させるテスト。ゲシュタルトとはひとまとまりの図形というほどの意味である。脳器質性疾患、痴呆などの場合に用いられる。

269
保続症
perseveration
ある言葉またはある動作を命じて言わせたり、動作させたりした後に、別の言葉や動作を命じても、前と同様の反応を繰り返す現象。痴呆症でみられることがある。

270
本態性振戦
essential tremor
振戦のみが症状で、動作時に利き手の上肢に出現することが多い。精神的緊張によって増強する。「ふるえるかなと意識し始めるとふるえる」と語る人もいる。家族歴を有することが多い。β遮断薬が用いられる。効かなければ、抗不安薬抗精神病薬、抗パーキンソン薬などが選択となる。

271
妄想型分裂病
paranoid scizophrenia
破瓜型、緊張型とならぶ精神分裂病のタイプ。妄想を主要症状とする。発病年齢は遅く、30歳以降のことも多い。経過は長く人格は比較的保たれる。薬が著効しないときでも、人生を楽しむには充分な程度に回復することを目標とすればよい。

272
夜間せん妄
night delirium
せん妄は一般に夜間に起こりやすい。外界の光も音も減少して感覚遮断状況に近くなることに加えて、呼吸循環機能が低下することも関連していると言われている。老年期痴呆の場合、夜間せん妄が起こりやすい。しかしせん妄による失禁や徘徊であれば、治療可能な場合があるので、治療不可能なものとの鑑別が大切である。

273
薬剤性胃潰瘍
drug-induced gastric ulcer
ステロイドホルモン、アスピリンなどの薬剤により起こった胃潰瘍。発症の詳細は不明の部分もある。潰瘍の程度を勘案しつつ対策を考える。必ずしも薬の変更を要しない場合も多い。

274
妄想
delusion
訂正不可能な確信。現実や常識に反する考えを思いつくこと自体は病的ではない。その考えを検証した後に、現実や常識に反する場合にも訂正・棄却できなかったり、人に言わないで黙っていられなかったりするならば、妄想と呼ばれる。人々は様々な程度に訂正不能な確信を抱いているものであるが、その考えがその人の社会生活を困難なものにする場合に問題となる。たとえば、盗聴されていて苦しいという訴えに対して、周囲の人が「重要人物でもないあなたがどうして‥‥」と説得を始めたとすると、それは周囲の無理解と受け取られ、患者さんをますます孤独な戦いに追い込んでしまう。患者さんが妄想を口にするときは、よほど考え詰めて、絶対に間違いがないと確信できたときだと思ってよいからである。周囲の人の説得が有効なくらいなら、もっと早く自分で訂正しているはずである。ところがその一方で、こんなおかしなことってあるのだろうかと半信半疑の面もあるのである。「あなたも信じられないくらい不思議なことだと思うでしょう?まわりの人が分かってくれなくても、仕方がないくらい不思議なことですよね。」などと言えば、同意してくれる。従って、周囲の対応としては、「あんまり不思議すぎて、その考え自体には賛成できないけれど、そのように考えていればとてもつらいだろうということは理解できる。つらさを軽くするためには専門家に相談してみたらどうだろうか。」と話を進めるのがよい。
精神分裂病に被害妄想をはじめとする妄想があらわれることの多いのは事実であるが、妄想があるからといって精神分裂病というわけではない。

275
恋愛妄想
妄想に基づいて、相手が自分を愛していると確信している状態。反対に、妄想に基づいて、自分が相手を愛していると確信している状態については、妄想と言わず恋愛と呼ぶ。ここに恋愛の本質が露呈している。

276
被害妄想
妄想に基づいて、自分は被害を受けていると確信している状態。

277
嫉妬妄想
妄想に基づいて、自分の恋人や配偶者が他の人を愛していると確信し、嫉妬するに至る状態。老齢男性やアルコール中毒の男性のインポテンス、女性の場合の容色の衰えなどが背景にあり、もう自分は相手を性的に満足させられないと考えている場合に起こりやすい。しかし最近では実際に裏切りがある場合も少なくない。その場合には、推論のプロセスは妄想に影響されているとしても、裏切られたという結論だけは事実と一致する場合もあり、注意深い扱いが必要である。

278
血統妄想
妄想に基づいて、自分はある特別な血統の人間であると確信している状態。皇族貴族に関するものから、財界人・政治家に関するものまで、さまざまなケースがある。「私は誰々の子供」と言う場合も、マッカーサー天皇田中角栄、西武の堤などと時代の風潮を反映する点で、妄想は現実と全くかけ離れているものではないようである。

279
幻覚
hallucination
外界に対応する刺激がないのに知覚を生ずる現象。周囲の誰にも声が聞こえないのにその人にだけ声が聞こえる場合など。刺激が存在し、別の何かであると知覚するのは錯覚である。他の人たちには電信柱に見えたものが、その人にだけ人影に見えた場合には錯覚と呼ぶ。知覚の正しさは多数決によるものではないのだが、実際上は多数決と常識によっている。クーラーのうなり音に混じるように人の声が聞こえる場合には、機能性幻聴と呼び、病的な場合も正常の場合もある。シャワーの音の中に電話の音が混じりあわてるケースなどは、病気ではない場合でもしばしば生じる。幻覚は様々な疾患で生じるが、幻覚体験自体が病的とは言えず、幻覚の内容や持続、さらに背景の病理を検討する必要がある。専門家に相談しておくほうが安心である。
またたとえば幻聴を体験している場合、実際に幻聴があることと、幻聴があると妄想していることと区別できるだろうかという問題があり、難問である。たとえば、ヒトラーが私に命令している幻聴が聞こえていると訴える場合、ヒトラーはドイツ語で語っているのか、日本語で語っているのかと問題にすれば、あいまいになることが多い。この場合は、ヒトラーが私に命令しているという妄想があると記述した方が適切である場合もあると考えられる。

280
薬剤(過敏)性肝障害
drug-induced liver injury
抗生剤、抗精神薬、抗不整脈薬などの起因薬剤により生じた肝障害。発熱、発疹、皮膚掻痒、黄疸などを初発症状とし、白血球増加が起こることがある。老年者で多剤併用している場合には起こりやすい。抗精神薬による肝障害をチェックするために、六ヶ月に一度程度の血液検査が推奨されている。

281
薬疹
drug eruption
薬物が直接にまたはアレルギー機序を介して、皮膚や粘膜に異常反応を起こしたものをいう。多くは地図状じんましんの形をとる。ほかに日光疹型薬疹や苔せん型薬疹がある。薬疹が現れたら薬剤を中止するのが一般的な方針である。年月を経ても同じ反応が起こることがあるので、薬剤を使用する前に、薬疹や食事アレルギーについての問診が必要である。

282
薬物性せん妄
drug-induced delirium
老年者では薬物の代謝・排泄の能力が低下していることがあるため、軽度の意識障害を呈しやすく、ときとしてせん妄状態に至ることがある。比較的よくみられる原因薬剤として、三環系抗うつ剤、睡眠剤(ベンゾジアゼピン系)、抗パーキンソン剤(アーテンシンメトレルなど)があげられる。これらの薬剤を使用中にせん妄が観察されたときには、痴呆や脳梗塞などと即断する前に薬剤の影響について検討する必要がある。

283
薬理動態
pharmacodynamics
薬物が体内で代謝され排泄されるまでの動きのこと。各種臓器の機能低下の程度、体全体に対する脂肪・水分の構成比率変化などが薬物動態に影響している。経口薬物の場合は、胃・腸、血中アルブミン、肝臓、腎臓が主に関与しており、老年者の場合にはそれぞれ、吸収の低下、アルブミン結合薬物の減少、代謝低下、排泄低下の傾向にある。各薬物の最適量と、薬物間の相互作用を勘案した上での工夫が必要である。たとえば老年者では若年者の薬物量の1/2〜2/3が安全域とされる。さらに血中濃度と臨床的有効量は老年者の場合必ずしも一致しないことがあるといわれるので注意が必要である。普通量の半分から使用を始めるくらいで間違いはない。

284
予備能力
reserve function
各臓器は普段は能力の一部だけを使っており、普段は使っていない予備能力があるから緊急時に対応できるのであるが、老年者では健康な場合でも潜在的に予備能力の低下が起こっている場合がある。疾病への抵抗力や薬剤への反応を考える場合に考慮すべきである。老年者への薬剤投与は、多剤併用はできるだけ避け、普通使用量の半分程度から始めて、ゆっくり増加させる。

285
利尿薬
diuretics
高血圧症の治療に用いられることがあるが、現在ではかつてほど用いられていない。低K血症、低Na血症、脱水、循環血液量減少による心拍出量の低下などの副作用が起こることがあり、心臓の冠状動脈への危険因子となることが指摘されている。

286
良性発作性頭位眩暈
benign paroxysmal positional vertigo
【参照】悪性発作性頭位眩暈
一定の頭位により誘発される内耳性のめまい。難聴は伴わず、純回旋性眼振を伴い、20〜30秒で消失する。良性である。

287
悪性発作性頭位眩暈
malignant paroxysmal positional vertigo
【参照】良性発作性頭位眩暈
一定の頭位により誘発される中枢性のめまい発作。1分以上の持続がみられ、繰り返し誘発される。脳循環系疾患、腫瘍、小脳・脳幹の変性疾患などにみられる。内耳性の良性めまいと鑑別する必要がある。悪性と名付けられているが、悪性腫瘍を意味するものではない。

288
老人振戦
senile tremor
=本態性振戦

289
老年期痴呆
dementia in senium
アルツハイマー型老年痴呆と脳血管性痴呆を代表とする、老年期の痴呆症。老年期痴呆、老年痴呆、老人性痴呆などがあり紛らわしい。老人性痴呆はもっとも広い呼び方。それを年齢で区切った場合、65歳以降に発症したものを老年期痴呆、それ以前に発症したものを初老期痴呆と呼ぶ。病気の原因で区別すれば、脳血管性痴呆(出血や梗塞)、老年痴呆(アルツハイマー病、ピック病)に大別できる。

290
老年痴呆
senile dementia
=アルツハイマー型老年痴呆、アルツハイマー
アルツハイマー病はもともとは初老期の痴呆を指したが、老年期タイプの場合も病気の本質は同じであるということで、初老期も老年期も、アルツハイマー型の脳変性がある場合にアルツハイマー病またはアルツハイマー型老年痴呆または老年痴呆と呼んでいる。記憶障害、見当識障害、感情障害、性格変化、思考障害、行動異常などの痴呆症状が、血管性痴呆に比して直線的に進行し、全般的痴呆を呈するに至る。初期から病識に乏しい。ピック病ほどではないが早期からの人格障害がある、神経学的症候や脳局所症候が目立たない、などが特徴である。脳萎縮や脳室拡大がCTやMRIで確認できる。脳代謝改善薬などが用いられる。

291
アルコール症
alcoholism
【同】アルコーリズム、アルコール依存症アルコール中毒
【参照】 アダルトチルドレン(AC,ACOA:Adult Children of Alcoholism)、共依存、振戦せん妄、匿名アルコール者の会(AA)
急性と慢性に分けられる。若い人の「イッキのみ」などで起こるのが急性アルコール中毒で、死に至ることがある。急激なアルコール濃度の上昇は死の危険があることを広く常識とする必要がある。慢性アルコール中毒は、過量のアルコールを長期間飲み続けた結果、嗜癖・依存状態となったもので、肝障害、脳症、精神障害、末梢神経障害などを起こし、さらに家族を巻き込む(アダルトチルドレン共依存など)点で、問題の広がりは大きい。主婦のキッチンドリンカーなども問題となる。
治療は断酒が第一であるが、無理な場合も多い。環境調整、家族教育など多面的なアプローチが必要とされる。
単にやめればよいといっても解決にはならない。やめられない理由を考えなければならない。心のすきまをアルコールで埋める習慣は日本には根強い。現在では昔ほどの深酒の習慣はなくなりつつあり、若者世代では覚醒剤や麻薬も代用となる。眠れないときに酒を飲む、他人が元気がないときには酒に誘う、とりあえず酒を介してうちとけるなど、社会に浸透している行動パターンがあり、アルコール中毒の誘因となっている。最近のアルコール飲料コマーシャルはますます大量になりつつある。
社会要因から目を転じて、個人の内面を考えるとき、ひとつの視点は喪失体験である。喪失体験からの立ち直りのプロセスがうまく完成せず、アルコール中毒に陥る場合がある。あらためて喪失体験を完成し、体験を消化吸収するように努力すると良い。喪失体験の自分にとっての意味が何であったか、探求することが中心課題となる。
AAは匿名アルコール者の会(Alcoholics Anonymous)で、アルコールからの立ち直りをめざす人たちが集まり、体験を共有し励まし合う会である。有効だと思うので、病院、保健所や精神保健センターなどで紹介を受けるとよい。
アルコール性肝障害が早期に発現した場合にはアルコールを控えるようになるため、脳が決定的に侵されないうちにアルコールの悪影響が止むのではないかとの見解もある。逆に、肝臓が丈夫な大酒家は脳が侵されないよう注意が必要である。

292
アルコール性小脳変性症
alcoholic cerebellar degeneration
慢性アルコール中毒にみられる小脳変性症。中年期以降に歩行障害で発症することが多い。初期ならば断酒、栄養改善、ビタミン補給、などで改善する可能性がある。

293
アルツハイマー神経原線維変化
Alzheimer’s neurofibrillary change
アルツハイマー病で大脳皮質などに多発する変化で顕微鏡で確認できる程度の病変である。非痴呆性老人脳でも海馬などに限局して少量出現することがある。

294
アルツハイマー
Alzheimer’s disease
初老期から老年期にかけて発症する原因不明の器質性痴呆である。神経細胞の減少、老人斑、アルツハイマー神経原線維変化、顆粒空胞変性が広くびまん性に多数出現する。症状は、記銘力低下、見当識障害、失語、失行、失認、行動異常、人格変化があり、進行性である。CTやMRIで脳室拡大、脳萎縮を観察できる。脳波では基礎律動の徐波化を認める。全経過は4〜6年といわれている。

295
一過性全健忘
transient global amnesia
中年以降に好発し、突然に前兆なく起こる。最近の記憶が消失する逆行健忘であり、数時間で回復することが多い。発作中も意識清明であり、日常生活動作には障害がない。発作中にも病感があり、どうして自分はここにいるのか、自分は何をしようとしているのか、と悩んだりする。後遺症を残さず全治する。

296
アルコール性肝症

297
アルコール幻覚症
alcohol hallucination
アルコール離脱症候群とは別のもので、アルコール依存症者で大量飲酒に引き続いて急激に発症する。敵対的・脅迫的な内容の幻聴が多い。大部分は数週内に治癒するが、一部は慢性の妄想状態に移行する。アルコールに誘発された精神分裂病とみる意見がある。

298
アルコールと消化器癌
アルコール依存者に消化器癌の発症の割合が多いことが注目されている。食道癌などに検診で注意した方がよい。

299
一過性脳虚血発作
transient ischemic attack(TIA)
一過性に脳虚血発作により脳局所症候が生じ、24時間以内に完全に回復する場合を言う。5〜15分程度で回復することが多い。微小塞栓、盗血現象(鎖骨下動脈でみられる)、血管圧迫などが原因となる。内頚動脈と椎骨脳底動脈で症状が異なる。

300
運動失行
motor apraxia
身についていたはずの動作が拙劣となる現象。指の巧緻運動の障害は手指失行、麻痺はないのに足が動かない歩行失行などがある。