妄想性人格障害

恋人や配偶者が「浮気しているのではないか」と過剰に詮索する人たちの一部には、
このようなタイプの人もいる。

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妄想性人格障害

裁判に訴えるのがすきという点では、好訴的人格障害と似た点もあるのだが、全体としては大きく違う。まず、「根本的な人間不信」と「過敏」そして「冷酷」が主徴である。

まずはいつものように、DSMで見てみよう。
妄想性人格障害の診断基準。
次の7つのうち4つ以上あれば妄想性人格障害が疑われる。

1.十分な根拠がないのに、他人が自分を利用したり、危害を加えたり、だましているなどと疑いを持つ。
2.友達の誠実さ、親切を不当に疑い、そのことに心を奪われてしまう。
3.何か情報を漏らすと自分に不利に利用されると恐れ、他人に秘密を打ちあけることができない。
4.悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなしたり、脅かすようなことがあると深読みする。
5.侮辱されたり、傷つけられたり、軽蔑されたことを恨み続ける。
6.自分の性格や評判に対し過敏に反応し、勝手に人から不当に攻撃されていると感じたり、怒ったり、逆襲したりする。
7.根拠がないのに恋人や配偶者が「浮気しているのではないか」と詮索する。

ICD-9分類 301.00 妄想性人格障害
ICD-10分類 F60.0
他人の目的が悪意に満ちているという不信や猜疑心は、後述のような4つ以上の兆候として成人直後に始まり現在まで引き続いて現れてくる:

1.猜疑心:十分な根拠も無く、他人が自分を不当に扱っている・傷つけている・だましていると疑う
2.友人や仲間の貞節や信頼性に対し、不当な疑いをもち続ける
3.情報が自分に不利なように用いられる、という根拠の無い恐怖のために、他人を信頼するのに躊躇する
4.善意からの発言や行動に対し、自分を卑しめたり恐怖に陥れるような意味あいがないか探る
5.執拗に恨みを持つ:自分が受けた無礼、負傷、侮辱などを許さない
6.自分の性格や世間体が他人に伝わっていないことに攻撃性を察知して、すぐに怒って反応したり反撃する
7.配偶者や異性のパートナーの貞操に対し、正当な理由もなく、繰り返し疑いを持つ
ただし、精神病的な特徴を伴う気分障害統合失調症、およびその他の精神病的障害を除外すること

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基本特徴は「猜疑心」と「敏感性」、これは表裏と思えます。ついで「不信」「論争好き」「頑固」「自負心」「嫉妬」。社会になかなかとけ込めない。ちょっとしたことで怒りを爆発させる。いつも緊張している。他人を疑う、特に浮気を疑う、執念深い、恨む、被害的になる、裁判に訴える、冷酷。

構造を抽出すると、「猜疑の傾向と敏感性」これが表裏一体である。そしてあとの特徴はここから自然に説明されるが、「冷酷」の軸だけは別のような印象である。

※浮気を疑ったとき、最近多いのは、携帯の履歴やメールを見てしまうというものです。あるタイプの人は、見てしまい、そしてあとで後悔して、「こんなことをしてしまう自分は異常だ」「惨めな人間だ」「犯罪者だ」と言って自責します。このような自責があるのは、妄想性人格障害としては本流ではないと思います。本流はあくまで「自分だけは正しいと信じきっている」のです。携帯の中を確かめるのは当然の権利だ、配偶者の行動が間違っている、心のありようが間違っているのだから、正してやる、更生させるのが私の任務だ、といった程度のことは平気で言うようです。本気でそう信じているようです。訂正不可能ですから、妄想と言います。
※自責するタイプは、クリニックに来ることがあります。そうすると、猜疑心も敏感性も、自分の反省の対象になっているわけです。したがって、クリニックに来る人の場合には、訂正不能で対話不可能な「妄想」にはあたりません。

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質問リスト。「はい」が多ければ、妄想性人格障害の要素がより濃厚。

質問1 わたしは他人を信用できない。
質問2 他の人たちはきっと色んなことを隠していると思う。
質問3 他人は私を利用したり、操ろうとしている。
質問4 私はいつも警戒しておかないといけない。
質問5 他の人を信用するのは安心できない。
質問6 他人の親切には裏があると思う。
質問7 私がヒントを出すと、他人がそれを利用してしまうと思う。
質問8 まわりの人たちは友好的ではない。
質問9 他の人が自分の邪魔をする。
質問10 まわりの人々が自分を困らせたがっている。
質問11 他の人の言いなりになっていると、とんでもないトラブルに巻き込まれると思う。
質問12 他の人に弱みを握られたら、きっと利用されると思う。
質問13 人が話す言葉には裏があると思う。
質問14 身近な人が不誠実だったり、裏切ったりすることがあるだろう。
質問15 恋人は浮気をしていると思う。
質問16 私は正しい。
質問17 私は無垢で高貴だ。
質問18 私の作戦は完璧だ。
質問19 屈辱は許せない。
質問20 復讐は必ず遂げる。

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周囲の人に対して、自分を出し抜こうとする、だまそうとする、陥れようとするなどと常に警戒して疑っている。
他人の親切に疑いを持ち、親しくうち解けにくく、拘束を恐れ集団に属するのを嫌がる。
他人からは、気むずかしく、秘密主義で、尊大な人間だと思われたり、ユーモアや楽しむといった能力に欠けているように思われがちである。
異常なほどの猜疑心から、ちょっとしたことで相手が自分を利用していると感じる。
病的な嫉妬深さで恋人が浮気していると信じ、その証拠を探し続けようとする(病的嫉妬)。
頑固で非友好的で、すぐ口げんかをしやすい。
人の弱みや欠点を指摘するのは得意。しかし、自分のことを言われると激烈に腹を立てる。
自分の権利や存在価値を過剰に意識し、権威に対しては異常な恨みを抱くことがある。
新しいものに対しても非常に警戒をし、なかなか受け入れない。(好争者)
強い自負心がある。
内心では自分には非凡な才能があり、偉大な業績を残せると固く信じている。
この自負心によって、自分が才能を発揮できていないのは他人が邪魔をしているためだと妄想的な確信を抱いている。
この自負心には、敏感性もあり、ちょっとしたことで「裏切られた」とか「だまされた」とかと叫ぶ。(敏感者)

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全体に、柔軟さがない感じを受ける。

さて、このようなタイプの人は、周囲に非常に迷惑をかけるのであるが、本人が相談に来ることはない。むしろ周囲の人が困り果て、抑うつ的になったり不眠症になったりして、相談に訪れる。

できるだけ理解したいと考えるので、一体どういう心理構造になっているのか、考える。

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まず、「疑い深さ」「他人を信じられない」が根底だろう。

妄想性人格障害の人は世間を敵に回して見ているので、いつも警戒している。自分の疑いを深めるような事実を少しでもつかんで、自分の悪い予想を補強し、自分の予想に反するような事実を無視したり、誤って解釈してしまう。このようにして結局、自分の人間不信をいつも補強している。訂正する機会はあるのに、無視したり、解釈しなおしたりしてしまう。しかし、抑うつ的になるわけではない。びくびくして、かつ、怒り易い。
彼らは非常に用心深く、いつも何か異常なことはないかと、様子を伺っている。たとえば、仕事を始めるとか、知らない人との新しい人間関係ができる場合、誰でも心配がなくなるまでは注意深くそして警戒的になるものであるが、妄想症の人はそのような心配をいつまでも捨て去ることができない。彼らは常に他人の悪だくみを恐れ、人を信頼することができない。人間関係や夫婦関係において、この疑い深さは病的で非現実的な嫉妬という形で現れる。いつも不貞を疑い、言い立てているうちに嫌われてしまい、ますます不貞を確信する。

散々言われているうちに、相手は、その人の異常さに嫌気がさして、本当に浮気をしてしまうことがあり、そうすると、やはり本当に浮気をしていたとなるわけだ。
しかし考えてみると順番が逆で、浮気をしたから疑ったのではなく、疑いが過ぎてうんざりさせてしまい、一種、配偶者を浮気に誘導したとも言えないこともないのだ。

盗聴器を使ったり、パソコンの内容を盗み取ることはこの人たちの得意技である。なぜかどの人も、スパイウェアの話とか、クッキーの扱いとか、一回ずつキャッシャも消去するとか、詳しい。

そうした第一段階の方法で欲しい情報が得られない場合には、さらにエスカレートする場合があり、配偶者周囲の人間に、あれこれと理由をつけて付きまとい、思う通りに動かそうとする。このあたりで明らかな社会生活の破綻が生じるのであるが、本人は気付かない。
夫婦生活は一応プライベートな領域で、何があったかなかったか、立証は難しいことが多い。しかしこの人たちの場合、ひそかに写真を撮影していたりなど、のちの訴訟に備えるかのような行動が見られる。

こうした人々に特徴的なのは、結局の目的は何かという点で、誤ってしまうことだ。「浮気をして欲しくない、わたしを愛して欲しい」という願いは素朴なものである。しかしこの人たちは、方法として、盗聴し、コンピュータの内容を盗み、追跡し、写真を撮り、郵便物をチェックし、電話記録をとるなど、このうちのどれかでも発覚すれば、「婚姻関係は破綻し、決定的に嫌われる」ようなことをしてしまう。なぜしてしまうのか、頭の中の天秤が狂っているとしかいいようがないのであるが、してしまうのである。

このタイプの人は、パートナーと暮らさず、孤独を守るほうがいい。

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次に、「敏感性」が指標になる。「人間不信」と「敏感性」は表裏である。この人たちには強力性がある。弱力性は少ないので、抑うつ的になることは少ないと思われる。あくまで強力性であり、他罰的であり、自分は正しい。

妄想性人格障害の人は過度に警戒的で、ちょとした侮辱にも傷つき、何も企てられていないのに反応する。その結果、彼らは常に防衛的・敵対的となる。自分に落ち度があっても、責任をとろうとせず、軽い助言さえも聞こうとしない。一方、他人に対してはたいへん批判的である。世間では、このような人間を針小棒大に言う人だという。
プライドが高く、しかし現在はそのプライドに見合った扱いを世間から受けていない。それがなぜなのか反省せず、世間と他人を批判してばかりいる。
実りのない人生になるが、努力しないので、いずれにしても実りはない。それよりも、世間を非難していたほうが自分の立場を正当化できる。他人と世間一般を批判することで、虚構のプライドを守る。そのようにして人生は終わる。

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さらに、感情は「冷淡無情」と形容できる。

妄想性人格障害の人は、論争好きで譲歩する事を好まず、他人との情動的な関係を嫌う。彼らは冷淡で、人と親しく交際しようとしない。彼らは自分の合理性と客観性にプライドを持っている。妄想性人格障害の傾向のある人生観を持った人が、専門医を受診することはほとんどない。彼らは助けを求めることを嫌う。多くの人は、一見、社会的には十分うまくやっている。道徳的で刑罰的な生活スタイルが承認される様な居場所を社会の中に見いだしている。固くて狭くて融通がきかない。そのような堅苦しさが彼らにすれば安心感である。融通無碍や自由自在は、却下される。

自分は正義で無垢で高潔である。他人は悪意に満ちて、差別的で、自分の妨害をする。他人の動機は不純で、警戒すべきであり、信じてはいけない。従って、いつも用心深く、油断なく、相手の心の奥底を探りながら、反撃の機会を待ち、ときには裁判で告発する。このあたりに、特有の強力性がある。

拒絶、憤慨、不信に対して過剰に敏感である。経験した物事を歪曲して受け止める傾向がある(この部分では、精神病性の、現実の歪曲がある。現実把握の歪みが見られる。このことは周囲の人をひどく苦しめる)。普通で友好的な他人の行動であっても、しばしば敵対的ないし軽蔑的なものと誤って解釈されてしまう。

本人の権利が理解されていないという信念に加えて、パートナーの貞操貞節に関しては、根拠の無い疑いであっても、頑固に理屈っぽく執着する。そのような人物は、過剰な自信を持つ傾向がある。過剰な自信を持たなければ、自分が根本的な反省を強いられることになってしまうからである。結局は、仮想的で過剰な、客観性のない自信を誇示することになる。

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(参考)
●敏感関係妄想
非常に敏感で、気が弱く傷つきやすいのですが、一方で道徳感や名誉心の強いタイプの人に起こる妄想・関係です。ちょっとしたことがきっかけで、周囲の人に自分の秘密が全部ばれてしまったというような被害妄想を持ちます。

敏感関係妄想
敏感で内気、控えめ、傷付きやすいが強い倫理観、道徳心を持ち、自意識に満ちている「敏感性格者」が長期間にわたり困難な状況におかれ、逃れることの出来ない葛藤状況に陥った時に起こる症状を「敏感関係妄想」という。ドイツの精神医学者、クレッチマーが提唱した。被害妄想、恋愛妄想などの症状がみられる。

妄想性人格障害の人は、不都合な現実を直視することができない。受け入れられない現実を、自己の中で都合よく書き換えてしまう。だから妄想性となる。それでも、どうしようもなく押し寄せてくる現実に対して、『幼児的な全能感』をもって防衛しようと努め、『誇大的な妄想観念』を築くこともある。

 こうした認知のひずみは、いかなる場合にも起きるわけではない。自己愛が傷つく可能性を感じさせる場合において、それは顕著である。責任を問われかねない場面においては、すばやく現実を歪曲し、「潔白なのに責められている被害者」に徹する。このような理由から、妄想の大半は被害妄想となる。その苦しさからの防衛として、誇大妄想が生じることがあるが、それは二次的であろう。
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妄想性人格: 妄想性人格の人は、他者を信用せず懐疑的である。特に証拠はないのに人は自分に悪意を抱いていると疑い、絶えず報復の機会をうかがっている。このような行動は人から嫌がられることが多いため、結局は、最初に抱いた不信感はやはり正しかったと本人が思いこむ結果になる。一般に性格は冷淡で、人にはよそよそしい態度を示しす。そのような孤立する傾向も、人間不信という間違った信念を訂正する機会を奪うことになる。

妄想性人格の人は、他者とのトラブルで憤慨して自分が正しいと思うと、しばしば法的手段に訴える。対立が生じたとき、その一部は自分のせいでもあることには思い至らない。職場では概して比較的孤立した状態にあり、ときに非常に有能でまじめであることがある。有能だからこそ妥協できない。反省するより前に、自分の人間不信を合理化してしまう。そのことが結局、人間不信を固定してしまう。

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PARANOID PERSONALITY DISORDER

Diagnostic Features:

Paranoid Personality Disorder is a condition characterized by excessive distrust and suspiciousness of others. This disorder is only diagnosed when these behaviors become persistent and very disabling or distressing. This disorder should not be diagnosed if the distrust and suspiciousness occurs exclusively during the course of Schizophrenia、 a Mood Disorder With Psychotic Features、 or another Psychotic Disorder or if it is due to the direct physiological effects of a neurological (e.g. temporal lobe epilepsy) or other general medical condition.

Complications:Individuals with this disorder are generally difficult to get along with and often have problems with close relationships because of their excessive suspiciousness and hostility. Their combative and suspicious nature may elicit a hostile response in others、 which then serves to confirm their original expectations. Individuals with this disorder have a need to have a high degree of control over those around them. They are often rigid、 critical of others、 and unable to collaborate、 although they have great difficulty accepting criticism themselves. They often become involved in legal disputes. They may exhibit thinly hidden、 unrealistic grandiose fantasies、 are often attuned to issues of power and rank and tend to develop negative stereotypes of others、 particularly those from population groups distinct from their own. More severely affected individuals with this disorder may be perceived by others as fanatics and form tightly knit cults or groups with others who share their paranoid beliefs.

Comorbidity:

In response to stress、 individuals with this disorder may experience very brief psychotic episodes (lasting minutes to hours). If the psychotic episode lasts longer、 this disorder may actually develop into Delusional Disorder or Schizophrenia. Individuals with this disorder are at increased risk for Major Depressive Disorder、 Agoraphobia、 Obsessive-Compulsive Disorder、 Alcohol and Substance-Related Disorders. Other Personality Disorders (especially Schizoid、 Schizotypal、 Narcissistic、 Avoidant、 and Borderline) often co-occur with this disorder.

Associated Laboratory Findings:

No laboratory test has been found to be diagnostic of this disorder.

Prevalence:

The prevalence of Paranoid Personality Disorder is about 0.5%-2.5% of the general population. It is seen in 2%-10% of psychiatric outpatients. This disorder occurs more commonly in males.

Course:

This disorder may be first apparent in childhood and adolescence with solitariness、 poor peer relationships、 social anxiety、 underachievement in school、 hypersensitivity、 peculiar thoughts and language、 and idiosyncratic fantasies. These children may appear to be ?odd? or ?eccentric? and attract teasing. The course of this disorder is chronic.

Familial Pattern:

This disorder is more common among first-degree biological relatives of those with Schizophrenia and Delusional Disorder、 Persecutory Type.

2007-12-05