ヘンリ・ライクロフトの手記2

ヘンリ・ライクロフトの手記2
ヘンリ・ライクロフトの手記から引用2

「自分の生涯は終わった」
暫くは殆ど恐怖に打たれる思いであった。何ということだ!ほんの昨日まではまだ青年であって、計画を立て、希望を抱き、実際無限の前途を望むように将来を眺めていた自分。あれほど元気にあふれ尊大に構えていた自分。それが今日はこうして動きのとれない回想に耽る身になってしまったのか?
自分には時間がなかったのだ。ただ準備をしていたばかりだった。
人の一生はこんなに短い空しいものであってよいのか?否、真実の意味に於ける人生は今始まったばかりである。しかし自分の前途に再び期待や希望が開けて来ることは決してないということは真実である。自分はすでに「隠退」したのだ。自分は辿り終えたその道程を振り返ってみることが出来る。それは何と詰まらない生涯であることだろう!
自分がこの世に生まれ、自分の小さい一役を演じ、そして再び沈黙の中へ消え去ることを、覆面の運命が命令したのだ。
かくも長い人生の旅路を、かくも安楽に終わったことは、有り難いことではないか?

過去に得た経験を携えて、自分がもう一度、人生を始めることが出来たならば!なにか明確な、達成可能な理想を絶えず目標として。そして、実現の不可能な、労して益なきものを、厳にしりぞけながら。
Apr 28, 2006