こころの辞典101-200

101
共依存
co-dependency
アルコール依存症の研究から提唱された考え方。支配されることを通して相手をコントロールしようとするアルコール依存症者に対して、自分の内面的な葛藤を他者を支配することによって癒そうとする配偶者がいる。この人間関係を人間関係嗜癖すなわち共依存という。「私がいなければ何もできないあなただから私は離れられない」と演歌に歌われているような状態。離れてしまえば問題は解決するのに、自分の内的な問題が未解決なので離れられないでいる。しかしそれを自分の問題とは認知できないでいる。アルコール依存者の配偶者の他に、医療従事者の中にときに見いだすことができる。

102
嗜癖
addiction
=中毒、依存
それがどうしてもやめられない。それなしでいられない。人に言われると「いつでもやめられるから病気なんかではない」と言いながら、実際にはやめられない。周囲の人は悪いことだと思っているのに自分は特に悪いことだとは思っていない。次第に人間関係を損ない、健康を損ない、本人と周囲に不利益をもたらす。
本来は精神に効く化学物質に関して用いる言葉であったが、近年は以下の三分野に拡張されて用いられることがある。
? 物質嗜癖‥‥アルコール、薬物、食べ物
? 過程嗜癖‥‥ギャンブル、買い物、仕事、宗教、不安、愛情、反復される暴力
? 人間関係嗜癖‥‥共依存
三分野の嗜癖は相伴うことが多い。中毒、嗜癖、依存などの言葉はほぼ同じ。

103
自閉
autism
専門用語としては、現実から遊離して内面の主観的世界に閉じこもること。「現実との生ける接触」を失った状態であるといわれる。一方、一般の言葉としては自閉的と言えば「自分の部屋に閉じこもっている」「他人との感情交流が乏しい」などを意味するようで、診察室でもそのような理解が多い。世間一般の言葉で自閉的と言われている人でも、他人の気持ちや周囲の状況を正確に理解している場合も多く、そのような場合には専門語としては自閉的とは言わない。逆に、世間で普通に生きているが、周囲の状況に非常に無関心で、「いきいきとした接触」を失っている場合には自閉的と言ってよい。

104
自閉症
→児童の部

105
神経症
neurosis
不適切な行動パターンを選択しているために起こる、現実状況への適応障害のこと。
1) 人間は状況に応じて、自分の内部に保存しているさまざまな行動パターンから適切な行動パターンを選択して行動している。
2) さまざまな行動パターンとは、人生の過去のいろいろな場面で身につけた行動パターンである。
たとえば、厳格な祖父に接するうちに、祖父らしい行動パターンを学び取り(防衛機制の言葉で言えば、取り入れ:introjection)、同時にそんな人に対応するときの行動パターンを身につける。また、甘やかしがひどかった祖母に対して、仕事で忙しかった父に対して、見栄っ張りの姉に対してなど。また、家族以外でも、学校時代の友達、先生、近所の人たちなど。
こういったたくさんの行動パターンの中から、現在の状況に役立ちそうなものを引っぱり出して行動している。それはたとえば、職場で仕事をするとき、部下を叱るとき、上司の機嫌をとるとき、紛争を処理するとき、家庭で子供と遊ぶとき、妻と趣味の話をするとき、歯医者で治療を受けるとき、みな少しずつ違った自分でいることから実感できる。状況に応じて柔軟にいろいろな行動パターンを取り出して使うことができて、しかも全体としてはその人らしさが一貫している、そんな状態が普通である。
3) また、個人の経験から蓄えるだけではなく、人間の進化の過程で学び取り、脳に器質的に固定されている行動パターンもある。それは猿も猫もワニも同じ行動パターンを持っているかもしれないものである。
4) 職場で部下を叱る自分と、家で子供と遊ぶ自分が同じであったら何かおかしい。適切な行動パターンを選び出していないからである。
5) こうしてみると、適応障害にはいくつかの原因が考えられることが分かる。
まず、適切な行動パターンを持っていない場合がある。対人経験があまりにも乏しかった場合。対人経験を適切に学習する能力に欠けている場合。
次に、行動パターンの選択が間違っている場合。「いまそんな状況ではないでしょう」と言われかねない。
6) 対人関係がまありに乏しかった場合。経験を補う。現代の暮らしは昔に比べて、いろいろな年代の人やいろいろな境遇の人と出会うことは少なくなっているかもしれない。テレビでは見ているだろうけれど。テレビを見ることが、対人関係の学習になるものかどうか、疑わしい。
7) 対人関係学習能力に欠けている場合。これは問題だ。「良肢位」での固定を目指すSSTなどを考える。分裂病の人は発病してから対人関係の学習も停止していることが多い。
8) 行動パターン選択が間違っている場合。これが神経症である。治療は、適切な行動パターンを選ぶことができるようにすることだ。それにしても、なぜ適切な行動パターンが選択できないのか?明らかに自分にとって不利な選択をしている場合があるのだ。たとえば、電車内でのパニック発作。脳内の、利益の秤が壊れている場合がある。
9) 分かりやすい例。学力試験会場で不安が高まり、ノルアドレナリン上昇、血液は筋肉に集まり、心臓はどきどきになる。たとえば熊で例えるとして、熊から逃げたり熊と戦ったりには最適の態勢になったが、いま目の前に熊がいるわけではない。不安を共通項としているために、熊と出会ったときの反応を選択してしまったことになる。学力試験を前にしての適切な行動選択は、筋肉に血液を集めることではなく、脳に血液を集めることである。
10)状況に適していない行動パターンを選択していることの結果として、どのような症状が出ているかという観点からみたのが神経症強迫神経症離人神経症、不安神経症などと症状で呼ぶ。一方、全般的にどんな行動パターンを選択しているかという観点からみれば、性格障害の分類になる。ある場面で一時的にある行動パターンを使うから適応障害になるという場合、現在決まった言い方はされていない。もっぱら症状について名付けている。
11)性格とは結局のところ、行動パターンの選択の特異性について全般的な傾向をとらえて言う言葉だ。
12)行動パターンを大文字、状況を小文字で表す。A-aならばよい適応状態である。B-aでも最高ではないものの最悪ではないという程度の適応ができる。T-aくらいになると、かなり不適応状態であると言えるかもしれない。
13)性格とは、普段の行動パターンのセットであり、それはたとえば、ADERTなどと記述できる。
14)TEGは普段選択している行動パターン(上の例で言えば、ADERT)の中に含まれているPACの各成分を測定し合計したものである。
15)神経症と呼んでいるものは、場面に特異的な、不適応行動パターンの選択である。どこが壊れているのかといえば、不適応行動パターンの修正ができないところだろう。なぜさっさと別のパターンに切り替えられないのか。なぜ硬直しているのか。それが問題。
16)交流分析で、クロスの交流をしている場合など、これが神経症ということだ。状況に適していない行動パターンを選択しているから。

106
アルコールの換算法
清酒一合
ビール大一本
ウイスキーダブル一杯
焼酎お湯割り一合
ワイングラス二杯
純アルコール19〜24グラム
以上が同等で一単位とする。一日三単位以上を五年以上飲んでいる人はそろそろアルコールの害に気をつける必要がある。

107
精神科診断学
?前景症状‥‥状態像の把握
?背景病理1)-病因についての推定(これはあくまで症状の内容・経過の特性・病前性格からの推定にすぎない)
?背景病理2)-病態レベル
2,3をクロスさせてさらに1とクロスさせる。
2,3の表参照。
病前性格の位置付けをどう考えるか。

?不安状態、心気状態、強迫症候群、離人症候群、躁状態うつ状態、幻覚妄想状態、分裂病性残遺(欠陥)状態、恐怖状態、摂食障害、などが代表的である。他に錯乱状態、緊張病症候群、意識障害症候群、せん妄状態、アメンチア、もうろう状態などの状態像がある。典型的な場合はこれでよいが、その他の場合には個々の症状について記述する。たとえば、失声、失歩、不眠状態、衝動コントロール欠如、過度の他罰、など。このなかのいくつかの状態・症状については特異的に効奏する薬剤がある。
?推定の材料。症状の内容、経過の特性、病前性格
?精神病レベル、神経症レベル、境界レベルを区別する。

108
病前性格
premorbid character
病気になる前に持っている性格。もともとどんな性格傾向であったかを知ることは診断に役立つと考えられている。精神分裂病病前性格としてあげられているのは分裂気質であり、躁うつ病は循環気質、単極性うつ病は執着気質やメランコリー親和型である。
病前性格は、そのような性格だったのが原因でだんだん病気になっていったというものではない。精神分裂病躁うつ病うつ病も、もともとの素質としてその傾きを有しており、そうした素質のあらわれの一つとして病前性格があると考えられる。
人間には持って生まれた気質がある。しかし環境に適応していくためにはもともとの気質のままでは不都合だという場合があり、しだいに別の性格を発達させ、もともとの気質を後天的な性格でくるみ込むようになる。さらに環境が変わっていけばそれに応じて別の性格特徴を付加することもある。このようにして人間の性格は複雑に多層化してゆくと考えられる。
たとえば、もともとが分裂気質で人と距離なく交わるのは苦手だという人が、たまたま知能が高かったので集団のリーダーになったという場合。リーダーとしては多少循環気質の要素を発達させていった方がいい。他のリーダーのあり方などを見ながら次第に循環気質を身につけてゆく。このようにして社会適応を高めてゆく。さらにまた状況が変わり、こんどは一人で仕事をする場面が多くなったりすると、これまで作り上げた性格の上に、再度分裂気質の要素を付加して適応しようとする。
このように考えると、病前性格を診断するときには、現在もっとも表層に現れている性格だけではなく、その人の性格構造がどのような層構造を形成しているのか、人生のそれぞれの時期にどのような性格傾向を発達させたのかを緻密に評価する必要がある。

109
分裂気質
Schizothym
精神分裂病患者が発病前から示す性格特徴のこと。振り返ってみるとこんなタイプの人が多い感じがするという程度のものである。
全体には「対人距離が全般的に遠く、しかも柔軟性がない」ことが特徴で、三型に分類できる。?変人タイプ:気むずかしい、他人との共感が乏しい。?孤独型:対人過敏で傷つきやすい、対他交渉を避ける。?従順型:おとなしい、生真面目、ユーモアに乏しい。分裂気質の人が必ず分裂病になるのでもないし、分裂病の人の病前性格が必ず分裂気質であるということでもない。分裂気質だから性格を変えないといけないということもない。独立独歩でユニーク、まじめで繊細と評価することもできる。
集団の中では中心部にいるのではなくて周辺部の存在であることが多い。対人的に過敏なので、対人距離が遠くなる。
ハリネズミのたとえで言えば、他人のとげが長すぎるように錯覚されている状態である。他人に刺されないように遠くに離れている。そんな人たちである。

110
循環気質
Zyklothym
躁うつ病者が発病前から示す性格特徴。基調として?つきあいがいい、親切、親しみやすい。躁に傾く成分として、?朗らか、ユーモアに富む、元気、激しやすい。うつに傾く成分として、?静か、落ち着いている、物事を苦にする、感じやすい。これら三側面からなる性格である。集団内部では、中心部にいて、リーダーの役割を果たす場合がある。
おおむねの特徴は「対人距離の取り方が柔軟である」ことだろう。状況を素早く察知して、その場の雰囲気に合わせた対応ができる。価値観は現実的であり、超越的な感覚には乏しい。

111
執着気質
うつ病者が発病前から示す性格特徴。一度生じた感情が長く持続し増強することが基本特徴である。責任感が強い、仕事熱心、徹底的、熱中する、几帳面、正直、凝り性である。周囲からは模範的な人、確実な人と見られ、評価は高いことが多い。

112
メランコリー親和型
Typus melancholicus
うつ病者が発病前から示す性格特徴。秩序を愛する常識人。仕事は堅実、対他配慮に富み、義理堅く、人と争わず、人の思惑を気にし、人に頼まれると断れない弱気な面がある。

113
感情病の病前性格
bipolar I,bipolar II,monopolarと並べてみる。症状の面では次第に躁成分が減少する。うつ成分は一貫して存在している。病前性格の点でも、次第に躁成分が減少する。
つまり、激しやすさ・熱中性=神経出力増大成分=M(manisch)、几帳面さ・常同性・不変性=神経出力現状維持成分=A(anankastisch)とすると、Mは次第に減少、Aは一貫して保持されている。

114
エゴグラムでは自我状態を三群・五つに分類している。妥当か?
PACの三群であるが、たとえば、脳の三層構造を持ち出してはどうか?

115
反応性うつ病
reactive depression
環境への反応として了解可能なうつ状態。失恋したとき、肉親を亡くしたときなど。心因性うつ病(狭義には反応性でも内因性でもないもの。元来は抑うつを引き起こさないはずの情動的緊張などの心因による抑うつ。広義には身体因と内因を除外した広い範囲のものを指す。)、反応性うつ病(環境への反応)、神経症うつ病(幼児体験に発する未解決の葛藤が原因)、抑うつ神経症(依存性人格障害境界型人格障害と近縁と考えられる性格の問題を伴うことの多い、葛藤型のうつ状態。)、抑うつ反応(環境に反応するもので反応性うつ病よりもやや軽症のものを指す。)といったように似た言葉がある。厳格に区別しない場合が多いし、そもそも区別できない。

116
脳死問題
脳死は人間の死だと考えてよいかという問題。?脳死とは何か。どのように判定するか。?そのような脳死は人間の死なのか。?結局人間の死とは何か。などに問題を分解できる。大脳の働きがなければ人間は生きていないのだなどということは大脳が言いそうなことである。生物界には大脳なんかなくても生きている生物がいくらでもいる。生命体として共通の条件はDNAである。人間らしくはないが生きているという状態を考えてもよい。
脳が考えるから、脳死が人間の死になる。DNAが考えれば、自己複製・増殖に役立たないなら、死んでいるのだと判定するかもしれない。

117
男と女のピラミッド
女のピラミッドのダブルスタンダード
自己評価と他者評価
ある集団の中で、誰と誰がカップルになりそうかという問題についての理論。学校のクラスでもサークルでも、また会社内でも、男性集団と女性集団があり、その中での個人の順位はおおむね決まる。猿の集団の順位付けのようなものである。順位付けの価値基準はその集団の性格による。学力が評価されたり、運動能力が評価されたり、また資産や家柄が評価されたり、ルックスや趣味が評価されたりする。それらの重み付けの違いが集団の価値観の特性ということになる。自然な成り行きとして、男性ピラミッドの中での順位が決まり、女性ピラミッドの中での順位が決まる。そして男と女の自然なカップルは、この順位に照らして対応する男女である。ここまでが原則である。
さて、集団の価値観と個人の価値観は、おおむねは一致しているが微妙に違う。また、同性による評価と異性による評価とはずれがある。ここらあたりから恋愛の劇が始まる。
まず現代日本女性の場合には特殊な事情がある。学校時代には男女一緒の教育を受けて、勉強や運動の能力で評価される。それが主な評価の軸となる。男性の場合は家庭を持ってもその評価を延長していればよい。しかし女性の場合には、家事能力や育児能力といった面での評価もなされるようになる。それは学校や会社での評価とはかなり異なった軸になる。料理を上手に作ったり部屋の飾り付けが上手にできたりする能力は、伝統的な価値観を持った人々からは根強く支持されている。
このようにして、女性に関してダブルスタンダードが生まれる。女性は学校・会社でのいままでの自分の努力を評価されない場面に出会ったり、突然良妻賢母のイメージを押しつけられたりする。別の価値基準で測れば、ピラミッドは別のものになる。

118
躁うつ病の成因仮説

MAD細胞の比率が問題

熱中型の要素
熱中過ぎでMタイプ細胞は急にブレイクダウンする。

環境反応型の要素
A細胞が多い人は新しい環境への適応が素早くない。
M細胞が多い人は新しい環境への適応が素早い。

   M A D 性格構造   症状 熱中性   環境適応
 1 ○ ○ ○  
 2 ○ ○ ◎  弱力        単相性うつ
 3 ○ ◎ ○  制縛        強迫症 遅い
 4 ○ ◎ ◎  制縛+弱力     単相性うつ 遅い アパシータイプ
 5 ◎ ○ ○  強力     大
 6 ◎ ○ ◎  強力+弱力     双極性うつ  大
 7 ◎ ◎ ○  強力+制縛     双極性うつ  大
 8 ◎ ◎ ◎  強力+制縛+弱力  双極性うつ  大

強力成分は次第にエスカレートして、急にゼロになる。そのときはAとDの成分が残り、性格が変わってしまったかのようにみえる。
5 ー ○ ○ →制縛+弱力……うつ
6 ー ○ ◎ →弱力……うつ
7 ー ◎ ○ →制縛……強迫状態
8 ー ◎ ◎ →制縛+弱力……うつ

さらに病前性格との関連

循環気質
◎ × ◎‥‥◎ ◎ ◎
       ◎ ○ ◎ 典型的循環気質 bipolar I

執着気質
メランコリー親和型
× ◎ ◎‥‥○ ◎ ◎ 典型的執着気質 monopolar
       ◎ ◎ ◎

× ◎ ○‥‥○ ◎ ○ bipolar II
       ◎ ◎ ○

脳が全体にM細胞に依存している部分が大きいときには、M細胞の機能停止でひどいうつ状態になる。そうではなくて、M細胞が機能停止しても、その機能が占める割合が小さければ大した症状にはならないだろう。

119
脳の神経細胞
数は約千数百億個と見積もられる。うち九割は小脳皮質、一割が大脳皮質で、約140億個。「脳には140億個の神経細胞がある」とよく言われるのは、大脳皮質部分のこと。

120
神経細胞の特徴
確実ではないが、日々十万個ずつ失われるという数字が通説となっている。再生不可能。ただし、細胞は再生しなくても、残ったシナプスの可塑性は失われないから、新しくシナプス結合を増やしていけばよいとも考えられる。神経細胞を再生する研究は日々続けられていて、希望もないわけではない。

121
脳の病理学的変化
循環障害、炎症、腫瘍、変性、代謝障害、先天性異常。このほかに原因不明の分裂病性変化、躁うつ病性変化および非定型精神病性変化がありまとめて内因と呼ぶ。また、実際に脳組織に病理学的変化がないのに起こると考えられているものを神経症と呼んでいる。

122
脳のエネルギー代謝の特徴
脳は全身酸素消費量の20%を占める。低酸素状態に極めて弱い。しかしカナリアは人間よりもさらに低酸素状態に弱いので、炭鉱労働者はカナリアを連れて炭鉱内で仕事をする。カナリアが倒れたら酸素欠乏のしるしであるから仕事を中止する。

123
神経伝達物質
神経細胞が次の神経細胞に興奮を伝達するとき、シナプス前にあるシナプス小胞からシナプス間隙に神経伝達物質が遊離され、シナプス後細胞にあるレセプターにとらえられる。レセプター部分から興奮が細胞全体に伝えられる。

カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリンドーパミン) S
インドールアミン(セロトニン【5-HT】、メラトニン) うつ
アセチルコリン 痴呆・向知性薬
グルタミン酸 味の素
ガンマアミノ酪酸 ベンゾジアゼピン

124
メラトニンの話題
アメリカでもてはやされていると報道されている大衆薬。時差ボケ改善には有効という。しかし専門家には今のところそれほど重要視されてはいない。人はいつでも万能の新薬に憧れているように見える。

125
自律神経
歩いたり話したりするのは自分の思い通りにできるし、思わなければ何も起こらない。そのような部分は随意神経が支配している。一方、人間がいちいち意識しなくてもひとりでにうまく働くようにできている部分も体には沢山あって、心臓や消化管などの内臓運動、皮膚からどの程度汗をかくかなどが代表である。これらは不随意なもので自分勝手に動くから自律神経と呼ぶ。動物神経と植物神経という言い方もある。体の移動に使う筋肉に関係していれば動物神経で、それ以外の栄養や保温などに関係している部分は植物神経である。自律神経は植物神経に相当する。自律神経の働きは二つに大別され、休息のときには副交感神経、闘争と逃走のときには交感神経が働く。

126
交感神経
自律神経でノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を伝達物質とする系。副交感神経と拮抗してバランスしながら機能を調整する。闘争と闘争(flight and fleet)のときに優位となる系である。パニック発作、不安発作の的には交感神経優位となっている。脈拍は早くなり、血圧は上昇、手に汗握り、のどは渇き、瞳孔は縮み、全身の血液は内臓から筋肉に移動する。すべて戦いの準備として整合的である。たとえば道で熊に出会ったとき、不安や恐怖が引き金となりノルアドレナリンが放出され交感神経優位状態となる。全速力で逃げるのに適切な状態が準備される。しかしまた、試験会場で不安を感じたときも、不安が引き金となって交感神経優位状態となる。この場合には筋肉に血液を集めるのではなくて脳に血液を集めなければならないはずで、反応としては間違っているのであるが、不安が共通の引き金となっているため、仕方がない。いたずらに緊張は高まり、実力は十分に発揮できないままで試験は終わる。教訓としては、不安状態にならなくてすむように、準備をすること。準備が足りなかった場合には、あわてずに、副交感神経優位の場面を頭に思い描くことである。そのためにも、たとえばお気に入りの海辺などを日頃から経験しておくことをお勧めする。

127
副交感神経
自律神経でアセチルコリンを伝達物質とする系。交感神経系と拮抗する。休息のときに優位となる。
ベラドンナアルカロイド(アトロピン)は副交感神経系を働かなくさせる。昔ヨーロッパで舞踏会に行くときはアトロピンを使った。副交感神経が働かなくなり交感神経が優位になる。瞳が大きくなり魅力的に見える。そこでベラ・ドンナ=美しい・女性と呼ばれたと記事にある。瞳が大きくて濡れている状態は甲状腺機能亢進時やスポーツのとき、ジェットコースターで興奮したときにも見られる。すべて恋の始まりとなる。

128
海と山
どちらが別荘としてよいか、好みが別れる。研究によれば、海からの風には交感神経を刺激する粒子が多く含まれている。だから漁村の人たちは一般に荒くれ者というイメージがある。一方、山からの風には副交感神経を刺激する粒子が含まれている。フィットンチッド効果などもそのひとつである。以上の知見を総合して、風が変わるごとに山からの粒子と海からの粒子が程良くブレンドされる場所がよいとの提案もある。どの程度山に近いか、どの程度海に近いか、そのブレンドの仕方は各人の体質と好みと目的によるだろう。

129
シナプス
神経細胞神経細胞の接合部を指す。神経細胞同士は直接つながっているのではなく、約5万分の1ミリのすき間があいている。すき間をシナプス間隙といい、神経伝達物質が行き交う。神経伝達物質をレセプターが受けとめて、刺激を伝える。現在の向精神薬神経伝達物質とレセプターの働きをコントロールすることにより効果をあらわすといわれている。

130
レセプター
神経分野でいえば、神経伝達物質を受け取る部分の構造体。日本語では受容器である。生体内ではレセプターの数は一定ではなく、常に調整が続いている。たとえば、何かの理由でドーパミンが少なくなっている状態が長期にわたり続いたとすれば、レセプターを増やして、ドーパミンの恒常的な減少を補おうとする。逆に長期にわたりドーパミンが多すぎる状態が続くとレセプターは減少する。これらは生体のホメオスターシスのひとつと考えられる。
ドーパミンレセプターの面から分裂病を説明しようとする考え方もある。分裂病の死後脳の研究では、ドーパミンレセプターが増えているという報告がある。その意味については、増えたから分裂病になった、分裂病になったから増えた、薬を飲み続けたから増えた、などさまざまな考え方がある。

131
脳血液関門
Blood-Brain barrier
脳の血管には、血管内の有害物質が脳に影響を与えないように、血液中の物質を選択的に脳の側に透過させる仕組みがあり、脳血液関門という。個々では選択的透過が行われるため、薬物の血管内濃度と脳内濃度が一致しない場合がある。ハロペリドールやリチウムなど一部の薬剤についてに血中濃度をモニターしながら治療が行われるが、それはそのまま脳内濃度ではないことに注意が必要である。

132
Blood-Testis barrier
ウイルスが精子に組み込まれるとすれば、BTBを通り抜けなければならない。BTBは個体の適応状態を反映しており、適応低下時にはBTBは弱くなり、ウイルスも通りやすくなる。結果として変異は促進され、新しい形質の獲得の可能性を試すことになる。適応がよい場合には、BTBは強固であり、外来のウイルスなどは通さず、精子の遺伝子を現状のまま固定しようとする。環境が変わったときには、これまで適応が悪くて苦しみ続け、変異を模索してきた遺伝子が脚光を浴びることになる。奢る平家は久しからずである。

133
脳機能の局在性
過去の脳機能局在に関する議論は、脳の局所の損傷によってどのような機能欠損が生じるかについての観察を基礎にしていた。また、ペンフィールドの実験は脳外科の手術の途中で脳の表面を電気的に刺激して、その部分の刺激がどのような結果を生むかを調べたものである。これらの手法の場合には、脳のその場所に機能があるのか、機能の中継点なのか、機能の引き金があるのか、いろいろな解釈ができる。
現在はPETなどの装置により、生体内での活動を測定することができるようになった。しかしこれもあまり確実な所見とも言えない面がある。解釈は慎重にすべきであるという意見が少なくない。

134
男の脳と女の脳
男性脳は空間認知能力に優れ、数学、物理、建築に向く。身体・脳とも狩猟に向くという。女性脳は言語能力に優れている。また女性脳は左右の脳をつなぐ脳梁が大きく、女性の方が左右の脳をバランスよく使っていると推定される。こうした特性から女性は育児、教育、看護などに向くと言われる。しかしこれは平均的な傾向であって、個体差は集団差を超えてはるかに大きい。女よりも男が平均身長は高いが、身長の高い女はいくらでもいるのと同じである。

135
右脳と左脳
右脳を活性化するなどマスコミで言われるように、右脳と左脳の機能分化は明白のような印象を与えるが、実際にはそれほどでもない。片方の脳だけを短時間麻酔する方法で調べると、その人に関しての脳の左右差を調べることができる。結果は、左脳と右脳の機能分担も人によりかなりの違いがあるということのようである。

136
レム睡眠・ノンレム睡眠→表 脳と身体のそれぞれの状態
睡眠の状態を、脳波所見を参考にして分類したもの。ノンレム睡眠は普通の眠り。深い眠りで、多少のことをされても目は覚めない。レム睡眠の時期には、Rapid Eye Movementの名の通り、目がきょろきょろ動いていて、脳はある程度働いている。それに反して体は完全にぐったりしていて脱力状態である。自律神経機能は不安定となる。この時期に意識が戻って、体が寝たままだと「金縛り」と感じられる。レム期には夢を見る。またレム睡眠中に目覚めるとすっきりとした目覚めになる。睡眠はノンレム・レムのセットを何回か繰り返して目が覚める。どうせ目覚まし時計を使うなら、自分のレム・ノンレムのセットの時間を知っておいて、その正数倍を考えれば、すっきり目覚められると提案する人がいる。レム・ノンレムのセットは平均90分と言われているが、人によってばらつきがあるのでまず睡眠日記を付けて時間を計ることから始める。何回めかのレム期にちょうど目覚めれば成功である。

137
多因子病
決定的に悪くはない数多くの病因遺伝子の加算によって発症に至るタイプの病気。たいていの高血圧症や糖尿病、内因性精神病はこれに属する。面白いことに、どれも発症は生活習慣とも密接に関連しており、多因子の中には生活習慣という後天的因子まで含めて良さそうである。

138
精神異常の異常とは何か
?平均からのずれとしての異常。?価値判断としての異常。?疾病概念としての異常。これらが教科書にはあげられている。しかし実際の診察室では、異常かどうかが問題になることはあまりない。患者さんは困っているから来院する。もし「私は異常なんでしょうか」と聞かれたら、それは「それほど深い不安に悩んでいます」ということだ。悩みについて解決を考えればいいわけで、特に異常かどうかを判定する必要もない。正常だが深い悩みも沢山ある。また家族や周囲の人が来て、誰かについて異常ではないかと言い出したとしても、そのような発言に至るからには誰かが困っているのだ。では、その悩みについて相談しましょうということになる。
精神異常かどうかの判定が求められるのは裁判の場面である。しかしこの場合も判断能力をどの程度保持できていたかが問題なのであって、異常とは何かについて判断する必要はないだろう。

139
異常か正常か
「私の子供は病気でしょうか?」「私の妻は異常でしょうか?」
このような言い方は結局、「私はまだ我慢しなければならないのでしょうか。辛いんです。」という訴えだと思う。本人も困っているが、家族も困っている。誰かが異常だとか病気だとか言ってみても、それで悩みが解決するわけではない。医療としてお役に立てそうか、医療の他にはどんな手だてがありそうか、一緒に考える。家族全体の苦しみをケアしようとする態度が大事である。

140
疾患概念
病理標本の裏付けがなくても疾患と言えるのか。多分言えないと思う。精神科の場合にだけ、控えめに許されているのだろう。

141
ICD-10
WHOによる国際疾病分類(INTERNATIONAL CLASSIFICATION OF DISEASES)のことで、現在は第10版が用いられている。保健所・役所関係の人には大切である。

142
DSM-IV
Diagnostic and Statistic Manual of Mental Diseasesの第四版。アメリカ精神医学会が定めた精神障害の診断と統計のためのマニュアルである。多軸診断システムを採用している。統計的手法を用いて研究発表する人には有用である。

143
措置入院
医療保護入院
任意入院
基本的人権の一時的制限

144
リビドー
狭くは性的欲望のこと。広くは人間を突き動かす欲望全般のこと。心のエネルギーのこと。

145
イド・エゴ・スーパーエゴ
フロイトの描いた人格構造。

146
意識・前意識・無意識

147
葛藤
conflict
心の中に両立しがたい欲求が同時に存在する状態。旅行に行きたいけど貯金もしたい。食べたいけど太りたくないなど。人生は葛藤の連続であり、適切な妥協点を見つけるのが人生の智恵である。結論として、旅行は年に一回、体重は42キロと決心する。そしてしばしば自分の決心を裏切る。欲求は決心よりもしばしば強い。

148
防衛機制
defense mechanism
欲望が起こったとき、そのままの形で意識したり行動したりすると不安状態となるため、心はその欲望を受け入れることができず、形を変えて納得しようとする。そのようなメカニズムのこと。無意識的な作用である。
防衛機制は、正常、神経症防衛機制、精神病性防衛機制と分類される。

149
抑圧
repression
意識したくないことを無意識界に追いやること。そうすれば都合の悪い自分を見ないですむ。

150
退行
regression
適応困難な場面で、より低次の適応段階に逆戻りすること。低次の行動様式を選択する。たとえば、中間試験が受けたくなくて二歳の子供に戻ってしまい、指をしゃぶって言葉も話せない状態。大人が子供と遊ぶときに、一時的で部分的な退行を示す。これは健康な退行である。

151
反動形成
reaction formation
衝動が強烈な場合、抑圧するだけでは不十分な場合がある。衝動とは正反対の行動を選択することで不安から逃れようとする。憎しみを何とか処理しようとして溺愛したり、敵意を何とか処理しようとして馬鹿丁寧な態度をとったりする。

152
同一化
identification
自分の理想とする人の真似をして振る舞う。たとえば、母を恋しても父に邪魔されてしまうとき、父と同一化して満足しようとする。→取り入れ?

153
置き換え
displacement
もともとの衝動を、社会的に受け入れられるものに変更すること。

154
否認
denial
受け入れたくない現実や体験をなかったことにすること。

155
投影

156
取り消し

157
孤立

158
合理化

159
分裂

160
取り入れ

161
昇華

162
象徴化

163
治療抵抗
抵抗

164
転移
transference

165
逆転移
counter-transference

166
行動化
acting out

167
機能性精神病
functional psychosis
英語圏の精神医学で使われる言葉。顕微鏡程度では脳病変(構造変化)を観察できないような精神疾患を指す。顕微鏡では見えないほど微細なレベルでの変化という意味も含まれるが、脳に病変はない(つまり構造は正常である)が機能が異常になり病気が起こっているという意味も含まれる。
しかしながら、ある機能があれば、必然的にそれに対応する構造があるはずである。構造は壊れていないが機能が壊れているという言い方は矛盾している。

168
内因性精神病
身体因で起こるのではなく、心因と遺伝的素因の両者の関与によって起こると見られている疾患。遺伝的素因はどのようなものか不明であり、心因としても特異性は見いだされていない。遺伝性疾患ほど遺伝子に決定されてはいない。一卵性双生児の発病一致率は50%程度である。また、心因となるストレスの関与は確かにあると思われるが、神経症の場合のように強く状況に反応しているわけではない。非特異的ストレスという程度の場合もある。

169
幻覚
「対象なき知覚への確信」である。実在しない対象を知覚していると信じるもの。

170
錯覚
illusion
外界からの知覚入力が実際にあり、それを誤って知覚すること。

171
過剰相貌化
幻覚に関する理論のひとつ。たとえば壁のシミが人の顔など意味のあるものに見える現象について、過剰に意味を読みとろうとする点に着目したもの。

172
人混みが苦手な人の不思議
人の中では緊張するから、行きたくないと言いながら、行ってしまう。なぜか。
昨日は人の中に入って緊張してとても疲れてしまったと語る患者がいて、それでは経験を生かして、次からは疲れすぎない程度でやめておきましょうと指導する。しかしつぎにもまた人の中で活動している。その様子を見ていると特に疲れている様子でもない。次の日になれば疲れて大変だとか緊張して大変だという割には、そのときには平気で、それなりに楽しんでさえいるように映る。
ある人に話しかけられて深い話になってしまい、そのあとで大変な目にあったと話している。それでは次からは人と距離を持って話すようにしましょうと指導するが、つぎにもやはりじっくりと話し込んでいる。
嫌なことであるならなぜ避けようとしないのだろう。話し合いの結果、多分、その時は嫌ではないのだ、後で回想してみて、どんどん嫌な気分に染まっていくのだと思われた。
体験の段階ではさほど嫌な経験ではない。しかし後になってそれを思い出してみると、とても嫌で疲れる体験と感じられている。それは回想の段階で、妄想的な加工が加わるからではないか。
嫌だ嫌だと言いながら、はまりこんでいってしまう、そして次の日になってとても疲れたと言う。こんな人の場合は、回想の仕方に病理があるのではないか。本当にその場で嫌なものならば、回避するようになるはずではないか。
現在形では嫌な気分を知覚できず、回想でしか知覚できないのだと考えてもいい。それを、現在の知覚障害と考えるか、回想時の妄想的付加と考えるか、ということだろう。

173
薬剤使用量
病状や薬剤の効き目・副作用について懇切丁寧に説明すれば、薬剤の使用量は減少するだろう。
まず親切な精神療法を行えば、薬剤は少量ですみ、効果も高い。ときには偽薬で十分なほどである。
もらった薬の全部または一部を捨てる患者も、きちんと話す時間があれば必要十分な薬をもらって全部のむようになるだろう。
不必要な薬を出して平気な医者は、きちんと説明することが必要で、ときには質問もされるとなれば、不要の薬を出すことにためらいを感じるようになるだろう。
医者のかけ持ちをやめるようになる。
きちんと説明もしないような医者にかかっていると不安ばかりが高まる。
というわけで、患者さんのためにも、さらに医療経済の点からも、懇切丁寧な面接が望まれる。

174
薬か精神療法か
精神療法ですむものなら、もちろん精神療法ですませたい。薬は自然の食べ物ではないから、なしですむならその方がいい。
しかし薬には即効性がある。
薬でまず一段階楽にして、そこから本格的に精神療法に取り組むというのもよい作戦である。

175
「薬は自分を変えてしまう。精神を変えてしまう。」という不安。
これは根強い。日本人は自分を変えてしまうことには恐怖を感じていて、できれば自分のままで、その延長として自分を強くして、困難を乗り切りたいと願っている。ある国の人たちは、自分をきっぱりと自分以外のものに変えて、困難を乗り切りたいと思うのだそうだ。その点では、日本人にはドリンク剤やビタミン剤が好まれ、精神科薬剤は敬遠されるのだろう。それは、精神科薬剤がまるで覚醒剤や麻薬のように自分を変えてしまうとの誤解が根底にあるからだろう。
薬の効き目はたいていは、不安を少し遠ざけるだけだ。薬で少しだけ楽にして、時間をかせいでいれば自分の身体の内部に備わっている自然な治癒能力が働いて、精神を調整してくれる。精神そのものにメスを入れているようなものではないのだ。

176
妄想?
なぜ幻覚妄想は発生するのか?
1)さまざまな原因からドーパミン過剰状態またはドーパミンレセプター過剰状態になり、ドーパミン系過敏状態となり、幻覚妄想状態になる。証拠としては、ドーパミン遮断薬が幻覚妄想を除去するのに役立つこと。また、脳内ドーパミンを増大させるような薬剤を使うと幻覚妄想状態が引き起こされること。なるほどと思うし、賛成の声も強い。しかしドーパミン系過剰状態が関与している可能性は認めるとしても、それが全てではないだろう。
2)心理面から考えれば、自己の内面にある考え・感情・イメージを、それが自己の内部にあると認めたくないから、外部に投影することで生じると考える。まあそれは当たり前で、対象なき知覚であったり、現実と食い違う確信であったりするのだから、自己の内部に発生しているものに違いない。それがあたかも外部に起源を持つものであるかのように考えてしまうところが病気の部分である。
3)壁のシミが人の顔に見えたり、空の雲がアイスクリームに見えたりする。これをパレイドリアといい、これ自体は普通の人の普通の時に起こることである。しかしこれは本来意味のないところに意味を見てしまうのだから、幻覚妄想状態と同じ構造を持っている。パレイドリアの状態にも、程度の違いを考えることができる。壁のシミが確かに何かの形に似ていると容易に理解できることもあれば、全くどう見ても何にも見えないこともある。星座の形にしてもそうで、とても物語の英雄には見えない。それでも現在のように名前が付いているということは、誰かがそんなことを考えたわけだ。意味のない形に意味を付与する作用には強弱があることが分かる。この作用が強い場合を過剰相貌化といい、弱い場合を脱相貌化といっている。
ドーパミン系の過剰状態は過剰相貌化をもたらす。これは幻覚妄想の起こり易さという、いわば形式を準備している。内容を決めるのは、個人の心理内にある内容である。欲望や関心、不安、そういったものが投影されて、個人に固有の幻覚妄想を生じる。これが幻覚妄想状態である。上の1)は形式を決定し、2)は内容を決定する要因であると考えられる。
逆に、ドーパミン系不足状態は、離人症を準備する。意味を外界に投影する作用が薄れてしまい、意味を感じ取ることができなくなってくる。離人状態はこれが全てではないが、このような成り立ちの離人状態もあり、それは精神分裂病とその周辺の病理の場合に起こるタイプのものである。
相貌化作用でいえば、固定して過剰または過小の場合と、大きく揺れ動く場合の、どちらも病気の原因となると考えられる。これはドーパミン系の言葉で言えば、ドーパミン系過剰または過小で固定されている場合と、両者の間を大きく揺れ動く場合の、両方が病気に関係していると考えられる。症状に翻訳していえば、幻覚妄想状態または離人状態と、この両者を揺れ動く場合とがある。

177
妄想?
自分や身の回りの人が幻覚妄想状態になったら、どうすればいいか?
自然で良性の幻覚妄想状態はないと考えてよいので、専門家に相談して下さい。とは言うものの悲観する必要はありません。手だてはいろいろあります。

178
看護学対処法
身体病の患者さんが精神的に変調を来している場合。
?まず、その人の言っていることや考えていることが現実と一致しているのかどうかを考えてみる。説明したり説得したりして、どんな反応を示すか、様子を見る。現実とかけ離れていることをあくまでも信じ込んでいるならば、「熱心に懇切丁寧に対応する」方針だけではうまくいかないかも知れない。主治医に相談して対策を考える方がよい。
?現実と一致しないことはないのだけれど、考え方や感じ方があまりに極端で、患者さん自身が悩んだりまわりの人を困らせたりしていることがある。性格に問題があるのかも知れない。そんなときは対応の仕方をよく考えなければいけないので、看護ミーティングの場でよく話し合う。
?身体病になるということは、たいていの場合、「自分の大事なものを失う」体験である。これを喪失体験という。身体病になることで身体の機能を失う、そのことによって人生の計画や生きがいを失う、経済力を失う、さらには良好な家族関係を失うなど、失うものがたくさんある。病気になることによって得られるものもたくさんあるのは確かだけれど、そのようなプラスの面を考えられるようになるのはかなり落ち着いてからだろう。
人間は大切なものを失ったときは「うつ状態」になる。だから、病気で通院したり入院したりしている人たちは多かれ少なかれ、うつ状態に傾いている。さらに家族も大切な人の病気に際してはさまざま大切なものを失うのだから、やはりうつ状態に傾く。
したがって、身体病の患者さんと家族に接するときには、うつ状態の人に対しての対応の仕方を頭に入れておけばよいことになるだろう。
?うつ状態の人に接するときの基本は、話をよく聞くこと、患者さんに真面目な関心を寄せて理解しようとすること、批判するのではなく受け入れること、などである。このとき、?と?の場合には別の対応が必要になるから注意する。

179
燃えつき症候群
なぜ特に看護婦について言われるのだろうか?
完全主義、理想主義、強迫傾向の人が、教師、看護婦、精神療法家などの職業に就いたときに、心身ともに疲労してうつ状態になってしまった状態のこと。自分が職業について理想として思い描いていた状態が、実際には実現困難なものであることを知るにつれて、報われなさに押し潰されて行く。教育やカウンセリングなど人間の精神にかかわる分野では、客観的な評価が曖昧である。自分で自分を評価することになるが、その場合、完全主義の人は自分によい評価を与えることができず、まだ足りないと思うようになる。精神的活力を使い果たしてうつ状態に陥る。
教育や心理の仕事は相手が人間なのだから、自分が努力すればそれに比例して成績が上がるという性質のものではない。したがって完全主義者が本来感じやすい不全感や報われなさが生じやすい分野である。完全主義傾向のある人は、仕事の性質からいって、自分の完全癖を満足させることは難しいのだと最初から頭に入れておく必要がある。教育効果や治療効果を完全にしようと思わずに、自分の記録を完全にするとか、勤務時間を完全にするとか、そのあたりで完全欲を満たすようにしたらどうでしょうか。

180
想像の手紙
「あなたの友人、それは実在でも架空でもいいのですが、その人からの手紙を考えます。それを受け取ったら心から満足できると思うような手紙を自分で書いてみましょう。友人にしてもらいたいこと、言ってもらいたいことを正確に言葉にして書いてみましょう。」物事を多面的に見る訓練になる。

181
精神安定剤
本当の安定剤の他に、比喩的に「心の安定剤」という場合がある。人々は心が不安定になったときのために対処行動を開発しているものである。アルコールを飲んだり、やけ食いしたり、ある特定の対人関係に頼ったり、性的関係を求めてみたり、ギャンブルをしたり、仕事になおさら打ち込んだり、趣味を持っていたり、本を読んだり、ビデオを見たり、いろいろある。この中で限度を越えると依存状態として問題視されるものがある。まず代表はアルコールであり、シンナー・トルエン覚醒剤睡眠薬・ある種のかぜ薬などの各種化学物質、ギャンブル、買い物、食べ物、仕事、宗教、暴力、ある種の人間関係などは、度を過ぎれば嗜癖、または依存や中毒と言われるものになる。健康なストレス発散は問題ないのだが、どうしたわけか、問題領域に入り込んでしまうのである。そうした人たちはたとえばアルコールをやめようとしてギャンブルにはまりこんだりするなど、ひとつの問題行動から別の問題行動に移行していることも多いと指摘されている。
要約していえば、彼らは不安に対処する力が弱いということだ。

182
構造主義
人間の本質は情報または構造についての情報であるとする考え方。
思考実験として、人間の体の各部分を切り離して人工物に変えていくとする。義足、義手、義歯、義眼、と次々に変えて行く。たとえば、子供の頃からの手と、義手は同じではないのだから、義手を使うようになった自分はもう昔の自分ではないのだ、だから手は自分の本質の一部なのだと言い張るとしても、その議論には無理がある。変化は起こるだろうが、やはりその人はその人であろう。愛用の靴と愛用の手とでは本質に違いはないだろう。歯を抜いて入れ歯にしても人間の本質が変わるわけではない。では脳を移植したらどうなるか。それは脳だけを残して体全部を入れ替えることだから、結局非常に大規模な体の移植ということになる。
このように考えると、やはり脳にその個人の本質があるだろうということになる。さらに、脳の部分移植を考える。小脳を移植するとして、普段より動きがいいなと感じる程度で、別段不都合はないだろう。脳幹も、取り替えればもっと調子がよくなるかも知れない。では何が自分の本質なのだろう。
意識も記憶の脳神経細胞の作り出すものと考える現在の脳科学の仮定をここでも前提とすれば、結局自分の本質とは、自分に固有の神経細胞のネットワークの仕方ということになるだろう。それは「もの」ではなく、情報ということになるだろう。情報が充分にあれば、この人に固有の神経細胞のネットワークを再現することができるだろう。そうした情報を分析する技術が確立されれば、ミイラは情報ボックスで充分である。生き返るときにはその情報をもとに神経細胞を組み立てればいいわけだ。(困難は大きい。神経細胞の特性は無限であるし、細胞同士の情報伝達の仕方も無限に多彩である。)
さらに一歩進めると、実は情報を神経細胞に移さなくてもいいはずである。神経細胞ネットワークを再現したとして、それがどのように働き、何を体験するのかについてはたとえば大規模なコンピューターでシミュレートできるだろう。そうすれば、特に生きる理由もないかも知れない。コンピューターの内部で、ある個人の情報セットが体験し、変化して行くのである。これは生きることと全く同等である。

183
中毒仲間
アルコール中毒や薬物中毒の仲間は、メンバーの立ち直りを喜ばないことがある。せっかく中毒の行動パターンをやめられそうになっているときに、「実はいい話がある」などと言って接近し、それまでの努力をだいなしにしてしまう。この誘惑に打ち勝つことができるかどうかが、立ち直りに成功するかどうかの鍵であることもある。映画やドラマでも、ここで勇気を持ってきっぱりと悪い仲間とは別れなさいと勧めている。ある種の不安を処理するために特定の物質に頼っている場合、その物質の入手の都合から、同じ傾向の人たちと知り合いになる。すると今度は物質依存に加えて対人関係の面でも嗜癖性のパターンを発揮するようになる。そのような集団では、誰かが目覚めて、自分たちの不安消去パターンを否定するような言動をすれば、自分たちの存在の根底を掘り崩されるような不安を感じる。全般に不安に対処する方法が下手な人たちである。個人の不安を消去するために集団を作ったのに、こんどはその集団が不安に脅かされるといっては騒ぐのである。

184
中毒とエスカレート
中毒症者は、アルコール、食べ物、ギャンブル、宗教、対人関係、その他どの場合でも、エスカレートすることが特徴である。一方、躁うつ病者の病前性格として循環気質があり、その特徴の一面として熱中性があげられている。これもつまりはどんどんエスカレートするすることであり、中毒症者のエスカレートと通じる面がある。両者の違いは、循環気質の場合には、ある時点で熱中性を持続できなくなり自然の経過としてうつ期に移行することであり、中毒症者の場合にはそのような移行がないまま持続することである。また、中毒症者の場合には同程度の満足を得るためにさらに強い刺激を必要とする悪循環に陥るのに対して、循環気質の場合には同程度の刺激でも満足が強くなるらしい。

185
熱中性と脳内モルヒネ
熱中性やエスカレートする性質の物質的基盤として、脳内モルヒネが関与しているか関心が持たれるのではないか。

186
精神科診断学
?確実に客観性をもって分かること
?推定または印象、意見に属すること
の二つを区別する診断学がよいのではないか。
病前性格・生活歴・対人特徴などについて。
行動・情動・思考パターンの特質を描写する。

187
風景構成法
たとえばうさぎが描かれたとして、それは何を意味するのか。そのイメージはその人の心のどの層のどの部分から出てきたのか、その人に即して考察する必要がある。一般化しすぎてはいけない。各個人の内部のイメージシステムを検討する必要がある。

188
防衛機制・取り込みの例
「こっぱずかしい。」発言の分析。
テレサテンの歌が天井から流れてきたとき、ある女性が「よくこんなこと言えるわね、こっぱずかしい」と言った。その女性の普段の言葉遣いからすれば違和感のある表現である。その部分だけがその人らしくないような印象であった。推定すれば、祖母か母か、そのような年代の人の言葉のようであった。
その人は、恋愛についての自分の感情を抑圧している。恋愛部分についての感情は自分の生の感情ではなく、祖母や母の言葉の反復である。その人の全体としての幼さの印象はそうしたところから出ているのだろう。

189
演歌の世界
テレサテンは高級クラブの女たちの、演技を含んだ純愛。
八代亜紀は下層階級の例。時に男は酒と女と賭博に溺れ、私がついていなくてはこの人はやっていけないと考えて女は満足している。

190
悲しい演歌
自分の悲しみを代弁してくれる。感情に形がつけば、カタルシスである。他人の不幸を見ていれば安心できる。

191
性格の三角形
強力、常同、弱力の三角形は、各人なりにバランスをとっている。MADの三角形である。
たとえばMDの比率が大きいときには、Aを大きくさせてバランスをとろうとする。これが循環気質に見られる強迫成分(常同成分)である。先天的には強力成分と弱力成分が優勢で、常同成分は後天的に発達させたものである。だとすれば、強迫症は性格防衛である(A性格を発達させて性格の一部とすることによって適応をはかっている)という言い方もできる。躁うつ状態になり、防衛破綻しているときには、まず薬で抑えた後に、A成分を再建する必要がある。
後天的に発達させることができるのは、Aが最も容易であり、古くから子供のしつけの要点は几帳面さを発達させることに自由点が置かれてきた面がある。世間では几帳面で常同的なことは適度な範囲であれば、信頼性を増し、好ましいことであると考えられている。
A型行動傾向は強力と常同の比率が高い。
常同と弱力の比率が高い場合。‥‥アパシーパターン。常同的パターンで適応する人。環境変化に適応するまで時間がかかる。新しい環境に適応しきれないでダウンすると、常同成分が停止し、弱力成分だけが残る。この状態がアパシーである。新しい状況に常同型行動パターンで対応することができないでいる。:退却神経症の場合、本業からの選択的退却、アルバイトや趣味は興味を持ってできるというものであり、この両者の対比が印象的である。:性格としては、まじめ、おとなしい、礼儀正しい、完全主義、頑固、几帳面、小心、攻撃性に欠ける、積極性に欠ける、自尊心が高い。:強力成分は柔軟性でもある。強力成分に欠ける人は柔軟性に乏しい。
強力だけの比率が多い場合。うつとは無縁の軽躁型。
常同だけの比率が高い場合。強迫性格。
弱力だけの比率が高い場合。抑うつ型性格。
強力成分はノルアドレナリンと交感神経系に関係している。
弱力成分は?と副交感神経と関係している。
A成分はたいていは後天的なしつけの成分なのだと考えてよいかも知れない。
シュナイダーは、強迫性格は自信欠乏の裏返しだと考える。しかしそれは自信というものの基準が高いからだろう。自分の正確さの基準が高いのである。

幼児期の悲しい体験は弱力性を増大させる。
三成分は、持って生まれた比率でもあるが、後天的な影響により比率が変化する?
弱力性とは、運命を甘受することである。
人の力ではどうすることもできない無力感が弱力性成分を強化する。

192
定義する作業
辞典では意見ではなく事実を伝えたい。たとえば旅行ガイドであれば、どこの景色がいいとかどこに行けば楽しいとか、それは意見である。しかしどこに何があるという情報については事実である。それに相当するものを伝えたい。しかしそれが難しい。
分裂病とは何かと説明しようとしても、各国ごとにさまざまな診断基準があり、それらを集めたものが出版されているほどである。
富士山とは何かと説明しようとしても、境界の説明が難しい。中心部については誰にも異論はないだろう。しかしどこまでがなぜ富士山なのか、説明は難しい。遠くに行くほど明瞭である。
分裂病の中核部分については異論はないだろうが、分裂病の周辺部分については意見が分かれることもある。それでも何とか医者同士で話は通じている。
では分裂病は難しいから、症状について事実を提示したらどうだろうか。しかしそれも難しいのである。幻覚妄想にしても客観的に測定することもできず、患者さんの語る言葉や行動を医者の側で「深く」解釈する必要がある。たとえば、「自発性の減退」という場合、言葉で言えばひとまとめにできるものの、うつ病の場合にはおっくうさと言うし、分裂病の場合には無為と表現している。その他にはアパシーでも見られる。そしてそれぞれの場合にやや違いがある。これについてはなんとか理解できる。ところが、離人症の場合、分裂病うつ病神経症などいろいろな場合に見られる。それぞれの場合で離人症に違いはあるのか、ないのか。どのようにして差があるかないか確かめることができるのか。そんなことさえも分からない。全く原始的な話である。
定義しようとすれば、学説の紹介にもなってしまう。結局複雑になる。
そこで、患者さんと家族の皆さんに役立つ情報を伝える。学説はひとつでよい。
そして説明は事実そのものでなくても、分かりやすいたとえ話を重視する。

193
依存(甘え)のよい面
不安をコントロールするために依存は役に立つ。過度の依存はすすめられないが、適切な依存は人間として普通のことである。依存はいけないといってたらいの水と一緒に赤ん坊まで流してはいけない。

194
自己記入式テスト
その人が自分をどれくらい飾っているかも分かる。また、自己評価の低さについても評価できる。誇大的か、卑下的か、実際の面接時の印象と比較して評価することになる。したがって、実際の面接がやはり基礎になる。郵送で採点していたのでは、表面的なことしか分からない。自己評定と面接を組み合わせることで、人格の立体的な構造が明らかになる。
たとえば、「人に親切にしないではいられない」に○と記入した人が、普段はどのような言動をしているのかを背景として考えれば、いろいろなことが分かる。

195
受容
受容派の人は、単に嫌われることが怖いだけのこともある。迎合する。みんな自分のためである。一時的に嫌われてもなお相手の利益に立つことができない、弱さがあるのである。

196
リフレイミング
再枠付け。視点を変えて物事を見る。洞察的精神療法では、リフレイミングをすすめることによって、物事を多面的に見ることができるよう導く。多元的な価値観を身につけることは人格の深まりである。

197
ヒステリーと境界例の違い
人格の未熟といえば、どちらも未熟である。ヒステリーは全般に小学生程度にまで退行し、境界例は部分的に赤ん坊にまで退行する。人格水準としてみれば、こういうことになる。
境界例はでこぼこな退行、ヒステリーは全般的ななだらかな退行と言えるかも知れない。
WAISで折れ線パターンが特異的発達障害で、LD。全般的レベル低下は知能発達遅滞である。それと同じように、人格水準を人格要素ごとに分析したときに、全般的低下を示すのはヒステリータイプ、折れ線で部分的に低下しているのが境界型タイプではないか。
また、症状の面でいえば、不安が前面に出たり、衝動コントロールが悪かったりで、類似している面はある。
転換ヒステリーも、解離性ヒステリーも、症状としては特有で、境界例とは重ならない。
昔からの習慣でヒステリーといっているタイプは、全般に人格が未熟で、行動面では衝動コントロールや欲求コントロールがまずい、対人的には未発達で甘えが見られる、などの点が特徴であろう。
ヒステリーは分裂病とは全く関係がない。

ヒステリー型:全般に低下するが、神経症レベルにとどまる。小学生程度。
境界型:精神病レベルので低下するが、部分的。その他の部分の機能は高い。

境界例の人は治療者に対しても理想的な満足を求める。対人的に「理想的・空想的・強烈な」対人関係を求める。異性についても治療者についても。

昔はヒステリーとパチー(精神病質)でだいたい表現できた。このごろは細分化されて、ヒステリーは転換型ヒステリー、解離型ヒステリー、パチーは境界型、反社会性、自己愛性などと表現される。すると、中間型や分類不能が他が必ず出てくる。それらは仕方がないから、昔で言うヒステリーとしか言いようがない。

もともと連続したものを類型で表現するのには無理がある。性格障害多次元空間でも考えて、多次元の要素について連続量として測定し、座標に位置づけるようにするのがよい。測定は、ストレスに対するアドレナリン反応性などが最適であるが、現状では心理テストにより測定した数値を使用すればよいであろう。こうしたことがうまく行けばよいのだが。

198
浦島太郎と竜宮城
施設(竜宮城)の外では適応できない人のこと。施設病ホスピタリズム。スタッフとしては、患者さんを浦島太郎にして施設に縛り付けておいてはいけない。あくまで社会復帰が目標である。施設が居心地よくなった人は、このまま仕事を辞めて、毎日でも来ますなどと言い出す。居心地がよくなくてはならないが、現実世界と切り離された竜宮城であってはならない。しばらくいたら現実社会に戻る力が備わるような場所でありたい。竜宮城で遊んでいるうちに浦島太郎は社会復帰不可能になりましたというのでは治療になっていない。

199
自分からのレッテル張り
「私はACだ」という発言は、「おまえはACだ」という発言を誘発する。

200
進化論の不思議
ワニの赤ちゃんは唇がないので、乳首を吸っておっぱいを飲むことができない。ワニの母には乳房も乳首もない。こんな状態から、ほ乳類になると突然のように母には乳房と乳首、子供には唇ができて、哺乳ができるようになる。哺乳類になったわけだ。しかしこれは独立に起こったことなのだろうか?進化の途上では、役にも立たない乳房があった時期があるのだろうか。このような不思議もいずれ何かで説明されるだろうと期待するなら、とてつもない楽観主義と言わなければならないだろう。