1376-1400

1376
マカトン法
ことばの発達の遅い子ども、自閉症ダウン症、精神発達遅滞などを対象とした、サインと話し言葉の同時提示法による言語指導である。1972年に英国で開発されて以来、現在では広く世界に普及している。基本語彙は約350、発達段階と使用場面の広がりに応じて9つのステージがある。マカトンサインは音声言語に比べてイメージ性が強く学びやすいため重度の知的障害児にもコミニュケーション手段として適している。言語発達につれてサインは忘れられてゆく。他人に自分の内面を伝えられるようになると情緒が安定し、ことばの学習も進む。

1377
精神科では確定診断手順が欠如している
・このために精神病診断学の発達に難がある。
・本質的な病変を確かめるためには、病変部をとってきて、指定された薬液で処理し顕微鏡で覗き、特有の像が観察されるかどうかを見る。ここで特有の所見があれば病理標本による裏付けがあることになる。
・症状と病理変化の対応を論じるのが医学(診断学・症候学)である。例えば腎臓の病理変化と尿や血液の検査結果・症状との間の相関を論じることで、診断学は発達する。
・症候学は、病理の推定のためにある。前景症候と背景病理といってもいい。精神科の場合には背景病理がはっきりしないのが難点である。
・何のために患者情報を集めるかといえば、背景病理に行き着くためである。しかしその行く先が分かっていない。全く分からないかといえばそうでもなく、おおよその見当はついている。したがって薬剤の選択もできる。でも、確実ではない。
・薬は概ねは前景症状に対して処方している。ときに背景病理に対して処方する。

1378
精神医学的診断の素材
現在症、経過、遺伝負因・家族歴、生活歴・既往歴、病前性格、ID(年齢、性、職業)などが手がかりとなる。(→これらを前景症状・状態像と背景病理・経過でまとめたい。)
・現在症……状態像の把握……行動、外見、思考(形式と内容)、気分(主観的)、感情(客観的)、異常体験(自我障害、幻覚妄想)、意識状態、記憶、見当識、知能、病識
・経過……相性、シュープ、段階的、直線的など。またきっかけや状況因。
・遺伝負因……親、兄弟、その他。生活や病気。
・生活歴・既往歴……出生時状況、発達、学校適応、職業適応、結婚、薬物歴、宗教、病気、生活状況
病前性格
・ID(年齢、性、職業)

1379
精神科診療では、治療者の精神が変性して行く。これは考察に値する一大事である。
昔、細菌の感染力に治療者自身が負けてしまう時代があった。伝染病の研究者が伝染病で死んだ。その後研究が進んで、感染防御対策がとられるようになった。
精神的なケアの場面でそのような傾向はないか、反省してみる必要があるだろう。いま精神的な何かの伝染に対してどのような対策がとられているか。治療者自らが感染症にかかってしまった時代にまだいるのではないか。
人間の中には悪い影響力を持った人がいる。原因は病気のこともあるし、性格の問題のこともある。治療者の側も次第に相談者の病気や性格偏位に影響される。治療者の人生は蝕まれる。治療者の心の中で何かが死んで行くのだ。何かが変性して行くのだ。それは決してよい方向の変化ではない。そのような人々との接触は回避して生きることが人生の智恵なのである。実は精神医学はそのことを裏の面から教えているともいえる。それなのに治療者はこうした人々と付き合わなければならない。防御の方法は確立されていないにもかかわらずである。これは矛盾している。精神医学の治療における根本問題だと思う。

「病気になった人も、性格に問題のある人も、自分で望んでそうなったわけではない。そのことを忘れないでいたい。また病気で覆い隠されてはいても、その背後に無垢の魂がある。性格の偏りの背後に無垢の魂がある。そう考えることもできる。誰もが等しく神の子であると表現してもいい。人間の尊厳ともいえる。そのような何かに対して我々は接するのだ。」
いろいろな言い方がある。しかしそれは遠くから空想するときにだけ正しい。言葉だけが美しいのだ。老人病棟の憂うつさの方がまだいいかも知れない。治療者をどれだけ蝕むかを考える必要がある。

治療者も長くなると、自分は優しいなどとは言えなくなる。その人ははじめは優しい人であったかもしれないのに。残念なことだ。

1380
精神病の症状に混入している神経症成分を正確に評価したい。

1381
三つに分かれた宮崎事件の鑑定書。内沼・関根鑑定は多重人格、中安は精神分裂病との鑑定書であった。これは矛盾しているのではなく、多重人格は全景症状、精神分裂病は背景病理ととらえればよいであろう。

1382
経過の特性↓ 現在症→ 分裂病性   躁うつ病
相性Phase 非定型精神病 (治る)躁うつ病
シュープSchub 分裂病 (レベルダウンする)躁うつ病
一定持続 パラノイア

1383
フロイトが分析したO・アンナ。葛藤が変換されて症状になっている。これは「どんな」症状が起こったか、その理由を説明している。しかし「なぜ」症状が起こったかは説明していない。
袋に穴があいた。中から「どんな」液体が出てくるかについては精神分析は有効である。しかし「なぜ」穴があいたかについては説明していない。
そしてもっとも大切なことは、なぜ穴があいたかを知ることである。

1384
インターネットとインターパーソナル。コンピュータの比喩を使っていろいろな精神病理現象を説明する。

1385
A型行動パターン
Type A Behavior Pattern
=A型性格
勝ち気、短気、真面目すぎる性格の人は虚血性心疾患になりやすいと考えられ、A型行動パターンと呼ばれる。反対に大らかで競争的でない性格はB型行動パターンと呼ばれる。
A型行動パターンは心臓病専門医が、虚血性心疾患の患者達の待合い室での短気な行動特徴に気づき、研究を重ねた。その特徴はおおむね二面があり「?競争心が強い。決着をつけたがる。社会序列に敏感で上昇志向である。かっとなりやすい。攻撃的。のろまを見るといらいらする。能率を求める。スケジュールを詰めて入れる。?仕事熱心。勤勉。長時間働く」とされる。
反対のB型行動パターンは「沈黙を苦にせず他人の話に耳を傾ける。敵意を持たない。時間に神経質でない。遊びを心から楽しめる。やむを得ないことにはあっさりと従う。行列待ちでイライラしないで他人を眺めていられる。瞑想する。他人の未熟さや純粋さを許すことができる」などの特徴がある。
A型の人は成功への欲求が強いにもかかわらずB型の人よりも成功することが少ないともいわれ、しかも心臓を悪くする。だからB型のよいところを学ぶように勧められる。

1386
P-Fスタディ
Picture Frustration Study
=絵画フラストレーションテスト
Rosenzweig.S.(1954)の考案した投影法人格検査。日常で起こりがちなイライラさせられる場面(欲求不満場面)を絵画と言語で提示し、それに対する言語反応をみる。主に攻撃性やフラストレーション(欲求不満)耐性の査定に用いられる。

1387
矢田部・ギルフォード性格検査
Yatabe-Guilford Personality Inventory
=Y-G検査
質問紙法による性格検査のひとつ。ギルフォードによって創始され、矢田部が日本人向けに改訂した。120の質問で構成され、一定状況下での個人の反応傾向、興味傾向、性格特徴をとらえることができる。施行時間も短く、被験者の負担が少ないので利用しやすい。

1388
ミネソタ多面人格目録
MMPI:Minnesota Multiple-Personality-Inventory
1940年ミネソタ大学のハサウェイとマッキンレイによって発表された質問紙による性格検査。550項目からなり、被験者は各項目について「はい」「いいえ」「どちらともいえない」のいずれかに自己評価していく。施行時間は60〜90分であるが60分以内にしたい場合は、383項目の短縮法をもちいることもできる。550項目は性格特性をあらわす臨床尺度と結果の有効性をみる妥当性尺度とにわけられる。結果は各尺度ごとに採点され全尺度のプロフィールパターンから人格の特徴を推論する。

1389
連想テスト    →没
association experiment
ある刺激に対する連想の性質を調べる手続きのことを一般に連想テストという。刺激として言語を用いる言語連想テストが代表的である。刺激語に対して反応語を求める方法と、刺激語から連想される言葉を次々に言ってもらう方法の二種類がある。

1390
MAS
Manifest Anxiety Scale
=テイラー不安検査
1953年にテイラー(J.A.Taylor)が作製した顕現的慢性不安の測定を目的とした質問紙法検査。質問項目はMMPI(ミネソタ多面人格目録)から抽出された50項目と、検査目的をあいまいにするためにつけ加えられた165の中性な意味の項目からなっている。日本ではさらに項目を少なくしたものが用いられ、日本版MMPIとも呼ばれる。被験者の一過性の精神状態を反映していると考えられる。

1391
田中・ビネー式知能検査
Tanaka-Binet-Test
ターマン(L.Tarman)の新改訂スタンフォード・ビネー知能検査法を原法として、1936年田中によって標準化されたもの。1歳級から優秀成人級までの120問から構成されている。検査で得られた精神年齢と実年齢から知能指数を算出する。2歳から成人までが適応範囲である。知能検査としてはWAIS、WISCなども用いられる。

1392
ベンダー・ゲシュタルト・テスト
Bender-Gestalt-Test
正しくはベンダー視覚・運動ゲシュタルト・テストという。幾何学図形を白紙に模写させ、それを分析する。見本カードを見ながらの模写と記憶による模写の二通りがある。脳器質性疾患のスクリーニングによく用いられる。

1393
ロールシャッハテスト
Rorschach Test
1921年スイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハによって創始された投影法人格検査で、この種の検査ではもっとも有名である。検査刺激として左右相称形のインクのしみ10枚を用いる。この刺激は投影法検査の中でもっとも非現実的・非具象的である。この刺激図を被験者に見せ、連想するものを列挙させ、次に図のどの部分をとらえたか、図のどのような特性からその反応語を連想したかについて説明を求める。解釈法は量的分析と質的分析とに大別される。量的分析とは反応を所定の記号に分類し、その記号の出現する頻度や比率からパーソナリティの諸傾向を推定する方法である。計算に便利なコンピュータソフトがある。質的分析とは、各反応が生起する継起を、刺激図の特性、反応の内容、言語表現上の特性などと結びつけて、心的機能の働き方や方向をとらえる方法で、継起分析とも呼ばれる。この二つの分析法を統合することにより解釈が深められる。

1394
バウムテスト
tree test
スイスのコッホにより1949年に体系づけられた描画による投影法人格検査のひとつ。「実のなる木を一本かいて下さい」の教示のもと自由に樹木画をかく。A4用紙に4B鉛筆が一般的である。樹木形態、筆跡、空間象徴を観点として人格査定を行う。比較的抵抗なく実施できる利点がある。
描画法としては他に、「人物」、「家族」、「HTP法(家、樹、人をかく)」、「統合型HTP法(家、樹、人を一枚の絵にかく)」、「風景構成法」、「自由画」などの手法がある。

1395
インターパーソナルとイントラサイキック
日本的といわれる「甘え」という言葉自体が、日本の病理のインターパーソナルな特質をよく表現している。
内的対象関係論にしても、内界に取り入れられた内的対象が問題なのであって、外的対象が問題なのではない。たとえば、内界に取り入れられた「母親」と内界の何かの関係が問題なのであって、外在する実際の母親と何かの問題が語られているわけではないのだ。
内的対象関係論はイントラサイキックな事態を論じている。

1396
ウェクスラー成人知能検査
WAIS:Wechsler Adult Intelligence Scale
もっとも広く使用され、もっともよく標準化された知能検査。児童版はWASC、幼児版はWPPSIである。言語性IQ、動作性IQ、全IQが算出され、各下位検査間のばらつきが有用な情報となることもある。とくにテストをしなくてもしばらく一緒に遊んでいればほぼ正確に知能指数を把握できると専門家は語っている。

1397
TAT
Thematic Apperception Test
=主題統覚検査
被験者に「ベッドの中に裸の女性がいてそのそばに男性が立っている」などの絵を見せて、ひとつの物語を作って話すよう要求する。絵が30枚と白紙が一枚用意され、被験者の明確にしたい葛藤領域に応じて適切な絵が選ばれる。語られた物語についてその構成、語彙、先入観、人物、動機などについて分析される。

1398
SCT
Sentence Completion Test
=文章完成テスト
被験者に「わたしが好きなのは……」「ときどきわたしは……」などの不完全な文章を提示し、完成してもらう。数量化には適さないが性格傾向や問題のありかを広く浅く把握するのに適している。記入には時間がかかり心理的負担も少なくないが、面接時の話題の偏りを補う点で有用である。

1399
TEG
東大式エゴグラム egogram
交流分析理論を背景として、自我状態のバランスをグラフにしたもの。自我を五つの側面にわけ、CP:critical parent(father) きびしい父親的側面、NP:Nurturing parent (mother) やさしい母親的側面、A:adult 理性的大人的側面、FC:free child わがままな子供的側面、AC:adaptive child 人に合わせるよい子の側面のそれぞれについて評価する。グラフにすると直感的に把握しやすい。自己記入式で手軽にできる点も好ましい。人格の浅い部分の評価であり、治療につれて変化がみられる。心療内科だけではなく精神科でも社会復帰療法場面では大変役立つ。

1400
浜松方式早期痴呆診断法
「かなひろいテスト」などの前頭葉機能テストにより、早期で軽度の痴呆を診断する。この段階では廃用性の脳萎縮と考えられるので、生活スタイルを改善することにより痴呆の進行を止めたり痴呆から脱することができる。具体的対策としては対人交流を増やし、外出や運動の機会を持ち、日記をつけたり生きがいのある暮らしを心がける。人とのふれあいの中で脳活性化訓練に取り組むのがよいとされる。痴呆ドックと脳活性化プログラムをセットにして提供する施設が増えるよう望まれる。